我家のナツグミが豊作であると書いた。ナツグミという名称は正式な和名である。『牧野 新日本植物圖鑑』によれば、「ぐみ科」植物は他に7種ある。じつは我家のグミは、果実が大きいので、トウグミではないかと思ったことがあるが、トウグミは低木で枝にトゲがない。しかし我家のグミは丈4メートルもあり、長さ3センチメートルを越すトゲがある。しばしば庭木として栽培されるナワシログミもトゲがあり、丈2.5メートルほどになるようだが、ナツグミと異なるのは葉が厚い。いずれの種類も果実は食すことができる。
さて、私があらためて書いたのは、「グミ」という名称のことだ。牧野富太郎博士は、元来、「グイの実」の訛ったもので、グイは杭のこと、すなわちトゲ(棘)、---トゲの木になる実なので「グイミ」がいつしか「グミ」になった、と。ナツグミは夏に実がなるからで、アキグミは秋に実がなるからだという。
なかなか素直な名称だが、私はじつは「グイ」がトゲのことだということを知らなかった。漢和辞典や国語辞典、古語辞典などを調べたけれども、「グイ」という言葉が出てこない。どこか地方の言葉かと思い、その方面をさらに調べてみると、高知のほうでグミを「グイ実」と言っているらしい記事にであった。牧野博士も著書『植物一日一題』において、土佐ではそのように言うと書いていた。まさに転訛以前の元来の名称ということになろう。
なお、同書において牧野博士は、グミを「茱萸」と書くのは誤りと言っている。全然別の植物であり、いわゆる権威筋の漢和辞典においても訂正されずにあることを強く批判している。
たしかに博士の指摘のとおり、種々の漢和辞典はいずれも「茱萸」について別称として「グミ」と記しているのである。国語学者の怠慢、知識の狭量であろう。あるいは編集方針として「俗」も立てたのだとしたら、まさに現代の国語辞典のスタンダードを喪失した言語破壊に通じかねない軽薄な編集方針だ。私が常々感じて慨嘆している、「役にたたない国語辞典」の横行である。
ついでながらお菓子のグミは、ドイツ語のGummiだろう。つまり、ゴムである。あるいはチューインガム(英語;chewing-gum) のガムである。