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灯台

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2020年08月31日
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暗い廊下だった―――。
月光が豁然と射しこむ―――。
頭がおかしくなったように考える、そうだ―――。
注射を打つ場所は、顔に決まっている・・・・・・。
レンズの底のように。
黄色い魚が泳ぐ、夜の黒い海・・・・・。

廊下は―――“ゆっくり”と・・・息をし出した・・・。
静かに追憶に燃える―――その繊やかな光・・。
イメージはタツノオトシゴや、水母・・泥―――緩慢・・・・。
膝まで水に浸かった闇―――。
前へ―――前へと急ぐ・・・跫音がしたのだ。
それは、低く、動かない、一個の小さな遊星を証明する。

あの―――殺人事件・・・。
まだ、犯人が見つかっていない―――。
香水壜の蓋が開く―――オルゴールが鳴る。
学校舎に潜伏しているかも、という噂・・・・・・。
白が黒の上をわたるとき―――。
この学校でおこなわれた―――月の戦慄・・・。
ヒヤシンスの青い洪水・・。
アネモネの海原・・・・・。
被害者は―――遺体は、まだ青い莟・・・・・・。

唇を引き締めたものの口角を歪ませ―――。
挙動不審なあたりをさぐる、その眼・・・・・。
ぐるぐる、と渦を巻く・・。
静寂が三半規管をくるわせ、右へ左へうねらせる・・。
むしばまれ、うなされ、こわばっている、こわれたバネ。
恐い夢―――。
たとえば夢遊状態の健忘症・・・。
脳裏に展開されているプランが抱えている諸々の欠陥。
怖い夢の続きのようなその夜の暗い廊下。

瞳は―――沙漠の夢・・・。
かぎりない沙漠が生の身振りを押し戻す―――。
足が―――萎えているのが見える。
それを暗闇は冷笑する―――嘲笑する・・・。
さながら―――翩翻と漂っている小舟・・。
手が震えている。
かのあやしく鼓動する心臓の在り処。
舞台の幕が降りようという瀬戸際。
それを感情の粥さながらの―――鳥肌にするもの。
立ち止まった瞬間に―――“するり”と・・・。
その進路は怖気―――拘束する・・内側からの使者―――。
しっかりした二脚のコンパスと同じ。

固定され、中心に据えられても、ほんの弾みで簡単に狂う。

打ちつける、釘。
声をかけてみる。
もう一度、声をかけてみる。
もちろん、反応はない。
死んだ人間の名前を連呼している自分―――。
木を鋸で挽くような音―――。
ひややかな、生命なき、美しき夜の燐光が―――。
魁偉な影をつくりだす。
汗をにじみださせる―――。
袋小路―――。

階段の方で―――“ぎいっ”と・・・。
廊下の先で―――聞こえる。
背筋に不安が走り、プラタナスが張り詰める・・・。
死せる亡霊―――それとも、生きた亡者・・・。
聖者を堕落させて悪魔にするなら。

誰かが言った。
天使を堕落させて悪魔にするなら。
誰かが言った。
神を堕落させて悪夢にするなら。
誰かが言った。
ねじは廻転する・・・。
断崖を覗くよう―――に。
ひからびた穴倉―――。
まるで淋しい駅に下りたような、衝動・・・。


首筋の白い―――黒の喪服・・・教師―――。
まだ残っていたの、帰りなさい・・・。
公式的な決まり文句。
万物ことごとく、悪魔のたずさえる暗い鏡。
そこで素直に従うことが。
言い換えればルールに従順であることが。
社会に適応するということ―――。
一緒に帰る、帰ろうとする・・・・・・。
いたたまれなくなっていた、いっそ駄目になりたいとも思った。
もっとずっと以前から。
何か不吉な重い流れのようなものが自分を―――。

ファンタジーの絵が得意な女性が。
自分の現実について描いてみたとき。
―――部屋の隅で膝を抱えている暗い絵を描いた、
受け入れがたい自分の現実。
違和感、うまく呑み込めない落差・・。
夜の街が自分を―――自分を殺そうとしている・・。
幽霊がいる、悪魔がいる、と彼女は言った。

自分はそれに肯きながら。
彼女にとって優しい世界に向けて話をした。
心を壊さないよう―――に。
けしてけして―――傷つけないように・・・。
でも―――人間じゃないという気持ちは残った・・・。

月見草が、打ち捨てられている。
勿忘草が、記憶を失って―――いる・・・。

輪廻の旅を続けている―――。
灰色の日が―――無限回廊に接続される・・・。
三色菫が、抜き取られる。
虚偽の化粧、最後の審判の前の驟雨。

教師の顔が―――ひんまがった狐の顔に見えてくる・・。
その、螺旋、渦巻き、法螺貝・・・。
釣り上げられた河豚の顔をしているように見えてくる。
早く昇降口へ、早く校門へ―――。
何食わぬ顔をして、このままやりすごしてしまいたい―――。
あったかい布団にもぐりこみ、何も考えずに眠りたい・・・。
昇降口、到着する・・・・・・。

夜の障子の上に浮かび上がる人の影のように・・・。
右肩に手がある―――手が置かれようとしている・・・・。
すばらしい、くるおしい、その諧調。
過去の謎、吹き溜まりの雪。
甲虫の角だけが―――見えている。
鼠の衣が、鴉の羽根が、この世界の終わりの姿をつくりだす。
教師の顔が、苔のようなフナムシに見えてくる―――。

暗い廊下に、音もなく流れてゆく水―――。
光さえも速度を落とす、砂時計のくびれ。
アマランスが、眠っている。
死んだらどうなるんでしょう?

誰かの声が呼び戻された。
鶏小屋の鶏の羽根がすべてむしりとられたような悲鳴が聞こえた。
廊下は、きらめく水にいる魚がおぼろなエデンの園に、
迷い込んだことを知る―――。
夜、囁きながら耳を澄ませると。
インクの匂いのする活字が盗まれる。
そしてもう一人の自分と巡り合う、
それが―――どんな仮面を持っているかを君は知ることになる。

夜はまだ、地獄の中にある。
と、誰かが言った。
夜こそがまだ、君の戯れ道化だ。
と、誰かが言った。


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最終更新日  2020年08月31日 23時50分38秒



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