突然の雷雨である。夕暮れて5時半。そしてたちまち止んでしまった。
「春雷」という熟語がある。しかし秋雷という成語はない。雷は夏に多いとし、それに先駆けるような春の雷を特に春雷と名付けたのが真相らしい。立春の後に初めて鳴る雷は「初雷」と言う。伝統的な日本文化においては、秋に物寂しさや静けさを感覚してきた。また、雷は「霹靂神(はたたがみ)」、・・・あの「晴天の霹靂(へきれき)」のヘキレキ、思いもかけない時に突然襲ってくる不吉な出来事をもたらす神であった。平安時代には怨霊の祟りとして社会を恐怖におとしいれた。この時代の人々は、雷を心底から恐怖した。現代では信じられないような心性をもっていたのである。多くの絵巻物に表されている。したがって雷は、実際には秋にもあったであろうが、古今和歌集に代表されるように、物寂びた秋の感覚とは相いれず、「秋雷」という言葉が成ることはなかった、と私山田は推測する。
庭草のたおれ伏したる秋時雨 青穹(山田維史)
千草伏しはたた鳴りしく秋時雨
『北野天神絵巻』より「清涼殿霹靂時平抜刀」
北野天満宮蔵 承久本
菅原道眞公の怨霊が雷となって平安京を襲った。藤原時平(ふじわらのしへい)が刀を抜いて対抗している。