未音亭日記

2010/09/20(月)20:58

タウジッヒ編曲のスカルラッティ

音楽(659)

ピアニストの中村紘子さんが、昨年デビュー五十周年を迎えられたそうで、大変お目出たい限りです。これを記念して昨年9月から始めた全国ツァーでは、八十回もの演奏会をこなして今年7月末に無事終了したとのこと。(ただし宮崎県だけは例の口蹄疫の騒動で延期になったようですが。)昨日(9月11日)はその中村紘子さんが、記念コンサートとほぼ同じプログラムで演奏会を開きにわざわざ未音亭の近所(牛久市)まで来て下さったようなのですが、残念ながら所用があって行くことが出来ませんでした。 ところで、事前に配られていたコンサートのちらしを眺めると、プログラムの冒頭に「スカルラッティ=タウジッヒ、パストラーレとカプリス」という、珍しい曲が置かれています。(亭主も演奏会のプログラムで見たのはこれが初めてですが、実はこれ、中村さんのデビューコンサートのプログラム冒頭の一曲でもあったようで、きっと懐かしい曲なのでしょう。)タウジッヒは19世紀半ばに活躍した人で、色々な曲をピアノ用に編曲したことでも知られています。スカルラッティのソナタにタウジッヒ版というものがあることは亭主も知っていましたが、ビューロー版と同じくスカルラッティの専門家の間ではあまり評判が芳しくないこともあって、ずっと無視していました。が、こうして実際の演奏会で取り上げられるとなると気になってきます。そこで、コンサートに行けなかった憂さ晴らしにちょっと調べてみると、何とネット上にはペータース社から出ている楽譜をスキャンしてPDFにしたものが置いてあります(こちら)。中身を眺めてみると、No.1-5まで五曲あり、どうやら「パストラーレ(No. 1)」はK. 9、「カプリス(No. 2)」はK. 20に基づいている模様。 (あとの三曲は順にK. 12、K. 426、K. 519の編曲。)そこで、早速楽譜をゲットして眺めてみたところビックリ。まず「パストラーレ」では、原曲がニ短調なのに何故かホ短調に移調されています。また、和声を厚くするために音を足したり、トリルが重音(!)になっていたりと、かなり自由自在な改変を行っている様子。20世紀に出たグラナドスのトランスクリプションを思い出させます。次の「カプリス」では冒頭のトリルを十六分音符の五連符で書き下してある(しかも主音から始まっていて、上接音からという一般原則を完全に無視)など、こういうものを見ると、音楽学者やハープシコード奏者なら「ムシズが走る(?)」かも知れませんね。でも、原曲が広く知られている今となってはそんなに目くじらを立てることもないだろう、というのが亭主の感想です。グラナドスのトランスクリプションもそうですが、スカルラッティのテキストに霊感を受けて「マイ・スカルラッティ」を描いてみることには何の不都合もないでしょう。ペータースの楽譜の表紙に「SCARLATTI SONATEN」とだけあるのは「看板に偽りあり」ですが、中村紘子さんのプログラムのようにタウジッヒのクレジットが入っていれば間違えようもありません。あとは演奏次第?というところ。(それにしてもコンサートに行けなかったのは残念...)ちなみに、タウジッヒ版のNo. 3は、譜面から見るとなかなかスゴい代物のようです。元のソナタK. 12は「無窮動」のような曲で、それでなくても両手ともに忙しいのですが、タウジッヒ版ではそれがさらにパワーアップ。中盤の盛り上がるところはまるでリストの譜面を見ているようです。(亭主にはとても弾けそうにありません...)

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