昨日以来、イスラエルの考古学チームが新たな死海文書の断片を発見したニュースで、世界中の考古学者や博物館関係者および聖書研究家が興奮しているようだ。1947年に死海の海岸近くのクムラン洞窟から発見され、その後、11の洞窟から次々に発見されていたが、今回12番目となる洞窟からほぼ60年ぶりの新発見である(発見は2017年)。
このたび死海文書の断片が発見されたのは、エルサレム南西のジュディアン砂漠の切立った断崖の中程にある洞窟からである。この洞窟は通常では人が近づけない。発見された断片は約2,000年前のものもので数ミリから親指の爪ほどのサイズ。そのかず、数ダース。
ジュディアン砂漠には発見場所となった洞窟のような洞窟がいくつもあり、イスラエル国立考古学チームは4年間におよぶ大規模プロジェクトを構えての今回の発表だった。断片のなかには聖書に関連する文字もあり、現在の聖書が歴史的にどのような変遷をたどって確立したかを探求する重要な資料となるであろうと予測されている。
ニュースから離れるが、私にはひとつの疑問がある。これら死海文書(Dead Sea Scrolls)と称されている文書は、イスラエルのクムラン教団によって作成されたと言われている。しかし断片的遺物の発見場所が、常にあちらこちらの「洞窟」であるのは、何故だろう。学問上、当然もちあがる疑問だと私は思うのだが、私の浅学ゆえにこの単純な疑問に対する明確な答を知らない。一つの洞窟ではないのだ、イスラエルの死海北西沿岸部であることは一致するものの、あちらこちらにある幾つもの洞窟なのだ。クムラン教団の僧たちが、それぞれ分かれて各洞窟で信仰生活をおくっていた、と言うことかも知れない。しかしそれは私の推測の域をでない。しかもどうやら異なる洞窟で発見された各断片の文章に重複がないらしい。なぜだろう?
【付記】今回この洞窟から発見されたのは死海文書断片だけではない。およそ1万500年前のほぼ完全な状態の大きな籠、そして6,000年前の少年の骸骨と布にくるまれた少女のミイラ、さらに土器や金属製の鋒(槍の穂先)、貨幣など多くの遺物が出土した。この発掘プロジェクトのチーフは、TVのインタヴューに応えて「ローマ支配からの逃亡者が隠れ暮らした場所」と言っている。
(山田のひとりごと=それにしても1万500年前から6,000年前までのなんと大きなひらきだろう! 洞窟という大きさ広さが限定された場所である。約4,500年間の生活の遺跡としては出土品が少な過ぎないか? そして、遺骨はなぜ少年少女の2体だけなのだろう?)
ザ・ニューヨーク・タイムズ
I24NEWS
CBN NEWS
ところでちょうど1年前、スミソニアン・マガジンの2020年3月16日号が、死海文書の偽物事件を報じた。「聖書博物館の死海文書はすべて偽物, 報告書が発見」とセンセーショナルな見出しが躍った。
このニュースを憶えていられるだろうか?
その概略を述べてみよう。
ホビーロビー社長のスティーブ・グリーン氏がワシントンDCにある広大な機関「聖書博物館」のために16の死海文書の断片のコレクション取得に努めた。
1950年代にカリル・イスカンダー・シャヒンという名前の古物商が、地元のベドウィン族の人物から死海文書の断片を購入し、コレクターに販売し始めた。2002年には、70のあらたな断片が市場に出回りコレクターたちの熾烈な獲得競争が始まった。それらはスイスの金庫に長い間隠されていたものだという噂があった。
スティーブ・グリーン氏はこの2002年以降に市場に出て来たコレクションから死海文書を購入した。
2016年、グリーン氏が博物館のために調達した16の断片のなかの13について、著名な聖書研究家が本を出版した。その本には、これら13の断片について学術的な分析を利用したが、科学的なテストはおこなわなかったと記された。
翌2017年に聖書博物館は開館した。
あらたに豊富な資金によって科学的な分析をした報告書が提出された。そして、この報告書は、「エルサレムのイスラエル博物館が所蔵する死海文書の信憑性について疑うものではない」と断り、しかしワシントンDCのグリーン氏によって調達された16の断片のすべては、「本物の死海文書の断片を模倣することを目的として、20世紀に作成された意図的な偽造であることを示唆する特徴」を、科学的なテストは示したと述べた。
博物館はこの偽造を疑う死海文書を所蔵品表示から削除した。
この偽造問題はワシントンDCの聖書博物館の問題にとどまることなく、2002年以降に市場に出回った死海文書(Dead Sea Scrolls)すべてに疑問を投げかけているのである。
【注】引用はすべて Smithonian MAGAZINE, SMARTNEWS, March 16, 2020 より。
SMARTNEWS, March 16, 2020
以上が聖書博物館のために調達した死海文書断片が偽造品であったという事件の概要である。
私はここに訳出しなかったが、スミソニアン・マガジンの記事は科学的分析について、それがどのような結果を導き出したかを簡単に説明している。
考古学資料のみならず美術品についても、こんにち、その真贋をテストする科学技術、および電子顕微鏡や色価分析器、分子構造や原子価を分析する装置、あるいは磁気断層撮影等の機器の発達はめざましい。博物館や美術館、あるいは大学や警察の研究所において、真贋のテストは日々おこなわれている。ただ一般の目には触れないだけである。
【付記】死海文書は羊皮紙(パーチメント)に書かれている。このおよそ2千年を経て肉眼ではほとんど判読不能になっている文字を読み取ったのは、NASAの星を探索する技術である。
なお、ワシントンDCの聖書博物館は現在、新型コロナウィルス禍のため閉館中である。
【追記】イスラエル博物館所蔵の死海文書(Dead Sea Scrolls)は、ディジタル化されて原資料画像とともに一般公開されているので、解明された断片は英語で読む事ができる。