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「恋するソマリア」 紅海入口のアデン湾付近で、船舶を乗っ取り身代金を要求する海賊行為が1990年代に入って頻発した。海賊にはソマリア沿岸の漁民が多くいたことから「ソマリア海賊」と呼ばれた。 ソマリアでは、1991年に内戦が勃発し無政府状態となり、漁業で暮らせなくなった漁民が海賊行為に走ったという。しかしその実態は、小型高速艇に機関銃・ロケットランチャー・GPSなどを装備した海上ゲリラ的な犯行で、海賊の主体は貧しい漁民ではなく武装集団だという。 海賊の被害は、2008年には580人が人質になるなど大きな国際問題となった。そのため、2008年に海賊を取り締まる決議が国連安全保障理事会で採択された。その後、日本の海上自衛隊をはじめ各国軍艦による警備活動が始まり、海賊行為は2010年ごろから減少しはじめている。 「ソマリア」 「恋するソマリア」(高野秀行:集英社~2015年1月30日)は、現在も混乱が続くソマリアを訪ねたルポルタージュである。高野秀行は、これまでは、ふだん誰もが行かないような秘境を訪ねたエピソードを、独特の軽いノリで本にする「秘境探検家」というイメージだった。 しかし、彼は2013年、「謎の独立国家ソマリランド そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア」(本の雑誌社~2013年)という本で講談社ノンフィクション賞を受賞した。そして、今回の「恋するソマリア」での彼の肩書きは「ノンフィックション作家」となっている。 「恋するソマリア」 たしかに、ソマリアは日本人にとって情報が限りなくゼロに近い「秘境」である。外務省のホームページを見ると、在留邦人は1名、在日ソマリア人は5名となっている。日本政府の大使館も1990年に閉鎖され、現在はナイロビにあるケニア大使館が兼轄している。 そんなソマリアに、高野秀行は個人的なコネクションを手がかりに何回かの滞在を果たしている。そして、日本人にとってはまったくの未知の領域だったソマリアの現状をルポしてきた。その最新作が本書「恋するソマリア」である。 本書には著者の友人であるソマリ人ジャーナリストが数多く登場する。「ソマリランド」のケーブルテレビ局の局長ワイヤップ、記者のシャリフ。また、「南部ソマリア」のモガディシユ支局の女性支局長ハムディ、同じく技術担当のザグリア。いずれ劣らぬ個性の持ち主である。 長い遊牧の歴史をもつソマリ人は、各人が属する氏族の名誉を大切にする。そして有力な部族長の意見は政府をも左右する。極論すれば国家という価値を認めているのかさえも怪しい。そんな孤高の民族ソマリ人に「恋した」著者の、苦難と危険に満ちたルポはとても興味深い。 ちなみに、ちょうどこの本が出たころ、「ISIS」による日本人人質殺害という事件が起こった。危険と隣り合わせの状況で、著者は常に護衛の兵士を雇って行動している。そのことについて、著者は次のように書いている。 「こちらの生活のほうが正しいのではないか…。 実際に彼はアル・シャバーブの勢力が残る「南部ソマリア」で死の危険に遭遇している。州知事と国会議員の地方視察に、複数のメディアの記者たちと同行取材した時だった。機関銃やロケット弾で武装した装甲車と30人ほどの兵士が護衛していたのに攻撃を受けているのだ。 このように長い混乱が続いたソマリアで、2012年11月に何と21年ぶりとなる統一政府の内閣が樹立された。「ISIS」の影響を受けたアル・シャハーブのテロなどまだまだ不安要素は多いが、海賊活動は激減した。 政治の安定に向けて前進している新生「ソマリア連邦共和国」の今後に期待したい。 ↓ランキングに参加しています。よかったらクリックをお願いします。 にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2015/03/22 12:01:03 AM
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