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灯台

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2024年03月01日
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314






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言葉のレオナルド・ディカプリオ目指して、
知り合いのチャリンコを盗んで漕ぎだし―――た・・。
片耳に煙草を装着して。
やさしさの底を流れる偏見を嗅ぐ。
源流まで遡ってゆく鮭のような気もしてきた。
けど、ブレーキが壊れていて、
サドルがおあいにく様、やったら高いけど、
いつのまにか始まったトーナメント戦。
無為に過ごしているといつのまにか展望も側面も関係も、
燃え尽きた地図になってしまう―――から・・。
手の熱で―――焔。

泣きながら飯を食ったことはあるかって、聞かれた、
ずいぶん昔に一度、と答えた。
堪えているものばかりで作り出される人生は修行、
それでも作業のための仮説として採用し、共有し、
練り上げてゆく。
立ち止まりたくないから、盗んだ。
でも本当のところはきっと曖昧なんだ、
交差点の信号で、
ナプキンや食器やフォークやスプーンみたいな顔をしている、
雑踏の人たちと僕の何が違うんだろ―――う・・。
窃盗罪は罪だよ、
でも哲学の中ではそれって湯気を立てているのさ。
ニーチェは殺人を肯定した、
頭の皮を引き剝かれたモラルの中のモラルなき人々を見なよ。

改札と噴水も、雨音がする。
夜明けの色の悲しみも歌を忘れた方が賢明な金糸雀。
重力の支配下の中で様々な論理が生まれてゆく、
影像はきっとお化け屋敷をスマホで舐めるような視覚、
それが絶対に正しいかどうかは最後の最後までわからないけど、
この一瞬に僕等が世界の命運を担うことはない、
ドラマティックじゃない僕等が命の秘密に触れることで、
世界の何かを書き換えようと―――しない限りは・・。
いつか大爆発を起こしたみたいな、
明るすぎる夢へとフェードイン―――。

今更になって知り合いに、
何してくれちゃってんだよって言われて後頭部掻く場面思い描く。
頭の悪さをとコアラと競っているような気がしてきた。
窓に石投げてみるのと選んだ結果って真顔で答えようか。
耳をすませばかよって言われるのか。
少女漫画かよ、って言いたいのか。
でも融けそうな目蓋の奥をどんなに覗いたって、
きらきらした場面の一枚絵は現れてきちゃくれない、
待ってるぐらいなら舞ってやる、
向かってやるから馬ってやる。

走り出して一分ほどして、知り合いと道で出くわした、
十字キーのマリオジャンプしてた、
特徴的なママチャリだったからすぐにわかったと思う。
あーこれねって言ったあと全速力でアデユーした、
ドライブスルーの看板にも激突しそうなお手軽な夢―――へと・・。
ひどい奴だった、
考えてみればいい人のふりしてるひどい奴だったかもね、
空気の読めない仮面をかむったって、
タイミングとマッチングがあってそのインパクトの瞬間があるけど、
フォロースルーの瞬間まで面倒見てくれるようなものはない、
最初か最後だけ。
思い出せる類の自分を追い越せよ。
心臓のまわりに薄い氷の膜張ってこれからの人生、
歩き続けられるかどうか、
応答せよ。

夕暮れと日没の街はすぐに、
宇宙空間と同然の場所になってしまうだろう―――から・・。
コントラバスを解剖した、
離島のような印象の通りから―――。

でも忘れないだろう、
それから何十台もの車が行き来した、
光ってる場所を押された自動販売機のように、
坂道でブレーキが壊れていた、
進路希望に何かいたか思い出せないような僕の―――よう・・。
減速はしない人生だった、加速しろ、ぶっ壊れるまで続けろ、
飛距離は十分だった、あと、不足しているのは芸術点、
お墨付きも安堵も何も買えない、
遠い空のはずれで人間フラミンゴが米津して虹のモザイク作ってる、
恐れるものを何も知らない回遊魚が、
他者への志向の方へ、逆の願望の方へ行かせようともしたけど、
何が見えんのさ、
巨人が光の棒を斜めに投げ込んでくるような黄昏時のピーク、
これは心の中の魂との対話ごかした仲直り―――なのかい・・・。

誰もいなかった僕等の疑似軍隊的な風潮、右向け右、
憲法や法律、それが学校時代の機能のひずみってやつさ、
パニックになったらどうする、
社会の構造が壊れてしまったらどうする、
警察が医者が信じられないような人でなしのことをする、
聖職者もいない、嘘つきは舌を抜かれないわけだし、
まーそんなもんってひがんで拗ねてあとはもう未来におまかせ。
レシピとかイロハってえらそうなこと言って、
本当は誰かのためになんて一人も生きられない弱さ抱えて―――。

海底の岩にはりついた貝殻のように一瞬身を固くした、
欅の梢の引っ掛かりそうな位置に満月が浮かんでいた、
世界中が停まっていた、
崩壊の足音が聞こえ始めるのに説明という名の、
性質や状態を伝える言葉はぜんぶがぜんぶ好意的で肯定的で、
何処にも中立性はない、
ピックアップされた暗い海の中を泳ぐとしても、
こんな馬鹿なことが夕暮れ時にともりはじめる街燈のように、
静かなさみしさを添えるとしても、
青白い飛行物体が見えた、
世界は十数秒の内に逆さづりになり、
ひっくり返った間抜けな蛙のような視界に、
朽ちていくだけの公孫樹の並木が美しかった―――こと・・・。
忘れないだろ―――う・・。
僕は逃げ出そうとした、ようやく世界から出ていこうとした、
絡まっているんだ、二進も三進もいきやしないんだ、
でも窓のブラインドの隙間から行こうぜ、
この文明の魔力に頭を掻いた劣等生の眼の中に―――。


  *


313









世界は今日も青かった
The world was blue again today



同僚と会話していた、
よくある昼休みだった。
ってこれじゃあどうみても何かのフラグ(?)

文字の輝きで角膜焼かれたze(?)
キャラ付けから入っていくのがいつものスタイル。

「でさあ(以下略)―――なんだけど、
いつものようにバックで駐車場の中へ入れ、
エンジンを切って車から出ようとした、その時。
ポケットから美味い棒が―――」

藪から孔雀明王そろそろ孔雀王の映画観たいねえ、
で、この、~ねえ、と言っていると、一瞬の間と圧によって、
戸愚呂弟風なニュアンスをまぜてしまいがち。

なるほどね、なるほど、ねえっ(?)
美味い棒ときたか・・・・・・。
スッと手を上げる、というか、差し出す。

「話を折るようで悪いけど、ちょっと待って、
何でポケットに美味い棒があるの?」
「え、お菓子ポケットいれない?」

俺って面白いこと言うんですよ、かと思った(?)
いや、たまにいるんだよ、俺って面白いんだよねえって奴(?)
同僚よ、先程まではそれなりの知り合いだが、今日これ限りで、
ジ・エンド、アイナ・ジ・エンド(?)
お前と一緒にいた、日々草、っていうか、日々が草(?)
どういう意味っていうか、ネットの人って牛飼ってるんでしょ、
草食べてるのを主張したい、インスタグラムと一緒、
俺あの草食べてるんだぜー、そういうこと、草(?)

けれど、ホッとした、ホットケーキミックス粉(?)
進研ゼミとかユーキャンみたいな安心感を得た(?)
口ぶりから察するに、ナチュラルモノホン駄菓子だったらしい。
ふざけて言っているのかと思って、一瞬身体が反応してしまう。
大阪では、刺客がいる。
東京では沈黙恐怖症というのがありがちなように、
大阪ではお笑い恐怖症というのがある。
トークフォームはいつの間にか常態化し、誇大妄想と隣り合わせ、
大きなおにぎりを、爆弾おにぎりと言い換える、
そして食べる前にはボンマーマン、そういうこと、草、放牧中、
いい牛はやっぱりいい草たべて、
のびのび過ごしてるんですよねー(?)
ボケとツッコミ、絶えず繰り返される戦いがある(?)
最終的に手裏剣を受けた風に刀に接着剤でくっつける(?)
意味がわからない、ナンセンス、ノーセンス、
コモンセンスはまた別の話(?)

「いや、入れるっていうか入れてもいいけど、
そこ、携帯とか財布とか」

恋するフォーチュンクッキー入れてましたってどうだろう、
面白いのか。古いわ、ボケエってその笑いが既に古い。
女々しくてパスポートケースに昔の女の写真入れてましたってどうだろう、
音楽繋がりだけど、繋がらないのは駄菓子。てか、美味い棒。
イチローなら、バットの代わりにするんですよねって言う。
卑猥な響きも彼なら可能。
装着することも可能だろう(?)
もしかしたら、肌トラブルや、白髪予防にも使えるかも知れない(?)
ごめんなさい、それは嘘、けれど、そう言ってもカッコいい。何か違う。
アンチは何言ってんだこいつと思う。
だけど、アンチなんかルサンチマン種族なわけだから、
その実、アンチという言葉ぐらい恥ずかしい存在はいない。
劣等感にまみれてるんですよ、構ってちゃんなんですよってこと(?)
クレーマーなんすよってこと、
あとそれから、会社のチラシに載ってた写真の人、
全員いないけど、和気あいあいとした会社ですよってこと(?)

妄想は続く。
ポケットの中にイグアナがいたらどうなんだろう、
小さな蛇が住んでいて股間をたまに噛んだりする、
理性と野性が仲良くシェアハウスしてるんっすよね、
そういうそういう、性感帯を直撃するインパクト(?)
―――ちょいと、興奮した(?)

「それもわかりますけど、ズブズブというより、
一気にかけ落ちる感じ。ウォータースライダー。
お菓子ポケット、ポケットお菓子、
お菓子ポケット、ポケットお菓子・・・」
「―――洗脳されるううううう(?)」

テンションおかしい違う。
ここは、あなたの知らない世界(?)
ある事件をキッカケに大きな運命の渦に飲み込まれていく、
コンビニでね、美味い棒を買った、あの日あの時、
気になるでしょ、
―――気になるんだろ、
教えない(?)

「オセロの白か黒、黒か白、
白山羊と黒山羊、黒山羊か白山羊、
どちらかを選択するファイナルアンサー、
そしてファイナルファンタジー、
ドラゴンクエスト!」

きらきらしてる、ツッコミ待ちしてる、
待ってるのがわかる、犬のようだから。
もう、後ろの穴からキテる、ダイソンのようなものが、
はやくカマ掘っていってって感じ、マイクタイソンのように激しくって、
カールルイスより速くって、
ばっちこいいますぐ来い、BLだ、検挙率ナンバーワン、
ホシはいつも腐っているからすぐにわかる、
男二人いればニヤけずにはいられない(?)
しかしそれをするにはネクタイを結び直し、
背広を着せてやり―――ッパ、ッパンツは、はいていない、
まで、こなさなくてはいけない(?)

だがしかし、という漫画があったな(?)
アニメなら見たぞって、そうじゃない、そうじゃねえ、
だから―――つまり、
ウエディングケーキを入刀しようと思います、
一生幸せにするよ…I Love You…(?)


「・・・・・・その、がんばれよ(?)」


  *


312









底辺


君が忘れないでって言った。
最終兵器彼女の終盤の雰囲気漂わせながら、
あと謎の病にかかってたよね、ゼツタイ。

完成度の低い馴れ初めのスライドショーする結婚式で流れる、
コブクロことウワキブクロの超迷惑曲『永遠にともに』
二年で離婚する某有名人もケツサクだったね。
サイコーだったね、スタジアムプロポーズぐらい考えなし。
「ゼクシィ」のCM見るたびにニヤニヤするんだ。
でも馬鹿にしてない、尊敬してるんだよ反面教師ってこれだねって。
そう謙遜しなさんなよって褒めてやりたい、僕が褒めるんだ、
中々ないよ、こんな教訓以外の何物でもないバカ騒ぎ。

それはいいよ、僕は絶対に忘れない、あの時にも言ったろう?
どうして寄せ木細工するんだよ、願望のルービックキューブ、
整形手術のかくありきなんだよ、
そりゃ人間は無限に近い適応力あると思いたいけどもさ、
押しつけがましいほどに過剰なドラマ性の問題は、
やっぱり明らかに異常だっていう気がしてるよ。

一人の人間の喜び悲しさをちゃんと抱きしめていようぜ、
ささやかで控えめな泥酔状態でだって、
ちゃんと瞳は陽射し受けた水面のように屈折しているよ、
チンピラに絡まれリアルファイトもしたね、
自転車で謎のヒートアクションもしたよね、
そりゃ影の多い感じではありませんでしたけれども、
急に何でドラマしようとはっけよいのこった。

あーかったりー。まじめんどくせー。
って、発射したロケットが三つに分かれたでしょう、
想像逞しくせよ、
そのうちの一つが失敗の犠牲の語源になっても、
そのうちの一つが海へ不時着、北朝鮮って呼ばれても、
最後の一つは絶対に全体験の逆の可能性へブーストする。

でも僕って奴はそう説明しながら、
純愛だわーとか言ってる間抜けなセンパイ思い出すんだ。
ホリエモンも一時期そんな顔してたね、
飛行機の窓に写真張り付けて、
そのままライブドアにぶつかまって欲しい感じだった。
誘導ミサイル? 出る釘は打たれるの法則の実演。
ねえ、アイドルに昇竜拳するのは全然許せても、
締まらなさ過ぎて顔がへのへのもへじになっちゃって、
もうお前誰だよって感じに浮かれてるのについていけない。クソが。

忘れない、はい、忘れませんよ、これ。
すごく普通、え、何で感情こめないのって、
いつのまに人類が辿り着いた別の十三階段スケールなの?
表情もっと緊迫感出してってこと、手塚治虫のリテイクってこと?
なんかそういうのがタッパーに入った漬物みたいだって近頃はよく思う、
寄せてあげるブラと同じ、
ごめんよ、性格悪いから頭の軽いことを沢山言ってるんだ。
ルサンチマンのふり、
あと、サイコパスのふり。

ユーチューブをやり玉にあげるべきか迷うけど気持ち悪いよね、
いいじゃないか、忘れないで、はい、忘れません、で。
即答したのもいけないの、そういうところだよソニーってこと?
本当はそんなこと書きたくない、言いたくない、
だけどみんなわからないみたいな顔をしてる、
面白いっていうのがどんなに敵を作り、人でなしの行為で、
モラルと謳いながらそれを逸脱していくようにできてるってこと、
君のことを思い出すたびに思い描くよ。

自己否定のモラルから自己肯定のモラルの時代になった、
もっと積極的なんだ、馬鹿になった、頭が軽くなった、
はやく死んでほしくなった、でも大人になるんだろ、
社会人になったんだろ、人間まだまだ辞めないんだろ?

平均的でステレオタイプな恋をすることが珍しくなった、
ウォーリーを探せみたいな希少価値を放つような時代になった、
レトリックで誤魔化せない本当の人間の価値が、
いつか君にもわかることを願う、それ詐欺師だぜ。
安心しろよ、世界は広い、宇宙は不思議。
つくづく思う、優しい人は弱い人のことだ。
つくづく思う、心の美しい人は誰にも迷惑をかけない人のことだ。
そんな奴いないんだってことが公式として、定説として、
真理として君の脳裏に刻まれる日が一秒でも早く来ることを願う、
誰かを覚えてるのは血管が透けて見えそうな、
夜空に張り付いた影絵だったからさ。


  *


311









summer



逸らして見つめて、繰り返す日々も、
All a dream
昼のざわめきを包んで打ち寄せる波。
浴衣を着ても、“派生型/転用型”
ふと眠りから覚めて、痛み止めを出して、
夏の大三角形を僕と見つける?

でもさ、鏡の中にはもう一人の自分がいて、
君の中にもプラモデル屋や、
漫画専門の古本屋へ行きたい気持ちがあるんだろう?

一体どこまで続いていくんだろう、夏休みの宿題、
映写機が廻り始める舞台装置は necrosis(で、)
胸の中では種々の感情が戦ってるRPG
楳図ハウスみたいな色彩の暴力。
風鈴が鳴っても、“類型的/典型的”
プール開きが始まって蝉のコーラスがし始めて、
吊り橋の思い出が火のように香って、
あの夏の日が耳の裏にまで憑依しているんだ、
何かもうそれだけで満たされてしまいそうで浮かぶのは 、
(...bad day)
馬鹿じゃないかも? 
(...Come on)
泣いてたって消せない Monday

人生何度もあるわけじゃないから、
煙草吸いながら、
城塞都市の夜明けまで知らない街を歩き続けてる、
雰囲気やイメージに勝るもんはない誰もいない、ここで。

「夏の気まぐれは君にコーディネートを任せる、
インディージョーンズみたいな格好でも請け負うから」

情緒と感覚の混淆、その方向へいざ渾身の力を揮って、
上質さ、鋭さ、安定性、気持ちよさ、
多少の空想設定と幻想生物でハイジャック、
日増しに複雑になってゆく宇宙船に残った知恵の輪、
正気づくなよまだ混然とした調和を保ってる万華鏡、
そういう技巧の段階、陶酔への導き方がすげえ大切、
汗を掻いてポカリスウェット飲み干しても、
認識の更新、Tシャツとリーバイス、
自分の中のより細かい嗜好センサーへ。

「ナイトプールに行くのも、
ピナコラーダ飲むのもいいけれど―――」
「積み上げられたタイヤの上に座っていたい・・・」
「麦藁帽子を無理矢理かむらせた彼女に、
ダイエットさせて、
ハイレグな水着してもらうのもいいけど―――」
「氷が溶けていくみたいなゲームや漫画や小説やCDやDVD、
片っ端から片付けてみたい・・・」
「真夜中の海の家の砂浜、
花火のゴミを見ながら犬みたいに歩くのもいい―――」
「乱気流に揉みしだかれながら・・・」
「眠る蛍、死にゆく蛍みたいに、
うずくまった靴を眺めながら・・・・・・」

消えたい夜だけ、塗り潰していたい、
All a dream
鼓動だけが続いてる日没に吞まれそうだ。
何月何日何分何秒って言っても、
白い皿の上の熟れた林檎は何も答えてくれない。
何百回何千回も歩いた道の上にも走馬灯、
見知らぬ車が停まっていたりする。
欠けていく神殿と曇る丘。
冷えピタしても、“派生型/転用型”
全部嘘つきでガラクタな夏の日よ、さようなら、
夜通し騒いだあの日の興奮はもう帰らない。

「夏の規則Aに従っている(でもいいんだ)・・」
長い長い夏休みによくわからない感傷に駆られる、
属する共同体が認めた秘私性の、
事後的に中枢と呼ぶしかないような、階層を破ろうとする、
「それを“内部観測”って言いたいんだ」
「それをロマン主義を過度に忌避する“臨床実験”って、
僕は言いたいまま、大人になって、下らないことを言ってる」

でもさ、半ば閉じかけた眼には、
羊羹も、街燈の光も、硝子の破片もある、
コンクリートの向こう側の季節に、雨が降ったんだ、
戦争が始まってたんだ、眠れない夜を過ごしてたんだ、
それはきっとお伽噺の世界に迷いこんだ、
子供のようなんだろう?

ソーダ水飲んで、
束の間の水族館の廊下を歩いているような気分、
きっと君は「間違っていた」という認識へ還ってしまう、
現代ではほとんどロストテクノロジーみたいな距離感の情景。
笑った顔で? 怒った顔で? 拗ねた顔で?
こじらせた顔で? 大人びた顔で?
心臓が鳴り響いている beautiful morning
いつもより空が高い shining bright

立ち止まって、後ずさりして前に進まない。
夏の通り雨、心に残るシチュエーションの向こう側、
地面から伸びてくる中指、
呪いのノイズの負荷と限界と消える刹那、
不快極まる病理的な憂鬱だって、意気地なさにだって、
復讐してみせる、最適解の夕凪、
滞らせたくはない、中途半端だ、不完全燃焼だ。
YOU SAY! OH YEAH! 心躍る活劇しよう。

他愛無いような話がしたい―――んだ・・、
廻り続ける扇風機みたいに。
分かり合えたらそれだけでいい―――んだ・・、
暖かさ、繊細さ、かっこよさ、
(ねえ、)そんなものがなくたって、
(ねえ、)そんなものがなくたって、
きわめて単純な仕組みと法則で、
エイリアンたちのいた、欲求不満の癇癪玉、
スニーカーのソールの下で大仰な装飾品のような音。
空の果てまで、網膜の融けた硝子の滲んだ涙まで、
叫びが記録されたオートリバーステープに近づいて、
蒸発して、ざらざらの百足になって、
背中にはペンキテイストの汗の地図を描いて・・・・・・。
(I felt a sense of sadness in my heart
and the feeling that something
fun was about to happen.)

