小説家の安岡章太郎氏が26日に老衰のため亡くなったという。享年92。1953年、『陰気な愉しみ』『悪い仲間』で芥川賞を受賞、「第三の新人」と称され日本文学に一時代を画された。1992年、朝日賞。2001年、文化功労賞。
私にとっての安岡章太郎は、『海辺の光景』(1960)である。その最後の1行は、小説の長い旅がまさにその一点に収斂して、終生忘れられないイメージをありありと現出する。言葉を超越した光景、イメージでしかない光景。しかし、それはまさしく言葉によって喚起されるのであって、文学の醍醐味としか言いようがない。「決まった!」と言う、1行だ。
この追悼を書くにあたって、書影を掲載するつもりでしばし蔵書の山をほじくってみたが、何しろ昔の本だ、残念ながら出てこなかった。
私は安岡章太郎氏の作物を次々に追いかける読者ではなかった。芥川賞作品全集(50年も前に刊行されたもので、たしか全巻刊行は成らなかった)に掲載された『陰気な愉しみ』も『悪い仲間』も読んでいる。しかし、私には『海辺の光景』一冊で安岡文学は「決まり!」なのである。
安岡章太郎氏の御冥福を祈ります。
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Last updated
Jan 30, 2013 08:07:37 AM
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