テーマ:DVD映画鑑賞(13965)
カテゴリ:洋画・ファンタジー
2007年10月公開 監督:ギレルモ・デル・トロ 制作費:1350万ユーロ 「ヘルボーイ」シリーズの監督であるギレルモ・デル・トロが監督・脚本を務める、内戦後の荒廃するスペインを舞台とした、ダーク・ファンタジー・ストーリー。 第79回(2006年)アカデミー賞で、撮影賞、美術賞、メイクアップ賞を受賞。 タイトルロールの「パン」とは、ギリシア神話に登場する牧羊神の名前である。 [簡単なあらすじ] スペイン内戦で父親を亡くした少女オフェリアは、母親と共に母親の再婚相手であるスペイン独裁政権軍ヴィダル大尉の指揮する砦で暮らすこととなった。 しかし、ヴィダル大尉は母親の胎内にいる自分の息子だけを気にかけ、オフェリアをぞんざいに扱う。 愛する母親でさえヴィダル大尉の言いなりであり、どこにも自分の居場所を見出せずにいたオフェリアは、ある夜、虫のような姿をした妖精に導かれて、森の迷宮へと足を踏み入れる。 そこで彼女を待ち受けていたのは迷宮の番人パンだった。 パンは、オフェリアこそ地底の王国の姫君だといい、王国へ帰るため三つの試練をクリアすることを彼女に求める―― 「ヘルボーイ」シリーズで、ギレルモ監督のストーリテリングの巧みさにすっかり魅了されてしまったさぶろ、今回は監督の作品の中でも評価の高い『パンズ・ラビリンス』を観賞してみました。 結果――、これまた面白い! 内戦は終結したものの、軍部による独裁政権下となったスペイン。 大人たちの都合によって戦地に住むことを余儀なくされた少女オフェリアは、普通であれば頼るべき存在である義父からも疎まれてしまいます。 しかし、孤立する彼女の前にもうひとつ、本の中でしか見ることのなかった妖精たちの世界が出現。 現実から目を背けたい彼女を、言葉巧みにいざなっていくのです。 現実と幻想、このふたつの世界の物語が交互に語られていく展開が実にうまく、観ているうちにオフェリア同様一種の錯乱状態へ陥ってしまったような、クラクラする感覚を味わえました。 気がつくと物語の世界へ入り込んでいるという、ギレルモ監督の脚本はうまい。 ポスターやジャケット写真などの華やかな彩色から、一見すると『ハリー・ポッター』のような子供向けのファンタジーものを想像しますが、さにあらず。 『パンズ・ラビリンス』は、現実世界の過酷さに耐えきれなかった少女が描いた、儚くも美しく、そして、世にも恐ろしい幻想世界の物語。 ひと言でいうと、夢や希望の持てない『ナルニア国物語』といったところでしょうか。 日本では、ファンタジーは子供向けというイメージが強いためあまり馴染みがありませんが、欧米の小説では怪奇ホラーなどと呼ばれ、人気のあるジャンルのひとつです。 好奇心を持ち続ける大人のための、ダーク・ファンタジー。 観終ったあと、 ――だから少女は幻想の国で、永遠の幸せを探した。―― というキャッチコピーが、心にズンと響きますよお……。 また、脚本もさることながら、アカデミー賞の映像部門をみっつも受賞しただけあって、妖精の造形が素晴らしい。 狂言回し的役割りで、本作のタイトルにもなっているパンは、子供が見たら泣いてしまうほどの、ちょっと恐ろしい外見。 実際に彼に遭遇したら、大人でも泣いてしまうかも(笑) 同じ系統の生物? だと思われる『ナルニア国物語』の人気キャラ、タムナスさんと比較すると、その恐ろしさがよく分かります(笑) ただし、モデルとなった実際の牧羊神「パン」も、善とも悪とも言い切れない複雑な性質をもった神で、彼の得体の知れない恐ろしさがこの物語のキーになっているともいえます。 動きからなにから、とにかく怪しいです。 しかし、恐ろしさといえば彼? の右に出るものはなし。 第2の試練に登場する、名も無きクリーチャー。 日本の妖怪、「手の目」に酷似した彼ほど、本作で恐ろしいものはおりません。 彼に追いかけられるシーンでは、恐怖のあまりオフェリア同様悲鳴を上げそうになってしまいました……。 通常のファンタジーだと勘違いして、小さなお子さんに見せてしまうと、トラウマになる可能性があるので注意! でも、何気にこのふたつ目の試練は結構好きです。 なんでそこで、いいつけを守れず食べちゃうか。 子供って時に、論理では計れない行動を取りますよね。 あきらかに自分の過失なのに、事故と言い張るオフェリアが可愛らしかった。 他にも虫が変化した妖精や、巨大なカエルなど面白い生き物が多数登場。 なぜ、ギレルモ監督の次作である『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』が、ファンタジー・テイストになったのか分かったような気がしました。 これだけ面白い生き物たちを再現できるのなら、使ってみたくなるのが映像クリエイターというものなのでしょう。 オフェリアの母親の出産や、メルセデス姉弟の悲哀など、現実世界の側を徹底的にリアルに描くことで、幻想世界の不思議さを一層際立たせている手腕もさすが。 残酷さの化身のようなヴィダル大尉は、ある意味クリーチャーより恐ろしかった。 そんな、ストーリー・映像共に独特の味わいを持った『パンズ・ラビリンス』。 類をみない不思議な物語だけに、オチの出来によって、凡作となるか傑作となるかが決まりそう。 と期待しながら観た結果――、 なるほど、そうなりますか! さぶろ的にはグッド。この物語ならば、ああ落とすのが最善の策だといえそう。 また、この映画を観た人なら誰もが思うであろう疑問、 ――すべては事実なのか、それともオフェリアの空想だったのか も、判断を視聴者に委ねることで、なんともいえないあと味を残すことに成功していますね。 無粋を承知でもう少し書くと、チョークを使って壁から抜け出した描写もあることから、事実なのでは? とも思われますが、ラストシーンで彼女が見た光景も、一瞬のあいだに起こった想像の産物かも知れず、やはりはっきりとしたことは言えない、といったところでしょうか。 しかし、なんにせよ、オフェリアにはこの先幸せになって欲しいです。 ********** パンズ・ラビリンス この映画の詳細(Amazon)。 ⇒パンズ・ラビリンス 通常版 [DVD] ギレルモ・デル・トロ監督作品の記事はコチラ ⇒「ヘルボーイ」 ⇒「ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009.07.04 12:05:58
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