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2005/09/25(日)15:27

ロマンス小説史(第20回)

思わず納得!(365)

前回までハーレクイン・ロマンスに登場するヒロイン像がどのようなものか、ということについて説明してきましたが、今回はヒーロー像について若干の説明をしておきましょう。既にお話ししたように、ロマンス小説におけるヒロインとは、(女性)読者が自己没入する器ですから、これが重要なのは当然です。しかしヒロイン(=女性読者)が恋愛の対象とするヒーロー像もまたそれと同様、非常に重要な要素になってくることは言うを待たないでしょう。何しろ、ハーレクイン・ロマンスを読んでいる世界中の女性たちの心を等しく虜にしなければならないのですから、ヒーロー役も大変です。それだけにハーレクイン社としても、そのヒーロー像について周到な造形を用意しているはず。 ところが・・・ハーレクイン・ロマンスのヒーローというのがまた、実に一本調子なんですなー。それはもう情けなくなるほどのものでして・・・。 まず外見ですが、全員、見上げるほど背が高いです。感じとしては185センチから195センチの間という感じ。ハーレクイン・ロマンスには背の低いヒーローというのは絶対に出てきません。また当該のストーリーに他に男の登場人物がいる場合、特にその登場人物がヒロインに恋心を抱いている「ライバル男」である場合には、そいつよりヒーローの方が背が高いということが必ずどこかに明記されます。要するにヒーローというのは、すべての登場人物の中で一番背が高い奴なんですね。 しかも背が高いだけでなく、「胸板が厚い」男でないとダメなんです。ハーレクイン・ロマンスでは筋骨隆々のマッチョマンしかヒーローにはなれません。しかも彼らの大半は肌の色浅黒く、瞳は黒、髪も黒ということになっている。さらにこうした体格・体色にふさわしく、顔つきもまた精悍で野性的、もちろんとんでもない美形です。人種的には、コーカサス系というのはあまりなくて、ラテン系、いや、アラブ系? いやいや、ジプシー系? ま、よく分かりませんが、とにかくそっち系の、情熱的な性格の男が圧倒的多数。実際、ハーレクイン・ロマンスのヒーローは皆、血の気が多くて、何かというとすぐ感情を爆発させます。しかもそんなふうでいて、じゃあオツムの方はお馬鹿さんなのかと思うとそんなことはなくて、大抵、とんでもなく頭がいいということになっている。要するに天がたまたま二物を与えてしまった男なわけですよ、ハーレクイン・ロマンスのヒーローっちゅーのは。 しかもそれだけではない。彼らは皆、揃いも揃って大金持ちです。それも自分の額に汗して稼いだお金ではなく、大叔父さんからの遺産としてもらった資産です。あるいは、大会社の社長の地位を大伯父さんから譲られたとか、そんな感じ・・・と言うと、何だか「大叔父さん」から譲られてばかりいるようですが、実はここがまたミソなんですね。ハーレクイン・ロマンスのヒーローは、大抵、直接の両親とは折り合いが悪いんです。実の母親が死んで、親父は再婚、で、この継母が最低の女で・・・とか、まあそんな事情です。で、そんな事情ですから、幼少の時からヒーローは直接の肉親から愛情を注がれたことがない。心の底では愛情に飢えていながら、その愛情を人に求める術を知らず、自分の愛情を人に示す術も知らないんですね。だからこそ彼の心は荒んでいて、それを隠すために荒々しい行動をとったりするわけ。つまり、ハーレクイン・ロマンスのヒーローというのは、大金持ちの「傷ついた野獣」なんです。 いずれにせよ彼らは、ハンサムで文武両道、大金持ち、人に命令することはあっても、人から命令されることはないという男ばかり。で、こういうタイプのヒーロー像をロマンス・ファンは通常、「アルファ・マン」と呼びます。ですから、「ハーレクイン・ロマンスのヒーロー? ああ、アルファ・マンね」と軽く言っておけば、あなたもロマンス小説愛好家たちの会話に加われるんです。もし加わりたければ、の話ですが。 ところで、こうしたヒーロー像を頭に置いた上で確認しておかなくてはならないのは、ハーレクイン・ロマンスにおけるヒロインとヒーローの際立つ対比です。ヒロインが金髪・碧眼・小柄で華奢、どこにでもいそうな「ちょっと可愛い」タイプで、財産も何もない、ただのOLであるのに対し、方やヒーローは全知全能のアルファ・マンですからね。しかもそれに加えて二人の年齢差という問題もある。先にハーレクイン・ロマンスのヒロインというのは、10代・20代の小娘だと言いましたが、対するヒーローはそれよりもよっぽど年上です。世の中には暇な人がいて、両者の平均的な年齢差を計算した人がいるのですが、その人のデータを拝借すると、二人の歳の差は平均して12歳だそうですから、つまり一回りばかり年上ということになる。まあ、大人と子供ですね。 ですから、ハーレクイン・ロマンスのヒロイン像・ヒーロー像の設定における重要なポイントは、二人が「釣り合わないカップル」である、というところにあるんです。どう見ても釣り合わない二人、どう見ても出会いのなさそうな二人、どう見ても気が合わなそうな二人、この二人が何と恋に落ちる! というところに、ハーレクイン・ロマンスのヒロイン・ヒーロー像の設定の妙があるんですなー。 というのも、「釣り合わないカップル」が結ばれるということこそ、実はロマンス小説で一番大事なところだからです。「シンデレラ」のことを思い出して下さい。王子様が最終的に惚れるのは、お金持ちの娘ではなくて、継母にいじめ抜かれ、灰をかぶって家の掃除をさせられていた惨めな女の子だったでしょ? そういう地味な、目立たない、一番自己主張の少ない女の子が、最終的に王子様に選ばれるというところにこそ、ロマンス小説の奥義があるわけですよ。 ところで、今、シンデレラの話を出したのは偶然ではありません。この種のおとぎ話的要素というのは、ロマンス小説の構造にとって非常に重要なんですね。というか、ロマンス小説というのは、まさにそうしたおとぎ話の組み合わせで出来上がっていると言ってもいい。そこがまた面白いのですが、その辺のことについては、また明日以降にお話ししていきましょう。それでは、次回もお楽しみに! お気楽日記は、また夜、更新します。そちらも乞うご期待!

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