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2024年03月01日
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431





前世


見定め難い、
何の手ごたえもない死の想いを添える、
凄愴な緊張の糸。
鉈を揮って吊り橋を落とす。
超高分子量聚乙烯の感触。
琴钢丝。
蜈蚣のように右へ左へうねり、
幾十年かの歳月が葬り去られ。
たずねてくるのは、夢たおやかな密呪。
病歷簿なき繊細な感受性がつぶれ、
神の髭が焔のようにわななく。
吹き渡る疾風怒涛の風の音。
もはや誰も住んでいない空っぽの家。
采松蕈に、庄稼地。
億万の昼夜をつないだ大自然の真景の、
そのまわりの運命を奶油のような影に負うて、
美を鳴らしたように言い伝え、
百頁窗が降り、
盛衰の波をただよわせる。
十二指腸のような不思議な感銘を与えた森林、
火が消し止められ黒い竪琴が鳴る、
寄存器组。
肉眼は万物に無限の価値を見、
見よや、今或る力に絶えず触れながら、
蜘蛛がのしかかっているような積乱雲のあと、
しめやかな哀歌のような雨が降った。
背後で漏沙が零れ、
胸中に拡がったのは、颇辞、
つねに遠のいてゆく風景―――。


  *


430








tacit understanding



君トイル、意味、ハナイノ、
ハッ、
オウトツコスッテ、果テルダケ、
眼玉ッ、火傷サ、口ノ渇キ、
共鳴ッ!

パッ・・パッ・・パラシュウゥト(シテ、)
―――二ツノ瞳トヱヴェレスト。

ソレデ如何シタ、
ニュウゥロン、ニュロントシテ、
鉛筆ノ束、蘚苔類、摩滅シタ舗石、
糸曳イテブラ下ガッタ解体新書、悟リノ書、
ウッ、
(ズッチャズッチャビィイイン、)
リリダン!
ワヅカニ一点ノ黒イモノ、飛行ヨ自在ナレ、
滲ミイル屈折カラ、カラノ、カラァペエェジノ、
刷リ込ミ教育、無神論者ノ戯言ヲバ賜リタク―――。
環状ノ、環状ノ、官能ヲサ、
ヲ/サ/

ソレスラモナホ―――。
ソレスラモナホ―――。


・・・・・・透明ノ底ニ拡ガルモノ。
(砂ヲ噛ンデイル俺ガ見エルゼ、)
(砂ヲ噛ンデイル、デリイシャアアァス!)

羅針盤ノ方位、強暴ナ羽搏キ、
打上花火ノ引火サ、脳天ノ爆発ッ!
ソノ人ハ顔ダケノ生キ物。
クッ・・クッ・・クラクラクラクラ(シテ、)
―――堕落サ、グングン下界ニ堕チテ。

パッ・・パッ・・パラシュウゥト(シテ、)
―――グリス塗レバ猥褻。
クレエェバアアァ!

(連帯責任ダッテサ!)
(保険請求手続キダッテバヨ!)

キ/キミ/キ/キルミイィ
キ/キミ/キ/キルミイィ

ソレデ如何シタ、
ノシカカッテン、ヨ、岐路、
ヤミガタイ息ノ燃焼、灼熱、業火、
妄想ノ下積ミ、暴レダス、暴レダス、音楽、
ハッ、
右ヘ左ヘウネリダシテサ、胸ノウチ、
凄マジイ狂気ノ稲妻、母性トイウ名ノ懐胎巡リ、
コロガリオチルダケノ、蹂躙デアラウ!
モウ、モウ、蜘蛛ノ巣ナンダロウ・・・・・・。
「君トイル、意味、ハナイノ、」
「糞野郎ノ、仲間入リ、、、」

不毛ノ原野、硝子ノ牢屋、疲労ノ大地、
ウッ、
(カツッ、カツッ、カツッ、ジャキイィン、)
ヌメラン!
ヤガテ霙トナル冷タイ風ニ晒サレテ、
インマイハアァトハ(ハ、)
ハリボテパアァティナウ!
明滅スル非望ノ一線、爆鳴、雷鳴、
レヨ/レヨ/
「君トイル、意味、ハナイノ、」
「君トイル、意味、ハナイノ、、、」

経験ト認識ヲ超エテ繫栄スル虚栄、
永遠ノ、永眠ノ、栄冠ヲサ、
ヲ/サ/

ソレスラモナホ―――。
ソレスラモナホ―――。


・・・・・・妄想ヲ深メテ生ノ愚劣ナ充血。
(・・・・・・透明ノ底ニ拡ガルモノ、、、)
(・・・・・・透明ノ底ニ拡ガルモノ、、、)


荒廃ノ壁土ト瓦礫、歯ヲ剥キダシテ猿ノ系譜、
血ニ噎ル生肉トノ刺シ違イ、エクスキュウゥズミイ!
地獄絵図マデ、パノラマモオォドノ、(ノ、)
夜ノ終焉リ!
クッ・・クッ・・クラクラクラクラ(シテ、)
―――堕落サ、グングン下界ニ堕チテ。


  *



429








さわやかな風が吹いて


木洩れ日の中にふりそそぐ陽射し、
ぐんぐん進むマウンテンバイク、
(あめは こずゑのなかにあり・・・・・)

無人駅、プラットフォーム。
バスは数本、電子マネーが使えない。
コンビニが遠すぎて両親の車で出動、
しかも何故か夜十時で営業終了。

流れる雲を追いかける、
ぐんぐん進むマウンテンバイク、
(いとほそき みちのうへに・・・・・・)

河童やツチノコの話題を従姉妹とする、
救急車が来たら近所の人がみんな集まってくる、
スタバがそもそもこの町にはない、
野生のシカが愛の告白のようにわたしを見る。啼く。

観測器械としての感官。
打ち開いた田舎の道で。
生理的心理的効果の係蹄。
吐息を自由に操り進路はずっと前。

「郭公が呼びかける・・・・・・」
『啄木鳥が楽しく語る・・・・・・』
(身をつつむ ひぐらし色のこゑ・・・・・・)

色っぽいもの、艶めかしいもの、
その果てに見出す椰子の樹もあり―――。

夏の今頃はひなげし、ひまわり、
ぐんぐん進むマウンテンバイク、
(思ひのかげを うごかせり・・・・・・)

ドライブスルーのすき家が出来たって、言う。
蛇が家の前にいたり、牛がこんにちは、する。
ローカル野球番組では野球盤を使って解説。
おばあちゃんがお小遣いくれる。

夏の今頃はスイカとそうめん、風鈴。
ぐんぐん進むマウンテンバイク、
(心のこゑの うるはしさ・・・・・・)

熊の目撃情報はアナウンスされる、
真夜中に視線を感じたら幽霊ではなく虫、
コイン精米機は必須、
農作業経験は野菜の葉や形状や花から見抜く。

唇を引き締め、口角を美しく窪ませ、
暮れようとしかけているその地平線、ま、で。

観客の眼の案内者。
水面に立った薄紫の微風見ていた。
古びたバス停、蔦の這った木造の家。
海上から吹いている蒸れたのろい微風。

「鴬が呼びかける・・・・・・」
『雲雀が楽しく語る・・・・・・』
(しろき花 ゆるるがごとし・・・・・・)



  *


428






煙が匂って
I smell smoke


すべてが嘘になっていたんだ、
名付けるということで否応なしに名前が、
後を追いかけてくることを知ったん―――だ・・。
エフェラメルの中、蜃気楼・・。

夜空に、ほらこだまし―――て。
退、屈。
ストリップ――スリップ、
スリットの紐を外し―――て・・。

理解不能な属性に圧縮されてゆくアイデンティティー、
観念と行動、ヒューマニズム、
信号機、電気回路異常、ブレーカーが落ちる、
功利主義的な循環論法と分裂。
「重いドアだった―――な・・・」
(上をあるけば距離のしれない敷物、)
『メダルの表と裏だった―――な・・』
(もう幾脈も幾脈も、)

ダイナミックな景観を形成する、
―――【記憶】

サイレンの音が五月蠅い、みんなそう思ってんだろ?
すべてがくだらない嘘に思えて、
優越感とか劣等感、必然性と可能性すら、
まるで指名手配犯のような、性のけわしい坂道、
馬鹿馬鹿しい底の抜けた壺に思えてきたんだ、
“X線回折法や中性子回折法による、
鉱物の結晶構造解析”
猫の毛の光沢を識別し、贋造紙幣を発見する、
五官の認識の方法は一面分析的であると同時にまた総合的だ。
聞こえています―――か、まだ、
僕の声を覚えているか。
―――ヒュウウウウウ、っとね。

善人面して接近いてきては、
後ろにナイフ隠し持ってる感―――さ・・。

この星空の下、重さをはかり、
ベランダの階子段を上っていきたかった、
自由の妙味に触れ、願望は陽炎の見える場所って、ね。
(膝まで水に浸かっている気分だったよ、)
計算する術を身に着け、
その合致が逆包囲する、

人の好きなもの、漫画やアニメやゲームでもね、
戦争の火種、お互いどこに地雷埋まってるかわからないし、
少しでも間違うと親の仇みたいさ、ところでドレッドヘア素敵、

―――待ったは無しのぶっつけ本番で、、、
(シンクロ、)考えている時間が無駄だよ、
《モノクロ、》多少説明つかなくてもいいよ、

二つだけ鼓動が響けば、
影を踏み闇を越えてゆく、
[街を立去り、遠方へ旅立とう]
時計の文字盤が片減りするような、
歴史的な力を感じた、ん、だ。

「「「 粉雪につつまれた 」」」
「「「 一瞬の静けさのなかに 」」」

I don't care if I lose everything,
I want to gain everything.
―――喜びのあまり、涙で消した、炭火さ・・。

泣いたっ(て、)
泣いたっ(て、)
泣いたっ(て、)
変わらない、
バイバイバイバーイ(で、)

失くしたい類の嘘だったんだ、
(膿んでんだろ、口角を美しく窪ませて、)
希望は毒となり、内部的な抽象に変わっていったんだ。
希望と絶望の化合物が電気的刺激のイメージにかわる―――よ。
エフェラメルの中、蜃気楼・・。

光をさ、あの空に響かせ―――て。
痕、跡。
美の典型を指示した化粧術よ、
亀裂する迅閉塞。骨軟化症―――だ・・。

韻を踏んで咲き乱れた阿呆の群れ、
あ(れ、)

全感覚ならびに知覚神経を、
位置や強度の波形にした、
閉ざされた無限の地図だった、
・・これが金剛石、青玉、土耳古石、
「愛情と憎悪が入れ替わ―――る・・・」
(宵の明星、プレアデスの星の群れ!)
『継承と断絶が複雑に絡み合―――う・・』
(ざんざんざんざん木も藪も鳴ってゐる、、、)

大人のようにポーカーフェイスを装った、
―――【記憶】

赤信号みんなで渡れば怖くない!
眼で見、耳で聞き、鼻で嗅ぎ、口で喋った、
袖におさめた手首の捩れの中の陽だまり、
過去と現在と未来がある日唐突にどうでもよくなった、
“夕方の空に、violetとpinkのとりあわせ、
この権力、この階級構図の人波”
顔の中にギリシア型、ローマ型、ユダヤ型をはじめ、
インディアン型、マレイ型、エスキモー型からニグロ型まで。
聞こえています―――か、まだ、
僕の声を覚えているか。

何気なく鼻歌交じりに漫画読んでたら、
ベルセルクの蝕のトラウマ―――さ・・。
行こうぜ相棒、どうしたんだよこん畜生・・!

この星空の下、煩悩だらけの不安定で、
痩せ細ったようにがらんとなった部屋の中、
神経質で、不機嫌になりがちな僕が見える、よ。
(おどろと鳴って、)
平衡感覚のないまま断崖絶壁へゆく、
憐れな僕等は道に迷ってる、

人同士でいると圧迫面接のテンションの時もある、
社会的距離、公衆的距離、心理的距離だったっけ、どうだっけ?
気が付いたら、世界よ、幸せになれ・・!
ところで君の名前何だったっけ・・・?

―――送られてくる言葉は鉄筋の端の剥き出し、、、
(シンクロ、)音を引き込むよ、まだまだ、
《モノクロ、》言葉を超えて、無限大の、周波数、

二つだけ鼓動が響けば、
電車が後ろ向きに進むことを知る、
[野球場のファールボールで歯が一本折れました]
狭い家並みの間をすりぬけてゆこう、
冷たい朝の空気を軽やかに吸い込みな、が、ら。
サイッコー!!!

「「「 綺麗に剃刀のあたった頤のような沙漠 」」」
「「「 臆測と歪曲に満ちた零の発見 」」」

I don't care if I lose everything,
I want to gain everything.
―――叡智は百合の球根、そうじゃなくても、
ねえ、そうであったとしても・・。



  *


427









put on a bandage, remove a bandage


刑事不介入、
第三者が立ち入ることも、
まず出来ない、
黒白の切片の配置、
線の並列交錯に現われる、
節奏や諧調のような、
家庭内の問題、性格上の不一致、
そこからもう一段階上がると、
暴力による身体的虐待、
暴言による心理的虐待、
育児放棄などによるネグレクト。

様々な発達の歪みや心身の問題、
トラウマの問題を抱える。
因果の中間に連鎖の糸と、
蓋然の霧がかかっている。
第三者の介入の時期が遅れただけで、
取り返しのつかないことが起こる。
保険金をかけて殺そうとする親がいる。
親の資格もないような、
麻薬や薬でラリったような親もいる。

性的暴力で、
子供が子供を生んだりもする。
犯行の動機は多くの場合、強い権力を持ちたい、
相手を支配したいという欲望だ。
もちろんまともな精神状態ではない。
それはもちろんごく少数だと信じたい。
少数だからいいと言っているのではない。
問題は多岐に渡り、様々なケースが想定される。

世の中には犯罪を犯す前に自殺すると言い切る、
小児愛性者もいる。
そして自分のことを時限爆弾という人もいる。
自分が普通でよかったと言う人もいるかも知れない。
それはそれで正しいんだろう。
人生の中のありとあらゆる場面とは言わない、
信号の前で普通の車が、普通の歩行者がいるから、
あるいは普通の信号で、普通の道路があるから、
事故が起きない。
でもどうして同じ人間であるのに、
誰かが悩んだり苦しんだりしているのを、
もっとオープンに出来ないんだろう、
どうしたら色んな溝を埋めていけるんだろう。
そもそも「普通」って一体何なんだろうか。

子供が家出をする。
子供が行方不明になる。
大多数は普通の両親だと信じたい。
大多数は普通の子供だと信じたい。

今日ありえないほど馬鹿な漫画を見た。
毎日怪我しながら学校に登校してくれる女の子とのやりとりを、
いくらか辛辣な物言いする女の子を中心に描いている。
漫画の描写を見る限り、
教師が自宅に「どうされたんですか?」と電話をかけるレベル、
クラスメイトが「何あったんだよ」と詰め寄るレベル。
もしこれを見て何も言わないクラスメイトや、教師がいたら、
本当に怖いと思った。
こういうのを許容できると思った根拠を知りたいと思った。
漫画を読んだ人達の感想をAmazonで見たけれど、
(あえてそれ以上は調べなかったけど、五人いれば十分だ、
一億人の中の五人の感想の確率は?)
誰もそのことについて指摘していなかった。
つまりこれは「萌え漫画」なんだ。
信じられないだろう、でも本当にそうだった。
僕も血管をピクピクさせながら、ツンツンしているらしい台詞を、
眼を疑いながら読んだ。
IQの低くなりそうな本、有害指定図書は間違いない称号だけど、
暴力描写や、誇張表現が、
ついにこんなところまで来たのかと正直言って思った。
漫画がついに現実を侵蝕する時代が来たのだ、と思った。

けれど漫画の中でおそらく数日以上が経過する、
おそらく二日目の時点でこの子供は学校に登校していない、
だってすぐに事件が公になるからだ。
常識的に考えて、まず両親が発覚を恐れて子供を登校させない。
人の眼をなめるなよ、監視社会をなめるなよ、そう思った。
そこにはまったくリアリティはないので、
これはファンタジーだとわかる、
学園ファンタジーですと銘打ってくれたら僕もそっかと言う。
過剰なものを編集者が望むと聞いたことがある、
インパクトを欲しがるというのはインスタグラム脳の専売特許だ。
あなたのことですよ!
いいですか、あなたのことですよ!
けれども暴力描写がもっと控えめであった時、
誇張表現がもっと現実にそぐうものであった場合、
たとえば包帯を伴った描写ではなく、
傷が露見しにくい場所だったら、
もっと見えにくい暴力が実現されていた場合、
きっと誰にとっても吐き気がするもので、
きっと誰にとっても主人公の女の子を救済しようとする、
何とか力になろうとする男の子の勇気は本物になるだろう。

ファンタジーのよいところは現実逃避で、馬鹿なことだ。
ラノベの大半は売れたら正義という馬鹿の看板を背負っている。
もちろんみんな馬鹿ではない、
中には努力次第で芥川賞とか直木賞を狙えるような、
そういう文章の想定の仕方をしている書き手もいる。
ここがすごく面白いところだ。
どんな場所にも一定以上の水準がいる法則というのがある。
その人がさらにもっと高い水準へ行くのかどうかは別として、だ。

鋭い銃声のような眼で、
周囲の人間模様を見ていよう。
何かしろとはもちろん言えない。
何か出来ることがあるなんて言えない。
ただこれをそのままにしておくなんて、
それは僕には出来ない。
そんな時に「愛」と言うのが、
けして恥ずかしくないような、
きちんとした人間でいよう。

科学が時代を変える、天才が時代を変える、
遺伝子で優劣は決まる、優秀な大学以外は底辺だ、
それだってある考えの中ではもちろん正しい。
けれど、そうじゃない、僕等だって僕等の努力や、
考え方一つで時代を変えられる。
自分の為には出来なくても、
誰かの為にならとんでもない力が与えられる。
一つ一つは小さくても、
それを束ねれば、統べれば、大きな力になる。
蟻の集団は象や鯨よりも大きい。
蟻の集団はどんな不正も、暴力も許さない。



  *


  426











雲は淡々、様々、Go Round!
光の模様が踊り狂う目蓋の底の夢の中、
ふわり浮く、
“情報転送 可視光伝達、共通感覚探索―――”
(鳴り響く、)
課題やタスクについては自動化・習慣化が進み、
効率的な遂行が可能になりマス。
《ナ、リ、ヒ、ビ、ク、》
乱反射する水飛沫が想いのよう。
けれど“柔軟性”は失われてユク。

***だ。

まって/またれて、い、た
「音に誘われ、」
フェードインとフェードアウトを繰り返す、
魔法はすぐ透明に、な、る。
『音を結んだ、』
(music...)

波の欠片、糸が生まれては消え。
砂時計とメトロノゥム・・ム・・・ム・・・・・・。
声の欠片、線が消えては生まれ。
アンテナとシュプレヒコォル・・・ル・・・ル・・・・・・。

―――ちがう、ちがう、単純なルール。
仕組まれ  て  ゆ  く  。
僕は 眼を閉じ   る 生き  物  。
―――いらない、いらない、抽象的なルール。

***だ。

さりげなく(て、)
わざとらし(い、)
Ah... 心に残像。

ファミレスの店員は笑顔で、紋切り型の質問をし、
空いている席まで案内する、案内する、案内する・・!
得体の知れないアラートは、
プログラムされた奇妙な音声を繰り返している。
心細いんだね、ねえ淋しいんだね・・。
・・(ゼロ)は、続いてる・・・
hellとheavenを感じながら、感じながら、感じながら・・!

