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2010年02月28日
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リフィアは目の前の高い大階段を見上げた。
通常の建物の四階ほどの高さにあるバルコニーから両翼にむかって階段が下り、真ん中の踊り場で一度折り返してから、中央で合流して広い階段になっている。

バルコニーの奥には両開きの重い扉。その向こうは奥院のある小高い丘になっているといい、神官や巫女しか入ることが許されていない。
明るい色で圧迫感は少ないけれども、背の高い二階建ての外回廊は神の世界と人の世界を区切るもの、両開きの第二中門は特別な出入り口のように彼女には思えた。

「大階段って……こんなだったかしら?」

思わずつぶやくと、隣でアルディアスが笑った。

「ああ。これはね、外界から遮蔽する象徴というか……人が通るための門ではないんだよ。実際に結界として機能していて、普段は無関係な人は近寄ろうと思わない、思い至らないような感じになっているんだ」

各所に神紋のモチーフがたくさん使ってあるだろう? と微笑む。
言われてみれば、お守りなどで見たことのある模様が多用されていた。

「それでこんなに大きいのに、見たことがないような気がするの?」
「そうだよ。まあ、慣れてしまえばそんなこともないけれどね」

アルディアスは大階段を見上げた。明るい日差しが広い石畳を照らし、たっぷりの緑のあちこちで鳥が鳴きかわしている。

目抜き通りになっている旧参道は、真東の海辺から奥院までをまっすぐに貫いている。神殿の敷地境界にある正大門を通ると、広い石畳の広場になっていた。
各所に草木が植えられ、明るい公園のようにも見えるそこには、入って右側に大きな礼拝堂、左側に図書館や資料館。
正面奥の第一中門までは一般開放されて誰でも入れるようになっている。

第一中門を入ると禁域となり、大祭中のいっときだけ開放される。
リフィアたちがいまいるのはここの広場だが、入ったとたん空気が一段引きしまる感じがした。

中門を入って正面、大階段に向かって右側には山が迫っているため、土地は広く左側、つまり南にむかってひらけて建物がいくつか建っている。
講堂や神学校を案内しながら、アルディアスが尋ねた。

「リンはこのあたりに入ったことがあるのだっけ?」
「ええ。十代最後の年に、仮巫女の神事に参加したの。六、七年ほど前になるかしら」

歩きながら軽く首を傾げてくる恋人に、リフィアはうなずいてみせた。

昔々は通過儀礼のひとつだった名残の神事、というか半分仮装行列のような一般参加可能のイベントが、毎年大祭には行われる。
メインは十代の最後と二十代の最初の年。
それぞれ着られる衣装の色が決まっており、二年続けて参加することで死と再生、子供から大人への通過儀礼とされていた。

「七年前……七年前?」

呟いたアルディアスが、年数を数えて足をとめた。

「そうよ。ちょうど代替わりしたばかりの大神官様が歴代でも最年少だって話題になって……あ」
「それじゃ、私は君に会って直接祝福をしてたんだな。それも、記念すべき代替わり後の最初の大祭で」

アルディアスが笑う。
祖父ほど年の離れていた先代の大神官が亡くなったのは、彼が二十二歳の誕生日を迎える直前だった。
作戦から神殿に駆け戻り、冬から春にかけては継承の諸々で忙しくしていた。
初めて責任者として執り行った大祭は今でも記憶に残っているが、さすがに何十人も出席する仮巫女のことまで覚えていない。

「私だって覚えてないわ。怖い巫女様がいて、ちゃんと下を向いてないと怒られるのだもの。だからせいぜいサンダルくらいよ。あとはそうね……、白っぽいひらひらした服の後姿と、護衛の人たちの派手な格好くらいかしら」

神官よりも護衛のほうが派手なのね、とリフィアは不思議そうに言った。

「うん、一見そう見えるだろうね。実際は装飾品もあるし、化粧もさせられるのだけど……下向いてちゃ見えないな」
「お化粧?」

そう、とアルディアスは肩をすくめた。
理由とどうなるかは当日まで、内緒。

さらに聞きたそうなリフィアをかわして、彼はいくつかの建物の間をそれぞれ繋いでいる回廊を歩いていった。

広場から見て手前にあるのが講堂と、さまざまな授業が行われる神学校。
続いて男性用・女性用・家族用の修道院と宿舎。戦災孤児や捨て子なども育てているため、いつでも子供の声が絶えない。
自給自足のための畑や果樹園などを通って礼拝堂、その奥が中庭になっている。

