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俺君が歩く。 中学校まで徒歩で行ける距離なので、 案内するよ、とのことだった。 そんなわけで、 そろおっと、まゆか、横を歩く。 ネコである。 ニコニコしているので、 障害飛越競技の時間は終わったのかな、と思う。 多分、何か楽しいことを妄想しているのだろう。 ―――まゆかちゃんは、実は美人である。 八方美人タイプで愛嬌がいいのと、 妄想体質で性格が面白いのと、 過去による屈折体質も合わ さ っ て 、 エキセントリック系の美女である。 、、、、、、、、、、、、、、、、 まゆかちゃんは基本的に裏表がなく、 正直態度だけで隠し事さえわかるレベルの子だと思う。 驕慢の女性というのとは対極の存在で縁遠い。 地味で目立たない系の性格をしているのに美女というのは、 男性における高嶺の花みたいなものだろう。 (あ る い は 、 草 原 に お け る 斜 め に 傾 い た 風 ・・) ちょっと変でなければ、だが。 さらさらの黒髪で、色白で、 モデル体型とはいかないけれど、 胸も申し分がなく、男性的には好感が持てるだろう。 ぱっちりした二重瞼で、 鼻がすうっと通っている。 喋らなければ、ラブレターを送りたくもなるだろう。 「センパイって、道路を歩く時は女性を守るように歩くんですね。」 「妹がいるからだよ、きっと。」 、、、、、、、、、、、 俺君はわりと秘密主義だ・・。 まゆかは、ぽわわーんとしながら思った。 交差点の横断歩道前で立ち止まっている俺君は絵になる。 コンピューターのソフトを売っている店と中華料理店の組み合わせ。 やわらかい陽の光が手足を照らし金色のベールのようにうっすらと暖かい秋。 それ は―――。 ファッション雑誌の上の珈琲とチョコレートみたいな取り合わせだ。 身長は百八十センチぐらいあるし、何しろセクシーである。 でも俺君はナイーブである。ガツガツ系でも、軽い系でもない。 (二枚目といってもピンからキリがあるし、洋風か和風か、 あっさり系か濃い系かなど、基準を探せばいくらでもある。) でも、とりあえず、雰囲気がセクシーなのだ。 頭が良さそうで、物腰が柔らかく、だけど簡単に人を立ち寄ら せ な い 。 この三点が揃っているだけでも、素敵だと思う。 信号が青になると車はスタートする。 車が方眼紙のマスを動くサイコロのように通り過ぎてゆくのを眺めながら、 たとえば、ふと立ち止まって運命的な出会いをしていたら、と思う。 三ブロックほどさきを停止信号を無視して突っ走るオートバイ! ―――鳥瞰図! 海の前でダブルソフトクリーム・・! なので、手を繋いでみる。おそるおそる手を近づけ、掴む。 人が触れてしまう、絶望と希望に染められた、 ―――大いなる、手。 きゅっ、と掴む。大きい手だ、性感帯だったら、 ―――もっと触る、手だ。 いろんな出来事や感情や展望や疑問や絶望がないまぜになって、 胸がグラスの澄んだ響きをもとめて爆発しそうになっている。 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 襟足がきれいな男性はレモンのような切り口で女性を甘酸っぱくする。 、、、 、、、、、、、 、、、、、、 そうだ、まゆかちゃんは、手がきれいだ。 「・・・まゆかちゃん?」 「ヒトデスキンシップ! アイラブヒトデ!」 何言ってるんだ、この子・・! 眉間にコインが直撃したような、面食らった顔・・! しかし俺君は、それが、絶対に嘘だなと思っていたけれど・・。 そうだね、ヒトデスキンシップは大切だと言う。 時々、そういう自分の気持ちがわからないことがある。 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 マンションのエレベーターに乗り込むように思える・・。 「まゆかちゃんは、ずっといまのままでいてほしいな。」 ブヨブヨした水晶体に指を突っ込んで脳をまさぐるような、破壊力・・。 「一言でいえば、それは無理デス。」 タイミングがいいので、つい笑ってしまう。 「アクティブクルーズコントロールシステム! イエー!」 どうも、手を繋ぎたかったのはないという伏線のために、 (鈍い衝撃が車底から伝わるみたいに、あのね、こすったよ、と言いたい、) 馬鹿なことを言っているらしかった。 明瞭にさせようとしてかえって不明瞭にしているパターンだが、 まゆかちゃんは、手をつなぐことに意味があるだなんて思っているのだ。 横断歩道を渡る。 高速道路の入り口の看板が遠くの方に見えている。 人間の占いはわからないって言う、だけど、全体の占いならある程度予測がつく、 (たとえば陸上のトラックの上でピストルを待つみたいな、) 都市の変貌を経験しているリアルタイムな時間・・。 (交通規制に反した者が処罰されなければ、交差点の信号など無意味・・。) (でも車は違反するためにある、人だってわざわざ撥ねられに危ない場所を歩く・・) ―――そう言ってしまったら、 それで、そうだと認めてしまったら、不景気だから、社会は暗い、 それで成立してしまう、それで・・。 それで―――でも・・そうじゃない、そこから、一歩違う道を歩く可能性があるから、 常に交錯する、繰り返す、始められる、スタートを切れる、 すり替わってゆくような―――最初か ら そ う だ っ た よ う な ・・。 そうだね、と、俺君はフライパンで作る目玉焼きの様に認めた。 どうして彼女の傍にいる、何故、何の為に―――打算なんてない・・。 彼女は、人を幸せにする名人だと思うからだ・・。 「―――なんだか今日はまゆかちゃんと沢山話したい気分だね。」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2017年12月01日 02時27分02秒
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