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カテゴリ:読書のこと
ちょっと前に娘とタイム・パラドクスの話をしていて、 「そういえばこんな話があるよ」 と例に出したのがこの本のエピソードだった。 家にインターネットの工事の人が入って、 仕事もできず、手持ちぶさたで待っているときに、 なんとなく手に取ったのはたぶんその時話をしたから。 なんか30年前の文庫は、文字が小さいっすよねえ。 そんな苦労を乗り越え、一気読み。 描かれる過去の時代は昭和初期の東京。 作者は大正13年生まれの東京育ちである。 綿密な調査を基に、マニアックに当時の東京を描いているのだが、 そこにリアリティとノスタルジーを感じさせるのは、 作者が少年期に実際に見た風景だからであろう。 粋でお洒落で、関東大震災から復興していく東京がそこにある。 作者が工学部出身ということもあるし、 タイム・トラベルをするのが男性(だけではないが)ということもあって、 着目点が男性的。 戦前の自動車のほうが(スバル360より)かっこいいとか。 ハドソン系の中級車エセックス・スーパー・シックスは直列六気筒 七十馬力のエンジンを積み、時速一三〇キロのまま丸一日走行可能。 しかもガソリン消費量はリッターあたり八ないし一〇キロ 当時のカフェーは今で言うキャバクラに近くて、「肉体美人」のサービスは、マッサージ・サービス、ネッキング・サービス、ポケット・サービス、無抵抗サービスなどがあった、とか。(ちなみに詳細な記述まではない) 蛍光管が発明される前のネオンサインには中間色がなく、赤、青、黄色などの毒々しい色だった、とか。 日頃インタビューでお話を聞く方は、このあたりの年代のことが多い。 まあ、東京在住の方はほとんどいないのだが、 昭和初期の東京の描写として、資料的価値のある作品である。 初読は高校生のときだが、今読むと昭和初期の用語を結構拾えるので、 当時いろいろ読み飛ばしていたことがわかる。 子供に本を薦めるとき、「これはちょっと言葉遣いが難しいかな」 と躊躇してしまうことがあるが、 多少読み飛ばしながらでも読書は堪能できるのだ。 自分が体験しているのに、やっぱり「これはまだ難しいかな」と つい思ってしまう。これ、直らないだろうか。 肝心のタイム・パラドクスのほうだが、これが鮮やかである。 昭和初期の風俗を描くことにページ数の大半を使っているので、 最後の種明かし、辻褄合わせの部分はちょっと駆け足感があるが、 パズルのピースがあるべき所にカチカチっとはまっていく爽快感がある。 タイム・トラベルをしてきた男と関わったことによって 運命が変わりそうになる人々が実際どうなったか、 という整合性も読後に確認すると面白い。 「でも、なんかよくわかんね-」みたいなもやもやも残しつつ(笑)。 実に見事だ。 数年前は絶版状態でプレミア価格がついていたらしい。 文庫に4000円とか! 最近、書店で平積みになっていて、 「今どき広瀬正かあ?」と不思議に思ったことがあるが、 復刊リクエストの声によって2008年に復刊されたからだったのか。 うれしいことである。 新版は、字も大きい。(笑) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2011年05月22日 11時38分53秒
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