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籠(こ)もよ み籠持ち 掘串(ふくし)もよ み掘串持ち この岳(をか)に 菜(な)摘(つ)ま
す兒(こ) 家聞かな 告(の)らさね そらみつ 大和(やまと)の國は おしなべて われこそ 居(を)れ しきなべて われこそ座(ま)せ われにこそは 告(の)らめ 家をも名をも (― 籠・かご は良い物を持ち、土を掘り起こす道具も同様で、この丘の上で食用の菜っ葉を摘んで いる美しい娘さんよ、あなたの家を聞きたい、私に教えてくださいな、大空からこの素晴らしい 国を大昔に我々の祖先が見下ろしたという伝承のある大和は、私こそが一面に従えて治めている のだが、その私だからこそ、あなたは私の求愛の言葉を素直に受け入れて、教えてくれるでしょ うね、家をも名前をも) ――― 雄略天皇の御製 雄略天皇は五世紀後半の英雄的な君主。この天皇の頃までに大和朝廷による統一国家が出来 た。 舒明天皇が香久山(かぐやま)に登って国見(くにみ、国の形成を高い所から望み見ること で、もともとは農耕の適地を選ぶ為の行事)なさった時の、御製歌 大和には 群山(むらやま)あれど とりよろふ 天(あま)の香久山 登り立ち 國見をすれば 國原(くにはら)は 煙(けぶり)立ち立つ 海原(うみはら)は 鷗(かまめ)立ち立つ うまし 國そ 蜻蛉(あきづ)島 大和の國は(― 大和の国には多くの山があるけれども、中でも都に寄 り添っている天の香久山、その天から下ったという伝承がある香具山に登って、その上に立ち、 我が国見をすると、大和平野からは民の家々から立ち昇る竈からの煙があちこちから上がってい る。そして、遥かの海の上を海鳥が舞踊っているではないか。何と素晴らしい国柄であること か、蜻蛉(とんぼ)が群れ飛ぶ景観が見事なことから蜻蛉(あきづ)島とも呼称される我が大和の国 は) やすみしし わご大君(おほきみ)の 朝(あした)には とり撫でたまい 夕(ゆうべに)は い倚(よ)り立たしし 御執(と)らしの 梓の弓の 金弭(かなはず)の 音すなり 朝獵(あさ かり)に 今立たすらし 暮(ゆふ)獵に 今立たすらし 御執らしの 梓の弓の 金弭の 音すな り(― 八方を統べ治められる、我らが敬愛する大王様、その大君が朝には手にお取りなされて 撫で、夕方には側に寄ってお立ちになられ、常々愛用なされていらっしゃる梓製の弓の、金属で できた弓末の音が聞こえる。どうやら、大君様は、これから朝の御猟に御出発なさるご様子であ る。今度は又、夕べの猟にお出かけなさる模様で、御愛用の梓弓の金弭の音が聞こえて来る) その反歌(はんか、長歌を収める意味、短歌) たまきはる 宇智(うち)の大野に 馬並(な)めて 朝踏ますらむ その草深野(ふかの) (― 感動する程に素晴らしい、宇智にある広い野原、その大平原に馬を並べて、朝の猟に出発 なさる我らが大王様の凛々しいお姿よ。草が一面に繁茂している美しい狩場の平原よ!) 霞立つ 長き春日(はるひ)の 暮れにける わづきも知らず 村肝(むらきも)の 心を痛み 鵼子鳥(ぬえことり) うらなけ居(を)れば 玉襷(たまたすき) 懸けのよろしく 遠つ神 わご大君の 行幸(いでまし)の 山越す風の 獨(ひと)り居(を)る わが衣手(ころもで)に 朝夕(あさよひ)に 還(かへ)らひぬれば 大夫(ますらを)と 思へるわれも 草枕 旅にし あれば 思ひ遣(や)る たづきを知らに 網の浦の 海處女(あまおとめ)らが 焼く盬(しお) の 思ひそ焼くる わが下ごころ(― 霞がしきりに立っている長い春の日が漸く昏れようとし ている、妻のことを思って胸が痛むので嘆いていると、いつも悲しげな声で啼く虎ツグミの鳴き 声が聞こえて来る。私も心に泣けて仕方がないので、美しい襷を掛ける、その懸けるではないが 言葉に出して言うのに最適な我らが大王様、遥かなる大昔から神々の血統を受け継いで居られる 神そのものとも言える大君様が行幸なさる山を、吹き越えて来る冷たい風が、私の着衣の袖に朝 に夕べに吹き帰って来る。その帰ると言う嬉しい言葉につられて、家に帰る事ばかりが思われ て、立派な一人前の男子であると考えている私だが、長い長い旅の途中にいる故に、重い憂いを 晴らす手段もなく、胸の中の火が盛んに燃え上がって、身が焼け焦げる程に燃え盛るので、辛く 切ない限りである、ああ!) 