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河内女(かふちめ)の 手染(てぞめ)の絲を くり反(かへ)し 片絲にあれど 絶えむと
思へや(― 弱い片糸ではあるけれども、頼りない片思いではあるけれども、切れようとは思わ ないことだ) 海(わた)の底 しづく白玉 風吹きて 海は荒るとも 取らずは止(や)まじ(― 海の底 深くに沈んでいる真珠であるが、風が吹いて海上が荒れていても、取らずには済まさない決意だ だ。 真珠は女である ) 底清み しづける玉を 見まく欲(ほ)り 千遍(ちたび)そ告(の)りし 潜(かづき)す る白水郎(あま)(― 清らかで底まで見える海に沈んでいる真珠を見たいと思い、千度も呪言 を唱えたことである、潜水する海人は) 大海の 水底(みなそこ)照らし しづく玉 斎(いは)ひて採らむ 風な吹きそね(― 大 海の海底を照らしている真珠を、呪言を唱えて採ろうと思う。風よ、吹かないでくれ) 水底(みなそこ)に しづく白玉 誰(たれ)ゆゑに 心つくして わが思はなくに(― 海 の底に沈んでいる真珠の様なあなた、あなた以外の誰によっても、私はこんなに心を尽くして物 思いをすることはありません) 世の中は 常斯くのみか 結びてし 白玉の緒(を)の 絶ゆらく思へば(― 世の中は常に こうしたものか。きつく結んだ真珠の緒も切れてしまうことを思えば。 恋人が離れ去った嘆き ) 伊勢の海の 白水郎(あま)の島津が 鰒玉(あはびたま) 取りて後(のち)もか 戀の繁 けむ(― 伊勢の海の海人である島津、そのアワビの珠は、取ったあとも更に恋心がしきりに湧 くことであろうなあ) 海(わた)の底 沖つ白玉 縁(よし)を無(な)み 常かくのみや 戀ひ渡りなむ(― 深 い海の底の真珠は、近づくきっかけがなくて、いつもこのように恋しく思いつづけるのであろう か) 葦の根の ねもころ思(も)ひて 結びてし 玉の緒といはば 人解かめやも(― 葦の根が 細かく入り込んでいるように、深く心を込めて結んだ玉の緒だと言ったなら、人はそれを解いた りはしないだろう。二人の中を割いたりはしないだろう) 白玉を 手に纏(ま)かずに 箱のみに 置けりし人そ 玉詠(なげ)かする(― 真珠を手 に巻かずに箱に置いたままの人は、真珠・女 に寂しい思いをさせますよ) 照左豆(てりさつ)が 手に纏き古(ふる)す玉もがも その緒は替へて わが玉にせむ(― てりさつが手に巻いていて古くなった真珠が欲しい。その古い緒は取り替えて自分の物にした い) 秋風は 纘(つ)ぎてな吹きそ 海(わた)の底 奥(おき)なる玉を 手に纏(ま)くまで に(― 秋風は続いて吹かないでおくれ。私が大海の底の真珠を手に巻きつるけるまでは) 膝に伏す 玉の小琴の 事なくは いとここだくに われ戀めやも(― 膝に置いて弾く美しい 小琴、そのことではないけれども、何事もないのであれば何で私がこんなにも恋するであろう か。妨げられるからこそ一層あなたが恋しくなるのだ) 陸奥(みちのく)の 安太多良眞弓(あだたらまゆみ) 弦(つる)着(は)けて 引かばか 人の 吾(わ)を言(こと)なさむ(― 陸奥、福島県のあだたら真弓を引く、その引くではな いけれども、相手の気持を引いてみるような事をするから、世間の人が私をあれこれと煩く言う のだろう) 南淵(みなぶち)の 細川山に 立つ檀弓(まゆみ) 束(つか)纏(ま)くまでに 人に知 らえじ(― 奈良県の細川山に立っているマユミの木で出来た弓の柄に握りの革を巻く時、二人 でしっかりと相逢うまでは人にこの恋を知られまい) 磐畳(いはたたみ)かしこき山と 知りつつも われは戀ふるか 同等(なみ)ならなくに (― 岩が重なり合っている畏敬すべき山だと承知していながらも、身分の隔たりが著しい事を 十分に知っていながも、私は今恋しく激しく思っている) 岩が根の 凝(こご)しき山に 入り初(そ)めて 山なつかしみ 出でかてにかも(― 岩 がごつごつした山ではあるが、入り始めてみたら懐かしくなって、出てくる事が出来ない) 佐保山を 凡(おぼ)に見しかど 今見れば 山なつかしも 風吹くなゆめ(― 奈良市の佐 保山を大したこともない普通の山と見ていたが、今眺めやると近寄っていたい感じがする。風 よ、決して佐保山に吹くな。 山を女と見ている ) 奥山の 岩にこけ生(む)し 恐(かしこ)けど 思ふ情(こころ)を いかにかもせむ(― 奥山の岩に苔が生えて恐ろしいように、恋の相手は身分が違いすぎて畏敬せられるけれども、 私は自分の心をどうしようもないのだ) 思ひあまり 甚(いた)もすべ無み 玉襷(たまたすき) 畝火(うねび)の山に われは標 (しめ)結(ゆ)ふ(― 思いにあまって私は仕方がなくなって、畝傍の山に専有の印の標を結 うことであるよ) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023年03月14日 09時55分23秒
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