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(ヒッキーの科白の続き)
(再び欠伸をする)急に眠くなってしまったよ。長く歩いたのが効いてきたのだ。二階に行 った方がよさそうだ。こんな様な芸当など糞くらえだよ。(一旦は立ち上がろうとするが、また 腰を下ろし、眼を見開こうと瞼をしばたたかせる)いや、諸君、俺は本当の平和がどんなものか まで知らなかったよ。それは偉大な感情さ、病気の時にひどく頭痛がしている際に、医者が腕に 注射をしてくれる。すると痛みは消えて、気分が回復する。(目を閉じて)最後には気ままにや れる。海の底まで沈めるよ。平和に休め。もうそれ以上は何処へも行く必要がないのだ。君を引 き止めるどんな希望も夢も全然残っちゃいないから。君等は全員が俺が何を言わんとしているか を知るだろうよ。(一息ついて、口の中でぶつぶつ言う)失礼、全部で四十回のウインクをす る…、飲めよ皆、俺の為に…、(完全に力尽きたように眠り込んだ。顎が胸に落ちる) (一同は、困惑して不安な魅惑で幻惑されたようにヒッキーを見詰める) ホープ (イライラした感じを無理に抑えて)何ていう曲芸を見せてくれるんだ。目の前で眠り 込むなんて。(それから周囲に向かってプリプリして)ああ、一体何てこった。何故酒を飲まな いのだよ。いつも酒をくれって口癖のように言っているのに。鼻の下に酒がしこたま置かれてい ると言うのに、木偶の坊みたいに坐っているだけだ。(彼らは自分のウイスキーをがぶ飲みし始 め、更にもう一杯グラスに注いだ。ホープはヒッキーを見詰めて)畜生目、俺にはヒッキーの正 体が掴めねえや。奴は俺達をまだからかっているのだ。彼は自分の祖母さえからかってしまうの だ。君はどう思うかね、ジミー。 ジミー (確信が持てずに)それは彼の別の冗談さ、ハリー、だが…。そう、彼は確かに見かけ 上は変わったさ。でも、また明日になれば元の自然な彼に戻っているだろうよ…、(急いで)つ まり目を覚ました時にはだ。 ラリー (目を細めてしかめ面を作り、ヒッキーを見詰めてから、周囲へと言うよりは彼自身 に声に出して語りかけた)彼が単なる冗談を言っていると思うなら、間違いを犯すことになる よ。 パリット (低い、確信ある声で)僕はあの男は好きじゃないよ、ラリー。余りにうるさすぎ る。これからは彼を避けていよう。 (ラリーはパリットに疑惑の視線を向け、それから急いで視線を逸らした) ジミー (あけっぴろげな合理性を見せて)でも、ハリー。彼の無意味にはある種のひらめきが あるよ。俺は元の仕事を取り戻す時期になった…、でも、彼が俺を思い出させる必要なない。 ホープ (率直さを示して)そう、俺はこの地区を一回り散歩して来なければならない。でも、 ヒッキーに俺が明日の誕生パーティーを整えたのを見せて、そう言わせる必要はないよ。 ラリー (皮肉に)はっ、(次に滑稽な緊張と狂的な囁き声で)神様、とうとう奴は平和の二つ の商売を成し遂げるつもりらしい。でも、先ずはそれが真実のマッコイで、毒なんかじゃないこ とを確認するべきなのだよ。彼は君の番号を持っているのだからなあ。(彼は急にこの脅しを恥 ずかしく感じて言い訳するように付け加えた)ねえ、ラリー、君はいつでも死に関わりのある事 をぶつくさと喚いているだろう。あれは俺の乳母なのだ。さあさあ、みんなの飲もじゃないか、 (みんなが酒を飲む。ホープの視線は又ヒッキーに固定したままだ)石の如き素面と死を世界 に。パイプドリーム仕事に唾を吐きかけてやれよ。俺はごめんだよ。(再び怒りの不平をぶちま けた)彼は昔のヒッキーじゃないよ。彼は俺の誕生パーティ―に湿った毛布をかぶせようという 魂胆なのだ。あいつなんか姿を現さなければよかったんだ。 モッシャー (ヒッキーの話に一番関心を示さなかったが、正気を取り戻すと酒を呷りなおして 温情ある調子で)時間をやれよ、ハリー。そうすれば元に戻るさ。俺は絶対的な禁酒主義者の殆 どの場合を見て来たが、全員が完治して前の様に復帰している。そして飲んだくれている。俺の 意見では過度な飲酒から一時的に避難している状態なのだ。(沈思する様子で)あまり心配し過 ぎる必要はない。