リバーサイド
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雛の合唱
小鳥のさえずりで目を覚まし、新鮮な果物や野菜をたっぷり食べ、読 書や昼寝を心ゆくまでする。都会にいるときには味わえなかったそんな ぜいたくも、半月もたつと慣れてしまって、だんだんありがたみが薄れて きました。そして、そろそろ日帰り旅行にでもでようか、とどちらからとも なくいいだすようになりました。 そのまま天国へ通じているような尾瀬の木道をどこまでもてくてく歩いて みたい。霧で見え隠れする谷川岳の絶壁を川辺の石にもたれていつま でも仰いでいたい。絞りたてのこくのある牛乳を、日光の林の中の牧場 でたっぷり飲んでみたい。あちこちの温泉にも行ってみたい―。 ところが、私たちの退屈をいやしてくれるものが、意外にもごく身近なとこ ろに存在しました。 早朝、それはそれは愛らしい雛の合唱がきこえてきたのです。 実は何日 かまえから雛らしきか細い声には気づいてはいたのですが、どこか遠くか らきこえているようで、たいして気にもとめていませんでした。その声は少し ずつ大きくなって、いつのまにか自然に気づくほどになったのでしょう。 それにしても、雛たちの合唱というものは、なんて素敵なんでしょう。 耳を澄ましているだけで、とても幸せな気分になってきます。 それは どうやら我が家の白樺のあたりから聞こえてきます。 白樺といっても、けして避暑地にあるような広い庭園を想像しないで ください。我が家の白樺がたっていたのは、猫の額ほどの前庭です。 この何年も前、窓の日よけとして植えたのが、枝葉が二階の窓を十分覆 うほどに成長していたのです。 二階にいくと雛の声はいっそう近くなりました。まだ閉め切ってあるカ ーテン中央のはしからそっとのぞくと、、ヒッ、と短く鋭い声がして、目の 前をすばやく鳥影がよぎりました。それと同時に、雛たちの鳴き声がピ タリと止んでしまったのです。 電線で再び鋭い鳴き声を発したのは、ヒヨドリでした。 もしかしたら、雛たちはあのヒヨドリの...? そうか、そう、だったのか。 私たちが都会から戻ったとき、二羽のヒヨドリが異常な騒ぎ方をしました が、彼らは、夫婦だったようです。 私は少しがっかりしました。心なごませるかわいい声の主たちが、あの、 騒々しい鳴き方をするヒヨドリの雛たちだなんて...。 あとで、声ばかりでなくいくつものヒヨドリの魅力を知ることになるのですが、 このときはまだ、ヒヨドリのことはあまり知らず、マイナスイメージのほうが 強かったのです。 それにしても、気になって仕方ありません。 しかし雛たちの巣は、いくら 目を凝らしても、白樺の葉が茂りすぎていてなかなか見つけることができ ません。目の高さより少し低い位置に、やっとそれらしきものを発見したの ですが、やはり葉に邪魔されて雛たちの姿を見ることができないのでした。 動く気配すらないのです。 やがて夫も興味をもちだし、望遠レンズをセットしたカメラに三脚まで用意 してきました。 そして、レースのカーテンのこちらに身をかくしながら窓をすこしあけて、そこからレンズの先を外に向けたのです。 ピント合わせがすむと、彼は小声で私にものぞいてみるようにいいました。 驚いたことに、レンズのなかには、一羽だけですが雛の姿がおさまってい るではありませんか。赤肌に産毛がまばらな首をせいいっぱいのばして、 まるであわててキヲツケをしたような格好をしています。「アヤシイモノガキ タカラ、チュウイシナサイ」という親鳥の警告の声をきいて、本能的に不動 の姿勢をとったのでしょう。 電線に、もう一羽の親鳥が現れました。二羽とも心配そうに鋭い声で鳴き つづけます。 「とつぜん、こんな大きな一つ目が窓に現れて、親鳥たちも気が気じゃない わね」 「そうだろうな。野鳥はすごく敏感だからね。でもまったく動かないってわか れば、すぐに平気になるよ」 どのくらいたったでしょうか。夫の言うとおり、親鳥たちは、大きな一つ目を 危険なものではないと判断したらしく、てんでに我が家の裏手のほうに飛 んでいってしまいました。「きっと、エサを探しにいったんだよ。じゃ、そのまにちょっと」 夫はそういうと急いで階段を降りていき、たちまち長柄のついた枝切バサミ をもって前庭に現れました。