永遠の空にふわり沈む、 
――そ の・・・『頭の中のアリア』
飛んで、飛んで、飛んで、
エアブラシで消えるようにぼかして、
――そ の・・・『頭の中のアリア』
廻る、廻る、廻る、
その細い手足、常識など、留め金。

十年前の僕等(を、)
十年後の僕等(が、)
二十年前の僕等(を、)
二十年後の僕等(が、)
振り返ることを忘れたように、
鳩尾に迫る 美しい言葉(を、)
角膜に迫る 美しい硝子(を、)

みちびかれ(て、)
――がたがた・・列車は揺れる・・
「手品師?・・魔法使い?――」
よびさまされ(る、)
コインを一人集めて、
ゲームのコイン投入口に入れる。

それが...いきもの...であった...ころ......
[この時](拡声器・・アナウンス――)

一二の三、後ろには人生の牢獄があり。
一二の三、前には永遠の牢獄があり。

ゆれて/つづいて、い、た
「音に誘われ、」
すれ違い、通り越し、角を曲がったそのとき・・、
地球儀はマンホールの如き異形の穴へ。
魔法はすぐ透明に、な、る。
『音を結んだ、』
(music...)

***だ。

波の欠片、糸が生まれては消え。
砂時計とメトロノゥム・・ム・・・ム・・・・・・。
声の欠片、線が消えては生まれ。
アンテナとシュプレヒコォル・・・ル・・・ル・・・・・・。

「本の端っこを折って栞代わりにすることを、
ドッグイアという・・・・・・」
「何時にアラームを鳴らすか決めるためにぐるぐる回す、
短針・長針・秒針以外の第四の針のことを、
目安針という・・・・・・」

―――ちがう、ちがう、単純なルール。
―――いらない、いらない、抽象的なルール。

撃ち込んだリアライズ(が、)
脳天に突き刺さって血が噴き出すとしても。
まやかし、きてれつ、そうかい―――。
花、花/花花/花
安楽死したリアリティ。
(インストールする“沈思黙考”)
眼、眼/眼眼/眼

「コードを縛るのに使う、細長くクニャクニャ曲がる金属板を、
ツイスト・タイという・・・・・・」
「プチプチ、エアーキャップなどの商標登録も有名なものを、
気泡緩衝シートという・・・・・・」

―――ちがう、ちがう、単純なルール。
―――いらない、いらない、抽象的なルール。

大事なガラクタで街はあふ、れ、て。
(流行り病のようだ、、、)
くだらない宝物も時々はあ、っ、て。
(下校時刻のチャイム、、、)


  *


  425






兄と妹



ちょっと兄面すんなって、キモいんだよ。
クラスメイトに見られたら囃されるんだよ。
洗濯物もそうだけど、一緒に洗わないでよね。

え? 血つながってないの?

えーと、コホンコホン、お兄ちゃん、
そのわたしを殴って(?)
あ、ごめん、違うの、違うの、
そういうドラマがあってつい言いたく、
なったんだよね。
あたしの馬鹿、迫真だったよね、
気分悪かったよね、ごめんね(?)

愛してる(?)

LINEブロック? 
違う違う、あれは照れ隠しで(?)
カノジョさんいるんだなーって思ったら、
つい口から出任せ言っちゃったーみたいな、
嫌いにならないよね(?)
まず、わたしを殴ってそこから和解ね。うん。
これからカノジョみたいに扱ってくれていいよ。
っていうか、して(?)

なんかいつもと違う?
え、いつもこんな感じだったよ(?)

でもお兄ちゃん、女の人の匂いするね(?)
駄目だよ、お兄ちゃん、
わたしこれから朝晩一緒に登下校するからね、
あと、LINEはわたし以外消してね(?)
わたしさえいれば十分でしょ(?)

今日から一緒のベッドでおやすみしようね、
お風呂も、ね(?)
だって兄妹だよ、普通だよね(?)


  *


  424







運命



今日のことを忘れないでねと十歳の彼女が言う。
三十年後の未来から来たの、と。

未来からと真顔でオウムのように繰り返したあと、
破顔して、
じゃあ、もう四十ぐらいかと言った、
そうすると二〇××年と正確な数字を言って来る。
頭の中で大体それぐらいかと思った。
よくもまあこんな嘘がすらすら出てくるものだなあと感心した。

突拍子もない嘘というのが一時期流行った。
宇宙船が道を塞いで学校にこれなかったという遅刻の言い訳は、
抜群だった。
先生が笑ったら許してくれた。
ちなみに休み時間に遅刻したのは、
大抵チャイムを無視して遊んでいたからだ。
金魚が死んだんで休みますというのも一時期流行った。
あなた金魚なんか飼ってたのと先生は笑った。
不謹慎なことも通常運転のやさしい時代が僕等にはあったのだ。

だから十歳の彼女がそう言ったのも全然不思議じゃなかった。
こりゃ一本取られたな、担がれてやろう、と演技すればいい。
そして途中であたりを見つけて、そんな嘘で人なんか騙せないよ、
と言ってやればいい。
そしてお互い笑うというストーリーである。
彼女は近所の塾に一緒に通っている女の子で、
学校は違うのだけどそういう嘘や冗談は言える間柄だった。

ところで未来ってどんな風なの、
空飛ぶ車に、超高ビルとかそんな感じなの、
とニヤニヤしながら聞いた。
悪い子供もいたものである。
サラリーマンになるともっと真っ黒になります。
そうすると、それが全然違うのよ、と言う。
その大人びた表情や、溜息交じりの言い方が、
不思議と印象に残った。
それは母親がふとした拍子につく、
疲れたとワンセットのシチュエーションだった。
でも〇〇君に会いたかったから来ちゃった、と言う。
ちょっとドキドキした。
だけれど、人間ってちょっとしたことで狂う、
嘘を見抜くつもりがすっかり懐柔されているような具合で。

みんなそんな不思議なことや奇跡を望んでいて、
ありもしないとわかっていても想像してしまう。

だから今日のことを覚えていてねとお別れした。
その時の歩き方や背中姿が、ちょっと違うのは感じてた。
でもそれはそういう風に見えただけだという気もする。
次の日塾へ行くと、彼女は引っ越しをしたと、
同じ学校に通う子から教えられた。
だからあんな嘘をついたんだと納得することも出来る。
けれども子供ながらにそれはショックな出来事で、
だからきっと何処から何処までが嘘で本当なのか、
そういう判断をやめてしまったのだろうと思う。
彼女がそういう風に言ったのは、
大人になっても思い出してねってことだったんじゃないか、
仲良くしてくれてありがとうねってことだったんじゃないか。

涙なんか一滴も出なかったけど、
僕は彼女のことが好きだった。
恋というのとは全然違っていたけれど、
塾で勉強する合間に話す時間や、
ここはこういう解き方するのよとか、
偶然図書館で会ってこの作家好きなんだという、
本を読んだり、
そういえば、駅前で母親と買い物袋を持っているのも、
その時は話しかけなかったけど、
見たことがあったな。
少年期は親の都合に振り回される。
子供にはありがちなことだ。

引っ越しをした彼女と会えないまま、四十になった。
四十になると、嘘をつく大人が百パーセントであることも知るし、
嘘と内緒と秘密という三方向に矢印があり、
ついていい嘘とついてはいけない嘘があることを知る。
また嘘つきは犯罪者の代名詞みたいなところはあるけれど、
同時に、嘘つきは病気だ。あんまりにもひどいとそれは、
虚言壁、空想虚言者、反社会性パーソナリティ障害となる。
大抵は癖みたいなものだけれど、
許せるけど困る類のこと、駄目だけどまあ人間として理解できる、
いわゆるイエローカードから、
こんな奴と付き合いたくない、こいつは信じられないという、
一発レッドカードまである。
そのカードの一枚でも引かないようにする人間がいる半面、
そのカードを使いまくる人間もいるわけだ。

歳をとると、自分を騙す嘘というのが大きくなってくる。
しんどくても、大丈夫だよという誰かに優しく言う台詞が増えてくる。
たとえばやりたくない仕事でも、やりますと嘘をつく。
それは社会人なら、大人になれば自然に使う類の嘘だ。
面倒くせーとか、やりたくねーとか言ってられない。

けれど四十になって夢の中で彼女の夢を見た。
どうしていまになってそんな夢を見たのかはわからない。
結婚もしていて子供もいる。
昔も今も、別に恋愛感情があったわけでもない。
でもそれはきっと、心の隙間、人生の穴の作用かも知れないと思う。
浮気や不倫を絶対にしないという人でも、
そんな風に違う人生を考える一瞬がある。
ましてや、子供の頃に不思議な別れ方をした相手なら、
いまどうしているのかなぐらいには思う。

忙しく過ごしているので、休憩の時にふっと思い出す程度なのだけど、
考えてみれば違う学校だから会うこともできないし、
つまり名簿があるとか、知り合いを伝ってということができない。
連絡先も知らない。
仮に会っても顔もわからない。
これはかなり決定的だ。
その時、引っ越しを教えてくれた子だって名前も知らない、
違う学校にいたということぐらいしか知らない。
もっと言おう、記憶が正しければ、一年から一年半ぐらいの間柄である。
名前だっていまじゃまったく思い出せない。
そんな子のことを悶々と考えているなんてもうまともじゃない。

もしかしたら何処かで会っているのかも知れない。
そう思って、色々大変だけど、お互い頑張ろうねと呟いて、
忘れてしまった方がいいのかも知れない。

でもそんな悶々とした鬱屈とした気持ちが、
夢の中であの日の場面、引っ越しをするのを隠したまま、
彼女がそういう場面まで連れてきた。

今日のことを忘れないでねと十歳の彼女が言う。
三十年後の未来から来たの、と。

未来からと真顔でオウムのように繰り返さず、
破顔もせず、
いまは何歳なの、と聞く。
実は僕も三十年後の未来から来たんだ、と言う。
四十だよ、と彼女が答える。
同い年だから当たり前だけど僕もだよと笑う。
そうだ、彼女こんな可愛らしい声をしていた、
歯を覗かせて笑う顔が可愛かった。
そんな風に思えてくると、ああ、と思う。
僕はもしかしたら彼女のことが好きになっていたのではないか、
って遅すぎる、もう四十だぜ、何をいまさらと本当に思う、
好きっていうのが全然わからなくて、
あと自分が誰かとそういう風になることも想像できなくて、
いつのまにか長い時間が経過した。
彼女はあの日と同じ場面でずっと待ってた。
ずっと待ってた、僕はようやくそのことに気付いた。

彼女はいま何してるのかとかも聞かなかった。
もう結婚しているのかも知れないし、
場合によっては離婚を経験して子供もいるシングルマザーとか、
一人身を貫き通しているのかも知れない。
聞かないということは、そういうことだ。
もちろん彼女が本当に三十年後の未来から来ていたなら、である。
ねえわたしはあなたのことを忘れなかったよと彼女が言う。
じーんとした。
その気配が伝わったのか彼女が照れくさそうに笑う。
彼女が自分に好意を持っていたという可能性については、
いまのいままでちっとも考えたことがなかった。
人に嫌われるとかいうのは認識できても、
人に好かれるという認識はいまでも難しい。

色々大変だけど頑張ってね、と僕は言った。
ほかに何も言えなかった。
違う、引っ越しをする前に、住所や電話番号を教える、
なんだったら引っ越し先の住所や電話番号を聞く。
それが正しいはずなのに、僕は何もしなかった。
未来を変えてはいけないと思ったわけじゃない。
言葉がおそろしいほど何一つ出てこなかったのだ。
感極まるといまだって僕はありえないほど情けない。
そして夢から醒めた。

あの日の彼女と会った。
けれど、それはきっと僕の願望が垣間見せた夢なのだろう。
そんな夢を見させられるぐらいには、印象的なシーンだった。
あの時、暗示をかけられていたという可能性もないわけじゃない。
そういえばこんな時期だった、と思い出しても、
いまじゃ何をどうすることもできないけれど。

今日のことを忘れないでねと十歳の彼女が言う。
三十年後の未来から来たの、と。

未来からと真顔でオウムのように繰り返したあと、
破顔して、
じゃあ、もう四十ぐらいかと言った、
そうすると二〇××年と正確な数字を言って来る。
頭の中で大体それぐらいかと思った。
よくもまあこんな嘘がすらすら出てくるものだなあと感心した。

でも本当にそんなことが起こりえると思うわけじゃない、
誰だってそうだ、こんなの信じていい類の嘘じゃない。
でも、あの時の彼女がそこにいて、
ああいう形で別れを告げたという心理を読み取れば読み取るほど、
狂おしい心のぶれ、ズレ、揺れといったものを感じる。
不思議なことは、きっと、
図書館で僕が借りていたSFの本を見られたことにも、
ヒントがあるのかも知れない。
人に忘れて欲しくないと考えたことはなかった、
人は忘れてしまうものだし、覚えていられないものだと、
知っていたからだ。

でも〇〇君に会いたかったから来ちゃった、と言う。
あの時のそれを何度も追体験する、回想することになるとは思わなかった、
人生で一番ロマンチックなシチュエーションを小学生が考える。
ちょっとドキドキした。
いまではもっとドキドキする。
ちょっと不思議なことを人同士で作ってゆけることが、
きっと僕等の世界の大きな信頼になっているんだろうという気がする。

人生には一人か二人忘れられない人がいる、
きっと〇〇さんはそんな人だ。
会いたい人がいる。
けれどきっと会えない人がいる。
これからもうずっと忘れない。
ずっとずっと覚えている、大切な人。



  *
 

423









夢の中で、メリーさんという小さな女の子が出てくる。
メリーさんは年端のいかぬ感じで、十歳かそこらあたりの女の子で、
フリルのついたドレスをきている。
真っ白な顔に少しグレーがかかったような重い雰囲気がある。

そこは木材のログハウスの部屋だった。
メリーさんは、
信じられないぐらい大きな声で、鬼気迫った感じで、
「わたしを探してえええええ」と言う。
困ってるなら助けたいと肯いたか肯いていないかあたりで、
パッと夢から眼が醒めた、と。
夢というのに不思議なものでメリーさんの顔が頭から離れない。
かくいう僕は小公女セーラにあれだった。
少しも顧慮されない自分を、急に魅力のない卑しいものに感じて、
ふだんの心の底の寂しさを一層深めるといった心理構造に同情する。
それでも健気に強がっているというのに胸を引き裂かれそうになる。
ある人はパトラッシュを見ると駄目で、
ある人は三千里にママがいると駄目だった。
僕の場合はセーラだった。
もし夢の中のログハウスと同じ場所へ行けたなら、
ここだと言うこともできるような気がした。
そんな具合だから、別荘とか旅行でそこへ来ているのかな、
両親はどうしたのだろうかと変なことを考える。
また不思議と怖いという感じはしなかった。

その日の夜もメリーさんが出てきた。
二日続けてとなると、やっぱりちょっと話が違う。
時間帯は朝方か、夕方ごろだと推定する。
明るいとはいえないが、何も見えないわけではない。
そこは少し開けた林道のようだった。
また獣道とは違う、手入れされているからだ。
数十メートル向こうに、道路が見える。
メリーさんは真っ白な顔に、
少しグレーがかかったような重い雰囲気で、
フリルのついたドレスを着ていた。
何でこんな御大層な服を着ているんだろうと思ったが、
こういうのを着せたくなる親というのもいる。
もしかしたら七五三とか、パーティーとかがあるのかも知れない。

でも昨日とは打って変わってメリーさんは喋ってくれない。
何だか少年時代に好きだった女の子のことを思い出す。
ツンと澄ました顔をしているせいで余計にそう思う。
塩垂れたような女々しい窪みは見出せず、
従容としているのかも知れないが、
オンナノコのことをオトコノコは永遠にわからない、のだ。
そんな気がする。
論理はそのように上書き保存される。
メリーさんの後ろを何故かとことこついて歩きながら、
それもどうしてなのかはわからないが、
昨日探してやると言ったせいなのかはわからないが、
つまり一緒に探していると設定なのかもわからないが、
考えてみるとそれは全然合理的ではなく、
十メートルほど離れて探すなどの方法を推奨したい。
二人一組でどれだけ眼を皿のようにして探すつもり。
もしよければ、メリーさんそっち、僕はこっちという具合に、
ここに十分ほどしたら戻ってこようねと約束して、
探す方が合理的というものだ。
また合理的でないといえばメリーさんを探すって、
お前いるじゃねえかみたいなところはあったのだけれど、
まあ、とことこ後ろをついて歩いている。
飛石伝いにひょいひょい飛んで、
やわらかな苔を踏まないように気をつけるみたいな心遣い。
そうすると花が落ちていて、火がついた蝋燭があり、
大きな扉が見える場所まで来る。
メリーさんは振り返った。
そこで、バッと眼が醒めた。

不思議な夢だったが、つくづく考えてみるに、
あれはやはり死んでいるのだろうなと思った。
だからメリーさんが探してほしいのは、生身の肉体とか、
さもなければ生前に死んだ場所ということなのだ。
飛躍や連想や独自の解釈の恐れはあったけれど、
花や蠟燭や扉といった装置は天国を連想させるし、
最低でも何か別の入り口といったものを暗示している。
そのように思う、が正解か間違いかを決める基準が僕側にはない。
それだけは確かだった。
主導権や決定権といったものは何事をするのにも必要なものだ、
そしてそれが行動の大半の状況を決定する。
受け身である場合はそれ相応の覚悟というのが必要になる。

しかしそれでも怖いという感じはしなかった。
怖い夢を沢山見すぎたせいなのもあるし、
メリーさんがやっぱり少年時代の好きだった女の子を、
連想させるからかも知れない。
色々大変だよ。変なことに巻き込まれても、
こういう時、まあそういうこともあるかなって思えてくる。

一応、憑依されているのではないかという気もしたのだが、
鏡を見て眼の下に隈があるとか、
命の危険に直結するような状態ではないので、
たとえば知らない内に身体に手の痣や、切り傷ができているとか、
そういうこともないので、
お祓いにも行かなかった。
心霊現象というよりも、相手も人間だという場合には、
それ相応の誠意というものがある。
あちらが頼って来るからには頼って来るだけの理由がある。
どのような理由であれ無下に断るのは失礼というものだ。
それに小さな女の子が困っていたら、
手を差し伸べるのが大人というものだ。
ただ、年齢や年恰好はともかく、
実年齢は僕よりずっと年上という可能性もないわけではない。
死ぬって不思議なことだ。
若作りババア、場合によって若作り超ババア、エルフ仕様、
ということもありうる。
耳が長いというのは、
実は耳ざといということなのだ、とアホなことを思った。
そこから年齢が途切れる、終わる、数えないのだけれど、
その人とあった場合に、
それが適応されるのかどうかちょっと考えてしまう。

死んだら美しいという理由が、
何となくそういうことからも来ているんじゃないかと、
アホなことを考えた。

その日の夜もやっぱりメリーさんは出てきた。
三度目の正直というわけだ。
清楚で品よく見せている、メリーさんはいなくて、
象徴的なあの林道の扉の前に立っている。
花があり、蝋燭に火が点いている。
風化することもなく、朽ちてもらず、蝋燭も消えようとはしない。
時間の経過が感じられない。
その時ふっと、これって死者の世界へ直結しているんじゃないか、
この扉開けたらさすがにヤバイんじゃないかという気がする。
そう思った拍子に、メリーさんが背後から現れて、
「わたしを探してくれないの?」と言う。
泣きそうな調子で言うわけである。
僕はその瞬間、眉間に皺を寄せて、
わかった、と思う。
これで仮に死んでもいい、お前を探してやる、と思う。
一度乗りかかった船である。

思えば熊野古道沿いの夜道を歩いていた時も、
金剛山の夜道を歩いていた時も、そんなことを思った。
一歩間違えると死ぬかも知れないっていうことがあるたびに、
何故だろう途端に僕は強くなる。
運命の影が強くなるたびに人生の確率変動を感じた、
人って弱い時、どうしようもない時に成長できないと、
困難を乗り越えられないように出来ている気がする。
過去は逃げても追いかけてくるし、
どんなに弱くて情けない人間でも人生の精華を見つけなくちゃいけない。

