「コンピュータが連れてきた子供たち」に関連して
孫が近くにいるので、週1、2回遊ぶ。そこでいろいろ考えさせられることが多い。 コンピュータ教育のパイオニアの戸塚滝登氏の「コンピュータが連れてきた子供たち」(2005年12月小学館刊)の最後で、「10才の誕生日を過ぎるまでは、1.インターネットは与えない、2.パソコンよりは五感と身体感覚を優先、3.人工より自然優先」という3か条の警告をしている。この本を書くきっかけとなったのは、長崎の小6女児の同級生殺害事件で、その「子供の脳の可塑性」という「科学的な説明」を、統計的な方法でなく学説の論理的な積み上げで試みている。岡田尊司教授の「脳内汚染」(2005年12月文芸春秋社刊)より説得性があった。 「人間の本性を考える」(英語の題名はThe Blank slate:2004年:NHKブックス刊)という翻訳書の20章中、「生まれか育ちか」(原書はChildren)について論じた1項目がある。著者であるハーバート大学心理学研究室教授スティーブン・ピンカー氏は、子供の性格や行動特性について、次の3法則を提示している。 第1法則:子供の行動特性はすべて遺伝である。 第2法則:同じ家庭環境で育った影響は、遺伝子の影響より少ない。 第3法則:複雑な人間の行動特性に見られるばらつきのかなりの部分は、遺伝子や家庭の影響では説明されない。 著者は、こどものときの行動特性の50パーセントは第1法則の遺伝できまり、第2法則の育ちの中心である家庭環境はほとんど関係ないという(せいぜい、ゆずって10パーセント)。後の40から50パーセントのばらつきは、人が意図的に押し付けられない、個人的な「運命(親や人が制御できない運という意味での運命)」に影響されるという。子供が非行に走るのは親の責任ではなく、親のせいにする児童教育論者には、批判的である。この書評では迷っている親はほっとするだろうと言っていた。 1950年代に、インドの僻地の村に住んでいたある女性に、子どもにどんな人間になってもらいたいと思っているかと聞いた。彼女は、肩をすくめて「それはこの子の運命で、私が望むことではありません」と答えたという。これが正解か。 「コンピュータが連れてきた子供たち」によると、最近、医学の測定技術の向上で分かったことは、胎児で5ヶ月くらいになると、脳細胞が急激に増加することであるという。その理由が分からないが、先に聴覚が発達するのではないかという。そうすると胎教でクラシック音楽を聞かせると良いというのは、科学的根拠があるようだ。そうなると、妊娠している母親がパチンコばかりやっていると、その音が影響するかもしれないし、テレビばかり見ているとテレビの映像でなく、コマーシャル音が影響するかもしれない。 宗教学者の山折哲雄氏の話によると、今から20年位前、ある大新聞に若い母親から投書があり、子どもに哀調のある古い子守唄を歌うと嫌悪感を示すという。ところが、その投書を読んだ若い母親から同じ体験の投書が殺到し、驚いた新聞社は調査したが、原因がわからない。これを気にしたある作家が、いろいろ調べたようで1年後にそれはテレビコマーシャルの音調が子守唄と合わないのではないかという記事を書いた。現代の子供は、いつの間にか、テレビコマーシャルの音調に慣れているからではないかという。それは、胎児の頃からか? 山折哲雄氏は、もう一つの原因は母親にあるのではと言っている。母親に「歌心」がないのではというのである。日本の子守唄は、西洋の子守唄と違い、哀切のある「演歌」調である。「歌心」が問われるのであろう。山折氏は、渥美清がCDに吹き込んだ子守唄を「歌心」があるとほめていたが、氏の恐れは最近の犯罪にこの影響があるとしているようだ。 「寅さん」の日本的な人間味が次第になくなっているのであろうか。