2009/01/05(月)21:51
日本と韓国の近未来小説「時のそよかぜ」第64話
2025年8月16日 PM2時 明洞・ミリオレ前
君島たちは久しぶりに明洞に来ていた、新しいメガネを作るためである。
昔から韓国はめがねが安いということで有名だったのだが、君島がおなじみのお店があり鎌ヶ谷も偶然同じお店と古くから付き合いがあるので一緒に行こうということになったのだ。
今日は土曜日で日本ではお盆休みのせいか、やたら日本人が目立つ。
ここが日本なのか韓国なのか分からない。
この20年でお店の看板もすっかりハングルが姿を消しつつある、ひらがな、カタカナ、漢字、英語の看板だらけだ。
最近ではミリオレ前の映画館のなかに、日本語字幕がはじめからついている映画も上映されていた。
「なんか、韓国にいるような感じじゃないですね」
鎌ヶ谷がつぶやいた。
「そうですね、明洞は元々日本人観光客の多いところでしたが、今じゃ歩いている人の半数は日本人じゃないですか?」
君島が答える。
「あなたたちABCメガネに行くんでしょ?」
「明子たちはどうする?」
「由利さんと向かいのユニクレに行っているわ」
「俺たちも注文終わったら行くよ」
明洞での明子たちの関心事は衣料品と化粧品なので、何軒もあるお店から選べるので明子たちは放っておいても大丈夫だ。
「君島さん、今日はこれから嫁さん達と別れて教保文庫に行きませんか?」
「いいですね~でも一応言っておかないと」
「ちょっと欲しい本があるのですよ」
「分かりました、行きましょう」
君島たちは明子と由利と別行動をとることにして、メガネを買ったあと旧ソウル市庁前を通り世宗大路に出て、地下鉄5号線の光化門駅にある教保文庫まで歩いていった。
「鎌ヶ谷さん、私は日本の本のコーナーに行っています」
「私も目的の本が見つかったら、日本の本のコーナーに行きますよ」
「わかりました、じゃあ」
君島は奥のワンブロックにある日本書のコーナーに行った。
2日遅れの新聞や週刊誌なども販売している、もちろん単行本や文庫本の品揃えも多い。
値段はおおむね日本の価格の2割増しくらいだ。
君島は一冊の週刊誌を手に取った。
表紙にセンセーショナルに「河合代議士の疑惑・北朝鮮との悪縁」と文字が躍っている。
ふ~ん、なるほど・・・
これは大騒ぎになるはずだ、つい2ヶ月前にこの代議士と関係があったのもおとぎ話の感覚になっていた。
しかしこの記者もよく調べている、名前は出していないが河合代議士と旧北朝鮮の女スパイとの関係や、リニアに関する情報操作、北朝鮮政府関係者からの日本での活動のための裏金提供など、河合代議士の疑惑が数多く書かれていた。
2日遅れの毎朝新聞を見ると、一面トップで「河合代議士起訴・贈収賄及び殺人教唆」と大見出しが打ってあった。
君島は新聞と週刊誌を手に持って文庫本のコーナーへ移動した。
JR東海のリニアモーターカーに関する本を探していた、君島は韓国に伸びることになっているリニアにも相当な関心があった。
「君島さん、面白そうな本ありましたか?」
「鎌ヶ谷さんは?」
「私はこれです」
鎌ヶ谷は韓国芸能関係の本を、3冊ほど抱えていた。
「鎌ヶ谷さんらしい」
「君島さんはどんな本を?」
「私は新聞と週刊誌、そしてリニアの本です」
「リニアの?」
「はい、最初東京から大阪に開業してから、博多、札幌に延びるまでの技術者の苦労を描いた本です」
「週刊誌は?」
「河合代議士の事が載っていたので・・・」
「河合代議士って、北朝鮮との癒着の?」
「はい、そうです、実は今回韓国に来る前に少なからず因縁があったのですよ」
「そうなんですか?」
「はい、またお話しすることもあるかもしれませんね」
「時に君島さん、いつ日本に帰国されます?」
「10月までにはと思っていますが・・」
「やはり別々に帰ったほうがいいんでしょうね」
「仕事のことを考えるとそうなるでしょうね、私は1泊2日になるんじゃないかと思っていますが」
「なんか、日本人か韓国人かわからなくなってきましたね、ハハハ!」
君島と鎌ヶ谷は、景福宮の光化門前からタクシーに乗って麻浦に帰った。
つづく