扉の取っ手部分を掴み、ぐいと引き開ける。
そうするとそこは、道路だった。周囲には建物らしいものもなく、
標識や看板は見えない。電信柱はあるので電気は通っている。
左側にはこんもりと木々が生い茂っているので、
連想として、先程の林道の傍の道路という気がした。
右側には特徴的な木橋のようなもの、
川が流れているのも見える。
ああいう木橋が安全面ですぐに外される、取り替えられるはずだから、
それがそのままにされているということは過疎化地域で、
あまり走られていない旧道とかそういう感じなのかも知れない。
もっと言ってしまうと立ち入り禁止の道路ということも有り得る。
探せば家の一軒や二軒見つかるかも知れない。
おそらく、自然に溶け込んだというより呑み込まれた感じの家。
川は上流という感じはまったくしない中流、
場合によっては下流の平坦な印象だった。
土手から下りてゆける。
そしてアスファルトから飛び出した雑草、ひびわれのある道路。
通常走られている道路という感じはしない。
日々道路を走っていると全然そんなことを思わないが、
田舎とか、辺鄙な地域へと行くと必ずこういう道路がある。

さてどうしたものかと思っていると、
道路の隅に小さな人形が落ちていた。
リカちゃん人形みたいだが、どうもちょっと違う。
近寄って見ると、ビクビクと脈打っていた。
見ようによってはすごく気色悪いのだけれど、
手に取って持ち上げてみると、
メリーさんのように白いフリルのドレスを着ていた。
メリーさんがやっぱり背後から出てきて、
「わたしを見つけてくれたのね」と言った。
いやお前見つけられるだろ、ちょっと待てや、
いま来たばかりの俺でも見つけられたぞ、
お前どういう探し方してたんだよと正直突っ込みたかったが、
女というものは長電話や長風呂や長い買い物に容量を使うあまり、
探し物センサーにポイントを振り分けてやれないのかも知れない。
無茶苦茶なことを思いながら、
「なくさないでね」と言いながら渡した。
考えてみればその時初めて喋れた。
メリーさんは笑顔で、
少年時代なら確実にこれはやられている感じだった。
「ありがとう」
とメリーさんが言った拍子に、背後から車が猛スピードでやって来た。
いつのまにか、真っ暗で夜だった。
ヘッドライトが威圧的で、脅迫的に光っている。
あ、これは避けられない、轢かれるといった瞬間に、
バッと眼が醒めた。

それ以来メリーさんは夢の中に現れない。
何だか少年時代の恋の相手が二人に増えたような気がする。
あと、電話をかけないので全然気づかなかったのだけど、
着信の履歴に三日ほどメリーさんという人から掛かってきていた。
電話番号はこの世のものではないとすぐにわかるふざけた番号だったが、
まあそういうこともあるかといまは思っている。
あと、小さな女の子のお願いにはいまでも弱い。
これだけは書いておく。


  *


422











苔生した階段が増える、
耳の穴の奥でひとしきり、
ゴオと風の音がする。
夜の二時頃。
丑三つ時。
また月のない夜。
墓地で、戦時中の防空壕もあり、
戦前からも姥捨てなどの話があった地域。
神佛混淆の痕跡もあり、
物質界に屈して、精神界に伸ぶる也。
墓地としるせる木標の立てるを見る。
思いつめてまどろんでいる中に、
一つの智慧が、
一つの閾を越えたのである。
昔から今まで、からっきし、まったく、
てんで自信が無くて生きて来た。
ただごとに非ざる良薬になるかも知れぬという、
いささか利己的な期待も無いわけでは無かったのである。

夜目の中にも、
水銀のように縁だけ盛り上がり、
錆び込む腐蝕のように黝ずんでいる。

そうしてのぼる。
しかしどうしてか、
足音がする。
木霊ではない。
そうすると階段が増える。
気が付くと足元はゼリーで凝らしたような感触で、
その階段の増え方も、
一段とか二段とかいうちゃちなものではなく、
数十とか、数百であったという。
途中から数えることを放棄して、
そうするとまだかまだかと憧れてゆく。
単に刹那刹那の刺激のほかに―――は。
手持ち無沙汰のほかに―――は。

無口であり極度のはにかみ屋であるから、
友人に囃されると黙ってしまう。
のん気で愚かなところがあつて、
情操的にものを突き詰めては考えられないところがある。
眼と口とが茫漠となるところを見ると、
一種の被虐性の恍惚に入っている者のようにも見え。

とはいえ、それだったら高さが違う。
普通に気づきそうなものだ、
おそらく足を動かしているつもりで、
同じ場所に足踏みしているか、
さもなければ違う場所に、
足踏みをしていることになる。
それはそれで怖い想像だ。
忍苦の長い時間的経過を味わうことができる、
映像を人知れずおもいめぐらせる。
カメラがもたらしたものは、
科学的なものというより演技的なもの。

だから止まった、と。
さとりめいた寛いだ場所を見つけようと停まる。
思えば、必死の決意を促す最後の脅迫手段だった。
古色の容るべき空洞。
そうすると、先程まで聞こえていた足音が、
ピタリと止まる。
物馴れた調子で綻びを繕いにかかる、
不思議な因縁話のように、
悧巧とかを誑惑する魔性のもの。
何かがいる。
まんじりともできない、時間がいくらか流れる。
こわいけれど、振り返る。
一の窮策を案じ出だせり。
触れれば身を焼くような思いで、
冷えてくる、
左側、真後ろ、右側、
左側aを通過し、真後ろbを通過し、
右側cを照射する視線の動向。
冷えてく―――る、
ゆっくりと確認する。
人はいないか、狸や狐はいないか、
幽霊はいない―――か。
後ろには誰もいない。
闇中のことなれば、知るに由なし。
上部より中部へかけて見らるれど、下の方は見えず。
誰もいな―――い。
気のせいか。
ふたたび振り返りのぼろうとする。
そうすると前には、
一緒に振り返ってくれている、
凝った瑩玉のように美しい心持ちもった、
優しい幽霊がいる。
気敏い幇間のような妙を得て、
いないねえ、と言ってくれる。
恐怖で何がいたのか覚えていない。
あるいは、見てはいけないものだったのかという。
気を失う。
階段の下で彼は目覚める。
階段を下りた覚えはない。
かいがいしく御世話にあづからむものを。
不思議だな、と思う。
頬の筋肉の動きにちょっと説明のできない真実味があり、
頬のうえに、細く伝うもののあったのを知り。
ぺこりと頭を下げつつ、帰る、と。



  *


421








金縛り


なんだったら、こういう言い方をしようか。
僕は呪詛のかけ方を知っているので、あなたに死ぬ呪いを掛けよう。
だって、あなたは「呪い」というのを信じていないんでしょ?
あなたは「神通力」というのを認めない。
じゃあ、あなたの首を僕が絞めてもいいですよね?
くびり殺しても構いませんよね?

金縛りというのがある。
恐怖心で眼を瞑って、時がただ過ぎ去るのを待つ。
身動きできない恐怖、胸部の圧迫と息苦しさ、
時が停止したような感覚―――。

入眠時または睡眠からの覚醒時に、数秒から数分間、
体幹と手足を自由に動かすことができなくなる現象で、
夢と現実が混在したような幻想を伴う。
乖離したレム睡眠で、思春期に多く、体調不良の場合もある。
つまるところ、
不安が顕在化し、実体を伴った形で現れるという絡繰りだ。
日中のストレスや慢性的な睡眠不足とも関連性がある。
心霊現象の九割がた、
なんだったら僕自身怖がらせるつもりはないので、
百パーセントといっても差し支えないぐらい、
現実生活の視野狭窄的状況を改善するだけで状況はよくなる。
もし思うところある人いれば、心理学を持ち出してもよいと思う。
誰かが自殺した部屋、心霊スポットへ行ったなどの追加点があれば、
それはもちろん無意識のうちにそういうものを引き寄せることもある。
また、薬の効果で個人差があるというように、
人それぞれ影響の範囲も異なる。
そういう場合は、お札やお守りも有効だ。
いるかどうかはわからないとしても、守護霊や神様も有効である。
あなたはRPGを思い出す、アイテムボックスから回復薬を探す。

ところで状態不能でいうところの金縛りの解き方も存在し、
金縛りに遭った時は深呼吸をするといい。
とはいえ―――。
とはいえ、である。

科学的に説明できたからといって安心してはならない、
金縛りがなくなったわけではないからだ。

さて、金縛りが頻繁に起こるようならもちろん、
それはこういう説明では足りていない状況というのが想定され、
別の病気の可能性もある。
実際、睡眠薬の中には悪夢を見ることが多くなるタイプがある。
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬や、
(ゾピクロン、ゾルピデム、エスゾピクロン、)
オレキシン受容体拮抗薬がそれだ。
また金縛りを悪夢と混同するのは僕自身よくないとは思うが、
人はそれでも「夢を見ている」ということを忘れてはいけない、
だんだん今がバーチャルリアリティの中にいるのか、
ゲームの外側にいるのか、わからなくなってくるようなことはないか?

それでも頻繁にそういうことが続けば気が滅入り、
日常生活に支障が出てきてミスも増えるし、
自殺願望だって自然と湧いてくるものではないか、と考えられる。
そうなってくると神社でのお祓いも有効だ。
可能性を虱潰しにあたっていけば偶然治ることがある。
病気を治すのはその人自身の心の持ち方だからだ。

亡くなった人が夢の中に出てきた、
それはそういうことも起こりえるのかも知れないで、いいのだ。
人生は長い、生きていれば不思議なことの一つや二つあるだろう。
子供というのは不思議なもので幽霊とよく遊んでいることがある。
イマジナリーフレンドとして説明することもできる。
しかしどう考えても、親でしか知らない情報を、
子供が「その子から教えてもらった」と話すことがある。
そしてこういう話は有り得ないほど多いのだ。
超知覚とか、テレパシー効果なんてわけのわからないことを言うよりは、
幽霊さんいるんだなでよいのかも知れないと思う。
素直にモノを考えてもよい時は、そうだねと言ってあげよう。
善悪とか道徳とかに照らし合わせた大衆的正義ならばそうだろう。

ところで金縛りの時に足音がする、気配を感じる、
ラップ音がする、そして、死者を垣間見るということがある。
僕の場合は、扉というのに何かがやってくるのを、
ハッキリと感じたことまで覚えている。
死者が触れる箇所は、その死者が欲しい箇所に触れるという、
頭、手足、胴体、
眼、鼻、口、頬―――。

あなたは見知らぬ場所にいて、
現実か夢の中かわからない場所にいる。
クラインの壺だ。
表と裏が入れ替わる。
突然「違う世界」へ迷い込んでしまうことが―――ある。

深呼吸をしよう、
それがあなたの「金縛りの解決方法」だと教えられたものだ。
やがて「眼が醒めるもの」と眼を瞑ってしまうのも手だ。
けれど、「二度と目覚めない可能性もある」ことを知っておこう。
これまではそうであったかも知れないわけだけれど、
この時もそうであるという根拠を科学に求められるか考えてみよう。
そこが真っ暗で、あなたがパニックにならないことを祈る。
突然刃物のようなもので切り刻まれないことを僕は願う。
深呼吸をしよう。
デスゲームの始まりだ。



  *


420








馬鹿の王国



僕の頼りない内臓に地下水が入り込む、
嗅覚だけで。
苛立ち喚こうと―――。

異常な程の吸収能力、
停止された虚無、抑圧、異常性、閉塞、
ここは無人の惑星でない、
巨大な宇宙空間で瞑想しているような、
蜘蛛の巣上に張り巡らされた情報が収斂する。
複数の棒、円環、及び鏡の奇妙な混合物。
多数決議の正義と、盲人への幼稚な遊びにも似た、
被支配者階級の、
芸術の憧れをそそるような絶望の壮観。
予期しない不快な感覚ごときも読み取れない、
お粗末な脳であることを羨め。

首を剃刀で切るように、
殺した、
危機感が神経の秤となる。
防衛本能が硫黄の燐となる。
総体性において感じる塩の腐蝕、
物理教師になったみたいだ、
探検家になり損ねた税理士みたいだ、
奇妙な遠近感を欠いた闇は冥府の底で、
進路方向に意図的に作り出された隠喩となる。
直叙であることを止めて、
水銀灯の無個性な光が公衆便所を照射する。

物を知らなさすぎる、
その答えは数十年も前に出ている、
なんだったら十九世紀の定型詩からも読み取れる。
ラヴクラフトやポーからも読める、
その文脈ならライトノベルや、批評からも閲覧できる、
何年その仕事に携わっているのか、
では何故そこに留まるのか。
何故きちんと考えることを放棄するのか。
中央管理制御機構なき我々の言葉を司る機関が、
お子様ランチに見える、無能の決死圏。

この界隈では誰一人それを指摘しない決定事項だ。
第三者の存在を消去し、
致命的に遅れている列車を待って見捨てられた町に留まる。
本来あるべき機能的な道順を想像さえできないのか、
―――定刻。

緋色の焔はこれ以上なく、灼熱し、
これまで以上に嚇熱する。

世界が足りないと君が思う、熱烈に疾走しながら。
錠剤が足りないのも、蜜蜂の翅音させながら。
血が足りないのも、言葉が足りないのも、
―――逆さづりになった愚か者の権利だ。

有象無象の馬鹿の横溢に怖気にも似た、
嘔吐を堪えるのに、
実体のない物質を鋭利な刃物へと変えることも出来ない、
思いつくこともない、その下地もない、背景もない、
その前提には社会の堪え難いほどの緊張感―――と・・。

歯車が廻る、
一週間の間に絶滅しそうな勢いの怒涛の海で。
酔い心地すら誘う朝の渋滞、
かぼそい手で蟻塚を這いのぼっていくみじめな町に、
限界の世界の悪趣味が恐ろしい幼年時代の、
夜光虫を思い出させる。
アメリカン・エクスプレスのカードも出てこないし、
ポルシェの鍵も出てこない。
下らない、無表情、傍観者、
きれいな壁を作るのに左官屋はいらない。

一日考えて駄目な類のことを見つけられない、
十日考えて絶望する類のことを見つけられない、
悲劇が舌先でヴ ァギナに触れる、
そして喜劇はペ ニスに触れる。

歓喜の絶頂へとゆくこの刹那的な衝動、逃避、爆発、恐慌、
この空虚をつくりだした芽生えは、
鏡の表面が河の形をして、
何故かいつも暗い部屋で一人、
家族を待っていた回想、追憶、感傷、
攪拌し、悲哀し、内部空間をひそやかに充たし、
提出される場所に吸いあげられ、
姿を現わす雰囲気そのものではないのか。
―――空襲警報発令。







  *


419








kamome studio「窓」


アイはじまってます
覗き込めよ
この変態野郎
檻の気分はどうだい
今日も奴隷かい?


  *


418







神社皇帝


ゲイシャはジンジャへいく。
てんぷら。

ラーメンはニンジャする。
ふじやま。

にほんの人は、
ニッポンのヒトです。
じぱんぐ。

さらさらのぱらぱら。
ばきばきのぺらぺら。
でもね、
おりえんたる。

かちどん、うめえ。
こぴーらいたーがかいた、
何処吹く風。

こんな国の、
あんなところや、
こんなところで、
うすよごれた、
えヴぁんげりおん。



  *


417






曲がり角


眼がさかなのように泳ぐのは、
ぎんの数珠を並べたからだ―――ね。
つやな趣のあるやまから、
葡萄酒のような雨が降る、
ちいさな坂道をのぼって、
静脈のような青い春をなつかしみ、
血管の中にはほのぐらくかたくなな夏が、
いのちの水を、
スカーフのようにふんわりとさ―――せ、
馥郁たる秋のいわれなき豊饒が、
闇を盛る涼しいはちのように思えた頃、
だろうか―――ね、
糊のきいていないものが白馬にまたがり、
ただひとつの碁石のごときくつあとに、
海が酔いにかすん―――だ、
さよならばかりが様々な匂いだ―――ね。
瞬間―――光と光をないまぜにして、
めまぜにして、よごれて、
混沌をおくにひそませて、きたないね、
でも、たらたらの不思議なくらさだね・・・。


  *


416






from night to morning


あかんぼになる煤紙、句読点を産んでゆく。
疑問符を孕ませてゆく。
常に、継続的に、等しく、須らく、尽く。
―――平和。

息を殺してる犯罪者、
冥府が十全に機能したような夜、
淋しい体温や、
孤独な息遣いが手に取るようにわかった。
僕と君の何が違うだろう、
因果や立場や環境に作り替えられて、
僕は社会のせいにとか神様のせいにして、
いつのまにか可能性に賭けることを、
忘れて―――いて・・。

怠惰や堕落、
ねえ、状況はどうだい?
欺瞞やまやかし、
一人ぼっちの夜が明けていったの―――なら・・。
あるいは幻想妄想、
選んできた道のりの正しさ―――と、
手が届かない場所でも背中を押す君の声・・。

日本は元々島国、四方を海に囲繞された閉鎖性と、
長期間に及んだ鎖国で、共感意識や、優しさを発達させた、
通行手形が必要だった、
僕等、いろんな形で人のことを考えようとした。
鳳凰みたいに見えた尼僧が、
不倫していたというのをふっと思い出す。
正しくはないけれど、けしてロクな奴ではないわけだけど、
色んな間違いや過ちを償う時間があった―――ら、
僕はきっとそれを許してしまうと思うんだ、
人それぞれの悲しみが、夜の街の街燈に溶け―――る。

自己満足でもいい、
バス停留場に絆創膏を置いた。
何かのきっかけが欲しかった―――僕は、
自動販売機に五百円玉を入れたんだ。
ジメジメした湿気っぽい空気もあるけど、
因習社会にばかり眼を向けてられ―――ない、
提灯行列や将軍閣下、戦争、戦争、戦争!
悪いことばっかりに眼を向けるのは、
弱い人間のすること―――だ。
賢くない人間のすること―――だ。
胸を張らない人間は愚かな人間―――だ。

世界中色んなチャンスがある、
僕がそれを手に入れられなくても、
君がそれを手に入れられる世界が―――いい・・。
そうでないとしたら、世界は何も変わらない。
今日生きた人間を馬鹿にするような未来が、
ロクなもんであるわけがない。
コンビニやガテン系を底辺の職業と見なすような世界が、
何故素晴らしいだろう、
自転車だって僕は直せない、
給湯器だって取り替えられない、
自分にできないことはすごいことだって思う、
そして彼はきっとそれを信じて歌を歌った、
そして彼女はきっとそれを信じて絵を描いた。

もしそれが世界平和や大きな愛の取り組みにならないのなら、
僕等は何の為に生きてるんだろう、
同じ穴のムジナだ、ミイラ取りのミイラだ、
そしてそれはきっと僕の望む未来じゃな―――い・・。
生きてるだけで素晴らしいのは二十世紀―――だ、
僕等ひとりひとりが生きてるだけでもっと色んな素晴らしいことが、
引き起こせる、始まる、繋がる、結びつく、色んな奇跡を起こせる、
それが二十一世紀というものじゃない―――か。

人種差別や迫害、ネットの誹謗中傷罵詈雑言、
ろくな小説はないけど読んでみると意外と面白い。
頭の軽くなりそうな歌は数多くあれど、
わけのわからないリズムもいいよね。
ゲーム脳とか、インスタグラム脳とか僕は言うけど、
おっかないカメラがインクのようになる花火の入れ墨、
人がそれでも幸せを求めてるのはわかるんだ、
みんなそれぞれに人生を楽しんでいるって思いたい、
きっと君もそうだろ?
色んな幸せの求め方を考えている時―――でも・・、
間違った道を歩いていても、いつか戻る―――よ・・。

はじめは足がなく、やがて二本足、
最後は四本足になった。
一発で何万人も殺せる爆弾なんかより、
―――おたまじゃくしから蛙(へ、)

勝利や敗北、
ねえ、足音は聞こえたかい?
手探りの地図に踏み出す一歩、
はるか遠くに見えたものも、いまは現在地。
愛や喜び、
あの日の街が絵のように見え―――ても・・、
いつかはシールのように剥がれ―――た・・。

そして僕はやっぱり君のことを考えてた、
大切なものをなくして、
その代わりに色んなものを手に入れた、
僕や君は歩き続けている、進化する未来形態の中で、
また新しい“愛の形”を探している、
そしてそれはまだまだ続く、人類の可能性、
強く手を振ってこの距離と時間を泳ぎ切ろう、
いまが本当に好きだって思えるような生き方が、
どんなに馬鹿馬鹿しく思えて―――も。
いまが本当に素晴らしい思えるようになるはずだ、
何処かで僕は君と出会う、
何処にいてても、何をしていても、いつまでも。