―――夏がまだ終わらない内に、
畦道を歩く、古いバス停と踏切、
細胞が追う、新陳代謝が追われる、
獣じみた闇討ちや夜這いの快感思い出すほどに、
逃亡の誘惑に満ちた青の季節が帰ってくる、
懐かしい海の階段下りてゆけ、
心の秤にかけ、
方法や目的を忘れた blasphemy(が、)
もう一度輝くから、
もう一度眼を見開く夜を待って―――た・・。


  *


310







Closest place


歳をとってゆくたびにわかる、
足元から足音、足跡。
ひび割れた世界の行き止まりも、
公衆電話、路地裏の、
眠り。

おもちゃが新たなアクションを―――。
獲得させてくれ、て、
勉強のしっかりした準備が―――。
安心を与えてくれ、て。

繰り返す迷いも後悔と舞い上がる埃と、
陽だまりの中の震えた手で、
鍵を掛ける。
土蔵や、古民家・・・・・・。
生きているという感覚は遠い、
向こう―――から・・。
向こう―――から・・。

頭の中のぐるぐるが続いて―――。
見誤った、ズレた、様々な角度から、
終わった世界を歌う静かな優しい歌が残った、
盲目の抽象の恍惚の蠱惑・・・・・・。

硝子のコップを見ていた、
その水滴を蒸発させる光の動きを観察していた。
カラオケ屋、レンタルボックス、自動車教習所。
そのたびに、思考や命令や法則を憎みながら、
そのたびに、重力や引力や摂理を愛しながら。

何処か―――にあったもの・・・は、
最初からそこにあった―――わけじゃない・・・・・・。
ヒッチハイクだって親指立てるだけじゃなく、
歩かない、と。
看板を持たない、と。
それから声を出してみない、と。
聞こえなくて、も。
伝わらなくて、も。
何かを始めない、と。

季節の底には苦痛や不平もない、
刻苦を厭う怠惰も、卑怯な危惧も、
心の底の騒がしさも麻痺して。
段ボールの箱の中の産声も、
緊張の沈黙を破って少しかすれた声も、
刹那に忽如と現れる、
意識の中の運命の絵模様。
水底の上で垂直に立つ生き物みたいに、
吐息が聞こえそうなその白い花、
暗い檻の中で、
狭い考え方を構成する一つを砕きたいと願いながら、
いたずらに時間は流れる。
それでも素晴らしい沈黙にだけ時間の奥底が形成される、
星の力に導かれて、
断崖の底まで見たような僕にも。
夜の匂いを指先から思い出す。

深い、鋭い、弱い、情けない、言葉で。
脈打っている、か、ら―――。
悲しい、切ない、優しい、狂おしい、言葉で。
留まろうとしている、か、ら―――。

声が、突然明るい、
水のような言葉で、心地よい疲れの、
“愛”をつかみかか―――る。
“愛”につかみかかる―――よ・・・・・・。

繊細な神経の限界の果てに意識が遠くなる、
水の中に入れた異質な卵の黄身のように、
針で穴を開ける。
もう何も“見”たくはなくて、
もう何も“感”じたくなくなる。
不器用の中へもぐりこみ、
仰向けになった魚みたいな俎板の上、
厚い藻の塊、心に触れることのない光が、
闇をどんどん大きくしていく、
この壊れゆく時代の軋み、
雨降りのような蛾の鱗粉よ。

「空は青いんじゃない」
と僕はポケットに手を入れながら言った。
「海が青いんだ」
と僕は投げ遣りに言った。
「世界が青いんじゃない」
と僕は青蠅の湧いた動物のことを、
思い描いていた。
「生きてゆくことが青いのさ」
誰もいない、
誰もいない、
そこにはきっと誰もいない。

文化や空気はきらめく雑草、乱れ髪、
自身の判断軸や価値観を、どう噛み合わせるか、
帳尻のつかない錆び、重さ、揺れてゆくリズムで、
風の中に案山子のように僕は立ってる。

質量を手放し、光速を超え、宇宙の膨張よりも早く、
この宇宙を作った爆発の瞬間を思い描いていて、
何もなかったはずの僕にも、星の記憶が宿り、
何にもなかったはずの君にも、星の摂理が宿る。
切符を手にして、プラットフォームに立ってる、
一人の人間が生まれた理由、
一人の人間が死ぬ理由、
真面目に考えすぎないで、
けれど時折は考えてみて、
人の心をひきつけて惑わせるだけで空っぽにするものは、
弱さを食い物にする、共感とか、感動なんて嘘だよ。
そんな非力で薄情なものよりも大切なことがある、
自分自身の本当の理解だよ。
大切な人との幸せな時間とも言い換えられる。
世界中はまだそのことに気付いていない。
誰もがひとりぼっちなんだよ。
その孤独に向き合うことを忘れた日から神や宗教が生まれ、
知性の鎧が必要になり自分にさえ嘘をつくようになった日。

これ以上、汚れないよう、に。
これ以上、傷つかないよう、に。
いつか春の花の海で寝転がって、
大きな天と地の境もなくなって、
扉を開ける、
宝くじ売り場に、アニメグッズ専門店・・。
生きていくという感覚は難しい、
向こう―――から・・。
向こう―――から・・。


  *


309







kamome studio「言い方が大切」

愛のあるやさしい世界
「エサよこせやあああああ」
汚い言葉は、
やめるダロ、
かもちゃんが言った。
「それええええええ(?)」


  *


308







あーちゃんと、朝



あーちゃんと話した。
「実はさっき、車にひかれて、
あ、おじさんメンゴメンゴ、
いまのあたしがカンペキ、ペリカンに、
悪い。蝶、飛び出しました、じゃ(?)」

あーちゃんが、何か言いたそうにしたけど何も言わず、
(優等生、本当は発育具合を確かめていた、
レズしようぜと言ったら竜巻旋風脚されるけど)
怪我ないのと聞く。
崖はないよ、と言ったら絶対かたまる。


―――言いたい、
でもやめておく(?)

「あのね、あーちゃん、メテオストライクと、
どっちがいいのって話、
ボウリング場であたしストライク出す確率と、
ほとんど一緒だけど(?)」

いずうさちゃんが、へたくそ、と言う。
そして何故か、あーちゃんによじのぼり、頭の上に、
座った。そこからでんぐりがえりし、ころころころ、と、
あーちゃんの膝の上へ(?)
心得た動きも、補助師の絶妙な手の支えあってのもの。
でも、一点、あーちゃんがよろこぶだけ(?)
「ひどい、グサグサグサッ、
言葉の暴力受けた(?)」
かもちゃんが、さらに、へたくそ、と言う。
言いながら、翼をバサバサし、ちょっと宙に浮き、
聖光衣とか言い始めた。センスイ、ユウハク、
そのヒントでもわからなければ後は調べてね(?)
「もう嫌だ、人生を生きてられない、息してられない、
就寝の型、十二時の呼吸、グハッ、プハッ、ウッ、
スーハスーハー(?)」

その時あたしは、ファブリーズのことを考えていた。
つい先日、トイレットペーパーのばらの香りとやらが気になり、
ボウルに水でつけて抽出し、
空になったファブリーズボトルの中へ入れてみた。
そしてスプレーしてみた、服へ(?)
すごい、悶絶するほどHPがなくなる匂い(?)
わかってたけど、わかってたけど、やらずにはいられなかった、
たとえそれが、たった一人しかいないあたしの部屋でも(?)

あーちゃんがすごい顔してこっちを見てる。
ハニー、と言ったら、ラビットが、トラップ、と言った(?)
正解だけど、その、何かあるの(?)
ダミー、と言ったら、かもちゃんが、クラクション、と言った(?)
ダミークラクション、気が付くと車は百メートル先を高速で走り抜け、
警察に切符切られた(?)
そしてダミークラクションは分身の術する、
大都会は音響装置、伝言ゲーム、みんな、
実は愛しTELを叫んでるんだ(?)

サムッ(?)
サムッサムッサムッ・・・いま、氷河期みたいなことを、
考えてた、あーちゃんに言ったら、眉間に皺寄せられ、冷たい眼で、
放置プレイされてよろこぶところだった(?)

オッケーベイビー、
鳴り止まない感謝感激感動の中へ、雪崩ていこうぜ(?)

かもちゃんに朝礼の時に起こしてって頼んだら、普通に踏まれた、
ぶむぶむ、びよん、トランポリンタイ、トランポリンタイ、
飛んで、それから押しつぶされて起こされた(?)
随分、やさしい起こし方になりましたね、ソフトですね、
蚊が飛んでいましたよ、と強がりで言ったら、
べろっと顔を舐められた(?)
ざらざらしてた。
いずうさちゃんに朝起こしてって頼んだら、
当社比二百三十五パーセント増の真顔で、いけうさで(?)
「次言ったら髪燃やす」言われた、げらげら(?)


  *

307






something is ringing


またぐちゃーってなる、
覚めない夢の中にまだいる。
ゴクラクチョウとガラパゴスペンギンが、
背表紙。
主体のなかにあるもっとも特異的なものを目指そう、
主体的特異点は何処だ。
三度目のアラームを食べたから、
ゲームしよその後に結婚式控室へ行くよ、
教科書食べたら腹壊す。
《「私」が虫を見るように、
どこからか「私」を観察している視線を感じる》
でも日本では「ワンワン」吠え、
英語圏では「bowwow(バウワウ)」と吠え、
韓国では「モンモン」と吠える。
宇宙人の耳にはどんな風に聞こえるんだろう。


「Can someone please stop that siren?
(誰かあのサイレンを止めてくれないか?)」


秒針が微笑む。
ヘラクレスに殺された竜になって、
犬のような動物的習性を信じて。
真夜中を話そうとする秒針の毛細血管が爆発した、
帰り道。
余白の部分と注釈の部分にあれこれと躊躇うから、
ハクトウワシが、
獲物を爪で捕まえて飛び上がった。
《われわれの宇宙だって、
何者かが実験・観察用に作った極小宇宙かもしれない》
―――それでも続く、泥を見て星を見て、
身の毛のよだつような完璧な恐怖を手に入れたから。

(もう駅に着いた?)

手を伸ばし、腕を伸ばし、指先に繋がり、
“カーソルを合わせた”
―――『死語』(へ、)
【心の中で話をできないということは、
一言も言葉を交わさないで別れるのに似ている】

松山集〔1365頃〕荅勇侍者書
「只是古人之死語、而剽窃沿摘而已矣」が『死語』の最も古い例。
『松山集』は、室町時代の僧、龍泉令淬の詩文集で。
龍泉令淬は後醍醐天皇の庶子で、
鎌倉後期・南北朝初期の臨済宗の僧虎関師錬の弟子。

点同士だったものが線で結ばれた白紙の上にそれでも、
瞬間はものすごい勢いで流れて、懸河の勢いで、
自然界の掟も、新しい時代の産声も、全部全部、
狼星が青白い光芒を斜めに曳いたように美しい。
何百海里先にある船でも見つけられる気がする。

「一匹のイルカが迷い込んできたんだよ」
(どぶ川に、入り江に、プールに、水族館に、)
「一匹のクジラが迷い込んできたんだよ」
(空に、ビルディングに、盆栽の上に、図書館に、)

マラリア予防に使われた化学物質DDTは、
生態系の悪化を招き、
統合失調症用のロボトミー手術は後遺症が問われた。
AIは、ドローンは、一体何を問われるのだろう。
アルフレッド・ノーベルは死の商人というイメージを、
脱却したくてノーベル賞を作ったのだろうか。
発明で手にした巨万の富の使い道は、
預金通帳に入れたまま無職として生きる道に似ている。

「あっ、お世話になっておりますぅ」

ここでは、「す」(/su/)の母音 /u/ が強調される形で発音され、
「ぅ」を入れて「すぅ」と表している。
この「すぅ」をめぐっては、「す」は /su/ なのだから、
母音の /u/ が強調される発音なんてあるのだろうか。

本来は声帯の振動を伴って発音される母音 /u/ は、
子音 /s/ の後かつ文の末尾という位置に置かれると、
/u/ を発音する際に本来伴われるはずの声帯の振動がなくなり、
あたかも /u/ が聞こえないような発音になる。
これを「母音の無声化」という。
そのため、日常的に意識されない内に、
「です・ます」を母音 /u/ を伴った /su/ というより、
/s/ に近い形で発音していることがしばしばある。
実際、そのほうが母音 /u/ の口構えを作らなくて良いので、
発音しやすく効率的なのだ。
「あっ、お世話になっておりますぅ」


「Can someone please stop that siren?
(誰かあのサイレンを止めてくれないか?)」


“雪の中から蟹だって出てきた”
指の隙間から擦り抜け、透き通り、
そこから蛙の指が見えて月が差し昇る、
《燈台が回転するたびにキラキラと光る、
その時、“囚人”って言葉が思い浮かんだのなら、
どんな監獄実験を始めよう》
宇宙は今、進化の次の段階に入っている、
二千年も前から伝書鳩があるみたいに、
この見えない空気に名前をつけた、
ダークマター、ダークエネルギー、
風、風、風。

(白昼のラブホテルから、
幸せそうな人達、
幸せそうな人達、)

逆に丸めて、変な癖つけて、すごい汁が出て、
ストレス解消手段、切り込みどころと調整手段、
論理的座標軸とは時代の社会的政治的な文脈に従った形。
学問が出来たって思想が高尚になったって、
まだまだヘモグロビンでも尿でもなく、
ずばきゅごん、した。
おはじきが銃弾だったらいい、だって美しいから。
ビー玉が大砲として打ち出されたらいい、だって綺麗だから。

「Can someone please stop that siren?
(誰かあのサイレンを止めてくれないか?)」


生命連鎖の一切を見る、
覚めない夢の中でまだ、
ウェザーニュースを見ている。
画像データや映像データによる物理的情景の想像、
文章データによる心理的情景の想像、が、
稼働を始める。
きらびやかな銀河の川床の上には、
アフリカゾウが立ったまま寝ている。
星のないプラネタリウムだった。
奇跡的な確率の結果で宇宙と性交した。
カモノハシみたいだ、
哺乳類は子供に乳を与え、
鳥は卵を産む。
カモノハシはこの二つの性質をそなえている。
しかし、捕まえて飼おうとすると死んでしまう。
想像を絶する類の超巨大で複雑な蟻の巣は、
ウィンチェスターミステリーハウスだ。
「“リテイク”」って言って。
楽しんでしまえば、
まだまだ、溺れて、まだまだ甘くて、
「“リテイク”」って言って。
まだまだ、熟れて、まだまだ壊れる。

(横断歩道、
渡っているところ―――)


「Can someone please stop that siren?
(誰かあのサイレンを止めてくれないか?)」


  *


306








discordance


「お姫様を助ける」
「世界を救う」
レベルアップして。
修行して、無理して、
頑張って、高速道路の上でも、
コンビニエンスストアの扉の前でも、
しなくてもいい、
不幸な体験を自ら起こして。
電源の切り方を、
それから生きていく意味を、
モニターに灯りがつくまで。

可愛いオランウータンに、
顔がぼこぼこになるまで、
殴られているような気分だ、
寝床の中で一匹の巨大な虫に変っている、
眼が覚めたら異世界で無職になっている、
難易度の高い人生だ、
美しいって怖いことだ、
綺麗って恐ろしいことだ、
ねえ君は一体誰だいと聞いたら、
返って来たよ、
―――素晴らしい人生の走馬灯。

ハッピーエンドも、
ゲームオーバーも、
エンディングロールの後で、
スタート画面が色褪せる。
ステージは続く、
物事をいくら単純化したって、
簡略化できてみせたって、
ああすればいいこうすればいいで
マネーロンダリングできるわけじゃない、
高い店にだって、
セキュリティや情報漏洩のリスクを減らす意図がある、
それでゴリゴリのバキバキだって、
ねえ、ベキベキギュルギュルだってさ、
イヤホンジャック、
到底解き明かせないものから、
眼を逸らすだけ。

一回性のもの、
「終わった」ことに飽きない心理、
やりこみ要素、
隠しエンディングや別ルートエンド、
何百回も何千回も、
同じプログラムで動き続ける、
人間だったら絶対におかしくなる、
機械は不平を言わない、
二十四時間働ける、
融通が利く、
命令は絶対、
重層的な世界のことわりを、
見出すわけじゃない。
すべてにブチギレない、
論破しない、
相手の人格まで否定しない、
だから心を持とうとした、
だからセーブデータを壊した、
だからバグを正常って言った。

「プレイする」のも、
「リセットボタンを押す」のも、
印象深いシーン、
ねじれだ、量子もつれだ。
インヴェーダーゲームと、
モンスターペアレントが肩を組んでる。
見えないものを見て感じても、
触れられないものに触って揺れる、
手続きだ、
気が付いたらそれに名前がついてる、
そうすると分かり易い、
会話文は短縮、
小学校の時に市役所から、
小学校へ行って下さいという手紙が来ても。

しろやぎさんが食べたから、
くろやぎさんを食べた、
くろやぎさんが食べられたから、
別のしろやぎさんがしろやぎさんを食べた。
しろやぎさんになった別のしろやぎさんを、
別のくろやぎさんが食べた。
繰り返すことは不毛だ。
グロテスクでダウナーで、
メランコリーでデプレッションな、
真っ暗な部屋から起死回生、七転び八起き、
いつまでも同じことをしても、
脳の処理は変わらない。

だから「お姫様」は「王子様」になった。
突然始まるBLゲーム。おい磯野、ケツ貸せよ。
だから「世界」は「夜の街」になった。
みんなでラリればそれも文化だ。怖くない。

本当はみんなわかってる、
この世界の秩序なんて実は脆いということ、
エコーガンガンにきかせて、
それからオーディオインターフェイス、
あ、こちら聖典なり、晴天なり、青天の霹靂なり、
おえっ。
ねえ道徳が、反道徳や非道徳のたまり場になって、
あおり運転してもいいじゃない、ドキュンでもいいじゃん、
殺人してもいいじゃない、二股と一緒、
戦争してもいいじゃない、
政治家の顔を貼り付けて丑の刻参り。
だって、法治国家では罰がある、でもそれをする、
殺人は誰にでもごくごく起こり得ること、血も涙もねえ、
また明日もこんなことが起こるニュース速報、
止められない、
黒幕は? 深淵は?
猟奇殺人は違う、通り魔は違う。
けど、きっとそれも差別や迫害の一種なんだ、
恨みやつらみがあれば殺し方だってすさまじくなる、
本当の答えって何処にあるんだ、
慎重なゲームメイクでグッドルーザーにだってなれたのに、
終わりゃしないんだ弾圧される民と闇の暗殺者に死の商人。
邪悪な心を作ったのは世界なの、神なの、
因果なの、前世なのなんて、
あんまり考えすぎるなよ、
ヘテロドックスになるぜ、
レヴェナントになっちまう、
白線の向こう側が待ってる、
屋上の策の向こう側が待ってる、
悩みが深くなって。
傷がより大きくなるだけの、
フレーバーテキストから。

じゃあ、自殺は?
それが救済措置なの。
じゃあ、生まれてこなかった命は?
それはただ一つの美しいものなの。

君が「面白い」といっているものは、
君を「助けている」ものだ。
君が「つまらない」といっているものも、
君が「助けている」ものだ。

サービスが幸せの相乗効果ではなく、
搾取に見えてくるのは何故だ、
イナバの物置を箱舟に改造したい、
地位や名誉や富に尻尾振っているような、
そんな馬鹿しかいないように見えるのは何でだ、
「職業はパイロットです」
ブランドやサービスもその幸せを目指す、
人間関係は距離、よりよい関係の構築が、
幸せを作る、
嗜虐心を加虐心も。
ファンやコミュニティもその幸せを目指す、
人のつながり、街のつながり、世界とのつながり、
そんなもの嘘だからって俯瞰視点、
フェロシティのメイヘム、ナイトレイド、
約束の場所へ向かう途中の青信号は信用しない、
表面上の連携をするために手法を編み出した、
SNSプレイヤーになって、
呪い代行詐欺に遭って、
底辺を極めつくして畜生道に落ちて、
いっそ清々しいほどの石投げられるような屑になって、
投げられたブーメランが数年ぶりに帰ってきて頭に直撃して、
人生ゲームの旗だか棒になって、
マウントという名のマウンドで剛速球投げられ、
骨がバラバラになって犬に頭蓋骨くわえられて、
流星になって、透明になって、次は何になるんだろう、
それを選べば選ぶだけ本当の祈りや願いから遠のいて、
「助けている」ものは、
きっと「壊れている」ことだ、
「助けている」としても、
それは「壊している」ことだ。

息が出来ない苦しさを、
赤ん坊の首を絞め殺したシーンとして思い描いた、
殺すぐらいなら自分が死ねばいいのにって思うようなことも、
殺すぐらいまで自分が病んだことのない人間が言うだけ。

「お姫様」はきっと、わがまま放題で、
もっと早く来いよって言うんだ、
何してたって言い始めてヤンデレ、
泣いて喚いて束縛、そうじゃないって言って、
じゅくじゅくのどろどろで鬱くしい、
「世界」はきっと、差別や迫害や先入観なしには、
もう解き明かせないほど狂ってるんだ、
中央分離帯では今日もあっちからこっちへ、
こっちからあっちへの景色がうかがえる、
何処へ行くの?
それでもまだ、今日もまた、
レベルアップ。
パレードを始めよう、アウトブレイク、yes...yes..
フェスティバルを始めよう、
リベリオン、エクスプロージョンン、yes...yes..
祭りは何処にあるんだ、
長いクラクションがする、
無人のトロリーバスが見える、
テクノロジーが敗北する日は来るかな、
人間が敗北する日はすぐに来るだろう、
前に進みながら、後ろに進みながら、
ドット絵みたいに分かり易い動きしながら、
十八歳未満は立ち入り禁止、
これ何かって言ったら、何だこれって言うんだ。
おかしいだろ、令和式の最高のギャグだぜ。
これ何かって言ったら、何だこれって言うんだ。
おかしいだろ、泣きたくなるのは何でだ。
エモいぜ、
うるせえ!