中庭には五十メートルプールほどの大きな四角い人工池があり、ゆるやかな勾配の橋が真ん中にかかっている。季節には蓮の花が咲き乱れ、周りに配置されている石のベンチからゆったりとそれを眺めることができきる。
子供達は開放広場や果樹園のあたりまでにいることが多いから、礼拝堂をこえたここは比較的静かな雰囲気だった。

中庭の南北にはそれぞれ小さな門があって守衛がおり、奥院側、開放広場側へと抜けることができる。
池のむこう、開放広場側への門の近くにあるのは、サイキックの訓練施設。
いちいち大仰な正門を通ってこなくてもいいように、こちらに建物が作られているのだそうだ。

「今日はとりあえず正門から来たけれどね、リン、次からは南門から入れるよ」

ひととおり案内しながら訓練施設の前まで来てアルディアスが言った。
研究所ふうの冷たい外観を嫌ったのだろう、普通の館にも見える施設の外壁は明るい色のレンガで、周囲の緑に溶け込んでいて圧迫感が少ない。

守衛にうなずいて扉を開けるアルディアスに続き、リフィアはどきどきしながらその建物に入った。

入り口から見渡せるフロアは、公共施設の受付か案内カウンターのようなありきたりな感じで、これといって特徴がない。
カウンターに座っていた女性がアルディアスを見て立ち上がり、リフィアにも微笑みかけて片手で奥の部屋をさした。

「<橙>のお部屋をお使いください」
「ありがとう。七つの部屋に虹の色の名前をつけているんだよ」

台詞の後半は歩き出してリフィアに言いながら、アルディアスは先に立って廊下を歩いた。

部屋の並び方は研究施設のような感じだが、中庭に面する廊下の片面は大きなガラス張りになって光を取り入れ、外の緑が見えるようになっていたり、またドアの取っ手には祈りのモチーフが見て取れるなど、科学と信仰とがなんとなく入り混じった造りになっている。

通路の角には、波動調整のためなのか単なるインテリアなのか、植物やクリスタルがさりげなく置いてあった。

「施設の目的はね、安全に最大限の力を引き出せるようにすること。ゆくゆくは自力調整できるようになるまでのサポートをしているんだよ」

説明しながら、彼は<橙>というプレートのついたドアをノックした。
ちょうど子供の目線のあたりには、虹と橙色の風船、オレンジの絵が描かれている。

中からドアが開かれ、眼鏡をかけた明るい茶色の髪の若い男性がにっこりと笑った。

「お待ちしておりました、アルディアス様。はじめまして、ミス・ルーテウス。訓練担当のセシル・グランです。セシルでもセルディでも、お好きなようにお呼びください」
「はじめまして、リフィア・ルーテウスです。サイキックの能力は今までまったく持っていなかったものですから、色々ご迷惑をお掛けするかもしれませんが、どうぞよろしくお願いいたします」

お気になさらず、とセシルは言った。白衣ではなく淡い色のカーディガンを着て、紫の瞳に浮かべる笑みが人懐こい。
笑い返してから改めて部屋の中を見まわすと、ゆったりとした造りの中に円筒形のガラスでできた設備機器がいくつか置いてあった。

セシルはその中のひとつに歩み寄ると、コンコンと軽くそのガラス面を叩いてみせた。

「これは、だんだん出力が上がってくる力を上手にアースさせる練習に使うものです。サイキックレベルの進歩段階によって、いくつかの強度に分かれています。最初から強力なのを使うと、人のほうに負荷がかかってしまうと大変ですからね」

この設備が肝なんですが、これがあるとどうしても硬い印象になってしまいましてねえ、子供たちを怖がらせないよう、いつも気を使うんですよ、とセシルは笑う。

この施設が全体的にやわらかな雰囲気なのは、こうして勤めている人達の努力によるものなのかもしれないとリフィアは思った。















<Lifia - shaman tentative ->
http://blog.goo.ne.jp/hadaly2501/e/22a8fda83f8c8c1bab643fcac34ae4af


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【銀の月のものがたり】 道案内

【第二部 陽の雫】 目次



作中の「ミス・ルーテウス」って呼びかけなんですが。
Miss っていう敬称がヴェールにあったかどうかわからないのですが、
他にいい表現が思いつかなかったので暫定的に orz
「テレビ」もそうでしたけどねえ・・・今地球にあるのとは違うんだけど細かくどう違うかが説明できん、みたいのがあって。
これだ、って思う表現を思いついたら、あとでこっそり直すかもしれません^^;


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最終更新日  2010年02月28日 11時29分48秒
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