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中国大陸深く潜入した密偵の旅
2月23日の本ブログで沢井耕太郎のエッセイ集「旅のつばくろ」について書いた。そのときに、NHKの「クローズアップ現代」に出演したことにも触れている。多くの人にとって沢木耕太郎は「深夜特急」の旅のイメージが強いだろう。 若い時の彼の作品は、「深夜特急」の旅の中での彼自身とおなじく、「右か左か」、「進むか退くか」といった切羽詰まった場面の描写が多かったように思う。それは内容や筋書きだけでなく文体にも表れていた。 しかし、「クローズアップ現代」で桑子真帆アナウンサーの問いに柔らかい表情で応じている沢木を見て、すっかり角が取れた印象を受けた。そこには何もかも許容する雰囲気もあった。しかし、そんな中にも、世評や多数の考えに流されず、自分なりに厳密に峻別する切れ味もまだ合わせ持っているように見えた。 その点で、やはり沢木耕太郎のこれからにまだまだ期待したい。老境という言葉は彼には似合わない。いつまでも若々しい感性で、人の生き様を切り取ってほしい。そうであることが彼の本領であり、自分が期待する沢木耕太郎なのだ。 その沢木遼太郎の最新長編ドキュメントが出ていた。自分は知らないままであったが、昨年(2022年10月)に、「天路の旅人」(新潮社)が発刊されていた。これは沢木の7年ぶりの長編ドキュメンタリーという。 「天路の旅人」 (第二次世界大戦中に中国奥地に密偵として潜入した西川一三を描く) 西川一三(かずみ)(1918~2008)はラマ教の僧に扮し、モンゴル、青海省、チベット、インドを旅している。その旅は8年にも及んでいる。帰国していた西川を沢木が取材したのは25年前のことだったという。西川は生前に自分の旅の記録を本にしていた『秘境西域八年の潜行』として著した(中公文庫全3巻など)。沢木は西川にインタビューすることで著作の内容を整理し補足する作業を続けていた。 しかし、四半世紀たって沢木が「天路の旅人」の出版に動いたのは、西川の手書きの原稿を発見したからだ。その原稿は段ボール箱2箱に及んでいた。この原稿とインタビューの記録を元にして、565ページという大長編が誕生したのだ。 実は西川は帰国後は実に平凡な小さな店の主人として暮らした。密偵として8年の旅は命がけの苦しい旅だったろう、それに比べて帰国後の西川はごく普通の市井人として生きていたのだ。このギャップも興味深い。 この素材を沢木耕太郎がどう料理しているのか。今読み始めたばかりでだがページをめくるのがもったいないぐらいの自分なのだ。 ↓ランキングに参加しています。良かったらクリックをお願いします。 写真日記ランキング お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2023/03/14 03:40:59 PM
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