ウィンターガタンの音楽ビデオを私が初めて観たのは、もう5,6年前のこと。スウェーデン出身の電子楽器をふくむ各種楽器の演奏家4人グループ。ウィンターガタンとは「天の川」あるいは「冬の庭」という意味である。
私が興味をもったのは、メンバーの一人、ヴィブラフォンとウィンターガタンのサウンドを定義する電子楽器を担当しているマーティン・モデュリン氏が制作した、「マーブル・マシン」と命名した音楽機械をYouTubeで見たことによる。この機械の詳細を説明するのはなかなか難しいのだが、キネティック・アート(動力利用の動く芸術作品)の概念と音楽器機を一体化したようなもので、両者の数学性をきわめて精密にハンド・クラフト(手工芸)で実現している。マーブルとはビー玉のことで、2000個から始まり1万個から3万個、のちには5万個のビー玉の動きを精密に制御して、それらが次々に落下することでドラム(スネア、キック、ハイハット、シンバル等)、ヴィブラフォン、ベースを演奏する。いわば「オッド・ミュージックマシン(奇妙な音楽機械)」である。音楽家の制作した機械であるから音程、リズム、速度・・・すべてが見事に音楽している。これは数学的に緻密に計算しなければ不可能。しかも手工芸である。私はそのようなバカげた奇妙な仕掛けが大好きなのだが、ただ奇妙なだけではソッポを向く。マーティン・モデュリン氏の発想もさることながら、それを実現する計算能力と精密な加工技術に賛嘆する。
マーティン・モデュリン氏の発想は、ヨーロッパ文化のなかで100年から200年前に盛んに作られたオートマタ(自動人形)やカリヨン(教会の一組みの鐘)の系譜につらなるようだ。事実、彼は博物館が所蔵するセルフ・オーケストラ・マシン(オーケストラ自動演奏機)や、セルフ・ヴァイオリン・マシン(ヴァイオリン自動演奏機)、あるいは大道音楽師の手回しオルガン(バーレル・オルガン)などを実地に見学し、教えを受けたようだ。
オリジナルのマーブルマシンはオランダのユトレヒトの「スペルクロック博物館」に展示され、その後、マーティン・モデュリン氏はあらたにマーブル・マシンX(MMX)を制作するが、このマシンがミュージック・ツアーに耐えられる十分な堅牢性がないことに気づき、2004年にMMXの製造を中止した。そして、2006年に第3のバージョンとなるマシンの制作を開始した。オリジナルの2台のマーブル・マシンはドイツの機械音楽機械博物館に寄贈された。
現在でもYouTubeで観ることができるので、私が説明するより興味のある方は実際にご覧ください。
ウィンターガタン/1
ウィンターガタン/2
ウィンターガタン/3
ウィンターガタン/4
ウィンターガタン/5
ウィンターガタン/6
【参考】
オランダ、ユトレヒトのスペルクロック博物館所蔵カリヨン