  *


415







 日の底


 地の黒い割れ目と、
 見慣れない屋根、 
 靴すべりを使って家を出た。
 このところ急に忙しくなって、
 今日東京に着いたところです。 
 ―――酒が飲みたい。
 
 静寂を焼き切りにかかった、
 (ハナ ハト マメ マス・・・)
 臓器のしげみのうしろに、
 (サイタ サイタ サクラガ サイタ・・)
 貪欲な波が躍りかかる。
 冬なのに。
 冬なのに。
 今日も枯れた井戸へ石を放り込む。

 ―――ドイツの免税店に、
 積み上げられたお菓子のように。
 
 新宿も、包装紙の切れ端。
 前橋にいたっては、夕映え。
 バーのテーブルに元アメリカ兵がいても、
 海底の珊瑚のようなミスチェシャ猫がいても。 

 「見れる」「来れる」に代表される表現は、
 「ら抜き言葉」
 (伝統形から革新形への置き換わり、)
 ―――【共存】

 びたりびたりびたん、が聞こえてくる。
 「ダイヤモンド」を「ダイナマイト」と言い間違えた、
 言い間違えた、、、
 精神分析入門をし、虎狩散弾銃した、、、
 悲しい、酔いが回って来るのか、おどけているのか、
 古い木造の駅舎と亡国の瘴気、
 君はそれでホテルへ入っていったのか、
 君はそれでレストランへ入ったのか―――。
 
 重力を伴奏にでもしようか、
 (ヤラズブッタクリ ヤラズボッタクリ・・)
 ひからびた骨を肴にでもしようか、
 (ヘイヘイ エドッコハヨイゴシノゼニヲモタヌ・・)

 こんな気持ちのままで、
 奥深いジャングルの中を進めるだろうか、
 こんな気持ちのままで、
 救命ボートの上を彷徨えるだろうか。
 忘れられた波たちの言葉、
 旧陸軍弾薬庫のような溜息が出てくる、
 辛気臭い店主のために病脳する、蟹の眼玉だ。

 あの子は鏡に映った自分が嫌いで。
 鏡の中にはダックスフンドがいるんだって言ってた。
 「欲しい」
 とか物扱いしないでって言った女の子(は、)
 「キレイじゃないから」
 とか主観で物言わないでよって言った女の子(だ、)

 夜だけが。
 薄く切り取ることがある、腫瘍を。
 夜だけが。
 途方に暮れていることがある、堆肥の山だ。
 電気を大切にとか、CO2削減とかを無視して、
 いかれ電飾に心まで淋しくなる、
 美しい―――ぜ・・・。
 記憶の中の、
 幾枚かの切り抜かれた空が、
 藁草履みたいに思えてくる、日本の冬。


  *


 414








答えは刺さるのではなく、
答えは最初からある刺


力学に興味があるんだ、
君は人間の始まりや終わりに興味がある。

問い掛けの中に問い掛けがある、
逆向きの作用がある、遠心力がある、
力の場がある。

気持ち悪い人を思い浮かべてごらん、
大嫌いな人でもいい、
それはどんな理由で生まれたと思う?

理不尽や不条理。
無意味さ。ナンセンス。

理解に苦しんだ君に、
僕はさらさら答えを与えるつもりはない、
もうそれ随分前に言ったよな?



  *


413






The mysterious temptation of the sun



太陽にもし感情があるなら
向日葵にでもなりたかったんじゃないか

いや違う
別にえらそうなことを
言いたいのとは違う

真夜中
夜の道を歩きながら
どうしてあんなに星が美しいのか
突然身に沁みる夜があった

虫歯になって
ひげを剃って
朝食を食べて
意味とか理由とかが
やっとの思いで結びつく

頭のいい人が
何でも知っていることは
到底ありえないし
難しい言葉をいくらかみ砕いたところで
本当にその意味がわかったとは言えない
でもそもそも
そんなの知らなくても
普通に生きてる人がいるんだよ

太陽だって
ぼんやりしたい時
もう終わりにしたいって思う時の
一度や二度あったんじゃないか
これ擬人化だよ
ちゃんと説明してやろうと思うけどさ

僕等は疲れたら休めばいいし
疲れすぎたら何処かが悪くなる
でも太陽はそうはいかないし
宇宙もそうはいかない

昆虫に感情はないと言ってた昔がある
花に感情はないと言ってた昔がある
これ対比ね
日本語わからなくても
ちゃんと教えてあげようと思うんだけどさ
そりゃ僕等とは違う
でもAIが僕等に感情の謎を解き明かす
人格とか
自我とかいうものでさえも
実はひどく曖昧でぼんやりしたもので
それでもこんなに確固にしているのは
ハリボテのような言葉なんじゃないか

毎日働くのが仕事みたいに
おとうさんは出掛けていった
僕も毎日働く
毎日家事をするのが仕事みたいに
おかあさんは何をしているだろう

これ類推ね
連想っていう分かり易い言い方もできる
そろそろわかってきたろう
僕が何をいわんとしていて
どういう狙いをもっているかをさ

それが文化だと知ってなお
それが男性と女性の役割分担だと知ってなお
僕等はそこに揺らぎを持たせ始めている
あるいは歴史上こんなこと
何度も何度もあったのかも知れない
言っちゃえば
何だって全部あった
原形質は変わらない
あのさ質量は変わらない

太陽にもし感情があるなら
向日葵にでもなりたかったんじゃないか
その時僕等の世界は確実に終わる
隕石や大地震よりもずっと確実に終わる
マイナス二百度になる
もちろん光合成できない
生物は生きていけない

ちなみにこれは論証
百のだらだらした言葉より
たった一つの科学的事実を突きつける
甘ったるいシャーベットとか
シュークリームとか
アイスクリームとか持ち出せなくてごめんね

頭の悪いことを言うことで
世界平和をしたいって思う人もいるだろう
ごめんね
悪い国やわけのわからない文化的状況を考えると
それ奴隷にさせちまえに変換されるぜ

時計だってねじを巻くことをやめたんだ
正確であることの辛苦が列車事故を起こしたし
便利さの弊害がブラック企業なんだ
太陽だってそこにあるというだけで
様々なものを自然に支えている
僕等は太陽に秘密基地を与えてはあげられないし
替え玉を作ってやるほどの技術力もない

何故そうなのかを徹底的に突き詰める
そのことでまったく違う事実を浮かびあげる
これが逆転というやつだ
発想を引っ繰り返す
僕がこれまでしてきたことは全部
ならし運転だぜ

でも夏になると滅茶苦茶暑いんだ
もうなくなっていいよって思うんだ
その声が聞こえていたら絶対に理不尽だって思うだろう
陰口や文句を言ってくれって言う人がたまにいる
僕も後輩には優しくそう言ったものだ
けれどそれって言わせないようにしてるという逆作用も
それは十分に有り得る
じゃあ嫌われるように接したらいいって言ったら
それはパワハラさ
何事もバランス感覚が大切

じゃあこれは何かってわかるかい
簡単なことさ
考えなくてもわかるぐらいに文章を勉強したらいい
ちなみに幼稚園から小学生レベルのポエムを
美しいと思うのは
既に心が病んでいるのさ

何をしたって違う答えがある
たった一つの真理なんて生きてから死ぬまでに限定しなくちゃ
どんなものだって答えになることを
日々のニュースは証明するだろう
頭のいい詩人が
どうして毎日毎日馬鹿なことを書いたのか
毒にも薬にもなりゃしねえ
排泄物みたいなものを作り上げたのか
興味があるかい?
簡単なことさ
みんな病気だったのさ

太陽を直視すると眼だって悪くなるからね
まあ眼が悪くなるぐらいだったらいいけど
失明とかって聞いたら
君もそれがどういう意味かはわかるだろう
太陽が明るいなんてそんなことはないさ
随分前に感情を燃やし尽くしてしまったのかも知れない
あれはスーパーバーサーカー状態なのかも知れない

僕は芸能人とかアイドルとか好きでも嫌いでもないけど
あれはあれで大変だと思うよ
光のあるところには影があり
ネット掲示板の悪口のすさまじさ
あんまりにもひどいとそれで自殺する人もいる
やっぱり明るすぎるのはいけない
でも暗かったらそんなのは見たくないのさ

有名になりたいっていう人を見ると
僕は不思議な気持ちになる
でもさここで沢山遊ぼうぜ
考えることがいっぱいあるわけがない
考えることがいっぱいの人を作り出すのさ

番号も誰からもわからない
いたずら電話が掛かって来る
もしもし僕が太陽だよってね
いつもありがとうね
そうだねお世話様になっておりますってね
嘘さ
だけど神様がそうしてくれたら
困っているみんなをそうしてくれたらって
僕だって考えたことがあったのさ
信じられないだろ
ふつうの詩人よりも何百倍も何千倍も働くって
どういうことかというところに
様々なクエスチョンが隠れているよ
そもそもみんな馬鹿になったのさ
昔みたいに馬鹿げたものじゃ救われない

頭が変になってるって太陽が言う
そうだろうねもうずいぶんになるからねって答えよう
宇宙もそろそろだねって僕が付け加える
そうだろうねあれも随分むずかしい人だからって
何書いてるんだ
わかるだろうポエムさ



  *



412






君がいたあの場所から
From that place where you were



幼馴染がプラットフォームに立ってた。
空、ゴミ、人が遠景で浮かぶ引き戸を開けると、
乱暴な叙情。
ジャングルジムにタンスの防虫剤を見つけたような一瞬、
コオロギでも、ゴキブリでも―――。
黒に変わりはない。

静かな湖を望む霊園へと入りかけてる時間帯に、
奴が小学校時代に得意にしていた、にらめっこ。
最高のクオリティだった。
しかし何もかも昔に一度起こったことみたいだった。
ある日、田んぼに住宅街が立ち並んでいて、
大きな商業施設が―――。

たとえるなら『ドラゴンボール』と、
『ストリートファイター』
の実写化による精神崩壊の引き金。

問題は、わたし・・・・・・。
わたし、なんだ。
わたし、の方、なん、だ・・・・・・・。
メリーゴウラウンドの馬に乗っているような気分、
観覧車でロマンチックに浸りすぎて、
逆に憂鬱になってしまったような、
あの最悪の気分。
わたしのメンタルが都会にやられていて、
上手く笑えなかった。
それは中学校の修学旅行で、
おどけて蝶ネクタイを緩めたような緊張の一瞬に似ていた。
本気と書いてマジだった。

ここで何のラブソング流したらいいんだよ。
わたしは無表情なモノローグを入れながらうなだれた。
未成年のかたまり。
日毎に丸みをおびてくる。
幼児退行している―――よ。

昔だったらそんな痛烈な言葉が出てきた。
笑える人がいて、笑わせる言葉が自然に出てきた。
あの日のわたしはすごく輝いていた。
けれどいまのわたしはデクノボーだ。
取引先に謝罪へ行き、これから帰社して、
山ほど残った書類仕事で残業だ。
けれども給料がよかった。
給料がよければブラック企業ではないのだ、
と言い聞かせていた。

真顔のわたしを尻目に、彼の会社の同僚だろうか、
周囲の人間が笑っている。
ビデオゲームの中を歩いているみたいに、
ストリートビューで顔を隠した人物のような非現実感。
ミッチーサッチーのケンカ。
泉ピン子と和田アキ子。
しかし彼は、立ち退き要求に真っ向から対立していた。
そのまま三段跳びで起死回生をはかろうとしたが、
何しろ、そのリアクションの時間は短い。
緑のピクトグラムとほぼ同じポーズで。
Bダッシュの 急いできた感とかね、
ドヤ顔しながら。
光属性。
天然ハイで、アッパー系。
けれど電車はそんなに長く停止していられない。
日本の電車は、日本人のように真面目なのだ。
いや、社会そのもののように詰め込まれたスケジュールなのだ。

商店街の金物屋で、
ケンシロウみたいな表情をして、
こんなキラキラしてたっけ、
ファイティングポーズを取る、
馬鹿をふと思い出す。LINEが入ってた。
「今度おおおおおお!!!
かけっこしようぜええええええ!!!!!
うわああああああああ!!!!!!」

・・・・・・。
・・・・・・・・・。
―――ぷっ。
クロスカウンターが入った。
気が付いたら激しい笑いというものに襲われていた。
涙が出るほど、
めちゃくちゃ笑った。
3Dの貞子みたいなわたしは何処へ行ったんだろう。
よく当たる占い師の水晶玉が、
近所で半額の貼り付いたシールの水晶玉に、
何故かよく似ていた。
そんなことを思い出した。
部屋、廊下、キッチン、とあかりをつける。
水道の水を飲む。
泣きながら、吐くように思い出した。
もっと楽な会社へ行こう、初めてそう思えた。
身の丈にあった人生を送ろう、初めてそう気づいた。



  *


411







land of mirrors

ひと月に一度か二度、
見知らぬ駅を見る。
水晶体が感光する。
心象レンズへ、と。

(君を、)思い出させる、
―――綾を織る。

羽化が始まる。
スパイダー・ウェブ(へ、)
ユング・ザ・ネットワーク(へ、)

[ものの](ひか―――り・・)
[ひとの](ここ―――ろ・・)

流線型の街を飛ばす窓の、
ことのなりゆき、
非現実的なオセロー、
幾何の問題のようなジグソーパズル。
寝息、スマホをいじる指、
ふわりと落ちる隠されたゆりかご(へ、)
手品みたい―――だ、
背後から迫る影へとフィナーレ、
砂時計を引っ繰り返す。
通過儀礼。

『くりかえす』《ことの》―――「意味」
『はじまりと』《おわりの》―――「意味」

窓に映る半透明の自分。
お仕着せがましさも、
寝耳に水。
クレヨンの先端のような、
影の中で遊ぶ子供達。
生きた蟲みたいだ。
ぐぐっと反っている。
アンモナイトの渦巻きを、
蜂蜜のような液体でなぞりはじめる。

(​​​・・・・・・ふっと、後ろを振り返ってみる、​​​)
(​​​・・・・・・沈黙、沈黙、沈黙、​​​)

通過す―――る。
通過す―――る。
その距離は、
とても短い。
[入ってゆく...]
《水面に波紋が生まれたよう―――》
(入る...)
[入る......]
隙間(が、)ある―――から・・。
《甘い憂鬱が首筋に触れる―――》

る、れ、ふ、、、
る、れ、ふ、、、





  *


410







ロード


トラックに積まれた不法廃棄は、
まるで缶珈琲のタブ引き起こす一瞬だった。
町がうらぶれた細胞みたいに遠ざかり、
黒に染まる。

フェード・アウトのタイミング―――で・・、
(思ったこ​とのない、​)
フラクタル図形、パンデミック、二重振り子、
蟻のコロニー、細胞の増殖・・・。

ドヴォルザークが鳴り響く。
落花生の殻を握り締めると、
アスファルトからめらめらと立ち上る凶暴な熱気、 
[身体感覚のないリアルな記述]
溺死しない不安定な景色を飛翔するためには。
『心をつつむ鈴の音』は[いつも【用意】しておく]・・。

脳味噌―――。
偽物の夜がゆらゆらと波紋のように揺れ、
君はまだプラネタリウムの夢を見る。
ルウベンスの贋画の合図。
気が滅入るような、骨投げの合図・・。
テールランプや、ネオンや、電飾板が教えてくれた・・。

君の心、を映す、世界の、小さ、な、波。
(七年の間に細胞は入れ替わる、)
ユニヴァース(の、)迷​路​―――で、(で、)
砂山の上に、
シイ、シーシシーシ、
(ス、ウィ・・ス、ウィ・・・)

でも、わか(っ)ちゃったんだ―――。
わか(っ)ちゃったんだよ・・。
未知の夢の中で登場人物たちは、
ゴミ捨て場の中のマネキン。
駕籠の中には原子物理学が核爆弾を生み出したように、
本物の夢が横顔のアップのように広がる。
拡大ディスプレイ表示、
そしてドラマ進行の矢印、視線の誘導。
無造作な、かかりにくさ、
口元が、ガラスの雲形定規する・・。


  *


409






petrify


見回りの足音に、せーのでプールに潜った。
酸が金属を侵蝕するみたいに、
錯乱に満ちた光もそりゃ、諧謔でもって。
息がまだなくならない。
壁に焼き付けられた影のように、
周辺には避難警報。
揺れる吊り橋は消えてゆかない・・。

ねじれとか揺らぎの、スクロール・エリア。
窪みと傾ぎの、システム・エリア。
スマイルのエンドルフィンで沸騰と絶頂と興奮。
バター・クリーム・ソースになろうか?

その時、流れ星が流れる。
酔っぱらいのおじさんがふつうに転ける。
交番には尋ねたかい?
こんなところで迷っているのは、
普通じゃないっていう証拠。
原始時代に起源を持つ、
シャーマニスティックな、それ。
衛星のGPSの点、
足の裏から奈落へ落ちてゆく人間の心理の言葉。

円盤が落ちる―――から・・。
円盤が落ちる―――から・・。
ツーツーツー、
ツーツーツー、
ツーツーツー、
そこには、
みずのしんでん、
りゅうぐうじょう・・・。

鳥の言葉を話したかった。
水の気持ちがわかりたかった。
空白のディジタル・ループ。
立体的な音の風景の構築。
虫の鳴き声。
位置空間の記号合図を待って。
位置空間の記号合図を持って。

オリエンタルなターンでアデュしてバイバイ。
グルーヴィーなハイでバタフライ。
通り雨が降ってるように、耳が傾斜。
風の音、風の音、息の音、枝を揺らす音、
水面に不時着する葉の音。
顔を上げたら、水平線は無限。
迎撃ミサイルの準備のようなシナリオ。
スクリプトのヴィジョンでダイアリー、

1000Hzノイズから1500Hzノイズ、
2400Hzノイズ・・・。

銀の液体の中でカチカチさせて、
腐敗と崩壊に満ちた現世を孕んで、
卵をたっぷり産みつけてゆく。
秩序という名の記憶のない声。
うつろいゆくもの。
うつりゆくもの。
静かにゆるやかに潜行してゆく街の睡り。
短い心臓の鼓動で、少し切れた息で、
―――音が消え・・た。

眼蓋の奥にある冷たい硝子のような憧れ。
夏の草の匂い。
蝉の音が止んでいる、夜八時・・。

でもいまは―――誰のものでも・・・ないから。
でもいまは―――誰のものでも・・・ないから。
“クレーター”という谷間の奇妙な影も、
意識の領域の何処かに着地する、
共時的な感覚として。
―――閃光・・。



  *


408









If you smile, there will be a hole in the balloon



あはは、
いいね、それ、
ふふ、
君が、
わたしを?
アハハ、
駄目だ、
止まんないや。
ふふっ、
幸せにすりゅって、
すりゅって、
ふふ、
アハハハ、
めっちゃカッコいい、
カッコいいよ、それ、
うれしい、よ。
あははは、
ごめんごめん、
違うんだ、
すごいと思って、
すごい、よ、
世界を見渡しても、
どんなニュースを見ても、
両親や教師や、
大人を見ても、
みんなそんな恥ずかしいこと、
言わないのに、
多分言っちゃいけない、
ことなのに、
君がそんなことを言うからさ、
どこからわいてくるの、
その自信。
ふふっ、
楽しい、よ。
その、わたしもきみに、
しあわせにされりゅ、
されりゅされりゅ。
アハハハ。



  *


407








A smile heals all wounds


終わらない朝があった―――な。
終わらない夜もあった―――な。

笑って笑って、
今が一番大切だよ、
返品有効期限も切れるし、
レシートなんか捨てたでしょ。

クーリングオフって君は、
何言ってるのさ、
人生にやり直しなんかきかないよ、
たった一度きりの人生を生きるんだ。
笑顔は最高の麻薬物質を生み出す、
魔法って言うよりイカしてるだろ?

願い事を叶えてくれる神様も、
運命の女神も、
雨が降れば花が咲くってことを、
教えてくれるだけ、
それでも朝が来るよ、
笑って笑って、
君の笑顔はすべての人の幸せの鍵なんだ、
明るい世界を作ってやろうって思った、
その心が魔法なんだよ。


  *


406







do you like summer?


