朝から雪が降っていた。東京の初雪である。昨年は1月6日が初雪だったので1ヶ月以上遅い。
私は午前中の約束があり、すっかり防寒の身をかためて外出した。いくつかマフラーを持っているが、めったに首に巻かない。しかし今日は、全盲の方が織られた私が気にいりのカジュアルなマフラーを巻いた。
全盲の方が織られたと述べたことを不思議に思われるかもしれないが、私はその方が織っているところを実際に見せてもらった。傍らに言葉少なにアドヴァイスする方がいたけれども、その方が口を出すことはほとんどない。ゆっくりゆっくり織上がっていく作品は美しかった。デザインや配色をどのように認識されているのか、私は言葉で再構成することはできないし、おそらく当人も説明はできないのであろうと思いながら拝見していた。
私が購ったマフラーは、濃紅と紫と白の三色でおよそ1.5cm間隔の山と谷が交互のギザギザ畝が並び、長さ170cm、さらに両端に15cmのフリンジ。かなり長い。私はこれを半幅にして巻く。その織は実物の写真をご覧いただいたほうが早い。紫の糸が入っている部分はかなり複雑な織方をしている。写真の縦がマフラーの実際の横幅。写真の横が170cmの長さの一部である。
まあ、そんなふうに身をかためて出掛けた。朝方は薄雪で、雪質は細かい粒雪だった。粒雪は東京ではめずらしい。ダウンコートに降り掛かると跳ねる。
初雪や兎のけがわ目千両* 青穹(山田維史)
粒雪や外套
(コート)に跳ねてドレミファソ
途中で粒雪は粉雪に変わった。本格的に降って来た。午前11時ころには積雪3cm、というところか。このぶんだと午前0時までには積雪10cmは超えるだろう。
初雪を踏み行くほどに鳴るや雪
初雪や先行く人の靴の跡
【註】「兎のけがわ(毛皮)」は、芭蕉の句に拠る。芭蕉の句のなかで難解とされるもので、多くの論書があるが、私は我が弟(俳名伸生)の果敢な解釈を採った。
「目千両」は、初雪を冠った千両の赤い実が兎の目のようだということと、まるで千両役者のように目を効かせているということを掛けた。