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カテゴリ:最近読んだ本
「あなたに褒められたくて」 高倉健(本名小田剛一)は、2014年11月10日、悪性リンパ腫で亡くなりました。享年83歳。大卒後商社マンを志しますが就職できず、1955年に東映のニューフェイスとしてスカウトされます。 東映の看板スターになったのは、1965年からの「網走番外地シリーズ」のヒットからです。高倉健演じる主人公が、無法な仕打ちに耐えながらも、最後はドスをぶち込んで殴り込みに行き不条理を晴らすという筋書きは、70年安保世代のヒーロー像そのものでした。 高倉健がヤクザ映画から脱却するきっかけとなった作品は1975年の「新幹線大爆破」での犯人役でした。そして、翌1976年(45歳のとき)に東映を退社します。 それからは、大映の『君よ憤怒の河を渉れ(1976年)』、東宝の『八甲田山(1977年)』、松竹の『幸せの黄色いハンカチ(1977年)』と、次々に話題作に出演しました。これらの作品によって、人の生き様を演じる難しさや達成感を感じ、俳優としての新境地を開いていきました。 「あなたに褒められたくて」 この本が書かれた1991年(60歳のとき)、高倉健は円熟期でした。月に1本以上のペースで出演していた東映時代と違って、一本一本の映画への思いがとっても重い時期だったようです。 『八甲田山』の撮影のとき、高倉健演じる弘前第31連隊の徳島大尉を、北大路欣也演じる神田大尉が訪ねてくるシーンで、高倉健は机上にちょっと変わったコンパスを見つけます。 聞いたらやっぱり、小道具さんがその当時の本物を探し出してきて、置いたのだそうだ。 高倉健のスタッフへの思いはとても熱く、周囲への心配りについての話題は多い。自分が出番がないときでもずっと立っていて、誰が勧めても決して座らなかった。縁の下の人たちの苦労をちゃんとわかっていて、ひとり一人にきちんとあいさつをする人だったそうです。 その、スタッフたちのほおがげそっと削げていくころ、撮影が終わる。 高倉は、ある人からのお土産「ウサギのお守り」を大事にしていたそうです。空港の売店で買ってきたというが、自分だけに買ってきたものか、何本も買ってそのひとつをくれたのかわからないと書いています。でも、彼はこのウサギのお守りをとても大事にしていました。 ところが、そのお守りを1990年、中国の映画祭に行った時に紛失する。そのウサギの女性となんとかまたなりたいなどと思っていたわけではないがと書いているが、とても落胆しています。 誰かが持っていったのか。 そういうことなんですね。 「愛するということは、 私生活では、江利チエミとの12年間の結婚生活が離婚という結果に終わり、その後独身を通します。だからこそ、誰かと心通わせたいという思いは強かったのでしょう。この本のタイトルの「あなたに褒められたくて」の「あなた」とは誰のことか。それは最終章に書かれています。 お母さん。僕はあなたに褒められたくて、ただそれだけで、あなたがいやがっていた背中に あなたに変わって、褒めてくれる人を誰か見つけなきゃね。(P205=最終ページ) この最後の章には教師だった母の思い出が書かれています。高倉は、母が亡くなったとき「あ・うん(1989年東宝)」の撮影のために葬儀に参列しなかったのです。 この本は「あなたに変わって、褒めてくれる人を誰か見つけなきゃね」という一文で終わっています。亡き母への追悼の言葉ではありますが、この一文から高倉の死後知られるようになった33歳年下の「養女」の存在が浮かび上がってきます。高倉が2013年に養女にした「小田貴」は、このころには、すでに高倉にとってとても大切な存在だったのではないかと想像されるのです。 私生活がベールに囲まれていた映画俳優高倉健。最期は小田剛一という一人の人物に戻ってあちらに逝ってしまいました。それは彼自身が一番望んでいたことだったでしょう。合掌。 ↓ランキングに参加しています。よかったらクリックをお願いします お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2015/07/30 03:32:25 PM
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