カテゴリ:絵巻物
絵巻、まだこだわってます。
絵巻の中に描かれる動物は、単なる風景ではなく、それぞれ意味があるんでしょうが、それについては、いろいろな論考があります。 しかし、見ていて面白いのは確か。 へ~・・こんなとこに犬がいる・・。あれ~鹿がいる。とか、鷹がいる・・猿がいる・・とか。 で、そういった絵も拾ってみたのですが、例によって春日権現験記絵には、いろんな動物がいますが、面白いのはあの、「豹柄」?の水干を着た若者がいるお屋敷の庭を注目すると、なんと兎が放し飼いにされていて、鳥の檻まであるということは、これらの鳥は、逃げたら困るというのは、そんじょそこらの鳥ではなくて、高価な鳥なんでしょう。 又、鷹狩をする武士などは、当然猟犬を飼っているので、犬はいますが、普通の家や、裏方の台所、縁の下やときには縁先によじ登って犬がいるのは、これらはやはり「番犬」でしょうねえ。 徒然草で、兼好法師は、そこらじゅうに番犬がいるので、うるさいようなことを言っていた。 でも、犬と言うのは、庶民生活のそば、町中にもいますが、彼らは飼い犬であっても、野良犬でも、人間の生活で出る生ごみや、汚物などを食べていて、時には、墓場で、カラスと一緒に死体を食うようなダークな面もある。 町屋の壁に片側だけ屋根をかけて寝ている人間が、疫病になどかかって、家を放り出されたような元使用人だとすると、そのそばに犬がいるのは不気味で、その人間が死ぬのを待っているのでしょうか・・。 そして、武家の家でたくさん犬が飼われているのは、猟犬として使うだけではなく、犬追物の的にしたり、鷹の餌として使っていたそうです。犬追物の的と言えば、乞食や旅の僧をとらえて的にしていたというから、人間もダークなんですよ。 この春日権現験記絵の台所をのぞいている犬も、大人しげでかわいらしいけれど、いずれ、その上にいる鷹の餌になるのか? なんて思うとなんだかこれも「怖い絵」ですね。 そういったことは、「姿としぐさの中世史ー絵図と絵巻の風景から」(黒田日出男・平凡社)で取り上げられていますが、絵巻から垣間見える恐ろしげな中世の断片です。 そして、猫。 いまや、猫は、犬を抜いてペットの第一位に躍り出たそうですが、もともと、犬はペットではなかったけれど、猫はペットだった。 犬は鷹の餌であったり(中には人間も犬を普通に食べていた)、町の清掃係(これもブキミですが)であったりしていましたが、猫は、高級輸入品です。 伝説では、お経が日本に来た時に、鼠防止のために、一緒に輸入された・・みたいなことが言われていますが、奈良時代以降に、貴族たちが、鼠対策というより、ペットとして飼い始めたのではないでしょうか。 猫は、鼠もとるけれど、別に食べたいわけではなくて、「狩」を楽しんでいるみたいなのは、猫をみていたら分かりますよね。 私が子供の頃、ウチにたくさん猫がいたんですが、彼らは、鼠であろうが、鳩であろうが、雀であろうが、時には蛇までも捕ってきて、困ったものです。鳩を咥えてきたときなどは、玄関で羽をそこらじゅうにばらまいて凄惨な「殺害現場」で、母が激怒していましたし、蛇を捕ってきたときは、私の部屋の枕元に死体がおいてあって、ものすごいびっくりしたし、においがすごかったんです(爬虫類が死んだらものすごいにおいがします)。多分、猫にしたら、自慢の獲物だったらしく、わざわざ、二階まで見せに来たのだと思いますが、あれにはまいった・・・。 それはともあれ、猫はペットではあったけれど、鼠を捕るには有能なので、鼠がたくさん出たら、猫を借りてきて退治したらしい。中世にはレンタル猫屋などもあったとか。 ですので、高級品なためか、絵巻には、犬ほど頻繁には、猫は登場しないので、猫が描かれた場面はけっこう有名です。(あ・・有名な鳥獣戯画では、猫は、戯画化されても、烏帽子をかぶって、扇を持った貴族でしたねえ。尾っぽの持ち方も心なしか、優雅な気がしますが・・・。この猫もトラネコっぽいですね。今昔物語には、灰斑の猫が出てきますが、黒虎でしょうか?) 日本最古の飼い猫の絵、と言われるのが、信貴山縁起絵巻(この間国宝展に出ていました!)の、町屋に飼われている猫。 棚の上に乗っている白黒の猫ですが、多分紐で繋がれているはず。 紐で繋がれて飼われる猫として、有名なのは、源氏物語の女三宮の唐猫ですけれど、絵に描かれた紐猫で名高いのは、石山寺縁起絵巻の、トラネコ(いわゆる雉猫というやつ)ですが、青い目をしているのが面白いですね。 この石山寺縁起絵巻には、もう一匹猫がいて、この猫は顔だけですが、もしかしたら白茶のブチかもしれない。 絵巻の猫は繋がれていて、犬は自由に駆け回っているのですが、現代では、犬は紐でつないで飼いましょうというように、紐をつけて繋がれて飼われ、猫は勝手に歩き回っていますし、野良も、猫が圧倒的に多いようですが、いつ、この犬猫の立場が逆転したか。 それはどうやら、慶長七年ごろらしい。 なんで、そんなに具体的かというと、「猫を紐から解き放て」という「命令」が出たからだそうです。これは、御伽草子の「猫の草子」にのっているお話ですが、実際に、こういった猫の解放令のようなものがでたのは事実らしい。 京都で、鼠害がひどくなり、「業者」が猫の値段を釣り上げたというようなことがあったので、猫の売買を禁止、猫を紐でつなぐのを禁止し、世間に猫を解き放ったんですね。こうして、都の各地で猫の鼠狩りが繰り広げられた・・・・・と思う。 その顛末は分かりませんが、こういった、猫の「自由化」が地方にも伝播してゆき、猫の売買が禁止されたら、猫は儲からなくなったからか、江戸時代には、むしろ、犬の方が紐で繋がれるようになり、立場が逆転してしまって現代に至っているらしいです。 今や、犬も猫も、本来の「仕事」が減って、どちらもペット選手権を争う立場になってしまったった・・・かなあ。 ほかにも、絵巻に登場する動物はいろいろです。 鶏は放し飼い。 お経を咥えたありがたい?蛇をいじめた少年は、「たたり」で高熱を出しました。少年の家では、巫女と山伏を呼んで祈祷をさせていますが、この家には猫がいて、外には犬がいます。 春日大社の霊験を語る絵巻なので、春日の神獣の鹿は沢山出ますが、ここには、大集団ですね。 描かれた土蔵の絵として有名ですが、火事で燃え残った土蔵で工夫して暮らす住民とか、からけしを拾う女とか、人間のいとなみのそばで、画面左端のほうに、焼け出された鼠が、鳶に襲われている。 こちらもよろしく
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最終更新日
2022.09.07 21:05:45
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