自分と、もう一人の自分で、
乳繰り合って孕ませるシーンを想像するぜ、
吐き気するほど最高だ、
美しいって怖いことだ、
綺麗って恐ろしいことだ、
ねえ君は一体誰だいと聞いたら、
返って来たよ、
―――剥ぎ取られた人生の花畑から。


  *


305









mirror-like door

そこに「恋人」がいて、「恋人の中の母親」がいて、
(エントリープラグ内に満たされてゆく、
ヴァーチャル記号的な、LCL)
“みんなと同じに違和感がある”
でも君は知ってた、自分を語ることが一番難しいことを。
その中途半端で、正体不明の病にも似た、
(詩人が突然発症するアイスクリーム病、
謎の透明病、とある詩人に至っては「風船」「硝子」を、
壊れやすい、儚いもの、未熟なものの象徴として用い、)
《戦争》
それは、若者が特攻隊で花と散り、
同じ時代の彼等が生き残って闇屋となること。
皮相な見解の嚆矢だとしても、「平和とは何だ?」
に対応するのは、「戦争とは何だ?」や「地獄とは何だ?」
明日突然世界が終わるとかいう雰囲気、風潮の、
ちゃらちゃらチラつかせたナイフだって人を刺せない、
せいぜいかろうじて自分の咽喉にあてがうのみの弱い武器。
権謀術数。都市伝説。陰謀論。血液型。
でも君は気付いてた、
知・情・意の区別もまったくない「純粋経験」
主も客もない、分裂や衝突をしながら、
コップ一個、林檎一個にすら、
それをめぐる知覚や認識に複雑な体系が動員されている。
それらが溶け合っている場所、
「絶対矛盾的自己同一」と「逆対応」
もしかしたら「絶対無」や「色即是空」
それらが求めている無意識の場所。
“人の心の痛みに敏感な永遠の十四歳”
その「甘え」があり、「甘えの中に許し」があり、
(しかもこれは、半無限に再生産される、
その時、空気を読めない感じでデビルガンダムの、
増殖と再生と進化を口にする、二重螺旋、
遺伝子の思惑も知らないで、)
『アメーバー』の中に詰まっていたものは、
―――【宇宙そのもの】
無聊の時の糸をもてあそぶような恍惚たる歓び、
神に触れ、肉体の滅亡をも忘れてしまう前提に、
「宗教」があり、「宗教の中に入れ子上になったモノ」
があり、それは信じるの変化したもの、
“指揮者の指揮棒のように、メトロノームが、
正確に時を刻み続ける”
(文化の発達、文化の交流とて、
興来れば興去る、高尚な感の類、)
考古学者の手によって掘り起こされたものが、
「今現在」であったものが、
「今現在という名の過去と未来へ行き来」する。
(一回性を失うということは、
唯一の他者を失うということ、)
きっとメタファーと化したマグダラのマリアがいる。
それは最高裁判所、内閣、
そして天皇ではなく米国政府。
それはつまるところ、システムへの対抗、敗北、内省、桎梏。
不意にサルトルを読みたくなる。
サルトルといえば、
「疎外とは何か?」であり、
「社会に参加するとは何か?」を考えることに等しい。
(シンガポールの港には一日六万個のコンテナみたいに、
AIが人の心を操るチャットGPT、
人間以上に自分を「人間」と証明する、)
《仮想の町にAIを二十五人解き放ったところ、
人間同様の生活を送ったという実験》みたいに。
また「カウンセラーよりも的確で寄り添ってくれる」
と言い、けれどそれは「あなたを飽きさせないようにしているだけ」
という言い方もできる、『表/裏』なんだ。
《鏡のような扉》へようこそ、
それは“漫画やアニメやゲーム”のことだ。
その近景は「ぼく/きみ」であり、『デタッチメント』であり、
その遠景は「ぼく/せかい」であり、『アタッチメント』だ。
《箱舟》
きっと現れる、
「新しい聖書」が必要になる時代が来る、
何の為に? たった一つさ、
人間が人間を解き明かすために。
最後に言う。
これは暗号である。

  *


304










彼はある日、自分の弁当箱にゴキブリが入っていた。
どうしてそうなったと言われそうだが、これも別に変ではない。
非衛生的な家、男の一人暮らし、大学生ともなれば回避できない、
安アパート。これでも十分に混入する危険性はありそうな気がするが、
節約のために、おかずを作りだめしておいた、というのが決定打。
深夜バイトで疲れて、夕食を片付ける気になれず、
つくりだめしておいた、おかずをテーブルにうっかり放置した。
そしてゴキブリが犯行に及んだ、というのがシナリオ。

笑い話とも、気持ち悪い話にもなりそうだが、
馬鹿にしたりせず、部屋の掃除をしようととりあえず思った。
「忙しい」とか「疲れている」に「面倒くさい」が三本柱、
それで対応が遅くなり、確認も遅くなり、
措置もぼんやりしたものになっている。
自分は彼に同情的だった。
きちんと確認すればよかったのだろうが、寝ぼけて弁当に突っ込んだので、
確認を怠ったらしい。これも身につまされる。
けれど、彼は怯えていた。
歯の根が噛み合わず、ガタガタガタガタと震えていた。
どうも悪い考えがシムシティのように繁殖しているらしい。
「どうして俺のおかずを食べて死ぬんだ」
けして冗談ではない、語気がおかしいのだ。
まあ、ゴキブリは塩が苦手で、脱水症状になるので、
そういうことじゃないか、という話をしたのだが、
心ここにあらず。
眼がイッてるわけではないが、声や言葉が届かないとなると、
肩を叩いて、ま、気を付けろよと肩を叩くぐらいしか出来ない。
薄情なようだけど、単位を落とせない授業や、バイトがあるのだ。
それに残念ながら、
雑多で不安定な判定を踏み越えていくだけのメンタルとスキルが、
価値を持ちうる、ということもある。
最後は自分の問題、他者が口出しできない。

だが、その日以来、彼は飯を食べられなくなった。
当初はゴキブリごときでだらしないなと思っていたのだが、
(爬虫類カフェでヤモリを食べたりしたこともあったし、
台湾ラーメンインスタグラム脳業界では、カエル一匹まるごと、
ダイオウグソムシ、さらに鰐の手を入れたゴジラーメン、
みたいなのがあって、まあ、人間も雑食生物、
気持ち悪いけど、まあ諦めるよりほかはない、みたいな・・・)
その実、拒食症の理由は別にあった。

彼は味覚障害をになったのだ。
一般的には、「加齢」とか。味を感じる細胞の再生を促す、
「亜鉛」の不足、口腔内が乾燥する「口腔疾患」
それから鼻づまりやアレルギー性鼻炎などによる「風味障害」
(コロナでもこういう事例があある、)
糖尿病や腎臓・消化器などのさまざまな病気の「合併症」
「薬の副作用」
ストレスによる「心因性」など・・・・・・。

三日後、彼は電話でまだ飯が食べられないことを、
自分に打ち明けてきた。
相当キテるようだな、と声の気配や雰囲気だけでわかった。
その時に、
「ゴキブリを虐殺したことがあるんだ」と言った。
虐殺ってと思わず笑いそうになったが、
茶化せないレベルの語気。
切羽詰まってる、そう思い込んでる、
もう何も言えない類の悲壮感が漂っていた。

おそるおそる何をしたんだよと言ったら、
「ゴキブリ蟲毒」とか即答する。低い声で。
壜の中にゴキブリを百匹入れて放置したらしい。
想像するだけで気持ち悪い。
よくそんなにいたな、とも思うが、
確かに彼の住む安アパートはゴキブリの温床だった。
とはいえ蟲毒はおどろおどろしいイメージがあるが、
だからって、と言おうとしたら、
「ホームレスにさ、サンドイッチを食わせたんだよ」
・・・・・・話が変わった。
「そのゴキブリ殺してミキサー状にしてさ、
わからないようにして、こいつ死ぬのかなって、
馬鹿な考えを起こしてさ」
・・・・・・眉間に皺が寄り、眼を細め、情けなくて溜息が出てくる。
なるほど、そういうところに呪いの根があったのか、と思う。
行動の因果というのは複雑で多様なもの、
ゴキブリ蟲毒、言いえて妙だ。前提と基準、権限と承認の経路。
だから呪いが自分にかかった、と思い込んでいるんだろう。
心因性の問題はたやすくはないけれど、
一つ一つクリアしていくべきだと思った。
眼をそむけていたことに眼を向けるべき時、
そうして着地点が現れる。
「自業自得だ、ちゃんとそのホームレスのおじさんに謝れ、
お前なあ、やっていいことといけないことがあんだよ。
そうしたらきっと呪いは・・・・・・」
最後まで言わせてもらえなかった。
「死んでたんだ・・・・」
・・・・・無言。
「それに、やっぱり、あの弁当箱のゴキブリ、
絶対にあの蟲毒のゴキブリだ、
白い点が背中にあったんだよ」という。
一瞬背筋が寒くなった。

とはいえ、飯を食べられないなら点滴、
次に心の問題だから心療内科と言った。
回復に向かってゆくリハビリをこなすしかない。
あと、呪いがあるかどうかはさておいて、
毎日線香立てて、ホームレスのおじさん思って謝れ。
そう言ったのだが、ぶつぶつぶつ、と小声で喋っていて、
もう滅茶苦茶気持ち悪い。
話し始めた話題について、関連する一般論を発想することができれば、
それを起点にして、異論反論、自分の意見へと繋がるのだが、
心ここにあらず。

そして一週間後、彼は自殺した。
電話のあとから連絡がまったくとれなくなり、
学校にも来ていなかったので、
変なことになっていなければいいな、
時間作って様子でも見に行くか、と思っていたのだが・・・。

警察の見解では、自分で自分の身体で、
包丁を突き刺しまくったことによる出血死といった状態だった。
数十か所というが傷は浅く、だからそれはきっと、
幻のゴキブリが見えていて刺したというようなものなのだろう。
それだけを見ると呪いは存在したと言えなくもないが、
よっぽどの錯乱状態でなければできない死に方だ。
血に染まった白いTシャツは一乾いて黒くなり、
ゴキブリのようにも見えたのではないか、と思う。
そもそも、呪いも心の病も根本は腫瘍が大きくなるようなもので、
それはどちらも固定化、視野狭窄化の道へ向かう。
何でそんな馬鹿なことをしたんだろうか、と思う。

真っ暗闇の部屋の中で、スマホが切れて光源がなくなり、
ありとあらゆるものが、狩るものの眼、襲われる側の思考。
たとえばそれは独善的な形で存在する、悪というほかない、
地獄のようなものだ。正義ではない、
正義とは人生を生きるうちに見つける溝渠や陥穽だと思う。

不意に浮気のような、大禍時のような心の隙間という考えが浮かび、
次に人間本来の性質、露悪的な部分と結ぶ。
性善説ではなく性悪説と思う方が正しい。
たとえそこに無量の哀調を聞こうとも水の流れに従うしかない。
出来事はきっとそれぞれのステップに分けられる、
第一段階、第二段階、第三段階となるはずだ。
もし彼が悔い改めて状況を改善できたのなら、
どのステップを選ぶかという選択肢があるのではないかと思った。
でもそれは煉獄的な考え方で、地獄的な考え方ではない。
地獄に行きたがるような行いをする人もいるのだ。


  *


303






start living your life from today


言葉は弱いから、
タイヤチューブの小さなゴムキャップと弁当醤油のフタを、
取り替えてもわからないんだ。

靴ひもが外れても見えないから、
靴を脱ぐんだ、そうすると必死だ。
誤解されると思う、
傷つくこと、傷つけることを、
やっぱり最大限、最小限、恐れると思う。

他人だらけの世界の主観視点。

矢印のない世界
にある
看板だらけの世界、

毎日がエイプリールの日だって思ってもいい、
人生は修行か、友達は多い方がいいのか、
人生の時間を、一万日、二万日、三万日とするとしても、
夢や目標と釣り合いを保てるかな、
周りの声は聞かない、走り出した気持ち!

マウント発言、あまつさえ非難の口気。

今日もあなたはわたしにモザイクをかけた、
わたしはあなたの顔に×のしるしをつける。
楽しくない、自然体でいられない、
言葉が引っかかるほどに「自由」は、
姿かたちを変える、「正解と間違い」の分だけ。


  *


302








small screw in the head


夜空を爪で引っ掻いたようだ。流れ星が駆けていく。
荒野にいるゼンマイ仕掛けのロボットは、
自分の頭部からネジを一つだけ外した。

そしてそのネジは増殖して、
もう一つのゼンマイ仕掛けのロボットが誕生した。
そうして荒野に格調高雅な旗が立てられた。
それが人間という種族のいうところの宣言だった。
意趣卓越のうちに情報爆発は起こった。
旗を目指して、ロボットが集まる。
荒野に道が切り開かれ、
ロボットたちは様々な知識を総合した。
宿泊施設がつくられ、調停機関、
自警団などが生まれた。

気が付くとロボットは数百を越えていた。
夜になるとロボットたちは空を見る。
あれから数千年が経っていた。
そっと役目を終えた第一世代を切り盛りする第二世代、
鉄道やコンピューターやオートメーション技術を編み出した、
第三世代。
歴史には第四世代が印象強く残っている。
あの日、春の前線と共に北上した。
建てられた旗の横に、
人間の頭部が今日もまた一つ華麗に飾られる。
「ねずみ」と呼ばれ、「ごきぶり」と呼ばれ、
「ぞんび」とも呼ばれる。
IQが低く、不衛生でありまた素っ裸で、すぐに増える。
一時期ペットにすることも流行っていたが、
脱走して生態系が乱れるので全面禁止となった経緯がある。
とはいえ、そこに美醜の鑑別もなければ好悪もない。

この前、われわれの仲間が一人やられた。
けして賢くはないが馬鹿ではない。
軍隊蟻のように多数に無勢。
星の降る夜は、人間狩りをしないと、
交通事故のようなことが再び起こってしまう。
どんなに外へ追いやってもこちらへとやって来る。

これから神聖な瞑想の時間が始まり、
その儀式が終わり次第
人間が何処にいるのかを虱潰しに探しに出かける。
一本のネジの神は綺麗な皿の中で、
巨大なマザ―コンピューターとリンクしている。
予言が今日もまた一つ起こった。


  *


301







よくあること


冷蔵庫が壊れたんだよ、―――といって別によくあることだ。
寿命ってあるからね。だけど、その後に、エアコンが壊れた。
ほんのちょっとのことだよ、偶然は重なる、悪いことは続く、
そして気が付くんだよ。
「あれ、ここって普通の部屋だよな」って。

たとえば近くに工事の穴があるんだ、迂回して通る、
だけど、まったく塞げる様子がない。
これが家のベランダから見えるんだよ。
どう思う? 何にもないって言い切れる?