バスが去っていく後ろ姿を、
見つめて、また歩き出す。
傷口から釘が出てくる、
これはあなたですか? 
テンプレートに沿った、
バス停から見える踏切。
言葉の中に溶けてゆく、身分証明書。

タクシーが停まっている。
機能回復促進物質。
ピントを震える指であわせて、
シャッターを切る。
煙草屋がある。
静止衛星する。
漁師がいる。
分裂症的膨張。

とても静かな場所だ。
静かで広くて何もない。
石が正当な均衡を保って、
川から途切れなく滴り出てくる水。
アルバイト募集の、​
​フリーペーパーを三度読んでる。
鏡の中でモデルガンを構えてる
研いだ包丁の先の大義名分。

頑なな顎へ、
​​​条件や根拠の息づいた頬へ。
カセットテープや、LPレコード。
そして、火星の街や、土星のリング。
オーケー、暗黙の了解、​​
​ノープログレ、何の問題もない。

空がさっきよりも明るくなって、
潮の匂いがする。
遠くで煙が上がっている。
見知らぬ名前をいくつも行き過ぎる。
ブレイクや休符がある―――ドラムス。
一つの記憶と、
その反対側の記憶の視点の中で。
思春期的飛躍は手品のように矢継ぎ早に繰り出される。
ジャブからのボディーブロー、
そして、会心のアッパーカット。
月の裏側のようなロング・ディスタンス・・。

好きという​​​​​​​​​​​​​​​感情は、
結局何を生み出すんだろう・・・?

見つけて、止まる。
デリート、そしてリライト。
火のような反抗心、本能、
犬の鼻のアップ、
世界が風を運んでいる。
手を伸ばして、触れた。涼しくて硬い。
胸から咽喉にかけて息の詰まりそうな苦しさ、
知性も衣装もない、身体の中にある硬い水晶。
物体の移動の途中。
液状的で過渡的。分裂や解体。
メタモルフォーゼ。

あの場所に、通じる道。
手袋のうちがわを突き進む指の映像。
心臓の高鳴り。
バイオリズム、
そのラディカルな水平性。
帳面の規則正しさ。
遠ざかる、雲。
風が呼び交わす―――。

眩しくて、すこしぼうっとする。
硝子板に吹きかける息。​​​​​​
広くて静かで誰もいないところに行きたい。
過ぎていく景色を、なんとなく眺めながら歩く。
アイデンティティを持つ、​
​性的表現を手に入れる、​
​政治性を持つ、
不安やトラウマや人種差別を考える。
口笛に似た音がきこえ、
顔は上向きにした掌みたいになる。

誰もいない時間が続く。
意志ある大きな意識の存在を感じて、
​​​​​内部と外部の食い違いを自覚する、​​​​​
管弦楽の序章。
乏しい生存の呼吸を洩らしながら、
心の通わない五秒、瞬き、
大抵の自動扉は、秒速一メートルで歩いて行くと、
一メートル手前で自動ドアが開き始めて、
その一秒後にはドアが左右で計一メートル開く。
おどけた顔も、泣き顔も、
卑しさも、どうしようもなさも。
幸せな時間が続く。
真剣なまなざしで、
君が波打ち際へ帽子を投げる。


  *


405








I can feel the desert on the other side of my memory


長い悲しい―――声、が、した、
ワグナアの音色、ドビュッシイの景色。

君にも、思い出せないぐらい、硬く薄い、笑顔、
君にも、切なくて考えられない、歴史の闇が、あって。

思い出せなく、て、
でも半ば隠して―――い、て、
辛か―――った、ね、

「感情が通過するまでの時間―――と・・」
(いつまでも心に刻まれた―――の、
《レンズに入る光》だ・・)
「咽喉元を熱さが急行列車のように過ぎる―――まで・・」
(いつまでも心に生まれていた―――の、
《弾力的で、柔軟性のある水》だ・・)

やさしくした―――いよ・・、
むねがくるし―――くなるほど、
好きな、ひ、と。

蟻のように無関心な映像。
イ ン プ ッ ト さ れ て ゆ く 、
商 品 説 明 や 広 告 。
広い草原に雨が降るようなクロロホルム。
頭に、即興性の、電気信号的な、言葉の、綾。

「電話が鳴っている―――わ・・・」
「ねえ、電話が鳴っている―――のよ・・・」

はじ―――め、て、
咽喉元―――に深く・・触れた気がし、た、
エチオピアにおけるコオヒイの作法や儀式。​
ねじくれた時間のはらわたがガジュマルの樹のような、
髪の毛から―――続く・・。
続いていたような―――気がする・・。

言葉をかけた―――いけど、
すぐに、泣きたい、け―――ど。

君にも、硝子になりたい、白い張りつめが、あって、
君にも、ステインドグラスや、プレハラアトが、あって。

[欠けている](っ​て、​)・・
[虧けている](って、)・・・

《体温の蒸発と、剥製の唇と、妖艶な香水》
《無音の津波と、樹木の隙間と、古代の氷河》

息を止めて、ひとりひと―――り、
すれちがって、嘘も涙も・・。
まだ、半開きの―――くちびる。

游ぐ魚・・・・・・沈黙・・・・・。
思考のものうい日焼けしたオレンジ色・・・・・・。

「手」(が、)【触】れ て る 、
「底」(に、)【届】い て る 、

精彩な様々な情報を読み取っている。
[脳波、眼電図、筋電図、呼吸運動のポリグラフを、
記録するみたいに]
眼を閉じている 君 は、
呼吸を続けている 君。

言葉や、イマアジュや、観念の中で、
夜に見えるものなど、
暗い海の底の暖流と寒流の人知れぬ重なり合い。
車のエンジンやビルの空調の音、
工事の騒音、人々のざわめき、雑踏の音。

[堕落ちている](っ​て、​)・・
[陥穽ちている](って、)・・・

いま―――は・・。
いま―――は・・。
こんな世界―――の、鳥の囀り・・。
知らなかった―――か、ら、
信じられなかった―――か、ら。

「感情が通過するまでの時間―――と・・」
(いつまでも心に刻まれた―――の、
《レンズに入る光》だ・・)
「咽喉元を熱さが急行列車のように過ぎる―――まで・・」
(いつまでも心に生まれていた―――の、
《弾力的で、柔軟性のある水》だ・・)


  *



404







the windmill continues to turn


スマートフォンでLINEを打ちながら、
一寸の幸せに一尺の魔物がつくように、
凄艶な光をたたえて悪魔が眼の前に立っていたら、と思う。

急傾斜、曲線、凸状、振動、
白黒の映像を見、随伴する音響。
古い絵画特有の感傷・・・。

―――【タイマーの設定時間】

十年後に開けるタイムカプセルの中身みたいに、
色んなことを忘れてしまう。
瞳はラムネ壜のような透け方をして、
やがて井戸のような暗くて深い瞳孔を黒曜石にする。
どうして算盤でローラスケートをしようと思ったのか、
一階のドアの柱に、成長のしるしがつけられ、
何故そこに絆創膏をつけようと思ったのか。
それが勝手に、自由意思を持って、切断されて、
情報を取得できないまま、
まるで別人の記憶のようになって、
誰かがスナップ写真を撮った骨と花―――。

だからなんだよ、だから、
君はこの声を聞かなくちゃいけな―――い・・。

文明の終わりというのが突然に起こるものだという話を聞いた。
自然災害、突発的な彗星、流行り病かも知れない。
何年も、何十年も、何百年も、もしかしたら何千年も、何万年も、
そこはずっと時間が停止しているのかも知れない。
探して見つけて迷った日々に後悔はない。
吹き抜ける風と木々の揺れる音。
伝えられずにただずっと閉じ込めていた答えを。
眼を瞑って委ねていたかった。

「大丈夫?」も、
「心配ないよ」も聞こえてこない、
この場所はエジプトのピラミッドに存在する、
隠し部屋みたいだ、と思う。
頭の中に届いた映像のイメージは、​
次の映像がやって来るまでの間は保存され、​
​次の映像が重なることで動きを感じとれる。
―――​​残像​​・・・。​

雨蛙はぴょんぴょんと飛び跳ね、
その腹筋に毒のような引き攣りの痕跡を残し、
鳥が囀り、野良猫は日向ぼっこをし、鳥の糞が植物の種子を運び、
文明の残骸がそこに残り続ける。
路上に横転した車、既に半ば朽ちた鉄道車両や市営バス。
蔦に覆われ、幾度もの朝や昼を繰り返しながら、
いつの日にか見つけるだろう。
いつか誰かが算盤でローラスケートをしようと思いつき、
あの古びた家に入って絆創膏の意味について考える。

パンを軽くちぎながら洞窟を進んでいた探検家が、
ポケット・ライトで洞窟にいる蝙蝠を照らしだすようなシーン。

それはいんちきだ。
そんれはあまりにも、とんちきだ。
思い出せないぐらい昔と同じく、
ありえないほどの未来に何かが残っているとは限らないし、
ましてやそれに価値を見出すとは限らない。
ここは見捨てられた惑星になるかも知れないし、
新しい人類の誕生だって起こり得ることだ。
彼等は人間とロボットの双生児だ。

水星というのに水がなく、
火星というのにマイナス百三十度。
ゲームコントローラーのコマンド画面が見えてくる。
でもゲーム画面のプレイヤーがいなくなっている。
それでもサウンドだけが聞こえ続けている。
誰かの為にと思って作られたはずのものが、
いまとなっては心の中の不協和音になってしまっている。

街の高台に建つ家から見えた街は、
アコデセワ呪物市場さながら、
それともウィンチェスター・ミステリーハウスだろうか。
ロールシャッハテストする。
学校の教室から見た夕方の廊下の闇が不意によぎる。
彼等にはどんな風に見えるんだろう。
綺麗だと言うのだろうか。
つまらない景色だと言うのだろうか。無限の哀愁だよって、
しとやかな硝子遊戯・・。



  *


403







My dreams are hot, my heart is cold


よくわからないけれど真夜中にマラソンがしたくなって、
歩き始めた。
どういった理由で警察官になったんですか、弁護士になったんですか、
医者になったんですか―――と質問する人がいる。
警察官は憧れやすい職業だし、
弁護士は難関だけれど手が届くエリート職業だ、
医者は両親が医者でなければ難しいことが多いと思う―――と、
考えて、いつのまにか、マラソンなんて馬鹿馬鹿しいことを、
諦めて、投げ出してしまおうか、と思う。
二十歳から脳が壊れはじめ、三十歳で成熟する。
およそそのタイミングで、肉体には十歳ごとに疲労や、
老化、限界といった要素がプラスされていく。
もちろん歩くのが好きな人や、走るのが好きな人は一定数いる。
国家試験と同じだ、一定数の合格者がいれば、
不合格者もいることになる。
残念ながらスポーツは才能と相場は決まっているが、
しかし頭脳にだって才能というものは存在する。
まず、人間の脳には「働く脳」と「サボる脳」
というのが存在する。
もちろんそういうのを改善できる人もいる。
確率が始まる。
たとえば好きな仕事ならノンストップで集中力を発揮できる人、
偏った作業なら誰よりも上手にこなせる人もいる。
選別が始まる。
「届かないという壁」の前にいたことがある人もいて、
「叶わないという心の檻」の中で過ごした人もいる。
できる人と、できない人との差はかなり決定的なものだ。
できる人は最初からそれができるように考えるし、
できない人は最初からできないように考える。
もちろん勘違いや、器に合わない、努力もしない人も一定数いる。
続けるためには、きっと毎年、あるいは数年に一度でも、
そのための勉強をしなければならないだろう。
勉強をし続けるということは過酷だし、
それは努力できる才能を有していて、悟りの状態に入っていて、
他人に影響を与えられるカリスマの状態に入っているといえる。
けれども、「特別な人」ばかりの世界ではない。
ここは、「普通の人」ばかりの世界なのだ。
どうして夜中にマラソンなんてしようと思ったんですか、
と半笑いで聞く人もいるだろう。
コンビニで働く人、ガテン系の人を底辺の職業と言う人もいる。
きっとそれは漫画の誇張表現のせいだ。
あるいは人間の心理学が垣間見せた差別や迫害の一瞬だ。
あるいはSNS全般通じてうかがえる、
腹黒い駄目な人間のマイナス思考だ。
「お金持ちになる必要はない」と言っても、
「お金が欲しい」ことに変わりはないと無理矢理接続する。
闇バイトや、危ない橋を渡って金を稼ぐ。
お金の物の見方で明るい言い方をする人もいるし、
お金の物の見方で暗い言い方をする人もいる。
「あなたは幸せではない」と言いながら、
「幸せになる方法がある」と有り得ない場所へ不時着する。
幸せというのは勘違いの状態である―――と思うし、
また、幸せは言ったもん勝ち、そう信じたもん勝ちみたいなもの。
そんな抽象的で具体性に欠けたものに、
どんなに論理を詰め込もうが人間はそんな風には出来ていない。
だから「騙す」というのだ。
何をしても「搾取する」ということはついて回る。
たとえばグーグルマップで目的地までの距離が表示される、
けれどもネット生活を通じて、地図というものの本来の意味から離れ、
目的地だけが表示されているような気持ちになることがある。
だって、その道を覚えない。
こうしたら、もっと早くなるとか遅くなるとか考えない。
最適解だらけになってしまうと余分なことは贅肉のようになる。
余裕のないことや、緊張は、そうした計画性の中にもある。
だから「一人一人のことを考える」なんて絶対に出来ないとわかる、
そこには「一人と思しきモデルタイプ」がいるにすぎない。
夜の道を歩きながら、女性が痴漢されたとか、
殺人事件があったんだよといった声や言葉がクローズアップされる。
心の中から。
本当はもうわかっているんだ、様々な階層がいる、様々な人がいる、
そこでの考え方に妥当性や普遍性はある、それは表面上で、
それ以外の見えないところに眼を瞑っているだけなんだ、と。
警察官になったのは殉職した父親がいたからです―――かも知れない、
弁護士になったのは犯罪事件に巻き込まれて、
自分も何かの力になりたい―――と思ったからかも知れない。
医者になったのは癌で亡くなった両親を見ていて、
自然と医学を志していた―――ということかも知れない。
でもそんなのアニメや漫画だろ、
どんなヒーローだよ、そんな奴いねえよと笑う人もいる。
それも社会心理学で説明できる。
なんだったら全体の傾向、
界隈の物の見方という統計的な考えも推し進められる。
それをルサンチマンとか、底辺らしい、うすっぺらい物の見方、
全能感があるが外では何もできない無能の人と書くこともできる。
ハードルを上げる必要はない。
物の見方にフィルターをつけることもない。
最低僕等はそれを取って外しながら生きていいと思う。
アーティストの浮気や芸能人の不倫なんか実際どうだっていい、
特別なふり、きれいごとを言いたがる馬鹿を血祭りにあげる、
それが―――マスコミの趣旨なのかも知れない。
世の中きちんと働いている奴がいんだよ、
おたまじゃくしで金稼ぎやがって、イメージ商売で中身は真っ黒、
そう言いたいんだろう。
でもそれが一体何だって言うんだ。
それを生贄社会だと言うこともできる。
けれど自分はそんなのどうでもいいって思う。
浮気から本当の愛が生まれる話を聞きたい、
不倫をした理由がもっと真っ当だったらいいな、と思いたい。
少子化のためには浮気や不倫で子供を産んだ方がいい、
というような馬鹿げた意見させないでくれ。
真夜中にマラソンがしたくなって歩き始めた。
真夜中にマラソンがしたくなって歩き始めた。
もう一度立ち上がってみよう。
もう一度立ち上がって、何処まで行けるか、どんなことを考えられるか、
最後の道、終の棲家、人間の最終決定まで。
そうしたら海が見えるかも知れない、
グーグルで表示されていた道路は高速道路で、その下の、
街頭で真っ暗な、かなり落差の感じる、道を歩くかも知れない。
昼間はすごく綺麗なはずなのに夜はすべての温度が消えていて、
ゴーストタウンのように見えるだろう。
でもその海の向こうまで行きたい、
そこは今まで行ったことがない場所で、自分の言葉も通じない場所、
それでも働かなければ暮らしてはいけない、そんな場所。
星の向こうまで行くというSFがお伽噺ではなくなるような時代に、
海の彼方なんて身近な距離だ。
数時間飛行機へ乗っていたヨーロッパの旅行のことを思い出す。
伝説やお伽噺が無数溢れている。
物語は人に感動や影響を与えるツールとして氾濫して、
情報量は洪水のように溢れかえっている、溺れている。
行ったような気がする、海ではいけない。
絶対に行かなければいけない、海でないといけない。
真剣でなければつまらない、
真面目でなければきちんとした考えが出来ない、
入ったことのないファミレスだって客が一人もいないというだけで、
避けてしまいたくなる。
情報がいつのまにか別の顔をして、
諦める理由や、病む理由について話している。
きれいごとだらけの言葉では心に届かないし、
僕はきっとそんなの好きじゃない。
でも終わりがあるならその始まりを何処からだって作れる、
あるいは何処にあったはずのターニングポイントは、
人生の切り替え地点は何処にあった。
その始まりは?
色が戻り始めて、世界はいつのまにか静かになって、波音がする、
そこには年老いた僕がいて、年老いた妻がいる、
何かを変えることはとても難しいことだけれど、
それ以外のことは考えられなかったと言うかも知れない。
海の向こう。
世界の向こう。
宇宙の向こう。
この一瞬が何百年、何千年、何万年を孕んでいるかも知れない、
折角の知恵、アイディア、物の見方、様々な人がいる、
おそろしいほど遠くまで行ける方法を知ることが出来る、
それは言葉のイメージの中にある。
僕等が普段話す、何かを想像しながら話す、
あの眼の中に僕は流れ星を見た。
詩は一つの窓で、世界は無数の窓であらわされる、
そして僕はとてもとても長い旅をして、ようやく満天の星空を見た。
なんて馬鹿げたことを考えながら夜のマラソンは続く、
明らかなランナーズハイ、明らかな足の痺れ、
でもさ、不安や戸惑いもある、生き方への反省、
日々の無力さ非力さに対する鞭打ちもある、
ここで終わってしまうようなことを、繰り返しちゃいけない、
ここで終わってしまうようなことを、繰り返しちゃいけない、
海の彼方にとても美しいものが待ってる、
僕はそれを手に入れたかった、
そんなものきっと、ずっと前から、知っていたはずのようなこと、
でも、そこで、その時、ちゃんと手に入れたかった。
波音になりながら、夜の風になって、
永遠と刹那の中に入ってゆく、
身体の隅々にまで届くほどの電流が身体の芯から心の奥へとつながる、
僕は知りたかった、
もっと、ちゃんと、世界中の誰よりも、その場所で、
自分が生きているということの意味を、知りたかった。



  *


402








コンビニについて考える詩人


​​​コンビニへ行く。
出店方式が多彩でやたら提携をしたがるローソンや、
自社製品に強く店舗数が圧倒的なセブンイレブン、
そして実は日本発祥の草分けコンビニであるファミリーマートは、
本当に何処にでもある。
ミニストップやデイリーヤマザキ、
セイコーマート、ポプラ、スリーエフが続く。

コンビニは売れる物しか置かないという鉄則があり、
商品の入れ替わりは激しい。
大きく姿形を変えていくプロセス、
音楽業界が時代の最先端を取り入れるのによく似ている。
コンビニは時代を象徴するアイテムを仕入れ、販売する。
近頃では総菜を買う主婦やお年寄りが増えたという話も聞くし、
アルバイトに外国人がいることも珍しくはなくなった。
電子部品を作る工場のトラックの間を駆け抜け、
ビルの間を走りながら屋台が見え、
鉄道のダイナミックな動き。
アラベスク模様みたいだ、いや、幾何学模様みたいだ。​

僕等はサークルKや、
AM/PMを懐かしく思い出し、
時々地方に存在するコンビニについて知る。
店頭に停められたトラックや乗用車や駐輪スペース。
人手不足や人件費の上昇により、
加盟店の負担が増しているという話をふっと思い出す。
便利ということは必要とされることだから成長できるのだけれど、
それはアマゾンというブラック企業を明かすことになる。
コンビニだって人がいなければ、
店にいる人間だけで回すより他にない。
カメラを構えて。​
​広角レンズの視点。
水平だったものが、徐々に角度を落としてゆく。​

