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魔の人と 誰が冠 被せたか
私がガロンくんと出会ったのは、ゴジラでいう「ゴジラ」ではなく「モスラ対ゴジラ」のように、「アトム対ガロン」でありました。ゆえにアトムはイイモン、ガロンはワルモン、そんに印象でした。 でも、アトムのお話に登場する前に、ちゃんと「魔人ガロン」というお話があるのを知って、そして読んで、いろいろ考えたら、アトムを前にしてやむなくワルモンという立場だけど、アトム自身、彼をけっしてワルモンにできない、そうしちゃったのは人間様なんだ、そういうことが分かってきました。 ところで、ガロンって本当はメチャかわいいんですよね。人間よりも3~4倍は図体がでかいようですが、旅館では浴衣を纏うし、人の話そっちのけでぽ~っと野の花を愛でていたり。子どもが無邪気に遊ぶ純真な心の持ち主。 心といえば、ガロンの心臓にはピックという少年。彼はガロンの心、いわゆる良心なんですね。ガロンにとってピックは、あたかもも兄貴分の同級生とか先輩とか兄とかいう存在じゃないかなあ。ピックのいうとおりに行動するし。 じゃあ、ピックはずっと良心の塊なのか。そんなことはないんですね。いろいろな人間と出会う中で、あるときは人から愛されながらも、あるときは人から騙され利用されて。 ピックも子ども。双子としていっしょに育てられながら、兄としての存在のケンイチくんよりも育ちが遅い、まだまだ分別があいまいな子ども。ケンイチくんをお兄ちゃんと呼びます。ピックはガロンにとって良心でありながら、その両親を育てるべく親や周囲の取り巻き連中、社会環境の影響が大きいのです。良心であるピックをいかに育てられるか、なんですね。 そうしたガロンとピックの関係は、単に「敵に渡すな、大事なリモコン」である鉄人28号に代表されるような、コントロールする者の操縦どおりにしか動かないロボットとは、明らかに一線を画しています。ピックとガロンは二人だけのコミュニケーションをとります。ガロンは大きな身体で力も凄いけど、彼が信頼できる相手はピックだけ。そして、ピックが唯一人間で信頼できる相手はケンイチくん、という図式。 ところで、もともと宇宙規模の発想でのガロンとピックの位置づけがあります。地球がイイモンの星なのか、ワルモンの星なのか、それを判断するために、ガロントピックを地球に送り込まれました。「W3(ワンダースリー)」に似てますね。はたして地球人はいいことに使うのか悪いことに使うのかを見定めるためです。そんなガロンとピックに対し、地球の大の大人たちは、騒ぎを起こす輩をあたかも排除するように分解しようとしますね。そうすれば騒ぎが治まると判断するんですね。 なんか、だんだん見えてきましたよ。そう、臭いものには蓋をする論理じゃないでしょうか。本当に根絶しなければならないものは他にあるのに、とりあえず騒ぎを巻き起こす存在だから抹消しようとする、いいんでしょうか。ちょっとノウミソが足りないけど身体がでかくて力持ちの子と、彼の良心となろうとしてあたかも無二の親友のように行動を共にする心優しい子、でも、二人の周りにいつも騒動や事件が起きるために、問題児として世間から追いやろうとする大人たち。 あらら、今の教育問題に少年犯罪問題、こんな随分以前の手塚治虫作品が問題提起し応えているではありませんか。魔人ガロンは私たち人間を試すために送られた使者。この作品をみんなで読んで、表面的なピックやガロンに該当する少年たちを問題視するよりも、もっと根本にある、大人たちの社会に対する捉え方を顧みることが大切でしょうね。そうしないと、試される人間の方が、ピックやガロンよりも試験不合格で地球から脱落すべき存在になっちゃいますよ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007年05月10日 11時41分49秒
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