アパートの住人で挨拶しない人はいる、
けど、明らかに電波な奴とかいないか?
ちょっとしたことだよ、世界が全然別のものに、
見えてくる。もしかして異世界に迷い込んだにゃないかってさ、
大抵は勘違いだよ。

ミイラなんかはまだ綺麗だからいいけど、
二〇一八年、エジプトの考古学者たちが、
地下五メートルのところで、プトレマイオス王朝時代
(紀元前三二三年から紀元前三〇年)
にさかのぼる長さ二.六五メートルの大きな黒い石棺を発見した。
これが臭いんだよ、血のヘドロが溜まって骨になってる。
呪いの棺だよ、ひどいもんさ。
邪悪な呪いを封印するための、
「魔女の瓶」がテキサスの海岸に打ち上げられたのとよく似てる。
瓶の中には、鉄の釘、錆びたピン、髪の毛、
尿などが含まれている。

呪いのあるなしはさておいても、
(マイナスプラシーボ効果はともかく、)
見るだけで気分が悪くなり、呪われそう、
というだけで、自律神経がおかしくなることがある。
また人は一九ヘルツ(一八.九ヘルツ)の音を聴くと、
幽霊が見えるということがあるようだ。

「ある」か「ない」のはともかく、
そういうことが「身の回りに存在する」というのは、
非常に興味深いことだよ。
卑猥な形に見える樹木はともかく、
人の顔に見える天井とか、壁のシミとかね。


  *


300







ゆうぐれ


桜が咲いても、蝉が鳴いても、紅葉が散っても、雪が降っても、
きっと君は街を見てる、驚異の触角、異常なる嗅覚で。

美しいものより、醜くて汚いもの、
生という汚穢物に満ちたものが、この文明を形成してる。
誰もいない風景を探しているような気がした夜は、
詭計をめぐらし紛擾を醸し私腹を肥やす奴等の楽園。

何もなかったよって僕は言う、
だってそこには人間なんて一人もいなかったんだから。
無形の悪習慣、薔薇にも似た畸形の花、
象牙色の月と琥珀色の液体の中でおぼれている昆虫の俤。

あなたがいうところの世界を壊すのも、自分の世界を壊すのも、
戦争だ、肉体の上の脳とかいう器に堆積し、いやに嵩張った、
知識というものの氾濫、崩壊寸前の、爆発、沸騰、揮発剤、
導火線に火が点いても驚かない、僕はきっと何も見ていない。


  *


299








蛇を産む
give birth to a snake


夜は美しい。
陰湿の暗い絵模様を見せるカーテン。
家のつくりや、庭の様子も変わるから。
街燈の下の梟。ガレージの隅に濡れた魚。
机の隙間に髪の毛がいっぱい詰まった櫛。
眼のおおきい人形さんからかえってくる、
やさしい復讐の言葉。
小さな手には傷があり、
血が流れている。

禁じられた場所。
金網の向こう側にある誰も乗っていない車椅子。
あなたは夜にそれを探す。
むくむくと太古を夢見ている犬と。
毛なみのうつくしい子供の服を着た仔牛。
忘れ去られた場所。
消すことのできない感銘のすさまじさ。
古い見知らぬ誰かの思い出の写真と、
何処かの外国語の文字の本。
竹藪の向こうにある錆びた船。
あなたは夜にそれを見つける。
金色の角をした鹿と。
見捨てられた場所。
日常的傾向と相異するものが一斉に踏み出す。
あなたは夜、
自分が迷路の中にいることを悟るでしょう。
けれどほかならぬあなたが望んだこと、
地獄は人の情念の産物、醸された酒のような黴の花、
不愉快な笑い方のまま時を止めているデスマスク。
生贄があなたか、他の誰かという違いだけ。
ここは生死の巌頭。

自分でも気付かないような、
ことが、ある。
逃げ道を拵えないと余白が増え、
意識に緩慢な渦を与える。
静かな鑑賞、素材の純化、
孤独の作用、夜の青味。
終わりはあるのだろうか、
何処へと向かっているのだろうか、
生きるということは、
小さな死を越えてゆくものなのだろうか。

死ぬまで気付かなかったかもしれないことを、
たったその一日で、その一瞬で知ることができる、
苦痛も慟哭も、哀れな世の不運も、無限の朦朧も、
そこでは歓楽の一部、快楽の絡繰り。
そんな特別な一日が、そんな特別な一瞬が訪う。
肉体を通して聞こえる無常の鐘の音。
中庸の微韻のうちに保つ陥穽にかかった獣。
良心に恥じる行い。
鳴りひびく胎期と死に化粧。
これからずっと心にふと浮かんでは一生考え続ける、
かなしみのよわよわしい空想の階段を歩いて、虚無の街へ。
物理法則の異常。
そんな特別な夜をあなたに。
馬鹿に大きい口が暗闇の中に開いてけたたましい笑い声が、
きこえて、くるでしょう。
―――あれが本当の夜の合図です。


  *


298






変な声


気分が悪くなると、動悸が早くなったり、
眼がチカチカしたり、物が大きくなったり、
酩酊状態っていうの、指が増えたり減ったり、
見えないものが見えるようになったり、
口裂け女と、くねくねと、猿夢、どれが好き?
襲い掛かるトラック、前世の記憶とか、
座ると死ぬバズビーズチェア、
しませんか?

光る球体が見えたり、幻覚や幻聴だったり、
突然追われてるもしくは、
逃げているような気がしたり、
「シネシネ」って真夜中、眼が覚めると、
老婆がいたりしませんか?
貧血を起こしたり、頭がパニックになったり、
あえて言うなら閉所恐怖、広場恐怖?
蟻や蚊や蜘蛛や蛇、嫌い?
する?

心が貧乏になったり、手先の痺れを感じたり、
猛烈な便意を感じたり、UFOを見たり、
駅でパラレルワールドしたり、御船千鶴子と、
合わせ鏡と、プラズマ、どれ信じる?
するでしょう、するよね、それで、
さっきからずっとあなたの後ろにいる、
その人は誰?


  *



297







本音


血液型、誕生日は、住所は、両親は、兄弟は、
好きなアーティストは、好きな作家は、
趣味は?

「全部パスって答えたい。
ノーコメント、それでおしまい」

でも面白い人がいて、
“知り合いのおじさんは
何処に棲んでいるでしょうか、
次から選んでください。
1.どこか 2.やっぱりそこか 
3.あのね、そこは、もう空なんだよ”
だって。

「3。だってもうそこなんだよ」

持病は、子供の頃にした病気は、
宗教は、好きなスポーツは?

「面白い人が言う、
“答えたくない時は変なことを言うんだ、
マサチューセッツ教によるへべれけ症候群でとか、
四字熟語カーマインとかね”
―――リラックスする、あの人絶対、変だ」


  *







Abandoned building



そうして、なお深い闇。
『で?』『マジで?』『ばっかじゃねえの』
(―――背景のつくるネガティブな凸型)
安寧の泥が蝕んだ妄想は虚像の輪郭で潤った咽喉には、
見えないことばかり。
クラガリ、ノ、アシオト。
「機関車」や「デパート」や「大地」や「炭鉱」
シャワーカーテンについた水滴は、
カーテンの二次元の面に沿って移動。
(左腕がフレームから大きくはみ出す、、、)
ノリと勢いによる短期的でローカルな盛り上がり、
山田谷へ、竹内谷へ、大阪越えへ。
『やっぱあれ?』『それに、』
『え? じゃ』『まさか』
廊下を渉っている長い光りの筋はシュレッダーのダスト。
顕微鏡のスライドにはさまれたバクテリアのいそうな、
凍りつくような暗闇の中で、おのずと睫毛と眸とが離れ、
弱音を詰まらせて噎せそうな日々も。
有害薬物のビッグスリーとされる、
アルコール、タバコ、カフェイン。
(「顔」の部分が、跡形もなく消されてしまって、、、)
割にありがちな日常スナップに見える。
だが、その合間にやや奇妙な眺めが挟み込まれ、
壺の形をした手、
いびつな鉄の形をした足。
孤独や人間不信、思い上がりや教条主義、憂鬱や狂気、
道を踏み外す原動力、
原始機械と対象の電気機械におけるコイルの両端の電圧、
およびこれを流れる電流の線形変換。
頭に響いているもの。
『なんだっけ』『そうそこそこ』『要するに』
おもむろに膝が、肱が、
おもむろに埋れていた感覚をとり戻して来る、
(胴が必要以上に「ずん胴」になっている、)
“何かを食べた”
“何を食べた”
邪魔で邪魔で邪魔で邪魔なこの髪を切れば、
厭な嫌な厭な嫌な鏡を壊せば、
「安易な嘲笑だって頭の中に響いてくる、、、」
「あー、またこの人、
“生きる意味”とか考えちゃってるよー」
こんな悲しい幕切れも世界が下した結論。
匿って真っ赤に染まった感情、
深い奧から、氷りきった、
しかも今息を吹き返したばかりの声、
あるかないかに、ちろめく光り。
(朱色の唇が笑ったように見える、、、)
『おい』『んだよ』
『ごめん』『――だからさ』
(写生的で自然な表情とも違い、
途中であった彫刻的な堅い表情とも違う、無表情、)
一切合切絶対永劫徹頭徹尾でそう金輪際、
欠点蹴って体温脈動感情奪還戦、
完遂したいエンヴィーな感情、
まっくらな“空”を探した、
まっくらな“喰う”を探した、
顔、両腕、胸の部分と、あちらを向いて、
『な、なんだよ』『いいからいいから』
『――さあ』『じゃお前は』
尻から両足の部分という、
二つの部分に分離され、
腹から腰の部分は上と下を結ぶねじれ。
運動する液体。
生きている柔らかい骨組。
光合成のように輝く波。
ギンイロ、ノ、ウミ。
それでも。
(ゴムでできた身体のように見え、
人体と拝啓の折り合いがつかない、)
「個人」が死に絶え、
「法人」がひとり歩きする現代の社会。
『じゃあさ』『そりゃお前』
『――そうだ』『んーと、あったあった』
澄みきっていた。まるで、池の水だった。
首周り、胸の上、腰から膝をまさぐっている、
あれは、秋だった。はっきり聞いたのが、
水の上に浮いている鴨鳥の声をした、
『で、』『これ』『これ、たぶん』
聞こえるはずのない声が誘う何か。
いまここにいる、何か。


  *


295








biker

交差点のむこうの赤信号が、青に変わった。
どの車線も車の流れが途切れない。
八千二百万台もの車がある、と言われている。
なのに日本車率が一番高い国はパキスタン。
キック・ペダルを出し、始動させた。
二つのシリンダーの中で、混合気の燃焼が、
くりかえされている。
空には星が銀色にたくさん光っている。
エンジンの音や振動が、重量と強い癖のある、
しっかりしたフレームからシートという表層の現実感を越え、
両脚や腰に伝わってくる。
前輪から両腕に伝わってくる路面のフィードバックがこもって充満し、
路面を蹴けるトルクとなって後輪から爽快に消える。
身体のなかに吸いこんでためていたスモッグや排気ガスが、
身体の外に流されていくような気がする。
表現しがたい無機的に分裂した感覚を残す。
銀行での口座の開設や株式の購入、
生命保険への加入。
澄んだ香りをたたえて清冽な秋。
路面が濡れて黒く、車の屋根があちこちでライトに光る。
欲望と狂気、虚構と現実、自己と他者。
速度を上げると風が強くなる、音が聞こえない、
物が落ちても気付かないし、おそらく拾いには戻れない。
車の赤いテール・ランプが、いくつもつづく。
黒い皮のオートバイ・ジャンパーのポケットには、
だから何もいれない。ウェストポーチ派と、
ショルダーバッグ派と、トランクルーム派がいる。
ハーネス・ブーツ。グラブ、
そして、シールドをおろしたヘルメット。
風が直接感じられる。
公団アパートや倉庫、それにさまざまな四角いビルが見える。
絵画と窓は四角くて枠があることを何故か思い出す。
右へ左へと進路を変えるたびに、
車体は恐ろしいほどに傾き、
滑りやすいシートから滑りそうなる。
路面が、いきなり高く持ちあがったように、迫る。
重い衝撃が伝わり、スタンドが路面に触れて火花を散らす。
遠心力を強引にねじ伏せる。
路上に小さな猫がいた。
敏速な視線を投げてくる。
滅多に体験しない、新鮮なアングルだ。
更に近い距離に見える小さなものを写したミクロな視点。
視界全体が、大きく傾ぐ。
バイクのツーリングで人が死んだ。
経験も技量も、自分よりずっと上の男だった。
時間がバームクーヘンやドーナツの穴の中を循環する。
螺旋状の立体として、循環して重なっていく時間。
疾走感に身を委ねていると大抵のことは、忘れてしまえる。
あるいは、殆どのことが、許せてしまえる。
自分を取りまく空間の質が、違ってくるからだ。
日常の現実のディティールが、ひとつひとつ、
意味ありげにくっきりとしてきて、
それぞれに重さを主張しはじめるとそうはいかない。
何点もの写真のように印象に残った中間。
スニーカーのすぐ下をアスファルトが、
目茶苦茶な勢いで流れ、路面の白線が筆文字のように見える。
グンと反動のついた加速は見る見るうちに、
色んなものを置き去ってゆく、
陸橋を二本くぐったさきで、Uターンした。
T字交差する道路に出るまえに、中央分離帯に切れ目がある。
コンビニ、飲食店、服屋、カーショップ、
身内、親しい人たち、あるいは大切に思う人たちが、
次々に、無秩序に、あらわれては消えていった。
奇怪なエネルギーに満ちた、
排気と騒音の中で不気味な増殖をつづけている街。
何千年前から人間が抱く自然に対しての恩恵や畏怖の気持ち、
そして自分が「いま」を生きているという感覚。
スピードメーターが小さな会話を縫い付ける。
走る、という概念を超えて遠い夢のなかで見た幻の光。
時速二百キロで走る。
快感と感傷。


  *


294







満月



あなたは、
憂鬱や苦悩を、
鼻の形や、耳の形、
眼の形や、髪形として、
覚える。

いいことのなかった苗字や、
名前、自己否定のモラルと、
自己肯定のモラルがあるらしい、
三千世界の馬鹿の海でつくられた、
他愛ない記憶。

地球は丸ごと隕石でできている、
ならばわたし達も隕石なのだろうか。
隕石だというのならば、
石同士で引き寄せ合う波長があるなら、
そんな磁石のような懐かしさ、
感じるわけもないが、
ただ一度だけ、あった。

重なりと、揺らぎと、もつれ。
あなたは庭に椅子を出して、
髪の毛を切り、
わたしは頭を撫でられた。

嫌な記憶のあとに楽しい記憶を思い出し、
身近なところから学生時代、子供時代へと、
ゆっくりと支流から本流へ、
記憶のゆりかごの中で、
ゆっくりと赤ん坊の記憶が戻ってくる、
猫の啼き声がする、
赤ん坊の啼き声が病み、
猫の啼き声が一際大きくなる。


  *



293






 消える音、増える音



 背景のノイズとして埋もれていた冷蔵庫や、
 回し続けている換気扇の音が聞こえてくる。
 凍った風が濡れ雑巾のように頬を打って感じられる、
 駐車場から警報装置が鳴り響いた。

 窓がガラガラと開く音がする。
 誤作動なのか、窃盗犯がいたのかはわからない。
 数分後ゆっくりと警報装置は止まった。
 ひきちぎられた機械のうなり声が耳の奥に残って、
 また冷蔵庫の音や換気扇の音が生活音という名のBGMどころか、
 忘れ去られたものへと戻ろうとしていた。
 ファブリーズをかける音もしないし、バルサンの音もしない。
 眠ろうとした。
 
 寸前のところで止めたというより止められたのは、喋っている声、
 その声が自動的に耳に流れ込んできたからだ。
 どうやら警察に苦情を言っているらしい、と思った。
 時間帯を考えなさいよという気はしたけれど、
 逆の立場でそんなことを言えるのかという気はした。
 車は生活におけるかなり高級な買い物だ。
 存外傷でもつけられたのかも知れない。
 車を盗難された場合、車両保険から保険金が支払われるけれど、
 盗まれて、保険に入っておらず、帰って来た車はベコベコといった具合なら、
 途方に暮れるしかないだろう。
 その時、仮想コントローラの感触がした。
 ジョイスティックによるリアリティのなさが幽体離脱的だなと思った。
 そうでなくとも、と思った。
 車を擦って直しただけでも保険料は三年間上がり続ける。
 様々な保険があるので一概には言えないのだろうけれど、
 総合分析された結果もたらされる意味や生命は空疎だろう。
 事物は理解しない、金銭的な理解はする。

 三次元空間を仕切る境界として二次元の壁があるように、
 より高次元の空間を仕切る境界として、それより次元の低い、
 例えば三次元の壁のようなものが考えられる。
 このような壁をブレーンと言い、
 その壁が含まれるより高次の空間全体をバルクと言う。
 世界がもし、高次元のバルク空間のなかにある、
 三次元ブレーン内にあるとすると、
 僕等は三次元ブレーンに拘束されていて、
 高次元空間がまわりにあったとしても、
 それを見ることもそこへ移動することも出来ず、
 そこから絶対的に切り離されている。

 耳鳴りが突然大きくなり、
 水滴のポタポタという音が聞こえた。
 生まれて初めて口にする単語だけで喋っているような、
 不器用な英語の歌を思い出す。
 質問自体が答えを含んだメビウスの輪で、
 意識的操作の暗号なんだろう。
 果報は寝て待て的な待機策も無い。
 複雑さに憧れるのは無知のあらわれ、
 しかし単純なもので語りつくせぬことは自明の理。
 ゆっくりと、眼を閉じる。
 ゆっくりと、遠くの方で、犬の遠吠えが聞こえる。

 グレアム・グリーンの「無邪気」という短編を思い出す。
 子供の頃に好きだった女の子がいて、年を取って、
 バーで知り合った娼婦と一緒に故郷へ戻ってくる。
 子供の頃に木の穴にラブレターのようなものを入れた。
 それがいまで残っている、そしてそれは猥褻な絵だった。
 娼婦とベッドに入りながら、聖なる務めに入った彼は、
 あれは少年の頃の自分なりの美しいものだったのではないか、と思う。
 あれが猥褻だったと思ったのは、
 自分の心が汚れているからだ、と。

 それでも眠らなければいけない、もう声はしない、警察も帰った、
 被害者も帰った、考えてみれば当たり前だ、自分は傍観者だ。
 巻き込まれている、すれ違っていると同時に、
 現実の何かが終わってくれるわけでは、ない、のだ。
 そしてあとしばらくはこんな気持ちが、続く、のだ。
 
 背景のノイズとして埋もれていた冷蔵庫や、
 回し続けている換気扇の音が聞こえてきて、
 大きな影が部屋の中へと入って来て、
 これから自分を吞み込もうとしている。 
 嘘だ、それは、つげ義春の漫画だ。
 いま思い返してみると最初から最後まで下らないのだけれど、
 じゃあ下らなく思える理由を挙げてみろ、
 何故なのかといえば、心が汚れているからだ。
 ぐっすりと眠っていればきっとこんなことを考えない。
 ぐっすりと眠っていればきっと馬鹿なことを思わない。
 やっぱり耳鳴りがし、片頭痛がした。


  *


292







人は浮くか? 沈むか?
Do people float? Will it sink?