小鳥のさえずりで目を覚まし、新鮮な果物や野菜をたっぷり食べ、読 書や昼寝を心ゆくまでする。都会にいるときには味わえなかったそんな ぜいたくも、半月もたつと慣れてしまって、だんだんありがたみが薄れて きました。そして、そろそろ日帰り旅行にでもでようか、とどちらからとも なくいいだすようになりました。 そのまま天国へ通じているような尾瀬の木道をどこまでもてくてく歩いて みたい。霧で見え隠れする谷川岳の絶壁を川辺の石にもたれていつま でも仰いでいたい。絞りたてのこくのある牛乳を、日光の林の中の牧場 でたっぷり飲んでみたい。あちこちの温泉にも行ってみたい―。 ところが、私たちの退屈をいやしてくれるものが、意外にもごく身近なとこ ろに存在しました。 早朝、それはそれは愛らしい雛の合唱がきこえてきたのです。 実は何日 かまえから雛らしきか細い声には気づいてはいたのですが、どこか遠くか らきこえているようで、たいして気にもとめていませんでした。その声は少し ずつ大きくなって、いつのまにか自然に気づくほどになったのでしょう。 それにしても、雛たちの合唱というものは、なんて素敵なんでしょう。 耳を澄ましているだけで、とても幸せな気分になってきます。 それは どうやら我が家の白樺のあたりから聞こえてきます。 白樺といっても、けして避暑地にあるような広い庭園を想像しないで ください。我が家の白樺がたっていたのは、猫の額ほどの前庭です。 この何年も前、窓の日よけとして植えたのが、枝葉が二階の窓を十分覆 うほどに成長していたのです。 二階にいくと雛の声はいっそう近くなりました。まだ閉め切ってあるカ ーテン中央のはしからそっとのぞくと、、ヒッ、と短く鋭い声がして、目の 前をすばやく鳥影がよぎりました。それと同時に、雛たちの鳴き声がピ タリと止んでしまったのです。 電線で再び鋭い鳴き声を発したのは、ヒヨドリでした。 もしかしたら、雛たちはあのヒヨドリの...? そうか、そう、だったのか。 私たちが都会から戻ったとき、二羽のヒヨドリが異常な騒ぎ方をしました が、彼らは、夫婦だったようです。 私は少しがっかりしました。心なごませるかわいい声の主たちが、あの、 騒々しい鳴き方をするヒヨドリの雛たちだなんて...。 あとで、声ばかりでなくいくつものヒヨドリの魅力を知ることになるのですが、 このときはまだ、ヒヨドリのことはあまり知らず、マイナスイメージのほうが 強かったのです。 それにしても、気になって仕方ありません。 しかし雛たちの巣は、いくら 目を凝らしても、白樺の葉が茂りすぎていてなかなか見つけることができ ません。目の高さより少し低い位置に、やっとそれらしきものを発見したの ですが、やはり葉に邪魔されて雛たちの姿を見ることができないのでした。 動く気配すらないのです。 やがて夫も興味をもちだし、望遠レンズをセットしたカメラに三脚まで用意 してきました。 そして、レースのカーテンのこちらに身をかくしながら窓をすこしあけて、そこからレンズの先を外に向けたのです。 ピント合わせがすむと、彼は小声で私にものぞいてみるようにいいました。 驚いたことに、レンズのなかには、一羽だけですが雛の姿がおさまってい るではありませんか。赤肌に産毛がまばらな首をせいいっぱいのばして、 まるであわててキヲツケをしたような格好をしています。「アヤシイモノガキ タカラ、チュウイシナサイ」という親鳥の警告の声をきいて、本能的に不動 の姿勢をとったのでしょう。 電線に、もう一羽の親鳥が現れました。二羽とも心配そうに鋭い声で鳴き つづけます。 「とつぜん、こんな大きな一つ目が窓に現れて、親鳥たちも気が気じゃない わね」 「そうだろうな。野鳥はすごく敏感だからね。でもまったく動かないってわか れば、すぐに平気になるよ」 どのくらいたったでしょうか。夫の言うとおり、親鳥たちは、大きな一つ目を 危険なものではないと判断したらしく、てんでに我が家の裏手のほうに飛 んでいってしまいました。
「きっと、エサを探しにいったんだよ。じゃ、そのまにちょっと」 夫はそういうと急いで階段を降りていき、たちまち長柄のついた枝切バサミ をもって前庭に現れました。
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