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カテゴリ:タイタス・クロウ・サーガ
世の中には、冒頭の一文が印象的だったり、素敵だったりする名作が数多ありますが、<タイタス・クロウ・サーガ>において、それが一番素晴らしいのは「妖蛆の王」(「タイタス・クロウの事件簿」創元推理文庫・刊)だと思うのです。
なにしろいきなり、 戦争は既に終結し、一九四五年のクリスマスもとうにすぎて、新年の祝賀気分がまだ覚めやらぬ頃、タイタス・クロウは職を失っていた。(「タイタス・クロウの事件簿」39頁) ですから。 物語が始まるなり、いきなり失業してる主人公って…ただ単に貧乏とか、依頼がなくて赤貧状態とかはありがちだけど、こう初っ端から「職を失っていた」とか書かれている話を、私は他に知りません。 まぁ流石に食うに困ってる様子は…ちょっとあるような気もするけど、栄養失調でフラフラだったりはしてない辺りは、後に「邪神対抗組織の切り札」になったりする人間らしいっちゃらしく…もないか、別に。 ってなわけで、失業者だったクロウは、まぁいろいろあって「妖蛆の王」ジュリアン・カーステアズの出した求人広告に応募、秘書として採用されるわけなのですが――― この人、就職の面接で思いっきり虚偽の申告をしております。 一応、単に生年月日を偽っただけで、それも霊能力者としての第六感に従ったという、本人なりに正当な理由があったりするのですが―――第六感が告げただけで、雇い主相手に嘘を教えるって、それ普通は犯罪…ではないけど、信用を失うには十分だと思うんですがどうでしょうか。 まぁこの嘘のおかげで命拾いしてたり、そもそもタイタス・クロウという人は後に(っていっても執筆の順番としてはこっちのが先だけど)素っ裸で敵の黒魔術師を撃退するような凄い性格の持ち主だったりするんだから、それも予測範囲内なのかもしれませんけど。 そうそう、この「妖蛆の王」では唯一、クロウの一人称が「ぼく」なんですよね。 英語では一人称は一種類しか存在していないわけなので、多分これは翻訳過程で生まれたものなのでしょうが、他の作品に比べてやや頼りなく、友人達の助力に頼る割合も大きい(ま、「地を穿つ魔」でもピースリー教授にかなり頼ってましたが)若き日のクロウのイメージにはピッタリでとても可愛いと思うのです。 ちなみに、こっちを読んでから「海賊の石」か「名数秘法」または、「地を穿つ魔」あたりを読むと、クロウの友人に対する態度があまりに違いすぎて、ちょっと笑います。 尊大だよ、尊大すぎるよ、あんた…!! まぁ、30になるかならないかの頃に「年長の相談相手」や「大学時代の同級生」に接するのと、かなりいい歳…多分、四十路どころか五十路に片足を突っ込んでる頃に、「年下の親友」に接するのとでは自然と態度が違ってくるものなのでしょうが(っていうか、変わらないほうが嫌だよ)、それにしてもちょっとひどすぎる気が。 でも、そんなクロウに素直に従い、馬鹿にされても気を悪くせずに、たとえムッときたとしても表情には出さない様に頑張る年下の親友=アンリ-ローラン・ド・マリニーたんに萌え。―――って、結局それかよ!! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006.07.02 17:37:30
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