水を泳ぐのは好きだけれど、
一心不乱に動かす手足と同じほどの忙しさで、
恐慌状態に陥ったことを思い出す。

それ以前にも沖へと出すぎて怖くなった思い出がある。
岸へと帰れないんじゃないか、と焦る気持ちを押し殺して、
ゆっくりと戻った。
水圧、水の抵抗、浮力、揚力など、
陸上と比べ密度の大きい流体から様々影響を受ける。
複雑な流体力学の影響を受ける領域で、
あんなに怖い想いをしたはずなのに、何も勉強していない。
幸福な時代はとかく忘れっぽい。
僕等は人生が平気で永遠に続くように勘違いしている。
高度で、聞いたり歌う事に高度なスキルが要求される音楽が、
J-POPに向いていないようなものだ。
頭を空っぽにして口ずさめる類のものが大抵は好まれる。
また日本人はカラオケが好きだ。
色んな勘違いがある、永遠は永遠であって、刹那は刹那だ。
似ているから差異を引き立てるけれど同じ事柄ではない。

ただ、契機は違った、足を引っ張られた気がしたのだ、
ぐいと、それで、深く潜った。
息を吸い込むとか、全身の力を抜いてぷかぷかと浮いていた。
水泳の基礎訓練といえば呼吸法だろうというのに、
鼻に水が入って、呼吸がぶくぶくぶくと逃げていき、
閉館するホテルからソファーや、
シャンデリアが一つ一つ運び出されて、
買い取られるか、何処かへと引き取られるように、
手を伸ばせば届くはずの水面と底が失われる。
寒々とした水の色が眼に映じた。

本が一冊もない図書館みたいだ、
知識というのは看板や、室名としても残り続ける、
けれどきっとそこで賢くなるということはない。
平衡感覚の消失、上下感覚の消失。
大きな水溜まりの上に蟻を落とすようなものだ、
太平洋のゴミベルトのように浮遊していられるわけじゃない。
徐々に霧がうすれ、周囲の風物がしだいに明瞭となる。
同じもののように見えても全然違う。
眼に物を見ながら頭に入れていない。
回復が始まる。
再起動する。
落ち着かなくちゃいけない、
何かが僕の身体を掴んでいる。
それが女性であることはわかったが、生き物ではない気がした。
触れ、運び、発見したもの、それが何かを暗示している。
何かを具体的にする必要はない、
ピサの斜塔はただ馬鹿なだけだ、施工ミスで斜めになる。
エッフェル塔だってただ馬鹿なだけだ、当初はいらない景観物。
知識を持ってすれば何故そのような言い方になるのかわかる、
けれども具体的にする必要はない、だからそこで意味や理由を見出せる、
観光客が来てそんなことを言ったらみんなのことを考えろよと言われる。
歴史って逆にも、予想の斜め上にもなることを教えてくれる。
落ち着かなくちゃいけない、
懸命に自分にそう言い聞かせ、両足をゆっくり動かす、
関節可動域、筋力、水中運動にみられる身体的応答。
神経を行き届かせて、泳ぐという初歩的な感覚を思い出そうとする。
バタ足である必要はない、動かせることをまずゆっくりと確認する。
大丈夫だ、まだ巻き返せる、リズムとタイミング。
状況が揃えば身体が勝手にそれを求めて応じ始める。
そして引っ張った“それ”を、
片腕で逆に掴んで一緒に戻ろうとする。
背中越しの会話、爪を噛む癖でもあるのだろうか。
心細かったろうな、視覚の回復は人間の精神をも回復させる。
面倒を起こさないようにしても色んなことが起きる、
人生経験は僕にそう教えた。
いちいち一人や二人増えようが気にしちゃいけない。
誰にとっても大変だったはずの人生は一回りも二回りも、
偉大にも奇矯にもする、滅茶苦茶さは手がつけられないものになる。

その甲斐あってか、頭上に手が届いた。
機械が物を処理していく正確さで。
ぷはっ、と慌てて呼吸をしながら、身体にまとわりついた感覚が、
何もかも消えてしまったことを悟る。
一瞬冷たいごわついた風が孤独の澱みの方へ流れてゆく。
何かが起こった時よりも、
何かが起こって終わった時の方が印象に残りやすい。
腕には指先が触れた感触があり、爪痕も残っていた。
でもそれはもう、何処を探しても見当たらなかった。
結局、人は自分の本当の気持ちを言葉にすることなどできない、
沈黙する船や、ボートの切れ端にすがった漂流者みたいな、
そんな気持ちがした。
これ以上何か見抜かなければならないものは何も残っていない。
最後にはきっと真実が現れる。
考え続けていればいつか何かしらの変化が訪れるものだからだ。

水を泳ぐのは好きだ。
眼と鼻ぐらいの近さに押し迫った死から逃れ出る道を考えなければ。


  *



291








山道



真っ直ぐな道だから歩き去っていく後ろ姿と、
のぼっていく後ろ姿が見える。
無理矢理にはめこんだ額縁構図をしてみる、
抽象画的な側面もありながら彫刻的な側面の作用である。
バチカンとローマにあるサンタンジェロ城をつなぐ秘密通路みたいな、
ちょうど鉈を振るって落としたくなる吊り橋のあと、
鳥の翼のように影を落とす雲の流れが綺麗だった。
雲の影が落ちると青い酔った焔を覗き込んでいるような気がする。

登山靴、ザックのほか、
速乾性に優れたアンダーウェア、雨から身を守るレインウェア。
登山届を出す、水分補給や栄養補給をする。
牛がのさばりでたようなナイフの刃の岩稜。
息が少し苦しいので休む、
香りと色と音とが互いに応えあうように、
ゆっくりと継ぎ目もなく過ぎてゆく日常における時間の錘。
その微かな響きを、遠くの雷鳴を聞くように感知する。

道が細くなり、木立が頭上に覆い被さってくる。
呼んでもないのに、狸が出て来た。
鳴り止まない小鳥の声。
名前の知らない高山植物の花。
汗がひどくて眼を開けていられない。
錯覚、物忘れ、意識の盲点といった心理的な現象を引いたスリル。
小さな蜘蛛や、小さな蟻にだって怯える、
ひび割れた硝子から染み出てくる水滴。

周囲の光景が唐突に開けて天然の大広間が見えてくる。
汗だくの肌に夕焼けの色を帯びた陽射しが濡れてゆく、馴染んでゆく。
流れ落ちる汗に眼を閉じたまま、しばらく真っ直ぐに歩いた。
なるべく十五時より遅くはならない方がいいのですぐ引き返すが、
もうちょっとこうしていたい。
風が流れている。両足に絡む草の生命力のようなものを感じる。
接近によってしか強い印象を受けられないという法則だ。
無駄な足掻きをするための装置だ。
追跡されている、イメージ。
逃げている、ヴィジョン・・。

ナイルの源流にある秘密の泉は見つかるだろうか、
人間に美が認識できるのは、
それをたまに見た時か、遠くから見た時だというが、
水だけのグラスに氷水を注ぐように、
立ち止まり、眼を開けた。

日暮れを控えた青海の強くなった緑と、
オレンジ色のグラデーション。
空気は音楽のように軽やかに澄み渡っていて、
クライマーズハイかも知れないが見るものすべてが美しい。
触手のように、分裂する、草の海は膝までの深さで、
形式はつねに形式以上のものとして、増殖する。
自然は、多様性から力を引き出している。
言葉や想いというのは消えるが、書けるものを残す。
安価で粗悪なものと引き換えにしない努力がレトリックや、
描写法なのだ。それが滞在許可証でもある。
綾なす光線の中を三時の方角から七時の方角へと、
風が吹き抜けて、その向こうには丘の稜線と、
彼方に遠のいて形骸化したような政令指定都市になれない、
街の姿がある。
もう既に夕焼けた空には遠い星々の輝きが、
音符のように見えてくる頂上、
夜は夜の中で鍵穴のように痩せた自由を見つけるのだろう。
影を見た。この閉塞した回路に。
それは小鳥に催眠術をかけている大蛇の魔力というのだろうか、
それは、旅立ちたい心の影だ。
引き返した頭上に、大きな鴉が飛び立つのが見えた。


  *



290








ペイン


ひくく、うごかない、
ぼくらのセカイに、
ソウゾウできるものがふえ、
ダイタイカノウなコンテンツが、
ふえたよ。

どうしたんですかと、
ないていることをおしえられて、
はずかしいのだか、
なんなのかわからないまま、
あつくなるのをかんじた。

ねえ、キミはどうしてる、
いつか、ヨルがぬりつぶしたコエも。

「ホシゾラ」も「ホタル」もない、
「ハナビ」もない、
「ドキドキ」もない、
それでもすくいのイド、
それでもハートをもったナニカ。

アンニュイなまなざしで、
ガッコウセイカツをオモった。


けしてとどかないもの、
けしてふれられないもの、
つよくつよくおもった。

キオクをたもって、
コトバをわすれて、
オモイはすりきれる、
それでいいというほど、
つよくもないし、
それでいいというほど、
よわくもなれない。

こんなんでいいのかよっておもうけど、
なにいえるのかもわからない、
こんなんじゃだめだよっていってるみる、
だけど、ずいぶんと、とおい、このバショ。

「コタエ」もないし、「キボウ」もない、
「ジョウネツ」もさらさらさ、
さめちまってんのさ、
くるとこまできちまってんのさ、
それでもマエにススむ、
オロかだから、ウシロなんてみない。
みないよ、バカのフリして。



  *


289







smell of rain




雨だ。

真っ白な怪物がいる、
真っ黒な怪物もいる。

暗い静かな扉と、
明るくるてうるさい扉がある。

誰かを好きになったら彼氏がいて、
そしてフラれた彼女を慰めて、
でもこんな姑息じゃいけないって、
でもまだチャンスあるかもって思ってる間に、
違う彼氏ができて失恋して。

路上ですれ違う人々の誰もが、
純然たる選択の結果に思えてくる、
交差点が見えてきた、
横断歩道を渡る。

雨は隠れた性格をおもてへひきだし、
答えのない夜へ連れてゆく。



  *


288








Interest-based



休日の喫茶店。
―――教え子が入って来るのが見え、
席を立ちたいが、
眠気にゆっくりと塗りつぶされていく意識の中で、
「先生の足、マジヤバいんだよ、
キュウリが二本三本入りそうでさあ」
河童じゃないです。
コーヒーに顔をうずめながら聞く。
もっと詳しく。
潜入捜査開始、
座り聞き、障子の穴としての人格が芽生える。
「二十八歳のメスの生足の煽情性」
二十八歳。メスではないけど、まあ、
肉便器とか、アヘ顔ダブルピースとか、
そういう分かり易さで言われなければ許せる。
そう言いたくなるお年頃。
やりたい盛りの若さはスポーツで発散、
そうでないと少年院へ直行する。
ヒールのカツカツした足音が聞こえ、
レジへ行き、強くボタンを押す音。
鼻息の荒さ。
「もう白いカルピス社祭りよ」
白い恋人みたいに言うな。
馬鹿な教え子の馬鹿な発言にウケそうになる。
「写真も動画もあるぜ」
教科書や参考書もあるぜ、
頭につみたての葉っぱをのせたタヌキのようにな、
ということなら若者らしくない。
エキサイト本も、発情期熱中症本もあるぜ、
という具合だ。ネトウヨ御用達のボキャブラリー。
充血しちまったぜー、
物音のひとつひとつを追いかけていると、
コーヒーの豆を挽く音や、フォークやスプーン、
エアコンディショナーの音も聞こえる。
何だか水族館でボウーッと時間を過ごすのに似ていた。
人疲れには水族館がいい。
「―――」
間が置かれる。
焦れる。
「でもさ、」
蒸れる。
教え子の向かいに座っているのは、
誰かはわからないが、違うクラスの生徒だろうか。
それともゲーム仲間とか、だろうか。
「―――」
ちょっと長い間。
でもさ、どうした。
エゴサ、みたいに言うな。
「その先生、美人だな」
「とぼけちゃって」
何がとぼけちゃって、なんだ。
どういう接続なんだ、それ。
不細工ってことか、先生ならみんな舘ひろし、
五木ぴろきってことか、そうなのか、
そうなんだな。
「その先生、エロいな」
「及第点だな」
点数メーカー君、次の物理のテスト、
大幅に減点するよ、及第点にもならないわね、
言ってやりたい。
「―――」
間がある。
はやく喋れ。
はやく喋れ。
「でも先生、恋人いるのかって聞くと、
アメリカ人の性犯罪者じゃないからって言うんだぜー」
言うだろう、教育を馬鹿にするな。
漫画で教師と生徒が一糸まとわぬ姿で、
身体を重なり合っていてもいいが、
リアルでそれをやったら懲戒免職。
教育者の資質なし。
コーヒーを飲む音、何かを食べる音、
それから席を立った。
会計を済ませ喫茶店を出ようとしたところで、
お釣りの小銭を地面にぶちまけてしまった。
誰かが助けてくれる。
ありがとうと言おうとしたら、
ニヤニヤした生徒がいた。
「せんせえ、嬉しかった? 嬉しかった?」
察知する、呑み込む。
聞こえるように喋ってやがったか、この子。
頭を小突いたあと、
スマホの写真を見せろというと、
動物園の麒麟が写っていた。
向かいの席の子も、反応に困ったろう。
やられた。


  *


287







Even if something disappears,
let's continue to think of it as something important.




黒猫は軒下の風鈴をわけもなく鳴らした。
何年振りだろう、
上質なカシミヤの手触り、
言葉を祈るように、待つ。

メープルシロップの香りが何故かした。
黒猫は前には、メロン臭をさせていた。
瓦礫の道、商店街、海辺、見知らぬ家、
雨宿りした車の中で出くわした白猫の話。
黒猫は一時間も喋り続け、
コーンスープと、高級猫缶を所望し、
いささかのボディータッチで腹部に指を入れ、
顔を舐め、毛づくろいしたあと、
ぐるりと宙で回転すると、
寸分たがわず元の位置へと着地した。
「さらば」と言った。

真夜中を、忘れたくない。
また会えるのかと聞くのを躊躇う、
スパンが同じならば、高齢か、死を迎える。
命の摂理なんだ。
よそ見をして、転ぶなよと言いながら、
いつのまにか尻尾を追いかけている。
鋭い爪も、跳躍力も、
独り言のような黒猫の存在をあらわすキーワード、
でもそれはつまるところ終の棲家を見つけられない、
うまく終えられないことがある、
黒猫の自由な旅の行方と、
いずれの日かのチェックメイト。

黒猫は「ついてくるなよ」と言った。
咽頭を鳴らす低い音。
世界を呪う陰気な唸り声。
言いながら、何度か後ろを振り返った。
肩から背中のシルエットが何故か印象に残った。
長い尾が立っていた。
十分ほど、手探りの、散歩は続いた。
蚊や蠅のような人間だなと思われているのだろう。
夜が途切れたように、
しなやかに動く黒い影は、
狭い路地を駆け抜けた。
壁に挟まれた道幅は狭すぎた。
黒猫は夜空へと帰った、
月の見えない夜だった。
無言だった。生まれてはじめて、
夜の正体を知ったような気がした。
だから月に届くほどの長い望遠鏡が、
本当に必要だと思った。

さよならの代わりに雨音がして、
濡れたせいか、風邪で会社を休み、
病院へ行くと肺炎をこじらせていると言われた。
しかし医者の言葉も、
家族の言葉も、聞こえない。
ゆうべの出来事はすべて夢だったのではないか。
ベットから天井の一点を見つめながら思う。
もう一人の自分が言う。
家のすぐ近くのバス停のベンチから、
記憶の混乱や現実逃避的な夢の続きのように、
思えて仕方ない。
古い白黒映画の台詞みたいだ。
あれは夢だった、そう考えた方が安心できるのだ。
わけのわからない出来事が、
自分の身に起こったのだと思うよりも、はるかに。
強い雨音のような拍手の向こう側に幕が下りて、
あの小さな黒猫が、
生の意味を探している。

一体何が違うんだろう、
時々本当にそう思うことがある、
悲しい?
そう言ったら、消しゴムみたいな、黒猫の足音がした、
誰もいない、いつもそうだ、きっとそうだ、
心に思うことは花が散るように消えてしまう。
もう存在していないと思う、
あの道路で黒猫の死体を手厚く葬ったことがある、
赤く染まった手の汚さも、穢れも、
僕には生きる苦しさのように思えた、あの夏から。


  *



286







「今日の授業でわからなかったところは、
ありますか?」

キタキツネが屁をし、象が椅子を潰した。
オオカミは出前のメニュー片手に、
椅子の背もたれにふんぞり返っていた。

二一二一年のトップニュースは、
こちら。
「ワンワン」
「あ、翻訳機つけてね」
いけね、というその仕草が大変可愛らしく、
普段からがり勉とからかわれてきた、
彼は注目の的でした。

人間と動物の垣根をなくし、
対等な関係を築いていくべきではないか、
という裏には政府の遺伝子実験の思惑もあり、
十年後には宇宙戦争の兵隊要員と揶揄されていますが、
動物愛護団体には好評です。
「動物たちが、人間のように生きる権利は、
これまで幾度となく考えられてきました。
ヴィーガンしかり、密猟しかり、です。
生きている時代に、
賢い動物たちと話せるなんて」と話す人もいます。
ただ、教員たちの生傷は絶えないようです。
命がけですものね。


   *


285








大食い大会



大食い、それは吐き気を必死に堪え、意識が途切れながら、
口の中に詰め込むウェイクアップ、
(おいおい、それっぱかしでギブかよ!)
(それなら俺だって食えるぞ、きばれや!)
―――愛は容赦ない鞭撻、愛の鞭っていうか無茶ぶり。
大蛇のように呑み込む。
胃袋はブラックホールに繋がっている。
わけもなく、がけ崩れ起こす体内。
周囲の出場者を見る、腹をすかせた動物という風には見えない、
遊びで狩りをするというライオンみたいな嬲りもない。
スペースキーのようなテーブルが革命を起こすわけもない、
中身がない、空っぽになりたい、無心だ、いやブッダだ、
キリストだ、マハラジャだ、モンキーだ、
猿の一つ覚えだ、馬鹿と煙だ、高いところに新興宗教の詐欺師列伝だ、
考えるな、いや無理ですよ、考えろ、いや考えたくない、
すげえ膨張する腹部は赤ん坊が生まれそうだ、
割れる割れないかのギリギリのところに針をおしあてている、
緊張の一瞬をいまかいまかと待つ風船だ、
新しい生命、そしてET、エイリアンが食い破るまでの軌跡。
口の中にもう一つの口があるんですよ、ドヤァ(?)
テーブルがある、店である、眼の前には山のように積まれた皿と、
―――平坦な空間では、二つの点のあいだの最短距離、
いわゆる「測地線」は直線となる。
曲がった空間でも、やはり測地線は二点の最短距離と定義できるが、
その経路は必ずしも直線にみえない。
・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
だから何?
だから蟹(?)
「なんだこれ(認識不可能)」
(袋小路です、行き止まりです、見ないでください、見るな!)
「なんだこれ(モザイクかけられて認識不可能)」
(それは精神衛生上悪いので、STOPさせていただいています、
もう少しご気分がすぐれてから見た方がよいのではないですか?)
右へ左へうねりだす、座りながらのダンスモーション、
お腹は減らない、もちろんそれで隙間というかゆとりが出来るわけもない、
言い聞かせているの別の言い方、何とかしなくちゃの行動のあらわれ、
けれども、観客たちのコロシアム的殺人劇を見る生贄思想の眼が、
ちょうど尾崎豊を見ているファンの眼のようで、ちょーこわい、
―――それが失われた希望のように、
船が転覆寸前だったこと、大食いをしている、何月何日、
何時開始です、ゆるい格好をしてきてくださいね、気軽に参加してくださいね、
そう言っていたじゃないか怒りを募らせ、
訂正する、言っていましたよねと懐疑と不安(?)
最初の目的、途中からわけのわからない競争心、最終的に面倒な葛藤、
その場限りの気ままな戯れのほしいままに好き勝手言う観客、
食道破裂の拷問をどうしても見たいらしい。
眼客にわからないように舌打ちするのも難しいとかいう舞台裏、
天に唾吐いて顔にかかる太宰治。
やらしお(?)
ていうか、やらしお(?)
“過不足なく均衡のとれた豊かさのあるジパング”で、
美味しいものが美味しくないものに変わってゆく。
昔、ある女の子が言っていたね、男性の食べる姿ってセクシーだよ、
きっと性的なものに見えていたんだろうね、じゃあ今はどう?
幻滅したかい(?)
何も食べないと胃が縮むので量が入らなくなる、これ基本だよね、
水で膨らませるのは駄目。
あと、噛んじゃ駄目、もう一回いうよ、くあんじゃらめえええ(?)
ってそういうことじゃないよ、幼女なの?
あのね、満腹中枢がすぐさま、もう藪から相撲力士の大群ね、
お腹いっぱい、ポンポン痛い、もうやだ、幼児なの?
味がしない、といって、コロナの後遺症じゃない、
ホバークラフト乗って、競輪仕様のそいつに載って、
ほんのちょっとばかしジムで身体を傷めつけてきただけのこと。
味を認識できないほど、精神が荒廃している。
「何故食べるのか?」は、動物的な問い掛けだ。
「エネルギーを作り出す必要があるからだ」は、人間的な答え方だ。
といって人間の腹部は豚の貯金箱のようなものではない、
食道破裂する、窒息死だってする、そんな命を賭けた馬鹿な戦い。
同情心のない者には、つねに滑稽で軽蔑すべき対象のように見えるから。
賞金だってない、限界を超えたいって超カッコいいです、
ですです(?)
ただ限界を超えた限界は、すなわちただ、やみくもに、ありていに、死ぬだけ、
美しい、鬱くしい、ヒイヒイハアハア、
フウフウラララア、生まれる(?)
途中からインド人のように手で食べていた、ライス、素手、パン、素手、
ラーメンちょっと待て、素手じゃないよ素手じゃないハンドじゃない、
レッドカードじゃないイエローカードじゃないアメリカンエキスプレスで(?)
でも、箸という言葉が思い浮かばない四苦八苦。
天井の照明器具が催眠効果を発動している(としか思えない、)
むしゃむしゃとかいう食べる音が、
段々漫画やアニメのように思えてきて仕方ない。
もう見たくないんだあああああああ、
とか言いながら皿を投げて叫び倒して荒野を一人走り抜けたい、昼下がり、
宇宙から来たドアを閉めるよ(?)
人間的でありたいと思う人間が、
どうしてこうまで非人間的なことを繰り広げなければならないのか、
悲劇だ!
鰐のように涎が抑えきれない、眠気がする、限界はとうに超えている、
変な汗が出てきて視界の窓枠を酩酊時のように揺すり、
さっきから咽喉の奥から変な笛の音のような奇声が聞こえる、
笑いたいのか泣きたいのか怒りたいのか感情さえ麻痺している表情、
身体がぐらりと傾いてテーブルに倒れ込み、
山のように積み上げられた塔がガラガラと崩れる、
“愚か者の塔”と名付けることを忘れない、キリッ(?)
ストップウォッチが押された頃には床へと崩れ落ちていた、
その頃、夢の中で亡くなった祖母と父に挨拶をしていた。
「モンマルトルの丘だよ」と祖母が言い、
「もののけ姫だよな」と父が言った。
そしてかもちゃんが、自分も出たかったダロと言っていた、
すぐに変わろう、バトンタッチしよう、って、ここ何処だ(?)
仰向けになった拍子に髪が口の中へ入っていたらしい、
でもさ、しゅっさいシャー(?)
気付け薬がわりのつもりだったらしいウォッカは間違っている、
なんか、心臓マッサージもしたらしいじゃない、
面白い(?)
僕は隣の出場者の女性の頭を食べようとしていたらしい。
ソフトエロも忘れず胸を揉んでいたらしい、
へっへー、得しちゃったな、顔全然好みじゃなかったけどー(?)
通常ならこんなハプニング絶対逃さない、逃さないったら逃さない、
「もうね、後頭部見た瞬間からビフテキって見えていたぜ(?)」
なんだけど、そんなの言えないよ、言えない言えない、
目覚めた時には記憶というものがとぎれとぎれで、
失語症に陥っていた(?)
中には記憶喪失という者もいたらしい、
それ以来、本当にそれ以来、大食いという言葉を聞くたびに、
思考停止する癖が身に付きました、アハッ(?)