反 歌 山越しの 風を時じみ 寝(ぬ)る夜おちず 家なる妹(いも)を 懸けて偲(しの)ひつ(― 山を越えて吹いてくる風が絶えないので、私の着衣の袖がいつも翻っている。それで家に帰るこ とばかり考えてしまう、夜寝ると時には必ず故郷の家で私を待っている妻を心に思い、切なく恋 い慕っている。ああ、愛しい一目だけでもあいたいものだなあ) 秋の野の み草刈り葺き 宿れりし 宇治の京(みやこ)の 假廬(かりいほ)し 思ほゆ(― 秋の草を刈り取って屋根に葺き、仮住まいしたあの宇治の都の、急拵えの仮の宮殿が今になって 懐かしく思い出される事だ) ――― 額田王(ぬかだのおおきみ)の歌 熟田津(にきたつ)に 船乗(ふなの)りせむと 月待てば 潮(しほ)もかなひぬ 今は漕ぎ出 (い)でな(― 四国の熟田津の港から韓国西征の戦人を乗せて、出帆の潮時を計って月の出を待 っていると、折りよくも潮の加減も最適になった。さあ、勇んで船を出そうよ) 夕月の 仰ぎて問ひし わが背子(せこ)が い立たせりけむ 嚴橿(いつかし)が本(― 夕月 を仰ぎ見る如くに、私が心から敬愛していたあなた様、その大切なお方である御人がすっくと威 容をお見せなされていらっしゃった思い出の場所には、あの堂々と立派な橿(かし)の大樹があの 方の往時を偲ばせるかのように、今も聳え立っている) 君が代も わが代も知るや 磐代(いはしろ)の 岡の草根を いざ結びてな(― あなたの寿 命も、私の寿命も知って支配している、磐代の岡の草よ、その昔に有馬皇子が松の根を結んだと 伝え聞いているこの地の、草の根をさあ、二人の幸福を祈念してしっかりと結びましょうよ) わが背子(せこ)は 假廬(かりほ)作らす 草(かや)無くは 小松が下の草(かや)を 刈らさ ね(― 私の愛する夫は仮りの廬(いおり)を作っていらっしゃる。屋根を葺くカヤが足りなけれ ばあの小松の下のカヤをお刈りなさいな) わが欲りし 野島は見せつ 底深き 阿胡根(あごね)の浦の 珠(たま)そ拾(ひり)はね(― 私が望んでいた野島をあなたは私に見せてくださいました。でも、底が深いことで知られた阿胡 根の浦の名産である、真珠貝の珠はとうとう拾わないでしまいました。それが残念と言えば残念 ですわ) 香久山(かぐやま)は 畝傍(うねび)雄々(をを)しと 耳梨(みみなし)と 相(あひ)あらそ ひき 神代より 斯(か)くにあるらし 古昔(いにしへ)も 然(しか)にあれこそ うつせみも 嬬(つま)を あらそふらしき(― 香久山は、畝傍山を男らしく素敵だと感じて、耳梨山と恋の 競争をしたと言う。神代の昔から恋情のあり方はこの様であったようだ。それで現世の現代でも 一人の愛を得ようと二人が争うことがあるのであるようだ) ――― 天智天皇の歌 香久山と 耳梨山と あひし時 立ちて身に來(こ)し 印南國原(― 神代に、香久山と耳梨 山とが喧嘩して争った時に、阿菩の大神がわざわざ立ち上がって、はるばる遠くから見物にやっ て来たと言う印南國原とは此処だったのだなあ) わたつみの 豐旗雲(とよはた)雲に 入日(いろひ)見し 今夜(こよひ)の月夜(つくよ) さ やに照りこそ(― 大海原に大きく靡いていた雲に入日が赤々と照り映えているのを見た今夜 は、月も皓々と明るく照って欲しいものだ) 冬ごもり 春さり來れば 鳴かざりし 鳥も來(き)鳴きぬ 咲かざりし 花も咲けれど 山を 茂み 入りても取らず 草深み 取りても見ず 秋山の 木の葉を見ては 黄葉(もみじ)をば 取りてそしのふ 靑きをば 置きてそ歎く そこし恨めし 秋山われは(― 長い間の厳しい冬 籠もりが終わって春になると、それまでは鳴かなかった鳥もやって来て囀り、咲かなかった花も 咲くけれども、山には木の葉が繁茂しているので、中に分け入って手に取るわけにもいかず、草 が密集しているので、手に取ることはできない。一方で、秋の山は、木の葉が紅葉して美しく色 づくのを見ては、手に取って美しいと鑑賞するし、青いままの木の葉はそのまま置いて嘆息す る。その点は恨めしいと感じるけれども、私は秋の方が優れていると思いまする) ――― 額田王の歌 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2022年01月12日 11時37分05秒
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