日本と韓国の近未来小説「時のそよかぜ」第117話
2025年9月29日 PM4時30分 ヨイド・旧休戦ライン開発事業団 理事長室君島の部屋にク・ハンテ観光部部長が来ていた。今日朝の病院建設の件と、都羅山・板門店地域の工事状況、10月半ばにせまっている鉄原地域の自然公園整備工事の入札計画などについての打ち合わせである。ク・ハンテは軍と調整して、都羅山地域かオドゥサン地域に軍の病院を作ることには前向きな言葉を引きだしてはいたが、まだまだ不透明な状況で決定するまでには時間がかかるとのこと。「君島理事長、病院建設についてはいいところに気が付かれたとは思いますが、なかなかうまく進展しません、私自身が医療関係に詳しくない事もありますが・・」「ク・ハンテ部長、実はさっき大統領にお願いしておきました。クさんから電話をいただいてから、事業団の三沢理事がら電話があって、三沢理事が教鞭を取っている大学の医学部が付属病院の建設を計画していて、うまく大学と軍が連携できないかと・・」「大統領はなんと?」「専門家と相談してみると・・ちょっと時間が欲しいとおっしゃってました」「では、大統領の返事を待つ状態ですね」「そうです」「君島理事長、工事の進み具合はどうですか?」「すこぶる順調です、これといったトラブルも無く、予定より半月ほど早く工事が進んでいます」「そろそろ、歴史館の展示について動かなければならないのではありませんか?」「そうです、今、小村理事が展示物のリストアップを部下に指示しています、国立博物館や地方の博物館から展示物を借りる交渉も進んでいます」「もうそこまで出来ていますか?」「はい、クさんの助けもあってテレビ局のほうの映像提供も、ほとんど決まっていますし、ミニシアターの維持経費を協賛していただける話も決まりました、ク・ハンテ部長のおかげです、ありがとうございました」「いえいえ、観光部としても最大限の協力をお約束します、我が国のために汗をかいてくださっている皆さんを見ていると頭が下がります、こちらがお礼を言いたいくらいです」「展示物の説明パネルは、RGさんが50インチの液晶パネルを200枚無償提供していただけることになりました、これは韓国人スタッフが考案した事を韓国人スタッフがRGに持ちかけ、パネル上部にRGのロゴを入れることで、無償提供が実現したのですよ」「それは素晴らしい、事業団も業務進行がだいぶんスムーズになってきましたね」「そうなんです、最初のころは自分が何をすべきなのか職員自体も分かっていない部分が多かったのですが、今は率先して自分の考えを実現させようと動いてくれています、やっと事業団らしくなってきたという感じですね」「それはそうと、次回の鉄原地域の自然公園の着工が11月中旬でしょう?君島理事長、旧北朝鮮地域での労働者の募集はどうしますか?」「私の考えは、入札業者に依頼しようかと・・入札条件に北朝鮮地域での労働者の募集をすること、最低募集人員は2千名、外国人労働者は全体の労働者の10%以下に抑えることを条件としました」「そうなんですか」「はい、今の段階でも労働者の管理に50人くらいの職員を裂かれていますし、これ以上増えてきますと、もっと多くの職員を投入しなければならなくなります、事業団の職員はこれから東に延びる工事に向けての管理業務がありますから・・」「なるほど、建設業者に労働者管理もさせようということなのですね」「その通りです、いま都羅山やオドゥサンにいる500人超の労働者も次の工区に移動する時には、建設業者に管理を任せようと考えています」「鉄原の自然公園の入札はどんな具合ですか?」「観光部からもらった自然公園案に肉付けをして、自然公園部分と、モノレール駅とKR京元線との連絡部分、そしてホテル業者の入札、駅から自然公園を結ぶ動線上の観光施設部分、合計4つの部分についての入札を行う予定です」「入札日は10月10日の金曜日でしたね」「そうです、チェ・ジョンチョルが担当して準備を進めています」「入札予定企業は?」「今のところ3つのJVですね、サミソン現在建設と大水建設のジャンボJVはもちろんなのですが、今回は日本から大水建設のライバル企業を中心としたJVと、中国からのJVとが入札書類を請求してきました、アメリカやヨーロッパの建設会社からも問い合わせはありましたが現実問題参加するのは見送るのではないでしょうか」「安心しました、本当によく頑張っていただいていますね・・」ク・ハンテ部長は満足したようにうなずいていたが、急に君島の顔を見ながら思い出したように言った。「君島理事長、実は先日、広島市から38度線の自然公園と広島市の平和記念公園と連携して世界に平和を訴える行事が出来ないだろうかと問い合わせがありました」「広島市から?」「そうです、朝鮮半島も長く南北に分断されていたが、そこに平和と共生をテーマにする自然公園が出来るのはすばらしい、広島市としても協力して盛り上げたい、ということなんです」「広島市の国際平和文化センターかな?」「ご存知なのですか?」「知っていますとも」君島は以前の仕事で韓国イベントを開催していた時、広島市とは深い関わりがあった。5月3日から5日まで、広島市の平和大通りでフラワーフェスティバルが毎年行われ、広島市と姉妹都市の韓国テグ市のブースも設置される。その協賛事業で韓国観光イベントを君島の会社が開催し、平和文化センターともつながりがあった。君島にとって広島は、韓国とのつながりを遊びの分野から仕事の分野にレベルアップさせてもらった思いで深い都市であった。当時、駐広島大韓民国総領事館とも仕事上深い付き合いがあり、総領事や経済担当領事など韓国の政府関係者と公式的な関係をはじめて持った場所でもある。「広島との連携はいいんじゃないでしょうか?私はいい話だと思います」「では、観光部が窓口になって話を進めてかまいませんか?」「お願いします、もし必要なら私も話に加わってもかまいません」「わかりました、こちらから連絡してみましょう」つづく