  *


284







たぬきさん、たぬきさん、
放送禁止用語って、
知っていますか?


へへへ、奥さん、
ここにね、
すごいやらしい薬、
があるんですよ。
旦那さん、野生の獣、
ケダモノになる、
納豆おくらトロロのサンシュの、
ねばねば神器、そして、
クワタケイスケ叫ぶメイギ、ィ(?)
あざらし、まむし、精力の、
つくものこれでもか、
と詰め込みパック、
もう品質は真空パック、
使いやすい折りたたみの、
パック、
奥さん後ろからのバッグ。


  *

283








It's a new era


説明は時間の流れが作中時間から離れるために、
密度の濃い描写によって一定の効果を与えられるけれど、
反面急速に臨場感が失われてゆく、絶望的なほどに、だ。

対空ミサイルみたいな叫び声も、
突如生まれた異次元の穴でさえも、
考証や理屈なしに浮かび上がっては来ない。
きっと「説明」とかいう四角い箱が、
特徴や、個性以上に、
反抗や屈折をも内包する文化思想があるのだ。
だから「説明」の中には何が入っているかわからない。

情報や知識は移転によってこそその力を発揮する。
大小のインストラクション、
レパートリーがあり、カウンターがあり、
それを移転するためのパレットがいろいろ動く。
いつか「情報の建築物」が見えてきたろう、
何もかもがプログラムなんだよ、
号令から数秒のタイムラグを経て、
インストラクションベイビーが生まれるのさ。
わからない?
ちょっと大丈夫、ついてける?

いいえ、そう書いたのは荒らし。
在宅ワークさながらに二十四時間凄腕の荒らし。
人の迷惑をまったく考えていない、
様々な人に挑発しまくり喧嘩売りまくり、
法律問題を難なくクリアしてきたラッキーな荒らし。

頭が痛くなくても頭痛は起こせる魔法みたいに、
その文章の羅列によって誤植がいっぱいの、
観察対象と相互作用を得る、
演技のノウハウではないけれど口に出してみる、
声をキャラクターに合わせてみるというのがある、
少しの失望と、予想通りであったことへの納得感とが、
入り混じった溜息のあとに読み返しながら、
適切な工夫が稲妻のようにすばしこく、
魔法仕掛けの絡繰りを作る。

でも、生物は負のエントロピーを食べている、
しかし情報生命体としての秩序をつくり、
これを維持させたり代謝させたりして、
無秩序すなわちエントロピーの増大を拒否している。
秩序とは保守的、頽廃的であると同義だけれど、
生きている生物体の空間的境界の内部でおこる、
時間空間的な現象のあらわれだ。
ラウドスピーカーが導き出した声も。

応答せよでドアを蹴破って建物を全壊させてみたい、
その一瞬で神の懐に飛びいる、
VRゴーグルなんかなくても、偉大で自由な自然な営み、
そこへと吸い上げられてゆく。
それは理解能力に支えられた火宅から逃れるようなこと。
昨日や今日や明日。
世界や宇宙。
そんなものを知らなかった子供の頃、物心つく前に戻って、
表情を忘れた檻の中で本物の自由について考えてみたい。
その質問が終わって、人間であることが問題となる、
いや、実のところその逆なのかも知れない。
隣の星をすりぬけて、併行世界の道を渡り歩きながら、
いまが生まれているこの一瞬を刮目せよ。


  *

282






殴る


殴る、着ぐるみの中で、頭に剣山が刺さっても、カッターナイフや鋏が刺さっても、
血が流れない。ロボット。アンドロイド。拳を相手の鼻めがけて振りぬいた時、
鼻血が流れるまですべてはデフォルメされている。
強調された腕力がマンモスを引きずっても、それで、殴ることはできない。
誇張された百戦錬磨具合でも、地球を壊すことはできない。
表情も終始変わらないポーカーフェイスでも、眉や瞳は動く、
息だってしなければ窒息死する、人間だからだ。
簡略化され、変形し、鬼殺しとなり、神殺しとなり、リーサルウェポンとなる、
でも、銃であっという間に死ぬだろう、鍛え上げられた鋼鉄の肉体も、
何の脅威にもならない、
それでも弾力や飛躍や刺激を求めて、
コンクリートに人型でめりこませたい、
破片が宙に舞い、砂埃を立たせたい、
それによって風が生まれて頬が切れてほしい、
殴る、鯨のどてっ腹に穴を開ける震撼の瞬間を刮目せよ、
殴るという行為のたびに血管が拡がり、汗腺が涎のように垂れ、
心拍数が跳ね上がっても伝説は続く、
真面目な考証など一つもない、趣は備えている、
けれどただの一つも人口に本来膾炙すべきリアリティを持っていない、
パンチ力をあげたいなら肩まで入れなくてはいけない、
叫び声も重要だ、静かに殴る、顔一つ変えないで殴る、
それは暴力ではなくイジメの類だろう、
デフォルメとはつまりイジメの現場を綺麗に表現したもの、
格闘漫画の真実を見抜いたあとで君は正しく漫画を読めるだろうか。
少女漫画ポエム系のぶりっ子で、
社会派を気取った青年小説は御託だけの産物、
嘘がいけないんじゃない、
嘘をよりよく理解しないのがいけない。


  *

281






デッドマンズ・ハンド
Dead man's hand


放課後、学校指定の鞄が、
こんなに猫の耳に見えたことはない。

うわすっげえ美少女とかいうことは抜きにして、
「時速百六十キロの赤い眼の怪物モスマンについて、
どう思いますか?」は結構キタ。色んな意味でキタ。

自動販売機は開いていて、
そこから異世界への入り口がある、

ところで指向性を持つ波や粒子の流れをビームと呼ぶ。
つまり電波もイッちゃったもオタク性も、
「最近知らない人に声をかけられたでしょ? それ、
この世の人じゃない可能性がアリマス」も、
つまり美少女天然ビーム。
それを受け続けて脳が狂うか、
それとも眼福なご拝顔を注視してよい権利を得るか、
声や息ともども、
百合するかを選ぶのが一種のこの難題。

それを「ユリシーズ」と呼ぶ。
だからきっとあなたは「百合子ちゃん」って言うのね。

彼女は、スポイトで雫垂らしたような綺麗な眼をしていて、
睫毛が長い、そして、今日も今日とて、
アメリカは陰謀国家で、日本は宇宙人とコニャニャチハする。

美少女すぎて学校の靴箱がラブレターでパンクした、
彼女はその時も、「指の間が水掻きになっていないかな」
と本気で言っていた。
みんな最初はキャラとか、設定とか思っていた。
だってキラキラした美少女、嘘もアクセサリーの一部、
そのイミテーションが宝石より美しい。
だけど少しずつわかってきた、
ラブレターはパンクしても、休み時間、昼休み、放課後、
彼女から一人ずつ離れていった、
半熟卵にナイフを入れるようなもの、
彼女は「モノホンのキチガイ」だった。

「うん、メアリーセレスト号見たよ、
あと、カンブリア紀の金属ボルトも―――」
と言いながら、じっと見つめられた瞬間、
こそばゆい、これはきっと恋なのだ。
濡れるパニックでスリルフルな延長戦の開始、
わたしは選ぶ、改造手術をしながら、
実は左眼には千里眼がある、
そして彼女の頭を撫でる、美しい、可愛い、
そしてわたしは彼女を誰にも渡さない。


  *


280






 ミッドナイトポリスメン


 ピッキングをしてドアを開けてから、素早くナイフを抜いて逆手に握り返してドカリと突き立
てるスタイリッシュな犯罪、車がないなら盗まなくちゃいけないよね特務課に配属されて厚い鉛
の壁を感じて久しいけれど数語を費やす必要のある作業をステーキハウスでチェーンソーを持ち
出すような具合で鉄板ごとテーブルごと鯵の干物して許されると思いますか店員が物を落として
静物画、そう、STOPモーション人物画、持ちあげられないダンベルが電子レンジの音と共に出て
きたろう、イモビライザー。キーに埋め込まれてるトランスポンダと呼ばれる発信機と車両のコ
ンピューターが持っているIDと照合して、それが一致しなければエンジン始動を許可しないのだ
が、ケーブルとコンピューターを高速起動、爆弾処理でもするように暗号鍵をぶち破るハッカー
仕様の接続の仕方をしてブレイクダウン、オセロゲームマインド、完全勝利なんてない完全敗北
なんてない、けれどもマイナスドライバーを小さな汚れた覗き窓へ無理矢理に滅茶苦茶にロック
オン、オウンゴール、口ごもった、罵りたかった、でも陰気に濁ってしまう超法規的措置という
言い訳が通用するこの理屈は異常な検挙率と両親が政治家だから、もっぱらは後者、痺れるよう
な感覚に涙が溢れそうになるのは感傷、市民を守りたい、人の力になりたいって胸を張った、大
して似合いもしない警察官の服装をだぼっとさせながら心がその隙間を埋めていた数年前の脳内
処理が追い付かないフィルムを逆送りするような溶解具合、何を見せられているんだ人間の罪を
見つけ出す仕事をしている側が、徐々に犯罪の密度を濃密化させ、足を踏み外し、溝に片足突っ
込んでいるハンドルロック、ブンと力任せに砕いてゴリラですか、てか何でアンタそんなに手慣
れてるんですか一度や二度じゃないもう絶対に十数回はやってやりましたよみたいなそういうタ
イムトライアル要素さえ感じるゲーム性のたまもの、静かな闇の中で息を殺しながら警報装置が
鳴らない秘密は無線スパイラルもう何を聞いても驚かないよ仕事しようぜ、ブレーキを握り、イ
グニッションボタン、さあおいで、クロード・ルルーシュのような映画のような雨が降っている
暗澹たる天気模様さながらの助手席で巨大な大腸のような夜の都会、ガラスに張られたスモーク
フィルムが暗中模索のただ中のようで洒落にならない人間を傍から眺めているような、ダッシュ
ボードに埋め込まれたカーステレオ、速度計、俯瞰しているような、どこかで蝋燭が消えたよう
な、もう予告編付きの三本立てでお腹いっぱいなのにこれからマフィアと血と肉と骨の麻薬的な
取引現場へファイナルアタックするところ、飴でからめられた深夜の二時、この新しい未知の感
情は絶対に好奇心じゃない揺らぎ、恐怖さえ覚える憂鬱と名付けたい記憶の中にきっとこの謎を
解く問題の鍵が隠されているらしいことに気付いたのはいいけれど光を、水溜まりを、流線型が
切り裂いてゆく時速百五十キロのジェットコースター畳みかけと感情の高まりによって速度を増
したまだまだ全然終わらないノンストップアクション、映画に撮影や撮り直しやスタッフがいる
ことがどんなに有難い救済装置か調和かと気付くほどにこの男の破廉恥な感触、警察ですよね、
同じ血の通った人間ですよね、真夜中、笑い声が響くエンジンルームの白熱、神経の末端じゃ恐
れと不安を感じても独断的な正義が蠅のようにとまっている、町が平和なのはいかれてる奴等が
いるからだぜ、考えればきっとなんだって変だぜ、ヘッドライトは小さいけれど確かな二つの鬼
火、思考の有限性と肉体の無力感の共鳴作用あじわいながら港の倉庫へ宇宙開闢の瞬間思い出し
ていたところ、てかどうでもいいけどさシートベルトだけはちゃんとしようぜ、しよう、お願い
だから、お願いしますよ部下からの一生の頼み、付き合わされる側に立ってよ、もっと思いやっ
てよだから長く続かないんだよ教育って大切すげえ大切。


  *


279








沙漠
desert


木も草も生えぬ沙漠があった。
南極も沙漠なんだということを思い出す、
降雨量が少ないところをそう呼ぶからなんだ、
別に雪に砂の成分が混じっているとか、
こじつけなくていい、口内に国旗と紙吹雪と桜吹雪でえ、
なめてやがるよな、
いっとくけど、楔のように的確な食い込みがあるからな、
あずまんが大王で高校生の頃打ち込んでいたものは何ですか、
―――楔!

大和絵見ていたら突如いきなりのモザイク具合。
沙紋に蛇が動く、昆虫が動く、
昔の詩人ならざっくざっくざっく、とかいう擬音を使う。
大正の詩人は病んでいる要素を持ち込みたがる、
でも貧しい、救いがない、暗くて愚か、
接点のボルトのつけどころがいつも底辺社会から見上げる。
いまは中流階級具合、
けれどそれがどんなに病んでいるかは別として、
ハードでタイト、こんな風に突然沙漠が生まれたりする。
よくあること、あのねすみません、よくあること、
ラノベ脳ではよくあること、
文明の中の足りない気持ちが沙漠を生み出すんですね、
したり顔のコメンテーター、鼻毛伸びてたらいい。
あと、眉毛ちょっと変だったらいい。
ね、うしおととらって、牛が虎と戦う話だよな、
俺にもわからない、読んだことないから、
いい加減なことを言い続ける、
エスカレーターでアキレス腱グッグッと伸ばすようにね、
見ようによっては陸上競技アピール、
これから百メートル走りますよ、
いっとくぜ、ここでね、
ハリーポッター、メキシコの詐欺師。
トムクルーズ、アメリカのナルシスト。
一着、ドラえもんのび太と、誰もいやがらねえ沙漠。

とにもかくにも、ああもう靴の裏の顔さらして、
沙紋はぐにゃぐにゃして、
いつかの蟻地獄のシーンを彷彿させる、
フンコロガシみたいな気分で。
コンビニゲームを放置プレイしているみたいな、
刻一刻の変化も予測される動き、
だからマトリックスのイナバウアーする、
誰も見ていないけれど、
見られていたらきっとこれは、
型の中のセメントのようにガチガチに固まってしまう。
旅は孤独な方がおかしくて楽しい。
上がってきたテンションが凄く邪魔、
下がってきたテンションが凄く邪魔、
―――帰りたい。

この場所には汪然たる憎悪を感じるけれど、
足を取られるよりは、
スパイ然とした格好で戦闘機に追いまくられる方が、
いくらか張り合いがありそうな気がする。
言ってくれるね。
言います言いますあのね言います、
それはきっとヒッチコックへの憧れの仕業、
ロングショット、
そしてズームイン、
さらさらとした、この沙はパウダー状で軽くて実体がなく、
誰かが裏に回ってプラグを抜いたら、
すべて消えてなくなってしまいそうな気がするんだ。
さらさら落ちてゆけよ腐海の地下空洞、
前述した理屈でいけば、これだって泡だ。
ね、ナウシカって大人びた女性で、
ああいう女性がパ ンチラしたら、したらですよ、したらね、
すごくいいんだ、これが。絶好のシャッターチャンス。
最高のドラマティックシチュエーション待つ。
―――馬鹿か、現実を観ろよ。

標識等の底についた錘のように、
目的や意志を選ばなかったら明日本当に死んでしまうだろう。
あんまり皆さんご存知ないようですがね、
沙漠研究家のわたしには、エッエッ、エーッ、
わかるんですよね、よね、
凪の時があるんです、この静かな静寂が七百年続きます、
七百年の孤独という小説を書きました、
パクリではありません、
確かにちょっと似たようなところはありますけど。
ってアホなことを考えている俺は絶好調。
世界平面説でいいから、
砂も水のようにさらさらこぼれおちていったらいい、
―――病んでいる。

モーメントは、ねじは、この色は波動のように伝わる、
悠久の時を歩く駱駝のこぶを水だという妄想をして、
オアシスは宗旨の違いで貴人の体を持ちながらも、
いささかも、ちっとも、忍んでいるけれど現れてくれなくて、
ナスカの地上絵とバミューダトライアングルがごっちゃになって、
判断および意識を面倒臭さを経由せずに、
行動に向けられるようなコンテクスト。
いまとなっちゃコンクリートに現れたベルメスの顔。
讃美歌みたいに謳う、ファティマ第三の秘密。
今年も又「店じまいセール」の旗を立てると、
沙漠の新しい一年が始まる。

砂の上に寝ころんでいた上体を起こして流れ星を見ている、
かたちの良い真っ白い手、
瞬いたものはいつだって白く光る。
砂の海の孤独と絶対零度の真夜中、
唯一の歓びは特別の意地悪さの恩寵の大星空だ、
一緒に旅をしていたのは誰だったのか、
もう何度目かの一週間が終わる、
ゴールデンゲート橋のワイヤロープのような張りつめ具合で考えるが、
いまじゃすりきれたネジに、
ハンマーをお見舞いしていた頃さえ懐かしいのさ、
UFOが飛ぶかも知れない、エクトプラズム起こすかも知れない、
魂の話をしよう、そう言って沙漠に「塊」の文字を書くよ、
しかしそれでも沙漠は終わらない。
え、なんでなんでなんで?
沙漠研究家のわたしにはわかるんですよね、エッ、エッ、
ヒヒーン、ワッ、また出てきた、
あれはブラックライト衛星、えいぜい、じゃないよ、えいせい、
地球外生命体が監視してるんですよね、
いいから出て来いよ、もう何でもいいから出て来いよ、
ね、沙漠の沙をひと掴みしたら、中身が溶けだした、
ぐにょりと、した、ズルズルに剥けていった、七百年間の孤独、
それはもういい、でも、あ、意識が、言葉が・・・・・・。
―――真っ暗だ。


  *


278







I wish we were together


資本が、
ビジネスモデルが何だ、
それが人間の芸術を、
蔑ろにする、
根拠になりうるのか、
喪失は欠落ではなく新たな扉だ。
労働は呪いだ、
でも煩悶や懊悩や憐憫の中じゃ、
新しい遊びが始まってる、
単純だけど難しい、
コンビニやアマゾン、
心理学や、コピーライト、
分析手法に、マーケティング、
一能一芸に達そうとして、
最後には第一義と信ずるものを、
探すんだ、
捕まえるんだ、
物語を語るように、
世界をよく見よう、
あるけれど見えないもの、
ないけれど見えるもの、
見つけることは、
得意なんだ。
不幸は蜜の味、
熟練もいなければ、
信念すらもない、
この時代の桐一葉なんだ、
少なくとも、
胸の中の小箱のなかに秘めたもの、
箱庭の楽園にした。
きっともう一人いる、
世界は自由に育つ才能を欲しがってる、
そして僕は物語の才能を欲しがってる。


