|
テーマ:お勧めの本(7264)
カテゴリ:Book
![]() ジャック・ヒギンズがジェイムズ・グレアム名義で発表した中編小説。名作「鷲は舞い降りた」に劣らぬ出来で、私はヒギンズ作品のベストだと思う。 1922年、革命の混乱が続くメキシコが舞台。反英革命の闘士だったアイルランド人エメット・ケオーは地方軍司令官からある任務の遂行を強要される。それは辺境の町モハダを牛耳っている元軍人のトマス・ド・ラプラタの殺害だ。トマスは豪農の家の出身だが革命軍に身を投じ将校となった。しかし実家を革命軍が襲い父親は廃人にされ、妹は凄まじい暴行を受けてしまう。このことを知ったトマスは軍隊を辞めモハダを独立状態とすると共に、革命軍に対し何の抵抗もしなかった村人を暴力で脅し恐怖政治を敷いていた。そのため軍はトマス殺害を決定し(まるで『地獄の黙示録』みたいだ)、エメット他2名をモハダに派遣する・・・ エメットと行動を共にするのはアメリカ人神父のヴァン・ホーランとハンガリー人実業家のジャノシュ。そしてエメットを慕うヤキ族の娘ヴィクトリアが後を追う。この4人と敵側のトマス、その妹のチェラを中心に物語りは進んでいく。 ちょっとレオーネの『夕陽のギャングたち』を思わせるが、こちらは革命の悲惨さを描くというよりも、もっと深い「宿命」に翻弄される人間たちの話である。この作品は内藤陳が激賞していて、その一部をご紹介すると、 「見よ!ここには誰一人として、安閑と生きてきた者はいない。登場人物が、悪役脇役の端々にいたるまで、おのが背に十字架を背負って生きている」 という具合。この荒々しい情感と荒涼とした寒村の情景が相俟って、何ともいえない世界を形成しているのだ。 だから登場人物にはどれも強烈な印象がある。ヴァン・ホーランは実は指名手配中の強盗でにせ神父なのだ。トマスが信仰も禁止しているモハダの街で意外な行動を起こす。そんなヴァン・ホーランに惹かれるのがチェラ。しかしチェラは悲惨な過去から人間不信に陥っており、感情は複雑だ。このへんの描写は見事。 そして脇役好きの私にとってはジャノシュ。でっぷり太った実業家だが、実は元オーストリア陸軍大佐であり剣の達人。ピンチが訪れると杖に仕込んだサーベルであっという間に切り伏せてしまうのだ。 最後まで一気に読んでしまうこの作品、過去に映画化されたことがある。1972年の同名映画がそれで、監督は『野のユリ』『ソルジャーブルー』のラルフ・ネルソン。エメット役はケン・ハッチンソンという知らない人だが、ヴァン・ホーラン役はロバート・ミッチャム。これ、イメージにピッタリ。リタ・ヘイワースが原作にはなかったような役で出ているが、これがヘイワースの最後の映画出演作らしい。しかし、この映画はDVDはおろかビデオ化さえされておらず、観ることはできない。残念。 ![]() お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Aug 23, 2007 08:49:15 PM
コメント(0) | コメントを書く
[Book] カテゴリの最新記事
|