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つい最近まで
「この時期にしては特別なくらい暖かいね。」 と話していたのに、突然ガクンと気温が落ちて風も冷たく、 快晴にも関わらずの寒い今日。 ![]() 用事があって街の郊外まで行った帰り、 その寒さを吹き飛ばすような出来事に遭遇した。 ![]() 郊外というだけあり、街へ帰るバスが来るのは1時間に1本。 時刻表を見ると、後30分も待たねばならなく、 私は仕方なく腰を下ろして本を開いた。 けれどもあまりの空気の冷たさに、 とびきり寒さに弱い体質の私は耐えられなくて震えだす。 ![]() 車はジュリアーノが乗っていってしまっているために ああ、私専用の車が欲しいと切に願いながら、 寒さをしのぐ場所を探すも見つからない。 カフェも無く、あるのは大きな酒屋のみ。 酒屋と言ってもケースごとビールを置いている感じの、 大型ドリンク店といった所。 戸惑いながらもそこに足を踏み入れた私は、 「外でバスを待っていたのですが、寒くて耐えられないので バスが来るまで中に居てもいいでしょうか?」 と聞いてみる。 「勿論!」 と店主は言い、私は時間潰しに 置いてある飲み物の名前を一つ一つ目で追い始めた。 レジの所でなんだか私の事を話しているのが聞こえると、 アルバイトらしき若い男の子が近づいてきた。 ヒップホップ風の服。 腰ではいたダボダボのジーンズに、 ドクロのマークのベルト。 大きなサイズのスウェットパーカー をまとった彼は、 その風貌からは想像も出来ない丁寧なドイツ語で私に問いかけた。 「よろしければ、コーヒーでも召し上がりませんか?」 寒くて店内に逃げ込んできた私に、何か温かい物を、 と話していたのだろうと察しがつく。 ![]() 驚きながらも喜んでそれに応じると、 お店の奥の休憩所に案内してくれ、熱いコーヒーを出してくれた。 私「今日は急にめっきり寒くなりましたね。」 彼「本当に!僕は学校までバイクで通っているのだけれど、 朝の冷え込みと言ったら手が青くなる程でしたよ。」 私「このコーヒーのおかげで、生き返りました。ありがとう。」 言いたい単語がひとつ出てこなくて英語で言いながら、 これ、ドイツ語ではなんて言うのだっけ?と聞くと 「ドイツで生まれたんじゃないの?どこで生まれたの? どうしてドイツに来たの?」 と始まって、色々な話をした。 私「ドイツは夏と冬で違いすぎるよね。 夏は全てが素晴らしく、人もオープンで楽しげなのに。」 彼「そう、冬になると皆身体を縮めてる。そして、夏には明るい色の服を来ていたのに冬には暗い色ばかり着るようになるよね。」 彼が色について言ったのを機に私が色の仕事をしている事を伝えると、 興味深そうに、彼自身の色やアートやインテリアへの深い関心を話してくれた。 「今は高校生だけど、この後大学に行ってもっと勉強をして、 できたらインテリア装飾などに携わりたいんだ!」 1つ1つの言葉から感じられる彼の物の見方はガラス玉の様に繊細で、 その美意識の高さと感性の豊かさは私の胸を打った。 バスを待っていた間のたった15分程の会話なのに、 まるで長い事話をしていたかのように充実し、心が満たされる会話。 ![]() 花びらがゆっくり開いてゆき、その後大きく美しい花を咲かせる、 そんなイメージの彼に私は、 「あなたはとても素敵な感性を持っているわ。素晴らしい事だと思う。 幸運が沢山訪れるように祈っているわね。」 と伝えるととても嬉しそうに、 そしてバスの時間が来てしまった事が残念に思えるような表情をしながら 空になったコーヒーを受け取り、出口まで案内してくれた。 外は先ほどと変わらず冷たい空気が漂っていたけれど、 私の身体は熱いコーヒーのおかげでポカポカし、 心は彼らの温かい心遣いによって、溢れ出るほど温められていた。 ヒップホップの服を着て、優しい目をした少年。 その少年に、コーヒーを出すようにと指示をした、 身体のごっつい店主の男性。 見かけとは、関係ない。 透き通るような心の純粋さと温かさ。 思いがず心を温かくしてくれたこの出来事に感謝しながら、 とても幸せな気持ちでバスに揺られた。 そして、理想主義でものすごく単純な私は、 心の奥の奥は皆、彼らのように温かいのだろうなどと思いながら、 いや、本気でそう信じながら、 周りの全ての人を遠めに見渡し、優しい気持ちになった。 ![]() お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006.11.03 01:40:19
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