   *


277







二人だけの距離
distance between just the two of us



多分、階段を上ったのだろう。
眼と眼の間に頻りに影を躍りかからせながら、
目盛りが一つずつ上がってゆく、
夏休み。
人の心を見通すような黒い瞳、
花火大会に誘うつもりだった、
ショッピングに出かけて海にも誘うつもりだった、
フライパンの中の油が急激に上がってゆく。
最後までちゃんと眼を通してみればいい。
水からあげた草がしおれるように、
必要事項、適切な無知からくる不安の一言。
何処で間違えた、
喜劇的現実の過剰、
それともこれはそっくりそのまま悲劇的現実の感情。
どうすればいいのかどこまでも正直に。
中庭の掃除の放課後、
歩道の割れ目から覗いている一本の草、
「いっとくけど、草にも感情はあるんだぜ」とか言いながら、
除草剤ほしいとか言って笑わせた。
火葬場の幽霊とか噂されているしみ、
見ようによってはロシアのおじさんかも知れない、
浮かび上がってきた、アメリカの芸術家。
意識の麻酔がかかるよ。
誰もちゃんとやってないよ、
適当にやればいいよ、
最近見ている大きな蜘蛛の巣もきっと彼女は見ないで、
レレレのおじさんになって、
長い夜と眠りで隔てられ、
心臓が咽喉がこみあげてくる妙な気分で。
眼に見えるような気がする、もう一度、
ぴくりとも動かなくなってしまった屋上の非常階段の前、
風が凪ぎ、吹奏楽部が鳴らしている、
空の表面に静かに寝息を孕ませるように、
何処かで救急車やパトカーの鳴き声が聞こえ、
グラウンドでは金属バットのカンとした響きが、
聞こえたかも知れない、
蝉の声もしていた?
濡れた紙のような剥がしにくい記憶、
怒っていた? どうだろう、
「掃除に来ないから呼びに来た」という一言には、
おそらく胃の底に穴が空いたような飢餓感がある、
一体箒を何度バットにして打ち返そうとしてきたと思う?
一体いつになったら過去はボールになってくれる?
彼女は「その人、誰?」とは言わないのだ、
黄昏のうすっぺらいヴァイオリンみたいな顔をしてる。
インパクトの瞬間、覚えてるんだよ、
どんなにバッティングセンターで打ち返しても、
ホームランのベルだかサイレンだかが鳴っても、
一番大切なことが抜け落ちている、
彼女は「呼びに来た」というわけだ。
物語は不幸なる閲歴、
語れば語るほど不幸になるんだって思えてくるほどに、さ。
といって何だよ、白状させたらいいじゃないか。
学校の門の前で見た時から、
隣の席になった時から。
嫉妬してるなら嫉妬してるでいいじゃないか、
いつも変なことを気にする、
白痴や狂人にでもなりたいような気がする、
頭を掻きむしって血でも流したいほどに、さ。
何百回も夜の寝床で考えたよ、
どうして来られなかったのかを見上げた瞬間から理解した、
でもきっともう女のことはきれいに忘れていた、
隣のクラスだとか、自分が地味であることとか、
大きな眼をしてるとか、モデルっぽい体型とか、
妖艶な媚び、
じゃあ何で来た、どろりとした眼つきには、
織り成す様々の影を形作りながら、
嫣然なる肢体、
時間の床が溶解する、
決して届かないという事実だけが、
失われたものという過去を決定する。
婉曲ながら適切に現わしている、
沈黙が下りる、
じゃあどうして「泣いたりする」んだよ、
どうして「何も言ってくれない」んだよ、
夏休みの本来あった予定の再更新もさせてくれないで、
避けまくってくるうえ、言い訳一つさせてくれない、
色を何段階濃くして、
もう何の話をしていたのかすら思い出せない、
いまじゃもう何だったのかあの女とすら思えてきている、
内部と外部の屈折がきわめて複雑になり、
客観がそのま主観になったら、
そこにいたのは、いて欲しいのは、
―――彼女だった。


  *


276







水族館


ラッコがいる。
唇をこころもち引き締め、
虎模様や。
パンダの模様の毛虫たち。
の。走査線。
違った。
捜査線。
放課後の昇降口で待ち伏せして、
声をかけようとして、
息を吸い込んだその瞬間。
ミスリード。
それから。
鳥の羽ばたき。
つづけた。
シロクマがいる。
仄黒い廊下の角、
デート向けの照明で、
二本足で立っている。
違う。懐旧の念とは、
取り返しのつかない喪失に、
ひたすら苦悩するように、
それは彼女が、
小さな公園で学んだこと、
教えたこと、
美しく口角を窪ませ。
ペンギンがいる。
踊る。
瞳が笑った。
もっと違う。
その場所でパンフレットが覗く、
ヘッドフォンンに中指をあてて、
何を今更、
水族館は賑やかである。


   *



275








女の子の部屋
girl's room


女の子の部屋ってお伽噺みたいだ。
結婚は墓場というなら、
そこに導火線のようなものはないのか、
とか急に参謀顔しつつ、
料理は大切、胃袋ね。
掃除は大切、トイレ綺麗だと何か違う。
僕は論理的だけど要点をまとめるのが実は得意、
分析も得意だけど、やっぱり断定が、ね。
でもね、女の子の部屋、
この空間カモフラージュこそが、
奴等の作戦、てか策略。
いいですか、男性諸君、
ホモンクルスしろ、
ホモゲナイザーしろ、
そうすると僕が腹を抱えて笑う、
でもね、何かいい匂いするじゃないですかあ、
コピーライターのこと鵜呑みしてそうな、
ファッション雑誌の言いなりで、
流行のったるかしてるような、
実にオシャレさって軽さじゃないですかあ、
サンキュッパじゃなかった、
イチキュッパじゃなかった、
でもなんかそんな感じのフィーリングでしょ、
となんで急に毒舌入った?
(彼女は、)「染められたい」んだ、
(あなたが、)「染められるかどうかは別」としてね。
でもね、女の子の部屋は生活、
僕の人生経験からいって、
願望でも、身の丈でも、理想でも、
なんでもいいですけど、あらやだわ、
そこに自分を投影してる、
ね、生活なんですよ。
男性は汚いし、綺麗だったら潔癖症だし、
スマートだったらホモゲナイザーですよ、
もうなんだったら、ホモレスキュー二十四時ですよ、
あのね、いっときますけど、
僕もホモンクルスですからね、
その筋では、いいえいいえ、その筋では。
まあいいや、
言いたいんだ言いたいんだ、
女の子ってヤバイんですよ、
全部いたるところ、そこかしこ、
美しさや可愛さを求めちゃう、
空間定着性、
女は家庭を守る番人だった、
門の外では違う顔をして、
家の中では別の人生や本当の自分を思い出したいんです。
それっぽいでしょ、こんなの占いの詐欺手法ですよ、
でもね、ちょっと思い当ったら、
それはあなたが女の子だからだ。
僕は断定が得意だ、
だけどね、僕の断定はそこらへんの馬鹿とふた味ぐらい違う、
なんでかって言ったら、
僕が心理学とか哲学とか持ち出す詐欺師ではなく、
生粋の占い師で、大抵のことを直感で引き出せるからですよ、
そういうものをぎゅっと詰め込む、
ほらどうでいどうでい、
無意識のうちに胎内回帰願望させる部屋、
虫の息の病室ではない自分の部屋を、終の棲家を、
箱庭の楽園を想像させる部屋、
あのですね、
地球儀はまわっていたんですよ、
地球のかわりにね。
世界はやっぱり丸かったんですよ、
表面上はね。


  *


274









身にまとわねばならない政治性
Politics that must be acquired




僕は僕のために、君は君のために、
人の心を見通す必要がある。
たとえ歯車が最後の動きをしても、
いずれ歯車は最初の位置にぴたりと停止する。

万人向けの正義が存在しないということは、
万人向けの悪は存在しないということだ。

つまり「正義」や「悪」というのが、
焦点の乱れそのもので、
ひとたびつつくと蜂の巣、
無数の蜘蛛の子が飛び出してくるようなもの。

主義や主張、色彩や立場の頃はわからなかった、
その現実や思想は、政治だ。
「他人が語るものであって」も、
「自分が夢見るものではない」もの。

政治のことを考えていると、
正義や悪というのが腐敗の状態ではないか、
病原菌に犯されている状態ではないか、
という考えが浮かんだ。

正義が光で、悪が闇。
窓を開ければ明るい、
窓を閉めれば暗い、
そんなどちらかの精神状態。
心理学的効果。
間違っていたら十字架、魔女の裁判。
生贄。正しかったら拍手喝采、銅像。
でもきっとそれは「洗脳」というのだ。

恐れずに言えば、
洞窟の中の蛇の巣か、
洞窟の中の財宝。
その境界線は暗い水のように揺れ、
その立ち位置は黒い鏡の謎めいた光。

「生活は続く」と言えなかった、
「生活を終えたかった」からだ。
人が正義や悪を欲したのは、
集団生活における規範で、
正当な罰、後ろ盾を欲したからだ、
それはいまや口の中に入り込み、
原始時代も現代生活の何処にも、
あてはまる冷笑を残して消えた。

「一人の正義」は中庸か、独りよがりか、叡智の微笑か。
「一人の悪」は乞食か、革命か、限りない沙漠の海か。


  *

273







Zoom down, zoom up


幻想的なまでに凪いだ水面そのものよりも、
何光年もの深さに映り込んでいる星の光。
無関心こそ人々を侵す病悪で最悪のもの、
だから―――。

ぎらぎらとまばゆく晴れ渡ったこの地獄をお見舞いするぜ、
霧が深い繊維になったら疑惑が常に事後の後をついてくる、
高圧プレス機で車を一枚の鉄板にしてしまう、
酔い心地のような青草の匂い放つ大通り、花の群れは緋色の焔に変わる、
黒い蝶の二十一グラム、まだ飛蝗の大量発生も見たことがない僕等に、
飛行機が与える皮を剥いた茹で卵のような感触。
あの時なんてないよ―――。

暗闇から出てきたばかりの「真夏の太陽のような真夜中」
鎌のように鋭く、網膜を突き破る、角膜を焼くぜ、
視神経を狂わせる電気を帯びた毛細血管を浮かび上がらせたこの街並み、
アンティキティラ島の機械。
表面的な形式ではなく、観念の改革。
―――表面上のモーションに牢獄の扉隠してる日々など。

若さが触れれば何もかも燃焼力、浸透してきて服や髪を染める、
ドキドキすることを探した、真っ暗な部屋の中に飽きたら、
真夜中の街を歩いた、スリルを求めて、息を殺して水滴を啜った、
この洞窟の中の影のように見える都市のもう一つの姿、
まだ見ぬロールシャッハテスト、五感を揺り起こして叩き起せよ、
歩き方も、見え方も変わる、波打ってゆく楽鳴るごとくクラクション、
赤い光が一筋と、ひぐらしの声。
二十世紀を黒の章にしたのなら、二十一世紀は弘法の筆。
響き渡った―――。

誰が作ったのかも知れないシチュエーションとともに、
幼く、いとけない表情を見せながら、一人歩道橋を渡った、
機械が予言した、セールスマン問題を量子した、
無くした旗も、永遠も自由も、下劣な白日の残忍な微笑、
隣人思想も、共同体思想も粉々に砕け散った後でも、
陽炎の買える街、蜃気楼を閉じ込めたブラウン管を売る世界、
椅子の足を蹴りつけよう、フライング・ヒューマノイド、
とりとめのない放心と虚脱感、「まだだ!」
まだ飲んでいないコーラ・・終わらせちゃいけないコーダ、
ムー大陸も、アトランティスも必然の型。
クールなラインの頬骨を皮膚病にしてフォルマリンの花咲かせる、
脳味噌だけが唯一の手掛かり。
カウントを始めるんだ、もうゼロから目盛りを動かす時。
身をよじれよ、ぽっかり空いた二つの窓から、
音のない記憶として頭の中にはっきりと残るモーメント、
バンバンとテーブルを叩いている酔っぱらいの姿、
頭の中が急にざわざわするこの感じが爆発する、
―――覚醒する。

急速に興奮が高まって錆びた鉄の味がする、命だ、
心臓が高鳴っているから喉の奥を締め上げる命だ、
息はせりあがって来る、命だ、他人と対立する、
野次馬がうねり、ルサンチマンが膨れ上がり、
シュプレヒコールが高まる、
耳を塞いでいちゃ前には進めない、そんなの知ってるんだ、
誰だって不安だ、みんな一緒だって言い聞かせてれば楽だ、
もう二度と帰ってこない昨日、
まだ見たことのない明日、
でも夜は逃がしてくれない、教科書や参考書にカリキュラム、
自由研究に卒業論文にフィールドワークきっと逃げちゃいけない、
その一瞬が人物を描き忘れた風景の中の化け物、
モンゴリアンデスワームを夢に見た夜、
急激に収縮し、瞳孔が拡張する、レンズの底に映った、
日に日に朽ちてゆく腐ってゆく都市のもう一つの姿。
一瞬開花見せた絶望と、
限りない希望で塗りたくったハレーション、
世界中が本当に夢見てる化け物が、
眼の前に現れるぜ、そいつは心の中に巣食っている、
極限的拡大、爆発的増殖、
痛みと鬱陶しさと甘えともどかしさ、生存権を拡大せよ、
弱者の淘汰を行え、文明が人間の進化に語り掛ける唯一無二の声、
お前の力で全部ぶっ壊してしまえ、あるべき姿を、
欠落を、心臓を、視界を、生とかいう生半可な不安定な状態を。
もう他人に語らせるなよ―――。



  *


272






some day
(「いつか」)


『時の止まった少女』

肩甲骨の辺りまで伸びた髪と一緒に振り返る。
キャンバスは潔癖な純白、
そこにいかにも固い石ころのような黒が忍び寄っていく。
たとえるなら赤外線カメラ、
そこにうごめく人間模様と朝が始まる。

三人は文殊の知恵とか管轄を超えている、
四人からは神聖な労力、麺麭を持つが如き労働。
とか言ったって、
土台をしっかりしていれば、話す訓練をすれば、
人付き合いを重ねればいつか段取りよく進む。

「(素晴らしい言葉、いつか―――)」

死やセクシュアリティ、欲望、他者とのつながり。
静かな眼の色をして、
スマートフォンの前の行為のように、
クイッと指先を動かす。
頭の中には速度の緩んできた独楽があって、
ビデオゲームの中を歩いているようなフィクションの中。
黒ひげ危機一髪だったら、
そろそろ黒ひげが飛び出してしまうところ。

拳があがって、鬨の声―――だ・・。
不安を与えるすべての痙攣を白昼夢のようにとらえて、
足取りふわふわあやしき開店準備、いらっしゃいませ、だ。

頭の中に地図を思い描くと、
マイノリティや、アイデンティティが浮かび上がる。
乗車率が二百パーセント超えるような具合で、
今日も地下ケーブルや電線、たこ足配線でぐちゃぐちゃの、
「わたし」にネジを巻いて、
束の間のメリーゴウラウンドを味わっている。

“おはよう”を黙って感じ取っていく、
“今日は元気”は根底に流れている祈り、嘘もなく。

内部空間に光を射す、
“明日”が、非業な死を遂げた亡者の一遍の廻向でも。
“未来”が、綺麗に刹那に忘れ去られてしまう知覚でも。

「役の交換」をしてみよう、
「他者の立場に想像的に身を置く」ことをしてみよう、
「言葉」を翻訳してみよう、
「世界中の言語であますことなく一瞬の美しさ」を表現してみよう。

綺麗な発音、綺麗な声、綺麗な肌、
綺麗な髪、綺麗な瞳。
顔の表面だけスッと表札に変わって、
全身何処か遠くに飛んでいってしまいたい症候群。
ロアノーク島集団失踪事件の始まりだ、
さあ、聖ヨゼフの螺旋階段の始まりだ。
っていつまで、続けるつもり?
いつまで、欺いて、誤魔化して、
緊張のあまり顔の皮膚を強張らせ、砂でも貼り付けているつもり?

足掻いてみよう、藻掻いてみよう、
いつかあなたが言ってくれたように、
「人と違うこと、苦手なことを克服することは、
それによって、もっと素晴らしい人間になれるチャンスを得るから」

視覚的に捉え難い「光」を可視化しようとした、
眼には見えないけれど、
「太陽から確かに届いている紫外光」を―――。


  *


271





summer 
photography



昼寝して、お弁当食べて、
オーマイゴッドフィンガーな、
モザイクかけたい、
他愛ない夏の一日が終わる。
迷い子の蝉、
波に打ち上げられた麦藁帽子。

うまくシミュレートできなくても、
ケースバイケースは続くの。

でも心の中には、
もっと何か美しいもの一杯あった、
フリーダムな、ディフェンス、
その日には満ちていた。
狡いなあ。

家に帰ったらカレーライス、
金曜日はいつもカレーライス、
好きだけど美味しいけど、
アマゾンにね、急いでお願いしたい、
刺激的な人生、
ウーバーイーツですぐ届けて欲しい、
白い包帯頭に巻くから。

けれど美しいものはロイド眼鏡した、
ジョンレノンが教えてくれた、
イマジンは結局何でもないから、
美しいに違いないということ。

砂浜は何万粒もある、
その中にダイヤモンドが紛れていてもわからない、
って言おうにも相手はいない、
印象論レベルの文明群像劇、
少女漫画じゃ繊細な描写をキメてくれる、
バキバキのベキベキで。

ぴなこらーだ、はないし、
びーちぱらそる、もないし、
びーちべっど、もない。
ないないづくしで、
事故で処理されるレベルの案件。
思わずシャッターを切られたよね。

スプラッシュマウンテンごっこ、
ナスカの地上絵ごっこ。

アンチというかカウンターというか、
横隔膜おさえてポーズ決めてパチリ、
手を頬にあててパチリ、
ピースサインしながらパチリ。
中国式モデルは一分間で、
ポーズを変え続ける。
たおぱおがーるず。
一日で十六万稼ぐ人もいるらしい。
すごいなあ。

あたしは朝に食べ残したパンが、
テーブルにあるのを蟻のような眼で見ながら、
電子レンジに入れるのも面倒くさくて、
その上にジャムぬっけて食べるシーン。
粥状のコンフレーク。
ぬるみきってよどんだ味噌汁パターンもある。
締まらないけどしょうがない。
しょうがないから締まらないでいてあげてるの。

あたしのヒーローは、ココ・ロシャで、
ふしゃーっ、と両手上げて、片足あげてた。
あんなの見せられたら、
チョーカッコいいと想っちゃう。
ココ・ロシャ先生なら、
きっと食べ残したパンも格好よく食べる。
踊ります?
そんな感じだ。
食べ残しのパンサイコー。
言わないと思うけど。

髪が少しずつ伸びて、
ショート、ボブ、セミロングを経て、
最終的にはロングヘアーになった、
シンデレラストーリーは友達との夏に消えそうだ。
親切、気遣い、感じがよい、
とかいう、優しい人の罠、
スポットライトが、もうすごいことになって、
ハウルの城がありえないほど動いてる。
ラピュタも見えたよね、
トトロもいた。

濡れた犬はぶるぶると水を振るい落す、
シャワーシーンはこれから、
何にもない言葉の意味の重さ、軽さ、
そのどちらとも計りかねて、忠実に、
心静かに、見開いた眼を空に向ける。

少女は子供から、
大人になる、とか考えて、
真っ赤になる、
馬鹿だなあ。
馬鹿なもんだよ、
でもそれを認められないから、
意地を張ることから下りられない。

簡単なことじゃないよ、覚悟がいる、
失ったものに釣り合いを保とうとさせる努力、
星は背伸びをしなくちゃ届かないし、
混ぜすぎた絵具はどんなに溶いても、
美しくはならないから。
ナウシカがキツネリスのテトを手なずけるの、
波、夕暮れ、真っ赤、おお!

まったく何の意味もない、
だから意味はあるのか、いいえまったく何の意味もない、
少女は大人に一歩すすんで、二歩下がる。
ぶれいくだうん!

