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新英語教育研究会神奈川支部HP

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2009 金谷 憲さん「英語定着への工夫」

■5月春の1日研修会報告
2009年5月17日 大倉山記念館にて 参加者34名

●講演:「英語定着への工夫」金谷 憲さん(東京学芸大学教授)
 
(1)外国語習得の仕組み
・ inputがあり、学習者のなかにintakeされたものが何かになってそこからoutputが生じるという図が示された。
・ Don’t be afraid of making mistakes.「間違いを恐れるな」とはいうものの、頭の中が空っぽならミステイクもできない。頭をかち割ってもわからない。ブラックボックスになっている。Intakeは、生徒が「おー、そうかい」と頭の中に入れる「受領書」で、Inputは「納品書」で、先生が教えたこと。Intakeは「2割3割は当たり前」。「今日の授業は何やった?」と先生が訊いても「暑かった」と生徒が答えるということになりかねない。
・ 金谷:何からoutputがなされると思いますか?
・ Kさん:誰かに伝えたいという気持ち。
・ 金谷:気持ちで英語が話せるなら苦労はない…。
・ Nさん:文法。
・ 金谷:文法です。先生方は「意志を持った」というのが好きですが「無意識」かもしれません。右脳を壊した人でバイリンガルの人が片方は大丈夫だった。
(2)intakeを増やすには「繰り返し練習」「実際に使ってみること」
・ 14カ国語ができる服部四郎さん(奥さんが中央アジア出身)が「5回単語を繰り返すと忘れない」と言っている。教員で「Repetitionばかりやっている。コミュニカティブじゃない」と指導主事に言われるのをおそれている人がいる。10年後、15年後を見据えている人がいたら拝みますが…、「実際に英語を使う」というのがないといけない。
・ スピーキング活動の例:NHKラジオ基礎英語のスキットで中2レベル。舞とブライアンの対話。ビデオ教材。
Headphone Stereo
Mai: Hey, Brian. Brian, Brian!]
Brian: What? Oh, hi, Mai. How are you?
Mai: Can you hear me?
Brian: What?
Mai Come on, Brian. Turn off that music.
Brian: Why are you so angry, Mai?
Mai: It’s too loud. It’s music to you. But it’s just noise to me.
・ ペアワークのやり方:いわゆるRead and look up(金谷先生はRead and sayという言い方が好き)の活動での一工夫。プリント(教科書)を見てもよいが「(発話するときには)背中にプリント(教科書)を当てておく」というルールにする。この方法は中学・高校・大学・社会人でやっても好評。動きがあり、相手がいるから面白い。紙がこすれる音(paper noise)があるため、声が出しやすい。BGMのない喫茶店を考えてみてください! 静寂の中はかえって話しづらいものです(教室にBGMを流してもよい)。教室で行う際には「黒板に対して平行にペアを立たせる」(2人が同時にプリントを出していたら不正行為なので取り締まれる)。
・ アフレコ:「ビデオに合わせて言ってください。字余りにならないようにピシャッとおさめてください。早ければいいものでもない」のように生徒には声をかける。このような活動は「画面を見てください」と注意するようではダメで、注意しなくても画面を見ざるを得ない状況にする。中学生には30回ぐらいさせる。しかし毎日アフレコすると暴動が起きます(笑)。活動のレパートリーをひろげて、取っ替え引っ替えやります。
・ リスニング活動の例:先生が口頭で英語でYes/Noで答えられる10の質問をアンケートする。プリントにはListen and circle Yes or No.の指示文。10項目の「YES / NO」に○をつけ、最後にyesの数を記入。終わったら「これは何のアンケートか?」を当てさせる。「親父度」「「ヘビ度(Do you like eggs? Do you like frogs?のような、ヘビらしさ(!)が感じられる質問)」など、「●●度チェック」になっているシリーズで、ある中学の先生が考えたもの(その先生は生徒にアンケートを採り、その上位10項目で作った。自分でも作れる)。最後に英文とチェックの結果が載っているプリント配布してQuestionを確認させる。こういうものなら、リスニングもQuestionを読むのも真剣にやる。ウォームアップでやる高校の先生がいる。
・ 「親父度チェック」(会報担当・和田が和訳を加筆。英文に加筆・訂正[合っているかな?])
1) Have you ever drunk “Ripobitan D” before? (リポビタンDを飲んだことがある?)
2) Do you read the newspaper in the bathroom? (トイレで新聞を読む?)
3) At a restaurant, do you wipe your face with a wet hand towel (oshibori)? (レストランではおしぼりで顔を拭く?)
4) When you take a bath, do you say “Ooh…” in the bathtub? (お風呂に入って「う~」と言う?)
5) Do you go to a bookstore in sandals? (サンダルで本屋に行く?)
6) Do you wear a tummy warmer (Haramaki) when you sleep? (寝るときに腹巻きを巻く?)
7) Are you interested in Japanese chess “Shogi” or a board game “Go”? (将棋や碁に興味がある?)
8) You tell jokes, but your friends don’t laugh. Do you have this often? (あなたがジョークを言って、友だちが笑わない。これってよくある?)
9) Is Saburo Kitajima your idol ? (北島三郎はあなたのアイドル?)
10) Do you think black socks match blue jeans? (黒い靴はジーパンに合うと思う?)
・ 「さ~て、あなたのオヤジ度は?」 Yesの数が9~10「パーフェクトなオヤジです」、Yesの数が7~8「もう少し! 立派なオヤジになれる素質十分」、Yesの数が4~6「あきらめるな、立派なオヤジになれる可能性はある」、Yesの数が0~3「オヤジへの道はあきらめなさい」。

