こんな映画を観た~女の勲章
特集上映を企画するとして、すぐ思いつくのは監督のアンソロジーである。次いで俳優。映画祭の大賞受賞作特集などもありそうだが実際は手配が難しそうだ。山崎豊子の小説は10作品が映画化されているという。そのうち今回は女性がメインの2作品が上映されたが、こうした作品を選んで手配するにはかなりの映画的教養と経験が必要だと思う。まずその点に感嘆する。「女の勲章」は吉村公三郎監督の1961年作品。デザイナーで関西の服飾学院を経営する京マチ子が辣腕マネジャーの田宮二郎を得て事業を拡大させていく。3人の弟子(若尾文子と中村玉緒と叶順子)は上昇志向のかたまり。しかし3人(4人)の女の確執の物語ではなく、むしろ主人公は田宮二郎。こてこての大阪弁でまくしたて精力的に動き、利益のためなら何でもする。4人の女はすべて口説き落とし持ちつ持たれつで利用しあう関係になっていく。世の中は利害と計算だけでは成功しないというありがちなラストではあるが、田宮の頭の回転、機転というか判断力の速さ鋭さは痛快なほどだ。1961年の日本はまだまだ貧しかったのがわかる。若尾文子の住むアパートのボロさには唖然とするが、当時としては標準的だったと思う。とはいえ貧しかったがゆえの上昇志向は、多かれ少なかれこの時代の日本人には強かったかもしれない。この映画の成功は新藤兼人の脚本によるところが大きいと思う。いくら原作が優れていても、これだけの脚本に仕立てるのは至難であり、天才的とさえ言っていいのではないか。イケメン俳優の森雅之や船越英二が出ているが、田宮二郎の強烈なキャラクターの前にかすんでしまった。