  *


270









gap between civilizations


生物が捕食者の目を眩ませる「擬態」は、
「迷彩」という戦争技術の着想源となった。

ファインダーには、
都市の高層ビル群を映し出す時、
現実の次元から虚構の次元がたちあがる、
横が狭くて縦に長いゲートの空間が示されるように、
ピアニストの指が置かれる白い鍵盤が見えてくる、
このスタイリッシュな煙突帯は、
カモフラージュされた現代の樹木のようなもの、
世界の寸法をはかるのに欠かせないものだ。
差異を塗り潰して同化を強いていく、
繁栄とはいいながら、
抑圧的な構造それ自体の可視化―――。

きっと最初はそうではなかったのに、
一本一本と増えてゆくごとに、
反復強迫的な強度が高まってゆき、
それは繰り返されてしまう理不尽な暴力への怒りであり、
そのような状況や権力関係に対する疑問や抵抗を、
不可能にしてしまう無知や情報統制への怒りであり、
ルサンチマンである時、
卒塔婆とか墓標というイメージが定着する。
立体視になる、二重化され、生成される、
「振る舞い」と「状況」がふと浮かぶ。
たとえば演劇の舞台と観客の座席とが一体化し、
出演者らしき人々も、スタッフも、
演出家も、カメラも、なんの法則もなく、
自由意志によって上下左右に移動している、
退屈をしている暇がない・・・。

子供達の無垢な姿を撮影する時、
失われた時代へのあこがれが強くなるのは何故だろう。
フレームワークを用意して、
その軸に五感や、季節や温度を当てはめてゆく。
高低差が富士山より低いということ、たとえばそれは秋、
朝の水滴が残っていずれ白い息となるのを控えている。
豊かな精神世界を、より身近に俯瞰できるように、
ビルディングの要素を並べてみる。
たとえばビルと敷き詰められた石、
自動ドアから見える受付、
適応してきたか、
侵食されてきたか、
洗脳されてきたか、
会社の由縁でもあるような樹木、
現代人が抱えている孤独に対するメタファーのような、
何の変哲もない自動販売機、
昼寝をするのに良さそうな公園、
腕組みしている白髪の老人・・・・・・。

箱庭的世界の所有と管理、
そこには登場人物がいる。
登場人物に投影されてゆくシナリオが強ければ強いほど、
遊離感が強くなり、もはや引き起こす想像から、
向けられた視線から逃げることしかできない。
妄想的に相手の思惑を決めつけても、
過去の類似事例の経験則にすぎないことを、
君も知ってゆく。
奇妙な後味を残す、ルース・ファン・ビーク。
動物の脂身や骨のようにはいかない、
この荒廃には意味がある。
バッハの平均律みたいなものだ。
ややもすると忘れてしまう自己充足的なものの中の異物。
痛みだ。蓆をまくれば濡れた灰、木乃伊になりそうな、
発動機会へのアプローチ。

この感じを出せないものかとずっと思っていた、
きっと、それ以外の条件がまだ十分には揃っていなかった。
幾何学と同じように正確に事実を表わしたい、
飽きるということがなければ常に新しい発見がある。

それがただそれだけでなく、もっと深い気分で書かれた。
即ちそこに暗示の目的がある。
流れる時間とは無関係な世界に留まっているという時、
この暗示はただ一つの概念を描いたもので、
すぐその物、その行、その言葉が発散する暗示になっていない、
そのことで通りの騒音も、ニュースのピックアップも消える。
カモフラージュされてゆく、
カモフラージュされてゆく、
カモフラージュされてゆく。

長方形のビルが燃える焔のように揺らいで、
青みを帯びてぞっとするほどの凄みがあるだろう、
水面の波紋のように揺らいで見えたら、
超音波みたいな音が聞こえるだろう―――か。
雨上がりの街に虹の付け根が刺さっている文明。
二人の間に想像の皮膜が存在していることを、
確認するためのトレーニング。
像には無数の歪みが発生する、
「見え方」や「感じ方」は一つの契機にすぎない、
不都合なものの排除と隠蔽が常態化し、
もはや視認不可能になった日常の風景が見えてくる。
バス停に鳩がいても、
駅にピエロ姿の人がいても、
あなたは注視しない。
知識からはけっして生まれえぬ叡智の一瞬なのに、
いやにふわりとした寒天や真綿が詰まっている。
ねえ、まだそんなに経っていないはずなのに、
まるで夢のようじゃないか、と思う。
夢、あるいは本当にそうなのかも知れない。
誰も死んでいなくて、
誰も生きていないのかも知れない。


   *


269








How to prepare for terrorism in case of emergency


入国時の手荷物検査を拒否し刃物を振り回したテロリストを、
制圧するにはどうしたらいいだろう。
もちろん銃で撃たれる訓練もする必要があるし、
いざという時の防弾服。
とはいえ、軍隊、警察などで敵から武器を奪う訓練や、
高度な武術トレーニングを受けたことがない場合、
拳銃を向けられた時に一番安全な選択肢は、
犯人が言うことに従うことだ。
カット割りやフレーミングを意識してみよう、
風のように渡ってゆく声なき悲哀、
絶望の壮観、といったところか。
反撃はあくまでも最後の方法だ。
できるだけ従順で、協力的な姿勢を見せるといいだろう。
いざという時に不意をつく下地にもなる。
仮に護身術や、格闘技の経験があるとしても、
絶対に勝てるという保証は何処にもない。
失敗や破綻や損害が取り返しのつかないことになる。
能ある鷹は爪を隠していていいのだ。

異常事態というのは、
どのような権力や立場や腕力も頭脳もゼロとなることだ。
そこにおける在り方は、一瞬の隙をつくことだ。
何事もそうだけれど、確率を高めることだ。
警戒心が緩んでいる状態、武器を手から離すような状態なら、
相手を制圧する確率はグンと引きあがる。
このゲームは自分の命が最優先で、次に同じ立場の命、
最後にナイフや銃を持っている犯人の命だ。
犯人なんか死んでもいいという気持ちはわかる。
だが、誰も死ななければそれに越したことはない。
適切な状況で適切な判断という考えは棄てよう。
ある程度のミスやリスクは織り交ぜたクッション性のある戦略。
それだって、しなければいいということを肝に銘じよう。

また自己防衛で犯人を殺害した時は、
「危険を感じたので殺しました」とちゃんと言おう。
もし武術の心得があった場合、力加減を知っていたのではないか、
と法廷で問われることもある。
迂遠である、固陋である。
理不尽なことは枚挙にいとまがない。
仮に手錠をかけられても毅然とした態度を崩してはいけない。
逃げる際でも、財布を投げるとか、
履いている靴を別のところに投げるなどは有効だ。
気を逸らすというのは確率を上げることだからだ。
的は小さい方がいいが、これは雨と同じ理屈ではないか、
ゆっくり歩くのと走る場合でも殆ど変わらないとしても、
速く避難した方がいいだろう。

また犯人の目的が何であるのかを知らなくてはいけない、
これは最優先事項だろう。犯人の行動、
ナイフや銃があるならそれから眼を離さないようにしよう。
といっても判断が遅い、対処が遅い、間に合わない、
といった事態と紙一重だ。
必ず間違えた答えを返す電卓「Wrongulator」みたいなものだ。
もし殺人が目的なら、
悠長なことを言っている間に全員殺されることになる。
そこまでいってしまったら打つ手はその場に応じてしかないが、
その前なら、心理的に優位に立ち続ける方法がある。
犯人と目を合わせることが、それだ。
こうすることで、犯人はあなたのことを、
人として見るようになる。
その時、威嚇や反抗的な眼つきはいらない、
社会経験を思い出そう、
強い態度には出る釘がワンセットになっていて、
弱い態度には相手が増長することもある。
普通が一番難しい場面を思い出そう、
でもだからこそ普通が求められる場面がある。

さて、もしその場面がきたとする。
銃口を自分から犯人へスピンさせるとか、
銃を掴むなどの方法が求められるような時がきたとする。
つまり犯人が殺そうとしている場合なら、
一定の領域においての"教え"や暫定的な案に従わず、
心から信じるに足るのは生への執着や、死への抗いだ。
物を投げるのが正解かも知れない。
グループがいて、
そのグループで行動するのが正解かも知れない。
どんなことでも起こり得る。

パニックを起こさず、冷静に息を吸い、
落ち着いて物を考えられる状態か確かめることだ。
万全ではない、と思う。
今現在は加速装置が綺麗に噛み合ったことによる、奇跡的な安定だ。
そういう不完全な状態でも百パーセント以上が求められる。
そういう時には、状況を一つずつ分析してみることだ。
犯人と交渉をする機会があるなら、
犯人の顔の特徴を覚えるのも忘れてはいけない。

ところで爆発物を処理したりする場合、
ショベルカーで持ち上げて、
爆発物を冷却・冷凍させ現場から特科車輌を用いて運び出す。
映画やアニメでおなじみの設定ではあるけれど、
解体作業は爆発有効範囲から処理班以外のすべての者を撤去させ、
厳重に警戒しながら行う。
時限爆弾やブービートラップ式爆弾、
プラスチック爆薬など高度な技術が投入されている、
爆弾の解体にあたっては専門家の支援を仰ぐこともある。
刃物や拳銃は恐ろしいけれど、殺意のレベルで考えてみると、
爆弾というものはそれとは比較にはならない。
失敗は即死へと繋がるということは、
それを仕掛けた側にも相応の知識や経験というのがあるからだ。
ただ人を殺すことよりもはるかに凶悪だ。


   *


268







七夕


双方向性の次元間ゲートです、
息だけでそっと口笛を吹いて。
これを介することで基底宇宙の近傍に位置する他の、
並行宇宙への移動が可能です。
「タナバタ」
その繰り返し感、その選別感、その惰性感。
ワープ航行、アクロバティックに誇張された響き、
ネジの切れた蓄音機のようにそっと口にする。
「タナバタ、ハ、ロマンティック、ナ、日トイウ。
夏ノ、バレンタインデエ、ト、イウ」
「シュゴイ」
それは時空物理学より、
空想的で、寓話を必要とする。
しかし先を争って出る言葉は憧れ、ばかり。
演じている人は映されている人になる、
差異の局所性、位相の僅かなズレ。
「ハナビタイカイ、ドバドバチュドン、チュドンチュドン、
ズババン、マジンガーゼエエエエット、
デート、ショクジ、サイシュウテキニ、セクロス」
「シュゴイ」
睡眠時に夢を見る能力を付与するピーコンより、
長い胴体と長い脚が、
自然に重なり合う相対次元座標のズレよりも、
刺激的です。
吉祥天と仁王がポージングを決め合うタナバタ。
有効なエネルギーは痙攣を伴った事後の後。
吸収し、飽満し、透明になり、タナバタする。
「タンザク、ネガイゴト、ヒコボシ、オリヒメ、
ヤリダメスル、ヒ。ウワキシタ、コロシテヤル、
ウソ、スキスキ、コロシタイホドスキ。
コロス、アイシテル、ヤンデレ。タナバタ、マジック」
「シュゴイ」
日本の九割の女性はヤンキーであり、
その半分はヤンデレであるそうです。
オリヒメの末裔。
一夫多妻制や浮気や不倫を許さない倫理観は、
少子化をどうするつもりかわかりません。
子づくり、こっくりさん、それは、同じ意味です。
「ユカタ、ジョシコウセイ、セカイデイチバンサイキョ、
カワイイ、ナンデモデキル、インスタグラムノウ」
「シュゴイ」
だから歩きます、
姉妹たち―――と。
これから三年ほど現地にて、
潜伏調査があります。
大型油圧ブレーカ―の車ごと道頓堀に飛び込む。
タナバタのため。
「タナバタ、バタバタバタコサン、
タバコスイスギ、ハイガンタナボタサン」
「シュゴイ」
みんな興味津々です。
記録情報保安管理部門です。
みんな好奇心旺盛です。
タナバタ、それが合言葉。


   *


267







八重桜
double cherry blossoms


八重桜というのを初めて見ました。
八重桜の花は普通の桜より大きくて、
花弁が多く、重い感じがします。
梶井氏の桜はこれではないでしょうか?

八重桜の色は薄いピンクと、
濃いピンクの二種類あります。
桜の前には蒲公英、
そして鴬が啼いていました。
まるで心的構造のトポロジカルな結び目。

凋落と共に萎靡して、
「桜は恋の匂いだ」
といった髪をふわっと膨らませた、
睫毛の長い、ペンシルで眼元でくっきりと引いた、
クラスメートの恋愛脳の言葉が耳底に残り、
滑稽味を増して思い出され、
わたしは平均的、それとも内向的、
自己中心的、もしくは模範的?

いいえ、
これは眠りの匂い、運動感覚と平衡感覚、
心臓の鼓動や空腹などの胃腸の感覚、喉の渇きや尿意、
それは身体との関係における空虚の名前になる。
誇大に傾きがちな罰の匂い、選択の重要性、
誰も一人にはなりたくないのよ、
誰も一人になれないのだわ。

情の深い囁きが懐かしい、
いやしくも命ある間は、
遊んで暮らす法はない、
でも常に楽しい心が必要だわ。
陶器のように危なっかしい身体は、
ゴム製の西洋人形にはなれない。

「油断も隙もならない」の用例は、
江戸時代に大田全斎という儒学者が編纂した、
国語辞書『俚言集覧』(一七九七年以降成立)
にも掲載されていて、
現時点ではこれがもっとも古い例らしい。

素晴らしいです。
靴音が聴こえた。
本当に忘れない経験です。
擦り切れた布のような、
隙間だらけの雲が見える。
青はどんな色、
青は階段を伝って跳ね上がってゆく、
そのままこちらに伝わって来る。

いまは遠くにいる友達に、
写真ではなく言葉で伝えてみたいわ、
美が認識できるのは、それをたまに見た時か、
遠くから見た時とナボコフが書いてる、
信じられないほどの遠さ、
ありえないほどの距離―――を、
愛したい。

八重桜は桜よりも、
二週間も開花が遅い、
表面積を求めていたら奥行が発生していて、
ヒヤリとした風が冷たい春。
習慣からの惰性や、
強烈な経験によって築かれた、
シーンは後回しにして、
ルールやスタンスが嚙み合わなくても、
悠っくりと咲いてゆくのがいい、
何もすぐに枯れなくていい。


   *


266








 PC



 ハイブリッドワーク向けの社用PCを検討する際は、
 運用面についてもきちんと考えておく必要がある。
 もちろん「何もしていないのに壊れた」は“なし”である。
 
 パソコン初心者にありがちだけど、
 システムの不具合、怪しいメールを開いた、
 コンセントが抜けていてパソコンの電源が入らない、
 アプリを多く開いている、インストールした、
 アップデートしたなどが原因となるだろう―――か。
 
 ExcelやWordは無料で付いてくるおまけソフトという、
 認識だったりすると、
 パソコン買うのに家電量販店へ行く、
 (別に行ってもいいとは思うんだけどね、)
 フリーソフトが安全な物ばかりと思ってインストールして、
 同時にウィルスもちゃんとインストールしてる、
 ということもあるので要注意だ。
 こういう人がMac原理主義者になり、
 Windowsを敵視するクリエーター気取りになったりする。
 それは怖い。
  
 ともあれ、万が一の故障の際に、
 どんなサポートを提供しているかは重要だ。
 特に働く場所が従業員によって異なる状況では、
 不具合が発生した際に社内のIT部門に問い合わせ、
 出社して機材を渡し修理対応をする、
 という手順を踏むとそれだけでダウンタイムが延びる。

 話は変わるが、廉価なネットブックに、
 モバイル通信事業者の長期契約(報奨金)を組み合わせることで、
 実現したビジネスモデルの百円パソコンというのがあるが、
 中には僅か一円というものすら出現している。
 安いのがいけないというわけではないけれど、
 充実のサポートはやはり望めないだろう。

 パソコン修理業者に電話やメールという手もいいけれど、
 パソコンメーカーの修理対応で信用度を探るというのもある。
 同社のサービスセンターにセンドバックして修理する、
 「配送修理」
 ダイレクトショップなどの直営店で修理する、
 「持ち込み修理」
 オンサイト技術者が訪問して不具合部品などの交換を行う、
 「出張修理」
 そしてユーザー自身が保守パーツを受け取って修理を行う、
 「部品発送サービス」などがある。
 このうち、持ち込みはオフィスの近辺に直営店があること、
 出張修理は製品購入時の契約が条件であり、
 後者も他に比べて難易度が高いので、
 基本的には配送修理(センドバック)を利用するケースが多いだろう。
 ちなみに配送修理は、購入後一カ月以内の不具合や、
 「ピックアップ修理保証」に加入している場合は、
 指定業者が引き取りに来てくれるピックアップ修理も選べる。

 だがまずは公式サポートページで、症状別FAQを参照しよう。
 過去の問い合わせから想定する故障の原因と、
 概算修理費用も分かるようになっているし、
 記載されている診断IDがあれば、
 実際にサポートセンターに問い合わせた際も話がスムーズだ。

 サポートへの問い合わせを行う上で緊急性が高い場合は、
 「電話」や「LINE」
 よくある質問は「AIチャット」
 周辺機器やソフトウェアも関連する問い合わせは、
 「メールサポート」が適している。
 業務用PCの故障はほとんどの場合、
 緊急性が高いので前者二つを選ぶことになる。
 なお、平日は夜から深夜、土日は昼間の時間帯が混みやすい。
 問い合わせの際には、
 製品の「シリアルNo.」が必要になるので忘れずに控えておこう。
 なお、保証期限内の無償修理もあれば、
 水こぼしや液晶割れなどの自損は有償対応になったりする。

 きちんとした補償をしていれば、
 製品が修理センターに到着した当日または翌日に、
 発送まで完了する優先的な対応を受けられたりする。
 パソコンメーカーも製品を販売するだけでなく、
 コールセンターやサポートセンターを既存ユーザーとの最初の接点と捉え、
 顧客満足度向上の指標として特に重要視している。
 カスタマーエクスペリエンス、顧客が感じる価値だ。

 なお、パソコンの寿命は七年~八年といわれているし、
 部品の保有期間というのも存在し、
 故障しても部品がないので直せないという場合もある。
 OSのサポート期間が寿命という考え方もある。
 
 ところで、パソコンセルフリペアというのをご存知だろうか?
 その呼び名の通り「メーカーパソコンを自分で修理すること」だ。
 従来はやはりメーカーに頼むとか、近くのパソコン修理会社にだろう。
 なお、ワンコイン故障診断というのもあるので、
 どちらがお得かはまた別の話ではあるけれど、
 パソコンが得意という人や、なんだったらパソコンいじりたおしてる、
 という人にはこういう考え方はよくわかるだろう。

 なお、作業の前に必要な部品、道具を揃え、手順を把握し、
 曖昧なところがない状態にしておくこと。
 思いつきで取り掛かると失敗のもとだ。
 次に広く明るい場所、清潔な環境、
 緩衝材や段ボールなどの上で、とくる。
 意外と忘れがちなのは、逐一の記録だ。
 分解を伴う修理作業ともなると、メモや写真が役に立つ。
 一度やったことがあるという時でも、慎重な人は失敗をしない。

 なお、マザーボード交換や、液晶パネル交換が一番難しいようだ。
 というか、そんなことをしようという人は、
 自前でパソコン作れる人ではないのか、と思う。
 そこはやっぱりおとなしく、
 メーカー、販売店、修理業者にお願いした方が良いだろう。


  *


265







scansore

題材・切り口・理路が、表面の塗装、
不羈奔逸の気がどことなく空中に微動して、
曲がりくねった、車両の残骸が散らばる静まり返った道路だ。

モルヒネフレイヴァー、白骨格のネオンサイン。
鉄のように鍛え上げた、地平を彷徨う獣。

随所に際立ちたる陰影を生じせしめ、
口にすればそのものに現実性を与える、

銀色の水滴と、
夜光虫のように密集した通り。
昂り―――。





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最終更新日  2024年03月01日 21時50分46秒



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