青いだけの星
「そうか、こっちから見るぶんには、いつもの美しい青い姿しか見えねぇけどな」 紛争再開のニュースを伝えると、わずかに遅れて、沈んだ彼の声が戻ってきた。彼は月面ステーションに赴任して5年。彼の目に映る青い星では、各地で小競り合いが始まっている。 「しばらく、もうしばらく月にいたほうが、のんびりでくるかもなぁ」 「あぁ、ひとりもんだからなぁ。その点きらくなもんだがよ。こうして見ているしかないのかと思うと、ちょっとうしろめたいって言うか、歯がゆいって言うかさ」 「おいおい、オヤジがひとり戻ってきてどうなるもんじゃねぇぜ。どいつつもこいつも国のトップときたら……。俺はもうしばらくこっちに残る。1週間もしたらそっちへ行くよ。それから木星へ」 「わかった。奥さんにも連絡いれとけよ」 「メールを送ったが届くのは4日後。会うのもっと先さ。宇宙港が封鎖されちまう前にゃ出発してるよ」 「いよいよ、そこまでやばいのか」 「ああ、残ってやきもきするか、眺めてやきもきするかの違いさ」 通信を切って、すっかり整理された室内を見回す。ほとんどの荷物は処分するか、木星のステーションに送った。私もこの星での残務整理をすましたら、自ら望んで月経由で木星を目指す。妻とはむこうで落ち合う予定だ。 青い星は、もう眺めるに限るだけの星になってしまった……。