参考1 「サンダルで」はin sandals:Some are in deck shoes, some are in sandals, me in my flip-flops.  (Longman Exams Dictionary)
参考2 「腹巻き」はbelly warmerだと「男性にとって一夜を暖めてくれる女性」の意味もあるようなので、幼児語のtummyを使ったtummy warmerにした。
参考3 ooh /u:/ = said when you think something is very beautiful, unpleasant, surprising etc


(3)新学習指導要領
・ 金谷先生は中学の学習指導要領責任者。日臺[ひだい]滋之さん(東京学芸大附属世田谷中学校で今年から玉川大学文学部比較文化学科准教授)の2009.3.25の英語科現職研修セミナーでの「言語材料の定着を図る授業を追求して 『繰り返し』の効果」という発表で学習指導要領で「繰り返し」の文言が出てくるのが平成10年度では5回だったのが、20年度では14回あると比較して提示したものを紹介。新学習指導要領は中学では繰り返しでの定着を目指し、高校では理解に止まらず英語を使わせることを目指しているという解説があった。
★「日本語KWICソフトウェアKWIC」(www.tanomura.com/research/kwic/):『コーパス日本語学ガイドブック』(www.tokuteicorpus.jp/index.php)のために作成された「ファイルから語句を検索してソートした形で出力」できるソフト。これを用いれば学習指導要領に「繰り返し」という語が何回出てくるかパッとでわかる。

(4)intakeのための活動
・ reading aloud, look up and say, look up and write, shadowing, Q&A in English, discussion, speech, etc..
(5)英語定着のための工夫(特に高校が対象)
 まずは(a) の教材の選定が大切! 生徒実態に合った教材の選定が前提にあって、あとの(b)~(d)がある。「うちの生徒は和訳を読んでも内容がわからない」ということもある。
・ (a) selection of the right kind of materials(適切な教材の選定):「高校教育の最大の問題は『同僚』だ!」=高校教科書のレベルを下げられず、生徒の実態よりも難しい教材を選びがち。「伝統だ」と言われてしまう…。
(b) TIF (translation in first 和訳先渡し方式):(MIF=Milk in first(紅茶に先にミルクを入れる)のもじり)。高校の全英連で和訳先渡し方式を紹介すると、「あとは自習か!」と怒る教員や「時間が余って困った」という教員(時間を捻出して他の英語活動に費やすためにやっているんですが…)や、「和訳を渡した後に和訳の授業をした」という教員がいた。
(c) easy version (平易な版で始める):易しい版だと「読解する楽しみがない」という批判がある。しかし、定着を目指す教材があって良いと思う。定着と解説は両立しない(=読解ではなく「解説」の授業になっている)。

(5)質疑応答
・ Q:intakeすれば自動化できるか?
A:そう思わない。考える力をつけるのは大切だ。しかし「英語の授業で考える」というと英語がなくなることがある。「考える」のは母語でやってもらう。
・ Q:文学はどうか?
A:味わうレベルにないのに味わうことはできない。心に残るものを読もうというが、先生のレベルだけ。先生の趣味です。できるならどうぞ、という感じ。
・ Q:中国やロシアの教科書は厚い。日本の教科書も厚くていいのでは?
A:教科書の厚さを倍にするかどうかはintakeできれば、どちらでもよい。
・ Q:Appendix(付録)を充実させるのはどうか?
A:大賛成です。
・ Q:オーラル・イントロダクションについてはどうか?
A:オーラル・イントロダクションは教材が手に入らなかったころの手法だ。辞書も教材も先生しか持っていなかった時代のもの。予習した生徒にとっては退屈だ。オーラル・リテリングがいいと思う。日本語で先に内容を入れるのを私はやる。「私が教材の問屋なのよ、独占企業なのよ、というのは古い! 産地直送でよい。どう加工するか、どう使うかが大切」
・ Q:授業の導入は?
A:つかみは大切、吉本興業じゃないが…。オヤジ度チェックを発展に使うとよい。「頭でっかちの授業から流線型の授業に変えましょう」 そうしないと「あっ、時間がない。じゃ、宿題ね」となってしまう。
(6)金谷先生の著書
『英語教育熱』研究社
『英語授業改善のための処方箋』大修館書店

●参加者の感想
□ 自分の大学の先生の話ばかり聞いてきたので金谷さんのお話を聞けて新しい知識が身についた。いろいろな先生の話を聞いて教師になれるようがんばりたい。
□ 聞いていてすごく納得できる話がとても多くて興味深かった
□ お話がとてもわかりやすい。「納得」といったお話がきけ、参加できてよかった。
□ 生徒にいかに英語を残すかという姿勢に基づいた授業の工夫について理解することができた。午前中のoral introductionに基づいた授業をみていたので、英語教育として英語をどのように考えるかということについて考えさせられました。生徒が理解する範囲を考えるという当たり前のことの大切さに気づきました。
□ スパッと結論を言ってくださった金谷先生の話をうかがって今日はすっきり帰れます。いつも「どうしたらいいんだろうね。こういう風にするのがいいらしいけど…」と教員間で話して終わっていたのでスッキリしました。oral introductionの時間はreadingの時間にします。アフレコやread and writeなどとても楽しかったです。早速やります。
□ 高校生のintakeの力があるからこそ、outputがしやすい、inputがしやすいという点で、工夫して高校生へメッセージが届けられると感じました。来週の授業への活力となりました。ありがとうございました。
□ ユーモアを交えた楽しいお話でした。英語教育のツボをおさえた内容で興味深く聞かせていただきました。
□ 「主体は生徒である」というお話、本当に賛同いたします。でもそれがなかなかできないのですが…一歩ずつでも前進して行けるとよいなぁと思います。


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