堀田善衛氏の長編小説『ラ・ロシュフーコー公爵伝説』は、第6世ラ・ロシュフーコー自身の一人称で由緒ある公爵家(実在した)をめぐりながら、700年間のフランスの歴史が物語られる。
私が今日ここに書き留めておこうと思うのは、この小説の次ぎの一節を思い出したからだ。それは第6世ラ・ロシュフーコーが自らの家系そもそもの初めを語る、フランスのみならずヨーロッパ全体の10世紀前後の状況だ。堀田氏には申しわけないが、私がその一節に、何を重ね合わせて、いまここに書き留めるかは、私のこのブログ日記を読んでくださるかたには、即座におわかりになろう。
《十世紀の世紀末のフランスは、実に容易ならぬ暗雲につつまれていたのだ。黒死病(ペスト)が方々で猖獗(しょうけつ)をきわめ、悪しき支配者は村を焼き、村人を殺して自領を拡げるのが常套手段であり。旱魃(かんばつ)、飢饉もが交互に繰り返して人々に襲いかかり、黒死病以外の疫病もまた絶えることがなかったのだ。(略)言うまでもなく情報伝達の手段はほとんど皆無であったから、すべて暗澹たる噂、流言として、村から村へと拡がって行ったものであった。》(1998年、集英社刊、p.7)