めずらしい映画をYouTubeで観た。ギリシャ悲劇ソポクレス原作の『オイデプス王』である。母子相姦の物語で、フロイドの精神分析エディプス・コンプレックス論の由来となっている。紀元前420年ごろに初演された劇が、2450年後の現在も上演され、また映画化されているのはひとつの驚きである。それだけ普遍的なメッセージが込められているということだろう。
きょう私が観た『オイデプス王』は、1957年の映画で、サー・ティロン・ガスリーが撮った。彼はもともとは映画作家ではなく演劇監督である。実はこれが私はすばらしくおもしろかった。古代ギリシャ演劇のスタイルを踏襲したような仮面劇だった。したがってすべての出演者の素顔は見えない。したがって顔で表情を出せない。私が感嘆したのは実に狭い舞台空間で演じるその演技力であった。セリフ術(エロキューション)の見事さだった。そしてほとんどデコレーションのない、短い広階段とギリシャ風円柱だけの舞台セットながら、その重量感であった。さらに是非述べておきたいのは、全員の仮面のつくりの素晴らしさである。俳優の素顔が見えないだけに、仮面はよほど丁寧に重厚に造詣しなければならなかったはずだ。もしもツルリとした非個性的な仮面ならば、いくら俳優が舞台上を動いても観客の目には平板に見えるだろう。しかし私の目には、十分なほど芸術的な奇怪な美を表出していた。仮面製作はタニア・モイズウィックとジャクリヌ・カンダル。
ところで、『オイデプス王』の映画といえば、私はピエール・パオロ・パゾリーニ監督の『オイデプス王』も忘れられない。私の資料箱に日本公開時の劇場パンフレットがあるはずだが、いまはちょっと探し出す時間がない。
そうそう、他にもオーソン・ウェルズが出演したユニヴァーサル作品がある。
BBCが制作した舞台劇風なTVフィルムもある。1986年の作品だ。この出演俳優もみなすばらしい。このフィルムを観ていると、やはり英国のシェイクスピア演劇が培った俳優術のようなものが、たとえシェイクスピア役者でなくとも、心身に根付いているのではないか、と思ってしまう。出演者はほぼ全員が年配者である。おとなの芝居を見せられるのだ。立っているだけで人生を感じさせる、どっしりした存在感がある。声もすばらしい。
というわけで、ちょっとYouTubeを検索してみると、上記の『オイデプス王』が見つかった。画像が鮮明でないものもあるが、どんなスタイルかはわかる。以下にURLを掲載し、『オイデプス王』の見比べといこう。ご興味ある方もどうぞ。
1957年サー・ティロン・ガスリー監督
1967年ピエール・パオロ・パゾリーニ監督
1968年フィリップ・サヴァイル監督
1988年BBC/TV作品