父鳥もわが子を必死に― ![緑ハート 緑ハート](//plaza.jp.rakuten-static.com/img/user/emoji/h417.gif)
「もう一羽も気になるなぁ」
「生きててほしいわねぇ」
鳥籠のチーちゃんとダイちゃんに気をとられながらも、私たちは、
行方不明になったままの雛のことも気になっていました。
そんなに遠くへ行くはずがないのに、近辺には、気配がまったくな
いのです。
(もう猫にやられてしまったのだろうか...)
望みがまったくないわけではありません。チーちゃんダイちゃん
と一緒に巣から飛び出したとき、三羽ともがまがりなりにも宙を飛
んだのを夫が目撃していたからです。
私たちは、近所の屋根の上を探さなかったことに気がつきました。
私がまた鳥籠の見張り役になり、夫が二階にかけあがっていきました。
それからほどなくしてでした。夫がダダダとすざましい勢いで階段
をおりてきたのです。
「いたよ、いたいた!」
もう一羽が見つかったというのです。
「ほんとっ!?」
「Tさんちのベランダの手すりにいたよ。父さん鳥もいたよ」
「ほんと?」
![ベランダ.JPG](https://image.space.rakuten.co.jp/lg01/94/0000086194/48/img2043c9d5zikezj.jpeg)
私はすぐに二階にいき、東側の窓から外を見てみました。
二軒続きの平屋をこえたその先にTさん宅の二階がみえ、ベランダの
側面がこちらを向いてます。
その手すりに、たしかに灰色の小さなかたまりが―。
目を凝らすと、間違いなく鳥籠の二羽と同じヒヨドリの雛でした。
その子を父鳥(ヒヨドリは外見だけでは雌雄の区別はつけにくいので
すが、どうやら羽がボロボロのほうが母鳥のようなので、こちらは
自然に父鳥ということに)が、懸命に誘導しようとしています。
手すりのわが子の隣に並んでは、すぐに平屋の瓦屋根に飛び移って
みせて―。
こちらの耳までは届かないのですが、きっとこの父鳥も、母鳥が
裏庭でしたように、グウェ、グウェと低い蛙のような声で、
「コッチヘ、ハヤクオイデ」と優しく厳しく、呼びかけているのでしょう。
台風が去ってもいっこうに姿を見せなかった父鳥ですが、陰でわが子
の救出に懸命だったのです。
しかし、ベランダの雛ときたら、父親の心配をよそにその場をぜんぜん
動こうとしないのです。見ていると、じれったくなるばかりでした。
力つきて地面に落ちなければいいが、と見ていてヒヤヒヤします。
夫がチーちゃんとダイちゃんの入った鳥籠をさげて二階にきました。
「きょうだいを見せればつられてやってくるかもしれない」
彼は鳥籠を高くかかげ、T家のベランダにいる雛に気づかせようとしました。
しかし、気づいてか気づかずか、何の反応もありません。
母鳥が勇敢にもその鳥籠のそばまできて、
「ワタシタチノ、コドモヲ、ハヤクカエシテ」
と騒ぎ立てるばかりです。
私たちは、鳥籠をそのまま出窓に置き、レースのカーテンをひいて、
陰でしばらく様子ををみることにしました。
母鳥は籠のわが子たちにとっかえひっかえ青葡萄を与えようとし、父鳥は
危なっかしく金属の手すりにいるわが子を誘導しようとし、どちらもむな
しい努力を休みなく続けているのでした。
そうしている間も、親鳥同士は励ましあうように甲高い声を長くのばして、
互いを呼び合うことを忘れないのでした。
どれくらいたったでしょうか、ふと気がつくと、Tさん宅ベランダの手すりに
いた雛の姿がありません。
ついに力尽きて地面落ちた?
そして猫にやられた?
マイナスのことばかり考える私たちでした。
が、雛は平屋の瓦屋根に降りていました。
そして父鳥は、といえば、姿はどこにもみあたりません。
そして、ちょっと目を放した隙に雛も消えていました。
もしかしたら?
なんだか希望がうまれてきました。
父鳥は、雛をどこか安全な場所にうまく誘導できたのかもしれない!