朝日新聞が伝えるところによると、かつて東京・信濃町にありランドマークともなっていた「デ・ラランデ邸」が,東京・小金井市の江戸東京たてもの園に移築復元されて、この20日から公開がはじまったそうだ。
私がこの洋館にことのほか愛着を感じるのは、昔、大学への行き帰りに電車の窓から高台を見やりながら、あれは三島由紀夫の『鏡子の家』のモデルにちがいないと、ひとり合点していたからだ。このことはかつてこのブログでも書いた。
三島由紀夫の「鏡子の家」のモデル
しかし、年月とともに信濃町のこの高台近辺もおおきく様変わりして、高台の下にはマンションであろうか、電車の窓からの視界をさえぎって建ち並んだ。デ・ラランデ邸の特徴ある2階から上をいろどっていたベンガラ色も見えなくなってしまった。邸そのものがすでに古建築めいて、遠目にも傷みが感じられたので、あるいは取り壊してしまったか。惜しいかな、と思ったものだ。
『鏡子の家』は、発表当時、文芸評論家を称する人たちからは、たしか、ほとんど無視されたはずだ。しかし、私は、この小説をひとつの境に三島由紀夫文学は明らかに変化したとみるので、その意味でも重要な作品と考えている。それはともかく、学生として上京したばかりの私(極度の不眠症や幻覚に悩まされながら)は、デ・ラランデ邸を見上げながら、三島由紀夫の物語を紡ぎ出してゆく力を想像したのだった。
復元されたデ・ラランデ邸は、もともとの食堂がカフェとなって来館者向けに営業されているそうだから、いつか私も訪ねてみたいものだ。
朝日新聞デジタル
東京・信濃町の「デ・ラランデ邸」復元 2013年4月21日15時27分