コンビニのレイアウトといえば、
どのチェーンもビル内出店や狭小店舗などの、
特殊立地を除きほぼ同じレイアウトになっている。
入口すぐの場所にレジカウンター、
窓側には雑誌売り場、
お弁当やドリンクは奥の壁側といった感じだ。
とはいえレジカウンターを奥にした、
セブンイレブンという話を聞いたり、
雑誌売り場の立ち読みを禁止するという話を聞いたりした。
郊外型の大型商業施設もちらほら見かけるようになり、
小さなスーパーマーケットが潰れている。
ドラッグストアがスーパー化しているのも見逃せない。

入店すると、
カップラーメンがカウンター前に並べられているのが見える。
手書きで書かれた吊り下げ式POPが掲示されていて明るい。
明るいといえば、コンビニの照明は、
正面の道路に対して平行に蛍光灯を配列している。
蛍光灯が横方向に強い光を放つという特性を考えて、
このような配列にしているのだ。
この配列により、道路へより強い光を放つことができ、
歩行者やドライバーに店舗を認知してもらおうと考えている。
蛍光灯のペインティングアートだ、
ごめん、ちょっと言ってみたかっただけ。
リアルが細部に宿るというのなら、​
​シンボリックなものや、​
​パターンに対する説明を入れなければならない。​

カウンターはきわめて周到に緻密に計算されている。
ドンキ―ホーテの迷路のような店内と同じような意味で、だ。
ガムや売れ筋の本、値下げ商品などを置いたりもする。
カウンターには煙草や、電子レンジや、手洗いの蛇口が見える。
ホットショーケースがあり肉まんやフランクフルト、
唐揚げなどが見えた。
コンビニでは宅急便の取り扱いもできる。
二十四時間コンビニでは、ATMも忘れてはいけない。
ただし、夜中を過ぎると防犯のため取引ができない。
イベントの時にはコンビニでお弁当の予約も受け付けているし、
お歳暮やギフトなどもはや何の店かわからない化は進む。
ステルスマーケティング、
ごめん、なんか言ってみたかっただけ。
冬になるとおでんが増設される。
その前には売れ筋のスナック菓子や、
ガムやグミなどが見える。

ATM、コピー機、
マルチメディア端末などが右手に並んでいる。
左手は食事できるイートインスペース。
店の外でカップラーメンを食べて捨てていく、
おそらく若者のマナーのない光景を見た。
イートインスペースは必要なのかも知れない。
ポット完備、フライパンにバターを引くように、
その横に業務用コーヒーマシンがある。

また戻って右手の陳列棚には、
化粧品コーナーや日用雑貨や、文具がある。
下着、靴下、タオル、洗剤に、ゴム手袋。
ペンやノートに接着剤。
その前のマガジンラックや本棚には、
雑誌や漫画が並べられ、
トイレが見え、鏡がこちらの姿を映している。

ユニクロにディズニーのTシャツがあって、
シン・エヴァンゲリオンのTシャツがあった分かり易さ。
ボーダー柄派の謎のレトロ感インベーダーゲーム感で、
そっくりさんが出没この街はみんな宇宙人、
ってごめん、言ってみたかっただけ。
でもいたるところにある、世界観や視覚的イメージ、
あとはコピーラインティング。
ここは都市の落とし物取扱所。
真夜中、漫画喫茶へ行く、カラオケへ行く、
そしてコンビニへ行く。
そこは現実や本当の自分の、
―――飛び出しナイフ。

REAL VIEW MODEから、
VIRTUAL VIEW MODEだ。
(ひとつの発見は、
さまざまな発見を誘発する)

中州はスナック菓子や、日本酒、調味料。
目当てのパンは店の一番奥側のコーナーで、
業務用保冷ケースや、おにぎりやお弁当、
サンドイッチなどが置かれている。
コンビニスイーツも忘れてはいけないし、
冷凍食品の取扱品目が増えたということも忘れてはいけない。
大きな冷蔵ケースの後ろにはバックヤードがあり、
カウンターの後ろや横に事務所がある。
実在の日本のコンビニを隅から隅までVRの視界でプレイする、
きっと君は店の経営なんて興味がない、
コンビニで風邪薬を置くための資格取得を目指す店員にも興味がない、
うだれて煮詰まって毛穴が塞がったようなコンビニは、
パンドラの箱の希望、シュレーディンガーの猫状態
日本の象徴でいつもきれいで明るくて、そして胡散臭い。

えーと、[YES]と[NO]の画面、、、
えーと、、、



  *


401






ノーフォーク島



オーストラリアというと、
オセアニアで、東西約一万四〇〇〇キロ、
南北約一万キロに及ぶ広大な範囲を持つ。
オーストラリア大陸と大部分が南太平洋にある、
太平洋諸島を合わせた総称だ。
オセアニアには、ポリネシア、ミクロネシア、メラネシア、
そして、オーストラリアの四つに分けられる。
オセアニアの範囲のうち陸地面積は六パーセント程度だけれど、
その陸地の九割を占めるのがオーストラリアだ。
そしてオーストラリア大陸は世界最小の大陸だ。
オーストラリアは国土の三分の二が乾燥地帯で、
とくに内陸部は砂漠気候が広がる。
こうした気候の中では農業が難しく、
地下水や灌漑などにより牧畜がなされている地域もある。
また、不毛だと思われていた場所に、
地下資源が多く発見されたことから、
「ラッキーカントリー」と呼ばれることもある。

オーストラリアで観光客がすべきことは、
コアラを抱きながらエアーズロックをのぼることだ。
もちろんそんなことをする観光客はいないだろうが、
ノーフォーク島の住民なら十分なら有り得る
ノーフォーク島はオーストラリアから独立を噂される、
太平洋に位置する火山性の島だ。

ショッピングモール「Norfolk Mall」の近くに大量の手形があり、
名前が書かれている。
「民主主義のために手を挙げよう」
というオーストラリアの支配に抵抗する活動の一つで、
自治への回帰を象徴的に呼びかけている。
何も知らなかったら変わったアートだな、と思う。
アートはゆえにアーティストの説明とワンセットなのだ。
わからないことをわかるようにするというアハ体験がセット。
ただ、掲示板があるなら僕はそちらの方がいい。

島の西にノーフォーク島空港があり、
シドニーとブリスベンからの直行便がある。
島には港施設が無く、
キングストンとカスケードに島の港的役割を果たしている、
荷積みの桟橋が二か所あるが、貨客船のような補給船は接岸できない。
船は桟橋近くの海上で一旦停泊し、
島民がかつて使っていた捕鯨ボートを使って、
補給船から貨物を運び出し、貨物を積んだボートが桟橋に戻ったら、
クレーン車で荷揚げする。

ノーフォーク島の見所といえば、
オーストラリアの世界遺産の一つとなっている囚人遺跡。
囚人たちに課せられた罰則規定には
「パイプを持っていた」
「歩く速度が遅かった」
「点呼時に靴紐を結んでいた」
「石を積んだ台車を十分に押さなかった」
「煙草を持っていた。その後、不平を言ったために口を塞がれた」
「看守に煙草をねだった」
「鳥を飼いならしていた」
「鎖につながれている時にOh My Godと言った」
「鎖につながれている時に笑った」
「古いズボンから糸屑が出ていた」
「刑務所の中庭を横切って問い合わせをした」
「歌を歌った」

とりあえず煙草をねだるのはよくないと思うし、
思い出し笑いや、手品の練習をしてはいけなくて。
新しいズボンをはかなければいけず、
歌嫌いだということはよくわかった。
というのは冗談であるが、
底意地の悪い連中の難癖という感じがどうも消えない。
考古学的遺物認定したい。
これらの違反行為に該当した場合、
五〇回以上の鞭打ちや十日間の投獄という罰が与えられ、
場合によっては、立つスペースしかない独房に、
十三人の囚人と一緒に閉じ込められることもあった。
僕も相撲力士十三人と一緒に閉じ込められる想像をして、
熱くなった。平均気温が最低でも三十度は上がったような気がする。
僕は圧迫面接という言葉からおっぱいを想像した。
けれどそれはグラマーな女性ではなく相撲力士です。

さて、ほかにもノーフォーク松の独特の風景は有名だ。
美術館や大聖堂もある。
絶景を眺めながらゴルフをプレイすることもできる。
ノーフォーク島で唯一のワイナリー、
「トゥー・チムニーズ・ワインズ(Two Chimneys Wines)」で、
絶品のワインを思い切り試飲することもおススメだ。

ところでノーフォーク松は現在、島の重要な輸出材で、
歴史をたどると一七七四年にジェームズ・クックが発見し、
ノーフォーク公の名にちなんでノーフォーク島と命名した、
みたいな話が出てくる。
二十メートルを越えるような丈夫で大きく見事なこの松に感心して、
ノーフォーク松で新しいマストを作って、
エンデバー号の壊れたマストに替え、再び航海に出た。
かつてここは流刑地で植民地だった。

島にある八〇キロの道路は最高時速五〇キロと決められており、
地元の法律により島内で放し飼いにされている牛に道を譲る。
牛の楽園といった雰囲気が頭をよぎる。
牛は優しく穏やかな生き物なので大丈夫だが、
「何だこいつは?」という眼もしてくるし、
草原では、牛がくたばっている優雅な風景画を拝見できる。
ちなみに日本の中古車もよく走っている。

ノーフォーク島はニューサウスウェールズ州の
郵便番号二八九九を持つが、
ニューサウスウェールズ州の一部ではない。
ノーフォーク島はキャンベラの選挙区である、
ビーンで投票するが、
オーストラリア首都特別地域の一部ではない。
ノーフォーク島の医療と教育は、
クイーンズランド州が提供しているが、
クイーンズランド州の一部ではない。
ノーフォーク島のテレビ局はアリス・スプリングスから、
放送されているが、北部準州の一部ではない。
ノーフォーク島の電話国コードは六七二で、
南極だが、南極の一部ではない。
ノーフォーク島はオーストラリアの外部領土で、
オーストラリアとの直接的な船便サービスはない。
ノーフォーク島の公式航空会社は、
オーストラリア登録のフラグキャリアであるカンタスではなく、
エア・ニュージーランド。




  *



400







Adult women are not Cinderella


ねえ、だって。」
もう、だって。」
魔法は、解けてしまう。」
余韻は呪縛なの、恋の口どけの甘さなのに。」
後ろ髪引かれた一抹の不安と、雷の直撃。」
やり直したい。戻したい。そう願っていた。」
何気ない一言でも、どんなに些細な気遣いでも、違った。」
恋が嫌いになる、一人の夜が不安になる、いつも。」
普通の恋をして、普通に結婚したかったのよ、わたし。」



  *


399







おんがきゅ


きみのすてきなかいがんに、
あきかんをすてるー♪
ジュッジュッジュッ(?)
んー、いい感じ。

きみのすてきなじんせいに、
やぶからぼうにむちゃぶりするー♪
じゃアメリカ行けよ(?)
んー、このコード進行が神。
んー、パクリっぽい感じ(?)

よさのあきこがかみたてるー、
みだれすぎててこだくさん(?)
ジュッ、ジュッ、ジャーン(?)
んー、じゅくじょまじさいこーだな(?)
てっかん、まじ、わかいこに、
てをだすとかどうなのー(?)


  *


398








グッドバイJーboy



huu...片手腕立て、
「いいね〜〜! 最高〜〜〜〜〜!」
huu...hoo(?)

「手拍子」「拳を天に突き上げる」
R&Bのエッセンスで金太郎飴、
マトリョシカじゃNO! NO!
「ワイパー」
「タオル回し」
「合唱」
そして「昇竜拳(?)」
「君が代の出番は永遠に来ないぜ、
ハッハッハ、フッフッフ・・」
ホォップイ、ステップイ、ジャンプイ(?)

今日も股間にヌンチャク、
サスケサスケ(?)
ズッチャズッチャ、
暴れる虎とライオンの傍観者(?)
HU! HU! 痺れるZE(?)
たまらないぜ、
汚れてるぜJ―boy(?)
ナイフ刺しながら中指の偽物とびだし玩具(?)

いますぐバーニン!
燃え尽きるまで(?)
いますぐシャイニン(?)
汗と涙のケンシロウ(?)

雑居ビルのエレベーター入ったら、
ポケモンジムへようこそ(?)
一緒に、筋肉のモンスター、
つかまえにいこうZE(?)

huu...片手腕立て、
「いいね〜〜! 最高〜〜〜〜〜!」
huu...hoo(?)


  *



397







犯人 は この中に おる
政令指定都市の集団犯罪



  *



396







さよならの街


どんな角度から見ても、
すごく自然な郊外を、
国家的な儀礼みたいに、
通過する、
敏感な触角のような髪の毛で、
雪がきそうだなと夢の続きみたいに思う、
誰も聞いていない、アナウンスが追いかける。
誰も知らない、金魚鉢の中の枯れ尾花。
もう僕以外、この街には住んでいない。
それでも、モノレールパノラマみたいに、
無尽蔵の理解可能な属性の、
反応みたいに、
今日も電車に乗り続ける、
今日も誰もいない。
明日も電車に乗り続ける。
巨大なヨーグルト容器の中で、
雌牛が溺れている。
僕は雌牛が好きだったので、
一緒に溺れた。


  *


395








tomato juice cafe au lait



重要なそのスタイルは、冷凍されたレタスによく似ていた。
石膏という字と、斥候という字が思い浮かぶ。
限定されたその強力なツールは、
防壁をぶち破らずにスピードに任せてデータを吸い上げて、
逃げ去る。干乾びてしまった巨大生物の、
遺伝子的後退が生み出した捕食生物。
細胞分裂の鍵と迷彩プログラムが、
彼女を眼前に静かに浮かびあげると、
もう既に百一人になっている彼女のクローンやらダミーと、
逢瀬を重ねることになる、仮説の内側にいる、仮説の外側にいる。
「図書館にいたことは?」
それには答えられない“幽閉”されているから。
「動物園にいたことは?」
いまも、さ。
これが塩でも胡椒でも小麦粉でもいい、
いまはセントラルト・ユニヴァース・シグナル・ポートを探す。
絶対にあるはずなんだ。
針の先ほどの光に賭けてみる。
セントラルト・ユニヴァース・シグナル・ポートで、
最初に見つけたものは暗号。
《かんづめのーさけー》とドラえもんの声で言ってた。
正直もう数学者の帰りたい。
素数って美しいとか、宇宙って数学であらわす方法を、
考えるのが夢なんだーとか言っていたい。
セントラルト・ユニヴァース・シグナル・ポートは、
七つの海を経由した事態のもつれのような脳味噌の、
消費期限につけこんでくる。
実際もう、凄腕の、名前だけで懸賞金かけられる類の、
勇者が冷蔵庫に放り込まれて扉を閉められた。
ぱさぱさのレタスの凄さはそれにとどまらない。
世界で一番のハッカーと称されるS・G・スランストンが、
(「人間なんて豆腐さ」と言った人)
およそ、三つの防壁を破っただけで、作業が出来なくなった。
もちろん三つも破ったなんて、
冬眠前の熊じゃない、草を食む羊だった。
しかし誰も最難関、中枢の、
セントラルト・ユニヴァース・シグナル・ポートの、
“イグニッション・レミング”へと到達していない。
まるで去勢された犬だ。
だのに、僕がその【ヴァージン・ロード】を歩いた。
受話器を食べて、墓の間をめぐり、
身体の中から卵が生まれるような、
正規のオブジェクトのえりまきとかげから、
疑似的に立体表現された蒸発領域の、
ゲームセンター的な陣地からメールが届いた。
バグっていた。
既に脳味噌はわきたっていた。
これから、三十秒ほどでその場所に到着する。
セントラルト・ユニヴァース・シグナル・ポートの、
“イグニッション・レミング”は、
清楚なタイプで、
岩波新書死ねって普通に言ったあと、
敵定期によくありがちなように、
芸術は檸檬の爆弾、と仰った。
彼女は冷凍されたレタスのようにパリパリとしていた、
足が長くて、痩せていて、線のダイナミズムだった。
そしてメルセデス・ベンツが待っていた。
もちろん、僕は家庭内暴力に悩んでいる父親のような顔をした。


  *


394









雨音と体液
rain sound and body fluids


つながらない電話じゃない、
誰もいない朝じゃない、
ただ心の奥から、
生きている人間を盗む、
声が聞こえただけ。

夢に羽根が生え、
他人の眼に天国が墜落した、
声なき言葉なき背後の影に、
宇宙の無常と、
文化連続体の悲劇が、
こみあげる。

自分を客観化し、
他人を理解しよう、
勝負のない賭けは、
無から有へと、
意味あるものにした、
名前が否応なしに、
追いかけてくるまで。

孤独だった。
でもそれと同じぐらいに、
何かをちゃんと、
わかろうとしていた。


  *



393





マイナスが惹きあう
フラジャイルに乾杯に乾杯

Negatives attract each other
Cheers to Fragile




  *



392







注目して。
作法もなく大胆に伸ばした足が、

釣り糸にかかった魚のように、
身をくねらせたことを。

夏休み、
夜の学校の匂いが、
水に餓えた獣の舌を連れてくる。

Pay attention.
His legs were stretched out boldly without manners,

Like a fish caught on a fishing line,
That I twisted myself.

summer vacation,
The smell of school at night
The water brings the tongue of a hungry beast.


  *


391







風見鶏


空に靴を蹴り上げたら、
二度と戻って来なかった、
そんな伝説。
そんなよもやま話。
でも信じる人に、
信じたい力をくれる。

裸足で歩いて家に帰るのも、
池に落ちて濡れて帰るのも、
そんなに変わらない。
だってそんなこと、
人生の中に何度もあったから。



  *


390






酸数


暴力的な花が、
二等辺三角形に、
見えた。

わたしは、
円形や球体に、
なりたいの、
だろうか。

点を線でつなぐたびに、
時間や距離を省略して、
答えが現れる。

日増しに複雑になる、
脳内シンジケートに、
さんすうのじかん。


  *


389







銅徳


痛み止めなしには越えられない、
退屈な風景に花を添えようなんて、
思わない。

高速で人が動き出したら郵便物も、
爆弾になる、段ボールをかむった男も、
傘をファッションにした女も、
犬の散歩をする人が一列に並んでも、
物語は始まらない。

送信ボタンだって、
法螺貝みたいだった。

掏摸が盗んだのは心、町中の奴等全員の、
嘘と引き換えに、平和が続けられる、
タイムマシンが突き刺さってる、
恐竜が裏山を歩いてる、
でもいつか慣れてしまう心から、
死を求めるような心からガソリンの匂いがする。

麻薬を食べた芸能人、
女を浅蜊の味噌汁にした芸能人、
新時代だ、
すごいパフォーマンスだ、
言っている内に笑えて来る。

しちゃいけないことはしたくてたまらない、
そしてきっとそれは、
この世の中を革命してしまう要素なんだ。
本当はそれは間違っちゃいないんだ、
間違ってるのはみんなの法かも知れない、
良識や良心っていう洗脳や刷り込み。
下らないニュースも、
平和維持活動の一つなんだ。
退屈は人間が編み出した、
究極の蟻地獄なんだ。

そんなんじゃ嫌だって、
玉蜀黍を緑色にして、
小鳥を具現化されたテレパシーにしても、
世界は何一つ変わらない、
降伏のしぐさだ、
さあ婉曲語法の始まりだ、
底辺教育を始めようぜ、
それが一番気持ちいいんだ、
それが道徳ってやつなんだ、
自分は何にもしないやつの、
世界に何にも貢献しないやつの、
ファイナルアンサー。





  *


388






戦脳


バラバラ死体のような百人一首の視界は
「立入禁止」と書かれた屋上から。
臨界戦線の幕開け、壊れているとしても―――。
それでも息をしたい、
逃げ道を防ぐ厚い壁とフラット化する世界、
“ジーンズ”でも“レコード”でも、宣教師。
“トランジスタラジオ”でも、貿易商人。
二十世紀の救世主たるコーヒーの味が思い出せない、
狙撃手の君は嵐の夜でも構えていた、
看板は外れても次の日には寸分たがわぬ形で戻っていた、
そうなれるものとそうなれないものが鬩ぎ合う、
ミラーボールが廻り始めて高速テクノビートが、
耳朶を打つ、光っているみたいな首都の心臓、
もう誰も聞かないナスカの地上絵が未知と遭遇するまで。
ヘリコプターが舞い上がり、
リムジンが予定時刻に到着する。
チャプター・タイトルみたいに続いていく、
電流のような痺れが誘うトリガーは、
豪奢、静寂、逸楽(の、)―――背中。
非日常性の最前線は説明なき省略と自動補完、
それでもパターン化された感情の中にも、
多様な感情がある、
数百メートル向こうから魂の毒を誘う、
グレイ型宇宙人、あるいは最初のパフォーマンス、
反戦国家艇日本丸より愛をこめて、
自作自演の歓迎の狼煙。


  *


387







4 p.m. on the loudspeakerThe waltz is about to spread,
The slave traders are about to be arrested.

