柳澤壽男監督のドキュメンタリーを観たこと
柳澤壽男監督が生前愛用されていた16mm編集機(サウンド付きビュアー)がロビーの一隅に置かれていました。たぶん血と汗と涙と怒りと愛情と苦悩と迷いとギリギリの決断を共にした道具。こういうものをさりげなく展示していてくれるから神戸映画資料館は貴重な施設だと思えるのです。神戸映画資料館で柳澤壽男監督特集上映に行ってきました。「風とゆききし」「甘えることは許されない」「夜明け前の子どもたち」の三本。いい仕掛けがたくさんある映画でした。三本ともタイトルから仕組まれてました。観た前と後ではタイトルの意味が変わってしまうという。ドラマとして撮影されてはいません、ドキュメンタリーです。それでこれは、すごい構成力かも。戦略に見事にやられました。「風とゆききし」作中4回ほど繰り替えされるテーマソング。最初の時はなんだか甘ったるい歌だなぁと思いました。音量もバランスも入れ方のタイミングも???。それが…2回目の繰り返しで意味が変化し、3回目の繰り返しで決定的に変わり、4回目で深い意味を帯びていました。多分まったく同じ録音のテーマソングの繰り返し使用ですが、毎回意味が異なって感じられる。それは一つの立体を前後左右四方向から眺めてでもいるように…。やられました。見事に騙されてました。どんでん返し。途中歩いているカップルの背中のカットかあるのですが、これがとってもいい。何だかお互いの愛情や気持ちが伝わってくるような背中、歩き方です。望遠で撮ってカメラを意識させてないってのもあるんでしょうが、その前のカットの積み重ねが本当に上手い。ちゃんとドラマになっていて、フェイクや伏線やドンデン返しの構成が緻密で、さらに危ういテーマを扱ってみせて、その上であの背中です。美しい。わたくしは危うく泣きそうに。で、この構成はさらに別のカップルをいくつもつなげていき、さらに畳み掛けてくるのです。やられました。今編集中の私の自作短篇でもカップルの背中のシーンを撮影してるのですが、こんな風に観客に訴えかけるつなぎ方が出来るのだろうか。こんなのを観せられたらかなわぬかもしれないながら私なりに精一杯頑張りたくなってしまいます。こんなふうな成し遂げかたをした人がいるのですから。2時間34分があっという間でした。今日観た三本とも。構成で物語っている密度が高いのです。「甘えることは許されない」もうこのタイトルが…、怒りと皮肉のこもったタイトル。告発の映画。それは観客にも向けられていて…。「夜明け前の子どもたち」最初の数カットの白黒映像の美しさったら、思わず身を乗り出して見入ってしまいました。つかまれた。でそれはそのままラストに対応してゆくのです。最後の音声。聞いたらそれに答えて志願(ボランティア)したくなる人が多くいそう。ちゃんと前段でフォローもしていてキツさも訴えて、巧みで正直な広告映画でもある。ちょっと小耳にはさんだのですが、この映画の後に施設が増えていったそうです。さもありなん。説得力あるもの。何の夜明けか、誰の夜明けなのか。三本連続鑑賞はさすがに疲れたけれど、堪能しました。26日には同じ監督の「神戸っ子」(参考無料上映)とトーク:磯田充子(「神戸っ子」出演,柳澤監督夫人)があるそうです。神戸映画資料館 2009/9月スケジュール今回「ぼくのなかの夜と朝」を観れなかったのは残念。今日観た作品を作る方がパンフに書いてあった内容の映画を撮ったのなら、それはさぞやスリリングで端正な映画になっているのだろうなと想像してます。