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カテゴリ:BOOK REVIEW
読み終わった後、しばし呆然。圧倒的な不幸の余韻が深くのしかかってきた。東野圭吾なんて・・・と侮っていた自分が悪かった。数年前、会社の同僚に熱く語られ、時代は東野圭吾で映画化にもなっていたが、当時は馬の耳に念仏だった。大衆とかメジャーとか、そういうものにはどうしても心を動かされない。その後、たまたま「同級生」「夜明けの街で」を読んだが、あまり印象は変わらなかった。
「手紙」は、貧乏・悲運・真面目と、ひと昔前の日本人が好きそうなフレーバーがたっぷりで、ゾクゾクしながら読んだ。不幸なんてものは、自分の手から放れると極上のエンターテイメントになる。でも、それも途中まで。ことごとく運命に翻弄される主人公に、読んでるほうが次第に辛くなってくる。やっと一人の女性と出会い、恋愛して人生に光が差してきた、と思ったら・・・。 ここから、もう何に対しても期待しなくなり、無感情になる主人公が悲しい。あくまで淡々と、客観的に語られるストーリーが、物語の残酷さや重さを際立たせる。サブリミナル効果のように、ジワジワと読者を苦しめる。主人公が最後の最後まで抜け出せない差別、世間からの冷たい仕打ち。それに加担しているのは、まぎれもなく自分たちなんである。社会的制裁ってなんだろう? また、加害者も被害者も紙一重で、自分の身には起こらないと断言できないとなると、背筋に寒いものが走る。昔、存在を隠したい身内が私にもいた。殺人犯の兄の存在がばれそうになり、動揺する主人公が自分とダブった。体がカッと熱くなるようなことが私にもあったことを忘れてた。今の自分だって堅気かと言われれば返答に窮するが、親として、子供にバツの悪い思いだけはさせないようにしよう・・・。 短期労働者の倉田がよかった。通信制の大学をめざし、主人公にも進学を勧める。自分も服役していた過去があり、刑務所からの手紙を見た時の反応がリアル。脇役ながら、主人公の進路を変えたキーパーソンで、いい味出してた。あと、大学の同級生の寺尾もいい。ねっからのミュージシャンで、主人公と固い友情で結ばれる。主人公の声にほれ込み、バンドに誘うところなんて最高。寺尾と主人公とのラスト、もう絶句するしかない。倉田、寺尾と主人公の妻由美子が、偏見と差別に満ちた掃きだめの世界で、唯一輝いてた。
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Last updated
2013/03/31 08:05:25 AM
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