午後四時、スピーカーから
拡がる、これからワルツが、
これから奴隷商人の摘発。



  *


386






ラブコメ


わたしが横目でお前を見ていた証拠があるか?
わたしはたんにお前の横を見ていただけのことだ
そういう日が続くこともある
しかしながら
お前がわたしに文句を言いたい
照れるという勘違いをした
この恥ずかしい奴を憐れむ気持ちはある
わたしは美人で天才で生徒会長で
お前とたまたま同じクラスだ
そしてわたしは神のようにやさしい
その埋め合わせをしてやろう
最初に述べておくがまったく他意はない
さて百歩譲って喫茶店へ行こう
そしてふわふわのパンケーキを食べよう
その後は公園へ行こう
まるでデートみたいだって馬鹿なことを言う
わたしはたんに埋め合わせをしたいだけだ
まず伝話番号と住所を教えてもらおうか
それから両親に挨拶へうかがわせてもらおうか
わたしはその時お前の彼女のふりをするが
これもまったく外堀を埋めるような工作ではない
お前みたいな世間知らずの馬鹿に
生類憐みの刑が発動したということだ
お前わたしの話をまったく信じていないな
困った奴だあーあ本当に困った奴だ


  *


385







Actors in the fictional world


如才なく振舞うこともできるけど
傍にいて笑って下さい
心理学や哲学では越えられない苦しみを
愛の買えるコンビニで癒せるけど
懲役みたいな虚しさをあなたはどうしよう

わたしがわたしではなかった時
あなたがあなたではなかったはずなのに
顔付きや物の言い方や立場や性別まで
単純に割り切れるものばかりで水すましする
そんな小利口な人々のあさましさが嫌いで

願望嗜欲と積むべき贖罪のあまりに
理解や距離や言葉を嫌えば
臨機に湧いてくるYahoo!知恵袋
めくらめっぽう走り回った犬を見たショパンが
尻尾を追いかける歌を作ってしまう

誰にも救われないことを誰かにすがりつくことで
寄り掛かることでもたれかかることで
人は弱いのだとあなたは言いたい
あなたは弱いのではなく情けないだけだ
世の中すべてが情けないと人々の心の感光板へ

人を馬鹿にするようなきれいごとを言わないで
アイスクリームを分けてあげることはできない
生み出したものすなわち作り出されたものの
本能があしの葉を掻き分けて
いつか本当に一人になってもそれを選んだ夜の闇

誰もかれもが助けてくれなかった人生に
たった一人で立ち向かった夜がある
地位も名誉もお金もすべてわたしには必要のないもの
気取った言葉も愛に謗られる類の醜い綺羅荘厳も
まったくいらない

よそよしく堅い感じにはならないの
見るからに憂鬱を忘れさせてくれるとは思わないの
移動する青の一族たちのどうしようもない軽さ
本当に傷ついてしまった人の心も
本当に傷つけるという人の心もわからないお馬鹿さん

自分が自分であることの苦しさや悲しさを知らないの
平等な死も人生の時間も徳の高さも
星という星の光の言い痴れぬさびしさの何億年
銀河の影のような
この一瞬の銀箔の光放つ水面のような窓がすべて

そこに一瞬映った世界が印象の記憶を司る
ありとあらゆるものが液体
勿忘草を踏み分けながら山の麓へ行こう
虹の向こうにある悪夢のように果てもない沖で
溺れてしまった記憶の邂逅

人の心を手に入れられるなんてけして思わないで
人を惑わせる言葉がいくつもの夜の過ちを産む
不思議に心惹かれた人ともお別れして
人生をやり直すつもりで挑戦したことにも裏切られ
それでも聞かれる傍から聞かれない相手がそこにいて

波が騒いだ海のように静かに身を委ねて
死さえ覚悟した一瞬が人生にはあまりに多かった
だから逢瀬も縁もその人となりもすべて偶然の要素
寄り添いながら答えを導くかどうかさえ知れない
けれどもそこにわたしという人間がそこにいて

真実なんていう言葉さえ信じられない
愛という言葉さえ信じられない
修行や試練という言葉だって信じられない
神や世界への信頼さえ失って
寄る辺ないわたしに残された逃げゆくもろもろの要素

この痛みも心の迷いも疑いも
すべてが何も知らないわたしからおのずと現れて
浮世絵とも絵巻物とも思われてくる一世一代の物語
人の世の悲しさを愛が救ってくれるわけじゃない
影を越して静かに踏み分けてゆくいばらの道

ただ淋しいその人の心を守る時間の小さなつながり
けして解けないように
そしてもう夜の闇の中ではぐれたりしないように
何度も何度も美しい愛の夢を見ていよう
子供の頃に青空と木々の下で寝転がっていた

あの揺りかごの優しくて美しくて悲しい時間のように
あなたもわたしも一人の人間で
それが美しいということを美しいと普通に表現しよう
気持ち悪い人間にならないように
何もかもわかっているふりだけはしないように

水が小石に押し流されてゆくだけ
蝶の群れが花の上にとまってもう一つの花となっただけ
あなたもわたしも曖昧な孤独と毒蛇のような幸福の虜で
すべてを失ってしまった人にだけ
すべてを手に入れるという意味がわかるような気がした


  *



384







恋が終わった
なんて言うと
途端に可哀想で
悲劇的な
ヒロインみたい
だから

わたし
海に飛び込んで
みたんだ
息継ぎもせずに
流れ星を
見たんだ



  *


383







Neither I nor anyone else is designed to be tested.


背中に金色の矢を注ぎ、
都会のビルに血のような落日の舌が垂れさがり、
そして彼は潮風の匂いのする雑木林から、
こぼれた夕暮れの最後の光の微笑み。

やわらかい反射があるように思える、
まだ暗くはない顔は灰色の空間に浮かんでいる。
髪も光っていた。
行進する歩兵部隊に踏みつけられた草むらみたいな夏の後、
甘い感じは失われてなお瑞々しい出口の秋で熟れた。

安定の悪いテーブルみたいに揺れながら、
花弁が流れるような前髪が、
花の蜜のように誘惑する。
もっと近づきたい。
もっと触れたい。
言葉さえも邪魔になってしまうほど、
お互いの心が一つのように溶け合った。

けれども急行列車のような光が眩しく照らすのは、
もうじきそこかしこに寒さや、凍え、
淋しさ、人恋しさが訪れるからだ、と知っていた。
上京、違う大学、モラトリアムという不安定な年齢。
将来の約束などしたことはなかった。
表面の言葉をいくら並べてみても、
誰の心にもバランスがあり、タイミングがあり、
そしてそれを誰かがどうにかすることはできないということを、
幼少期の体験から知っていた。

回転木馬のように接近したり離れたりしながら、
夢想や、苛立ちや、病める声が、
もう、森の番人たる薄暗がりの梟の眼のように覗く、
何も隠せない、この静けさが、冬。
身が張り詰め、心が鋭く尖る。
季節は繰り返す、無数の夜の廊下を渡り歩きながら、
春へ、もう一度陽気な声とハレーションに揺らめき、
青っぽい宙に浮かんだ入道雲の、夏へ。

プレイヤーの針をターンテーブルにのせて、
がらんと空虚に消沈しがちな心に生気を吹き込む、
新しい結びつき、
焦ってはならない、
どんなこともなるようになる、
言い聞かせてきた、
逃げなかった、
薄眼を開けて、首の角度を少し上げて、
飛行機の音ではない、
耳の後ろ側を飛んでいた虫の羽音を聞く。
この現在進行形を楽しもうと思う、
大人になりたくても、
子供のままではいられなくても、
いつの日にかきっと二人で同じ道を歩きたい、
頭の中にはっきりとある未来を言葉にしてみたい、
濡れた冷たい空気に吹かれたら、
またきっと泣きそうになるけれど、
クリスマスが近づいてる、
除夜の鐘が近づいている、
ハッピーニューイヤーが近づいている。


  *


382








なんかすごい
マヨネーズ


鳥たちが♪
ピヨピヨピヨ。
鳥なのさ♪
ピヨピヨピヨ。

おとうさん。
ピヨピヨピヨ。
すごいね。
ピヨピヨピヨ。

鳥たちが♪
ピヨピヨピヨ。
鳥なのさ♪
ピヨピヨピヨ。

なんか。
ピヨピヨピヨ。
マヨネーズ。
ピヨピヨピヨ。


  *



381







夫婦喧嘩は犬も喰わない
転じて面倒くさいカップルは
誰も憧れない


「浮気をしましたね? 三度の飯より、
漫画飯、鉄板に飯―――ね?」
「ねって何、強要? してません」
「じゃあ、信じてあげます。わたしは、
マリアの生まれ変わり」
「うん、そういえば馬小屋の匂いがするって、
言わないでおいてあげる」
「ねえ、豚の穴にさそりを入れてやるから、
ウワキしたって言え」
「豚の穴って何ですか? それはケツですか、
それとも鼻の穴ですか、
わざわいの口のことですか?」
「愛はひずむのよ、愛のひびわれ、
愛のサンダーストーム、
メキシコマフィアの暗躍、サンダーボルト。
ミシシッピワニの跳梁跋扈だ、アンターロボット」
「言葉遊びだ、アッパーカット」
「上手いと思って言った、
そういうあなたの表情筋に変化。
男性萌えポイント追加ね。
でも、史上最大規模の、
致命的な言葉のミス」
「にわとりの鳴き声を耳に入れてやるから、
アヘ顔ダブルピースしろ、ヤリマン」
「さっきから、ひどいことを言うのね」
「愛してるんです」
「ボカロ聞きすぎよ、わたしも愛してるんです」
「この女、開いた口が塞がらないぜ、
何処に出掛ける?」
「この男、まったく締まらない台詞で、
実はゲイバーかおかまバーで、口で抜いて、
なんだったらもう腋で抜いてるんじゃないか、
そういう男よ、でも何処でもいいわ」
「じゃあ歌舞伎町へ行こう、最高に楽しい、
仮面プレイが楽しめる―――遊園地行く?」
「こいつ頭おかしいんじゃないかしら、
でも、いいわよ」
「ねえ、君の悪口にめちゃくちゃ痺れるよ」
「ねえ、それ、病気よ。変態よ。
でも、調教してあげるわ」


  *



380







There are no real answers in my heart


特別でありたい女の子たちの見開いた瞳孔。
瞳を押したらコールセンター恋愛二十四時へ繋がる―――かも知れない。
でも以前よりも、出会った頃よりもずっと、影が深くなる。
青信号なんか期待していない。
百万人のために歌うラブソングに飽きたらマイナー曲の虜、
また一つ人間を勉強する、人生の階層、様々な物の見方を通して、
中央分離帯、中庸について君は考え、言葉を切り、張りを作り、
唇を真っ直ぐに結んで本当の愛情というものにうっかり、背伸びした結果、
触れられるかも知れない。
僕等は一人では鏡の意味も、会話の意味も、人生の意味も、
知ることはできない生き物だから。

大好きという言葉や、愛しているという言葉の裏側に潜んだもの、
弱さや醜さ、気持ち悪さ、鬱陶しさ、どうしようもなさを、
そっくりそのまま、まるごと愛することが君にはできるだろうか。
僕等はやっぱり動物で、しかし理性ある人間でありたいと足掻くあまりに、
常に色んなものから眼を逸らしている生き物だ。
素敵な人間でいる為には努力もいるし覚悟もいるし我慢も必要だ。
僕も時々なんでこんなことをしているんだかと本当に思うことがある。
けれどその小さな嘘を、綻びを、ささくれを、未熟さを、
思い知るためにも僕等は愛しい人に優しくするんだ。
誰かを幸せにするということの難しさを一年の内に何度打たれるだろう。
僕等は何処へ向かっているんだろう、
確かなことは同じ方向へ、確実に終わりの方向へ、正しく、
あるがままに、ええ、なすがままに、身を委ねているということだ。


  *



379







never



まぎれもない
ドリーミーなスカイハイだって
わかってたけどアフターグロウで
レバーコントラストの法で
パラシュートが開いたんだ
インシネレートしたアンビリカルコード
頭蓋骨へ侵入する
切れたゼンマイのスケープゴート
刹那的な刺激の
夜討ちの投げタイマツのジャッジメントデイ
くすぶってた僕等はメルトダウンだって
エンドオブザワールドだって
亡霊の屍みたいな積乱雲見た時
天界の戦争で連射される電磁砲見たよ
始まんなかったなトランキライザーみたいな
ニューワールドオーダー
ウィルでもハブでもオールウェイズでも
フォーエバーでもすべては餌食
パラダイスロストのたなびき
とろけてゆく常識に風船の割れる音がした
生贄社会の悲惨な肉の塊の剣
贅肉の鎧に血が凝固した盾
僕等はずっと乾いた葬列を歩いてたんだ
ゾーンディフェンスできなかったよ
僕等はずっと墓地に埋められてたんだ
それがロストでもロンリネスでも
いまじゃきっとたんなる病魔
ペンデュラムが導くブラッドムーン
ただそいつが欲しいのさネバー
いまじゃそんなものが美しいのさネバー
魂がパッパッと飛び出した不意にね鋭くね細くね
けれどめちゃくちゃ美しく
蓮の花が咲いたんだ真っ青な絨毯だった
人の上に立って人を踏み潰して
生きてる僕等の道
誰も逃れられないよ怖かったけど見つめなくちゃな
だから誰もそこから下りられないよ
突き刺せないよ樹海みたいな人の心の中じゃ
でもここで生きてるってことを忘れなかったさネバー
線が淡く浮かんで風景が始まるまで考えてたよネバー


  *


378







say性所為


嘘をつくなよ。

やりたいんだろ?

そうさ僕等は、
欲望の塊、
下劣な戦場の、
煽情の線状で、
Gの声を聴く。

フニャチン野郎じゃ、
口説けない。

傷つき方が勲章で、
大量殺戮のように、
神の壊れた宝庫、
もういっそ高炉、航路で、
Gの反応しちゃえばいい。

でもさ、心臓に触れて欲しい。

砕けた硝子の玉の音が、
落ち葉を鳴らす、
静かな雨の音に変わるまで―――。


  *


377








reverse



Variety is the spice of life
(Step up your game)
収束する太陽への蝶、
―――嘘の優越、不死の錯覚、
釘付けにされた運命―――が、
「視線」の【感染】を始める。
Eager beaverの君にも、
(Crunch time)

この世界の成り立ちが、
ご都合主義だって刻一刻とわかってくる。
白と黒で構成されたバイオグラフの罠、
クラッシャー、記憶のある、
黒の街から赤を盗んだ、
二十四人のビリー・ミリガン。
グラビディー、氷のような焔が、
鉋で粗削りされてゆく、
H・G・ウェルズの「盲人の国」

(本質とは、見出されるもの―――)
《それ自身であるもの・・・・・・》

境界線は不器用な螺旋のサイケデリック、
蝶番の軋りとともに灰色で、裂け目のない、
眼に見えて、日ごとに大きくなる、
エラーコード。”名前”(固有名詞)

どんな言葉/も/剥がれ落ちて/
歪んで見える/から/

“餓えた時計の顔をした蜷局を撒いた蛇”
―――が、青い椅子で僕等を待ってる。

桃の皮でもはぐような、
「秘密」が「自白」を求める、
引き剥がされてゆく副作用だらけの、
薬に発作的にうなずきおののくカオスが、
―――蛾の羽根を美しくした、
霧のようなもの夜明けの明るさにした、
迷わずにいられた―――ら・・いい・・。
終わりのない裏切りのリズム、
磁界へと続く、
電脳網膜のアーキテクチャー、
彷徨える歪な楽園へ。

―――溜息だけ(が、)
果てしない夜の闇の中(に、)
ひっそりと浮かんで(る、)

夜―――が。
風―――が。

Variety is the spice of life
(Step up your game)
叫ぶ言葉も祈る対象も、
―――永劫の朽ち葉、欲情の乱れ、
囚われた夢の間の水銀―――で、
「視線」の【感染】を始める。
(逝く夜の扉を透かしてみせたサイレント、)
(サイレントなサウザンド、シークレット、)
Go down in flamesの君は、
(Cry wolf)

どんな言葉/も/剥がれ落ちて/
歪んで見える/から/

どろりと、タールを垂れ流した瞳の奥から、
新しく、恐ろしいまでの抑鬱が運ばれて、
様々な窓に明かりが灯され、生活は展開されていく。
―――その、くっきりとした距離や輪郭をおかしくした、
何かが僕等を覗き込んでいる、ゼロ・ソニック、
何かが僕等を宙づりにしている、ゼロ・ソルジャー、
剥き出しの鉄、積まれたタイヤ、
何も僕等にはなかったんだ・・・!
何も僕等にはなかったんだ・・・!