それは最悪の習慣だって科学にのも知られている。偉大な物理学の権威が俺に 説明してくれたことがあったよ。彼は灯りを掲げた表通りで実験をしていたが、ガラガラ蛇の油 が三日で心臓発作を治してしまうと主張した世界でただ一人の人だった。彼が俺によく言ってい たのを忘れないでいるよ、君は非常に繊細だよ、エド、君が朝食や夕食前に質の悪い酒をがぶ飲 みしていたら安定した熟年に達することなどふかのうだよ、と。酒を飲まずに、健康に働けば人 は良い人生を全うできるものだ、とね。 (彼が話をしている間、彼等はニヤニヤしながら彼を見て、どっと笑いたいのを我慢してい たが、話が終わった時に爆笑した。パリットさえ笑った。ヒッキーは死人の如くに眠り、ヒュー ゴは彼の熟睡から半ば覚めて、眼鏡越しに見上げて馬鹿の様にクックと笑った) ヒューゴ (瞬きして、周囲を見、笑いが納まるとニヤニヤ笑いの甘言で子供でもからかうよう に)笑えよ、馬鹿な大衆諸君。馬鹿宜しく笑え、怠け者達よ。(彼の口調はある種威嚇するよう に変わり、テーブルを拳で軽く叩いて)俺も笑うよ。が、最後に笑うのだ。君達を笑ってやる さ。 (愛用の文句を暗唱する)日は暑くなる、おお、バビロンよ。柳の木陰の許ではこんなにも涼し い。(そこにいた全員が面白がって彼を野次り倒す。ヒューゴは傷つかない。これは明らかに彼 等の習慣的な反動だ。彼は善良そうに笑う。ヒッキーは眠り続けている。彼等はヒッキーに対す る不安を忘れてしまい、今は彼を無視している) ルイス (ほろ酔い加減で)おや、もう我等の小ロベスピエールは自分の首をギロチン台にかけ て胸に落としてしまった。もっと君の友人の医師の話を聞かせてくれないか、エド。彼は今まで で俺が話に聞いた医師の中で滅法印象に残った唯一の御仁だよ。俺達はその医師を我々のかかり つけ医に一刻も早く認定しようと思うのだ。(彼等は笑いながら同意した) モッシャー (自分の話題を温めながら、悲し気に首を振って)遅すぎるよ。その老医師は創造 主に召されてしまっているよ。仕事のし過ぎでもあった。自分の助言に従えなかったのさ。自分 の鼻を石臼にくっつけて、蛇油を売り過ぎたのだ。彼が昇天したのは八十歳だった。もっとも悲 しい部分は、彼が自分の運命を承知していたことなのだよ。我々が一緒に体を麻痺させた時に、 彼は言った、このゲームはまだ終わってはいないよ、エド。君の前には破滅した人間がいる、医 学への献身者さ。私に少しでも神経と言うものがあれば、私は神経破滅者なのだよ。君は私を信 じないがよい。でも、この最後の年に私は持て余すくらいの患者を診察することになった。酔っ ぱらっている暇などないくらいにさ。私の診療法の衝撃は最後には自分は医師としては終わって しまったと自覚させられたことだった。哀れな老医師よ。彼がそう言った際に、こう彼は叫び始 めたよ。私の使命が終わったのに前に進むなどとは、出来ない相談さ、エド。彼はめそめそと泣 いたさ。私は望んでいたのだよ、この輝かしい国にどのような患者もいない医院が出現する奇跡 の時代が到来することを。(どっという笑いの渦。暫く待ってから、悲し気に続けた)あの医師 を悲しく思い出すよ。彼は古い学派の紳士だった。彼は表通りに立っていて、ダメ人間共に告げ ているだろうさ、酷いやけどには蛇の油に勝る薬はない、と。 (またもや爆笑の渦。今度はヒッキーの熟睡を刺激する程のもの。ヒッキーは椅子を動かし 目を覚まそうと努め、少し頭をもたげて、無理やり半分目を開いた。そして話す、眠そうではあ るが愛情に満ち溢れた元気づける様な笑顔で。急に笑いが止み、みんながヒッキーを見た) ヒッキー それが根性だよ。俺を湿った毛布になんかしないでくれよ。俺が望んでいる全ての事 は君達が幸せになる事なのだ。(ヒッキーは元の爆睡状態に戻った) (一同はヒッキーを見詰め、顔は再度困惑したそれになった。拒否するように、不安げに) 静かに幕が下りる。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024年03月14日 20時29分34秒
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