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■「男はつらいよ」シリーズを見直す 沢木耕太郎の「若き実力者たち」(文春文庫)の新装版が昨年4月発行された。文春文庫の旧版は1979年の発行である。もともとは、「月刊エコノミスト」に1972年6月から連載された人物エッセイである。この時、沢木耕太郎は24歳であった。 だから、書かれている人物は40年も前の「若き実力者たち」ということになる。今回この新装版を買ったのは、沢木耕太郎の「あとがき2」が掲載されていることと、取り上げられた12人の「若き実力者」の中に、映画監督の山田洋次の名があったからである。 「若き実力者たち」 このエッセイが書かれた時点で、「男はつらいよ」シリーズは第9作までが公開されていた。沢木耕太郎の山田洋次に関する視点は、次の2つに要約できる。 第1点は、「男はつらいよ」シリーズで、フーテンの寅さんが帰ってくる葛飾柴又は、日本人の故郷願望を代表しているということである。東京でありながら、都会でも田舎でもない、下町人情あふれた葛飾柴又に、山田監督は日本人が共感できる故郷を創り出した。その原点は、山田洋次自身が2歳で中国大陸に渡り、いろんな都市を転々として暮らし、故郷というものを持ち得なかったことに起因するという。 第2点は、映画作りの中で、平凡な人間が平凡に生きる姿を大切にしているということである。これは、「男はつらいよ」シリーズだけでなく、他の作品にも共通している。普通の人間の日常の中の、喜びや笑い、哀しみや切なさを描いている。毎度お馴染みのストーリー展開であるが、何気ない寅さんの言葉の中に人生の真実が詰まっている。 自分は昨年、東京の葛飾区柴又を観光した。それをきっかけに「男はつらいよ」シリーズを第1作からレンタルDVDで見直し始めた。昨年中に第26作まで見たが、確かに、各作品毎に新しい発見があるのである。 沢木耕太郎は、「男はつらいよ」シリーズについて、作りすぎだと書いている。確かに、1969年8月の第1作公開からわずか3年の間に第9作まで制作されているのだ。 1972年から1985年までの14年間は、夏(盆)と正月の年間2作公開が定着する。そして、第8作以降からは観客動員数が100万人を超えるという超人気シリーズになった。自分が劇場に足を運ぶようになったのは、1970年代の後半ぐらいからだったと思う。 山田洋次は今年9月で81歳になる。今日(1/2)のNHK番組「ガレキに立つ黄色いハンカチ~山田洋次 震災と向き合う~」で、昨年の3.11の被災地である陸前高田市を訪れるシーンが放映された。大震災に向き合う人々の姿を山田洋次がどう受け止めたか。それが、次回作「東京家族」にどう反映されていくか、とても楽しみである。 ※「若き実力者たち」の12人は、「尾崎将司、唐十郎、河野洋平、秋田明大、安達瞳子、畑正憲、中原誠、黒田征太郎、山田洋次、堀江謙一、市川海老蔵、小沢征爾」である。編集者の意向もあったろうが、女性が1人だけというのは、自分としてはちょっと腑に落ちない。しかし、1970年代を代表する人物列伝として、この本は興味深い。 「深夜特急」の前に、すでにこのようなしっかりしたヒューマンドキュメント(沢木自身は「人物紀行」と呼んでいる)を書いていた沢木耕太郎の才能と力量に感心した。 <参考>■「男はつらいよ」公式ホームページ(松竹) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2012/01/04 11:36:35 PM
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