ガラっと気分を変えたくなって、髪を切りに行った。
渡米当初に１度切りに行ったきりだから、優に２年ぶりである。

仕事をしているときは面倒で、長い髪になどしていられなかったのだが
学生生活では、特に人前で何かをしなければいけない、というわけでもなく
伸ばしっぱなしにしていた。
久々の長い髪が気に入っていたということもある。

それ以上に、アメリカではアジア人の髪を上手に切ってくれる美容師さんを
見つけるのが一苦労なのだ。
私の直毛で、持ち主に似て強情な髪は、
日本でも上手に切ってくれる人を見つけるのに苦労したものだが
こちらでは尚更だ。
アメリカ人の髪を扱いなれたこちらの美容師さんにとっては、
男性にしろ、女性にしろ、アジア人のサラサラストレートヘアは非常に扱いにくいらしい。
とにかくヘタなのだ。

それに、至れり尽くせりの日本の美容室と違い、
こちらでは「切る」「乾かす」「染める」以外のことはほとんどしない。
肩たたきも首筋の手入れもなし。
日本人の奥様を持つアメリカ人の英語の先生が、日本での床屋体験を
「人生で一番素晴らしいヘアカット」と称していたっけ。
何が素晴らしかったって、「だって、肩までマッサージしてくれたんだ！」だそうな。

そんなわけで日本に帰国したときに切ろうと思っていたのに
帰国がのびのびになり、チャンスを逃していたという事情もある。

とはいえ、そんなに思い切って切るつもりはなかったのだが
こう、スパッとしたい時というのはあるもので、
まさにThis is the time….という感じだった。

この数日前に、美しい直毛黒髪の友人T女史が、素敵に髪をカットされていたから
勢い込んで、どこで切られたのか聞いていた。
なんでも近くの美容院にアジア人の美容師さんがいるらしい。
思い立ちついでにスグ電話し、予約を入れた。

男性の美容師さんは大変にこやか、丁寧な方で
T女史の紹介で来たと話すと喜んで見せた。

「どれくらい切る？」と聞かれ、迷う気持ちにケリをつけ
「肩につかないくらい短くしたいの。でもレイヤーもシャギーも入れないでね。
ストレートを活かしたいから」
と話すと、
「真っすぐな髪だし、その方がいいね」
と言ってくれる。お、これは信頼できそうだ。

腰まであと数センチになった髪を一まとめにして、最初の一刀。
まるで断髪式のように厳かに扱ってくれるのがおかしい。
「ほんとに、いい？切っても大丈夫だね？」
と念まで押してくれて、大笑いしてしまった。
女は一旦決めたら、あとはサバサバなのである。

まるで遺髪のように束ねられ、50cm近くある髪を鏡の前に置いて、
「これ、どうする？持って帰る？」
と聞かれたのには驚いた。へぇー、持って帰る人もいるのか。
「私、どうやって保管すればいいのかまったく考えてないから、
持って帰ってもどうすればいいかわからないわ」
と答えると、
「あ、じゃぁ、うちで使ってもいい？」
「もちろん！」
きっとカツラにでもするのだろう。

黒髪の長髪で店に入り、しかもそれをバッサリやったから
広い店のフロアでえらく目立ちはじめた。
向かいでストレートパーマをあててもらっているお姉ちゃんが
こちらをチラチラ見ながら、彼女の美容師さんと話しているし、
後ろの席のおばあちゃんも鏡越しにニコニコ笑いかけてくれる。
通りかかるお店の人も、「あら、切ったの？」「素敵ね」
と愛想を言って通る。
女っぽい虚栄心をくすぐられて別に悪い気分ではない。
切ったら後悔するかも、と多少心配していた気分もふっとび
楽しくなってきた。
注目されてるのを知ってか、知らずか
美容師の彼のハサミさばきものってる感じだ。

彼は一切シャギーバサミを使わず、
普通のハサミ一本でどんどん髪を整えていく。
私の髪は、まっすぐストンと切ってしまうと思いっきり外はねするので
手入れがしにくいし、見てくれが悪いのだが、
彼のテクはそんなことはものともしない。
肩の上で揺れる短さに切りそろえられた髪が
ふんわり丸く内巻きになるようにまで加工されて、できあがり。
いやぁ、お見事!!　素晴らしい腕前だ。

新しい髪形がすっかり気に入り、
彼の名刺ももらって美容院を後にした。
ミシガンにいる限り、彼のところで髪を切ってもらう事に決まりだ。

ちなみに、髪が長い頃はよほど老けてみえていたのか
中国人のクラスメートが私の切った髪を見て
『短い髪にして良くなった！うん、若く見える。１０歳は若く見えるよ!!』
とのたまった。

オイオイ・・・いったい何歳に見えてたと言いたいんだ?!