(今でも痛い台詞をまさぐってくる、迷子の夜―――が・・
続くんだ、けして、終わらないんだ・・)

迷わずにいられた―――ら・・いい・・。
終わりのない深淵への飛び込み台、
絶望へと続く、
電脳網膜のアーキテクチャー、
物語のある鉛の奥へ。

(本質とは、見出されるもの―――)
ダンテ・アリギエーリの“神曲・地獄篇”へ・・。
Up in the air、、、
《それ自身であるもの・・・・・・》
空っぽの“心”へ―――心へと続く命あるものへ・・。
More holes than Swiss cheese、、、



  *


376






A storm in a teacup


役目を果たせず破れ去った解説書。
オブジェクトそのものの異常性で、
水に浸した兎の皮。
アブストラクトの造形が、
三十六計逃げるに如かずと言いなが―――ら・・、
制御機能の停止ボタンを消してしまう、
饒舌さ、遠距離航行計画のハーレーダビッドソンが、
天国へと昇ってゆく―――エレベーターん中は、
世界の中にありながら世界に属さない感覚、
胎児の中のような回帰線、
エクストリームなんだ―――閉ざされた暗い空・・、
銀の水口と海底へと降りてゆく放電。
深さが横向けに遠くへ感じられる、
照準鏡の割れのアベンジャーズ。
夜に騙されている僕は、
外的供給無く瞬時に多量の印刷物をする、
途中の分岐などもはや完全に無視して、
この街の心臓部になりたい―――と・・・。
初めて思った―――んだ・・。
青を朱にふくめた言葉を夢で飾った酩酊が、
非常に強く感覚を喚起するような魅力を伴って、
参照項へと爆発的に拡散する、
ぐるっと屋上から三百六十度見渡すだけ―――の・・、
この街が美しい蛭のようになめらかなほど、
肉感的なほど―――立体的なほどに、忘れがたい、
噤んだ意志を思い出させる―――から・・、
ライフ・ゴーズ・オン、
世界が終わる音が何処かでした、
ライフ・ゴース・オン、
今日から僕も人を殺す練習を始めよう。

  
  *


375







ダイナミックジャイアネス



かもちゃんは枝豆を塩ゆでし、
いずうさが枝豆から豆をせっせこせっせこ取り出した。
かもちゃんは缶詰のトマトソースを、
フライパンの上で沸騰させ、
そこにコンソメスープを入れ、軽く蜂蜜を入れ、
何か気取った香草のようなものを放った。
一思いに、かめはめ波のように、放った。
そこで世界は変わったような気もするし、
そのような気もしないではない。
そしていずうさが額に汗を誇張的に拡大レンズした時、
かもちゃんが枝豆の入ったボウルをフライパンの中へ、投じた。
そしてかもちゃんがまず味見をし、
いずうさが味見をした。
職人たちはそのようにして眼で合図し、暗黙の了解をし、
あらかじめ駅で買っておいたと見せかけて、
実は近所のおばさんに「かもちゃん、近頃痩せたんじゃない、
食パンあげるわ」と貰った食パンを用意し、
いずうさは、世界名作劇場に出てくるような皿を用意した。
一羽と一匹の職人は、
市長さんと魚屋のおじさんを待ちながら、こらえきれず、
何度か味見した。妖精たちが馳走にあずかろうと、
ゴキブリのように出てきたが、
かもめハウスは世界の食卓なのですべての道はローマではなく、
かもめーに通じていた。
秘密結社かもめーはイルミナティより素晴らしいと思います、
と世界的に有名な大統領が言ったかも―――知れない。
影響力はそのようにして盗まれていった。
底辺の、友達の友達の友人の友人の兄妹というように、
誰だかもう既にわからないように虎の威をカリパクした狐。
ただ、こぎづねは、こだぬきと一緒にかもちゃんのお腹に生息します。
冬寒い、そうなると自然、
あたたかい南の国のようなところを棲家にします。
この鳥は昔から、雌雄を決するといわれていました、
と、世界的に有名な総理大臣が言ったかも―――知れない。
秘密結社かもめーは三千年も前から存在し、いまでは人口の半分が、
かもめーです、みんな入りたがり、そして入りたがり、
やはり入りたがり、何しろ、入りたがるようです。
しかしそのような嘘くさい、既に胡散臭い、きな臭い勧誘をよそに、
職人たちは、既に半分以上減ってしまったことに気付き、
市販のミートソースを入れ、さらにコンソメスープを入れ、
枝豆ではなく野菜を入れました。
もはや原型は確実に失われていました。
しかし職人たちはセウト、セウト、まじめんごめんご言いながら、
事態の収拾をしたようです、もう十二月だよ、一年終わるよ。
世界中の鳥たちは、こんないい加減な鳥のために、
カモメスープの匂いを嗅ぎたがり、公園を埋め尽くしています。



  *


374








かもちゃん、
スーパータルタルソースを作れば



かもちゃんが「からしマヨネーズ」と、
「タルタルソース」を取り出し、
業務スーパーで買ってきた「タマゴサラダ」の上にぶちまけた。
それで天才の料理の九十九パーセントは完成した。
かもちゃんは、超嬉しそうだった。そして和えた。
あたかもそれが、和え物のように、和えた。
最後にぺろっと、味見した。
舌はざらざらしていた。
「スーパータルタルソースダロ、かもちゃんが考えました」
とか言っていた。
「近頃はずっとこの着想にばかり時間をかけていたダロ」と言った。
かもちゃんは、本当にいつも下らなくてどうでもいいことを考える。
そして唐揚げの上にかけ、エビフライの上にかけ、
ニョホホ言いながら食べた。
いずうさも、ひょいひょい、ふむと唸りながら食べた。
そこには様々な思惑があり、
どう答えるべきかを迷う、中立派の顔があった。
かもちゃんが料理の鉄人のような顔をしていた。
いや、この鳥、一ミリも料理をしていないのにふてこく、しらこく、
あたかも自分はそのすべてをプロフェッショナルしました、
みたいなそういう顔をしていた。
かもちゃんはいつもそのようにして天才だった。
市長さんも、魚屋のおじさんも、ふむと唸りながら食べた。
そして妖精たちが、カロリー高そうだな、とか、
こんなの人間様が食べていい代物じゃない、
ナエルポポとか言いながら、
最終的に食べた、ふむとやはり唸りながら、
のび太が鼻からスパゲッティしたような顔をして、
ポカンとしたあと、食べた。



  *


373








 future



 鬱病は気分障害の一種だ。
 社会の接点が少しずつ増える中で多くの苦難や困難を経験し、
 見通しのつかない将来の不安を漠然と感じる。
 学校や職場での人間関係。
 大人としての責任と重圧。
 このようなストレスは現代人の宿命だが、
 蓄積した心の荷物は、人を鬱へと誘導し
 その社会生活を破綻させる。

 感情や意欲を司る脳の働きに何らかの不調が生じ、
 無力感や自信喪失感や絶望感から自殺観念へつながるように、
 貧困から罪業妄想が発展し、躁病では自我感情の高揚感、
 万能感から誇大妄想が発達し社会的逸脱行為に走るように、
 鬱という日常生活に支障をきたす精神疾患は、
 またおそろしく身近な病で、
 日本では十七.五人に一人が、その生涯において、
 一度はこの病を経験する。

 発症の原因は正確にはわかっていないが、
 体力のない人ほどメンタルヘルスを悪化させやすい、
 ということは指摘できるので、
 体育会系的な発想とは別に、運動をすること、
 とりたてて自然豊かな場所で、ゆっくりと寛ぐ時間は、
 心にとってよい影響を与えてくれるだろう。
 また鬱病患者は大脳皮質の処理が変化するといわれていて、
 もしかしたら世界の見え方に変化があるかも知れない。

 自分がおかしいかも知れないと気付く方法は、実に単純だ。
 「眠れない」とか、
 「やる気がでない」とか、
 「わけもなく不安になったり悲しくなる」とか、
 「怒りっぽくなった」などだ。
 でもそこで立ち止まってはいけない、
 人生を変化させる時期がやって来たというだけのことだ。

 ところでセロトニン的な鬱病治療も有効だけれど、
 鬱病の範囲は大きく、
 もちろんそれだけで治らないという人も大勢いる。
 様々な仮説があるけれど、神経炎症仮説を推したい。
 脳と精神を免疫系の働きと結びつける研究分野だ。
 ようは、生命維持本能の一種で、過酷な環境を生き抜く遺伝子的な、
 あるいは本能的に培われたサバイバルの戦略の一種。
 無意識的な増設状態、階梯状態、という言い方も出来る。
 僕はその状態を変性意識とか、
 トランスという言葉で表現するかもしれない。
 鬱病を無意識的な社会性の病と捉えてもよいのならば、だが、
 何しろ人間と人間の、
 心と心の本当の在り方に説明は一切存在しない。
 無意識というものが、たとえば夢が、あるいは人間の意識が、
 さもなければ心というものが、抽象的にならざるをえず、
 万人への理解を促すにはまだまだ人類は進まなければいけないと思う。

 生存の確率を上げるために始まった炎症反応が、
 誤作動を起こして鬱病になっているかも知れないというのが、
 何処まで正しいかは別として、
 もう昨日までの世界には帰れない。
 僕が医療的な立場や、カウンセリング、
 認知行動療法的なものを抜きに、
 どうあるべきかについて述べてもよいのなら、
 つまり国ぐるみで鬱病について本当に考えるというのなら、
 ストレスの少ないホームレスの生き方を考えてみる、
 海外旅行で違う人生にブチあたってみるなどの手法もあると思う。

 もちろん薬物治療や、認知行動療法でも十分に寛解できる人もいると思う。
 治るということはないけれど、
 治ることがないからと何だかよくわからないまま、
 人生と向き合っている限り、人生はよくならない。
 アメリカには法律の存在しない無法地帯のような場所が存在するけれど、
 本当の自由の意味について考えさせてくれる場所だ。
 集団の中に答えがなければ一人の中に答えを見出すしかない。 
 狭い島国が嫌になったら、
 外国にその定住地や、終の棲家を見つけるのもいいと思う。
 とはいえ民間療法は危険だし、体育会系的な発想も逆効果になる時もある。
 ただ、新しいステージが始まる。

 リアルが生きづらい人が自殺したくなるというのは、よくあることだ。
 ブラック企業、残業、人間関係、給料。心のストレス、病原体との接触、
 幼少期のトラウマ。肥満、加工食品の摂取。
 そんなのいちいち並べ立てるまでもなく、
 人それぞれ精神疾患の傾向を持ってる。
 
 当たり前だけれど、どうしても無理だって思えるなら、
 他人ではなくて自分が一番よくわかっていることだ。
 一人で抱え込まず、もう頑張らず、精神科や心療内科を受診し、
 心の中身をすべてぶちまけたらいい。
 尾崎豊や中島みゆきを聴いて、
 専門家と二人三脚で最初のゴールを目指すのがいいと思う。
 人と違うということは、これからの時代には絶対に必要な人材だ。
 
 しかしながら、鬱病の人というのは、
 「否定的な感情を過剰に表現する」ものだし、
 「一人称代名詞を多用する」ものだし、
 「絶対や完全といった言葉を多用する」ものだ。
 どうして僕がなるべく多くの物事を曖昧な境地に落とし込もうとするのか、
 これで理解していただけたであろうか?

 二十世紀は眼に見えないものに一歩足を踏み出した状態だった。
 そんなことを考える時、トリケラトプスがよく出てくる。
 折角の殺傷力のあるそれが長すぎて死んでしまった、
 あのトリケラトプスのことを、である。
 出産を終えて女性が産後鬱になるのは、ムラ社会の注目を集め、
 子育てという一大事業をムラ社会全体に考えさせる為だったという。
 僕等は鬱を大きなムラ社会のように考えるべきなのかも知れない。
 いまよりずっと、昨日よりずっと生きやすい社会で、
 多くの鬱病という精神疾患は、怠け者や暇人と思われ、
 職場の同僚にいたら迷惑だと思う心ない人もいるだろう。
 それはそれで正しいけれど、
 間違っていても別にどうっていうことはないのだ、
 一度人生を踏み外してみたって生活保護もできる、結婚だって出来る、
 人生の楽しみ方は沢山ある、運命や宿命だのと、人生の理想や我慢だのと、
 意地の張り合いをしていても一歩たりとも進まないことがある。
 
 よく考えられない時には何も考えられないようにする方法もある。
 情報量が多すぎると言葉が上手く出てこなくなってしまうだろう。
 僕の経験上、面倒くさいことをやってみると開けてくる時もある。
 風呂やサウナだっていいんだ、困難な状況を紙に書きだして、
 本当に信頼できる人や、二十四時間の心の悩み相談室だって、
 あるわけじゃないか、そこで打ち明けてみるのもいい。
 社会人として、一人の大人としてちゃんと答えるよ。
 みんな大変だと思うし、人生を生きるのだって難易度が高い人もいる。
 その人が気付かないのなら、
 手を差し伸べて解決策を提示しなければならないし、
 駄目なことを、見て見ぬふりをすることで状況は悪化することもある。
 
 何もしない、自分には関係ない、という生き方ができる人もいる。
 それも精神病関連の対策としては、おおむね間違ってない。
 病気は伝染するし、生き方を侵蝕する。
 巻き込み型事故を起こすからね。
 でもそんな奴等ばかりだったら社会は滅茶苦茶だって思わないか、
 そんな人間味のない奴、つまんねえ奴が世の中だって思うのは辛くないか、
 悲しくないか、人と違うっていうのはそういうのに気付くことだ。
 EMDRというエビデンスのあるトラウマ治療法が保険適用になるといい。

 僕等は天国や楽園を探しているのだろうか、
 神とか愛だってそうだ、
 どうしてここにそれをきちんと見せられないのだろうか、
 貧弱で脆弱な僕の、思いの丈が一瞬垣間見せた未来だ。




  *


372








水位
water level



死は万物の定業、摂理ならば、
想像を絶した困苦や、欠乏、
酷寒、焦熱、孤独のわざわいを、
どうしよう。

搾りたてのトマトジュースのような、
明け方から日の暮れまで弛まず、
凄まじくも壮大な、滑稽な、笑止な、
自ら独り死んでゆくような、
一日を繰り返す。
血液が途方もない怒りで逆流する。
ルーブル美術館に爆弾を落としてしまえ、
国会議事堂などぺしゃんこにしてしまえ。

長い寒冷紗をせわしく巻きおろし、
他界の月影が見え、
空からは石膏のような白い粉末が、
埃や垢のように落ちてくる季節だ。
自由の女神など下半身のトルソーにしてしまえ、
ピラミッドの上に円盤をくっつけてしまえ。
何もかもが醜い。
そして何もかもが凍り付いている。

人間など全員死んでしまえ、
亡霊の群れのような心の嵐の中、
静かな森の中を歩いていた時間が、
あの生き生きとした場面だけが美しい、
鳥の言葉が解析されたという、
では何故犬が夢を見ているかどうかを、
解き明かせないのか。

がらんどうな裏町の泥のような雪、
朝の排気ガスで汚れたしわぶきのような雪。
何がそこから美を奪ってしまったのか、
誰がそれを博物館の純白の鉱石のように、
仕立て上げてしまったのか。
愚か者たちのことはわからない、
それ自体が意志を持っているかどうかさえ疑わしい。
確率を下げるような、掌握のできないことには、
一秒でもかかわりあいたくない。
知的営為の時間は、鯨の脂肉のように貴重だ。

この糞ったれな街を白く塗り替えて、
まったくの白紙に、最初の一頁へ戻せ、
楽園や天国なぞ、一兆年先でも、
われわれには早い。

言いたいことがある、思っていることがある、
では何故きちんと考えないのか、
ぐしゃっとのめりこんだ分だけ前へ踏み出さないのか、
歯を食いしばって千一夜を過ごし、とうに五千日を越えた、
語りつくせぬ珠玉だ、精髄だ、光彩陸離だ、
おべんちゃらはもういい、品位が下がる、豚に真珠だ、
気位のない奴等の言葉が我慢ならない。
奴隷や、乞食のような奴等の卑しさが我慢ならない。

天地の間に入れ墨を彫ってやりたい、
底無しの穴に陥穽ちてゆくとしても、
このグレースケールに突き抜けて空しい空に、
生活の枝先、ルサンチマン、シュプレヒコール、
日常だの生活だのどうでもいい、
洪水を飲み干して、溶岩を歩き去れ、
何故いつまでもそんなにお前はいい加減なのか、
何故いつまでもそんなにお前はどうしようもないのか。



  *


371







一杯の水


コップに水を入れ、
そして溢れた。

空気が足りない。
安全な飲み水を確保することは、
古の時代から重要な課題。
そして僕等は、
ペットボトルと同化した。
透明な傷を手に入れた。

空想科学映画のような、
ワンシーン、
心がわいてくるように、
不思議が溢れた。
無尽蔵の宝庫のような、
空気が押し潰される。
その部分を跳躍しながら、
玩具のような屋根へ。

スローモーション映像では、
吊り糸の切れた硝子玉のように、
見えるだろうか、
飛び石伝いの宙空の停止。
水がそのグラスを彩色し、
透明な溶岩が空想の海へと、
流し込まれてゆく。

水が引き起こす電離作用。
温度の差が攪拌されてゆく時、
なにゆえ、僕の眼は赤い水瓜の内側。

一瞬しか見えなかったから、
逆にいつまでも浮かぶ光景。
類なき時の夢の挿話にひきずられ、
悲しい雨の記憶が甦る。

スッと風が通り抜けて、
水がつくりだす穴が鍵の穴のように、
思えてきた。
もう誰にも邪魔をさせない。
そしてもう誰にも時間の無駄をさせない。

注がずにはいられない、
無警戒に、いつものように、
僅かな風を産むその傾く翳りの方で、
夜が溢れるまで、
心が壊れるまで。

君は人生の価値を笑った、
人の情熱を簡単に笑った。
その報いを受けるほどに、
咽喉の渇きだけが強くなる、
盗まれてゆく風景の中で、
窓硝子にあたった鼻のような、
五つの指紋だけが。



  *


370








塾講師


塾と一口にいっても、すべての塾を称して「学習塾」と言い、
(習い事といってもいいわけだが、)
その中で学校の授業をフォローする「補習塾」と、
(補習塾は、主に小中学生向けが多い印象がある、
また低学年の場合は、静かに、という所から始めなくてはいけない。
そうなると基本的に子供が好きでないと辛い仕事だ。怪獣お世話係)
受験対策用の「進学塾」や「予備校」がある。
また指導形態も講師一人に対し、一~三人を受け持つ、
「個別指導」と、
十~三十人ぐらいを受け持つ「集団指導」がある。

もちろん家庭教師はワンツーマンで、
大学生に働きやすい人気のバイトだが、
自頭の良さは別に必要はないという向きもあるが、
学力が足りていないと辛い場面はやっぱりある。
毎回準備や用意が大変だという話もある。
大学受験、医大コースなら医大生限定、
中学受験向けなら中学受験経験者が望ましいというように、
条件は様々変わって来る。
また努力をしてもそれに対する手当や時給は発生しない、
バイトがない日でも考えているという人もいる。
そういうのをどう考えるかというのもポイントだ。
それに思春期の子供相手だからコミュニケーション能力は必須だ。

勉強を好きになってくれたり、
もちろん、教師という立場で人に物を教えることで、
コミュニケーションスキルやマナーが身に付く。
何事も挑戦する前に頭でシミュレーションしてから、
始める習慣があるとグッと結果に近づくだろう。

何でもそうだけれど何処をターゲットにするか、
どういうレベルかというのは重要だ。
授業中に寝てしまう生徒のやる気を起こさせ、
改善策を考えなければいけない。
面白くなかったら寝る、それが子供の権利だ。
毎回授業を休む生徒が一定数いる。
行きたいって言ったわけじゃないし、それが子供の権利だ。
そういう生徒のやる気を引き出さなくちゃいけない。

とりたてて集団塾では腕の見せ所だ。
授業プリントやテストの管理、過去問のチェック、
テスト後の分析。話すスピードや、抑揚、話の間、
それに対する生徒の反応など。
やっぱり何事も試行錯誤しながら創意工夫して、
こうすればこういう反応になるというのを得ていくしかない。
講師経験やカリスマ性が試される集団塾では、
分かり易さを重視すると学力のある生徒は辞めてしまう。
すべての生徒に伝わって、
かつすべての生徒の学力向上をさせなければいけない。
保護者に成績のことで詰め寄られるシーンもある。
僕には胃が空きそうなので断らせてください。


  *


369








牡の空気


―――ボクシングジム。
騒音対策の内装工事がされ、
ロッカールームやシャワールームなどもある。
男性用更衣室には、
出席簿がわりに体重を記入するシートがある。
広い部屋の中で、十数人の男達の練習する姿。
健康体の毛穴にしみいるストイックな練習風景。
窓から都会の地獄絵のような一瞬の豊かさが垣間見えるが、
大小さまざまのかがり火のような熱気で、魑魅魍魎がせめぎ合う。
日常の中枢から電源プラグを抜いて一匹の獣へと変貌する。
パララッパララッと鳴るパンチングボールをする者、
ワンポイントの違いで慌ただしく去ってゆく音がする。
試行錯誤している、
シュッシュ言いながらシャドーを黙々とする者、
最短距離で、至近距離で。
空を切って放たれた拳のフィニッシュポイント。
仮説を立て有効な検証を行なう技術。
ネオン管が封じ込められたような何度も補修された、
サンドバッグを叩く者、拳を振る男たちの腕が揺れ、
鼓膜を刺激し、窓を震わせる本能の峻烈な蠢動。
徹底体に破壊する方法。
ある一線を越えた途端に、
まったく別の風景が広がる。
タイマーの音を自然に覚えた。
鏡の前でフォームをチェックする者。
筋肉の発達度具合で強さがわかる。
ウェイトトレーニングと有酸素運動。
完璧に計算されつくした黄金比のブロンズの彫刻。
縄跳びをしてモップをかける者、
そして舞台に上がれば孤独な檻のように見える、
縄の貼られた即席リングでスパーリングをする者。
そこにもまたチェスや囲碁や将棋の要素がある。
スピードとパワー。
ロードワークに出て信号待ちでシャドウをする者。
無駄話をしない元プロボクサーの常連と話をする者。
トレーナーは、諄々と指示を出しながらミット打ちの対応をし、
トレーニング器具の使い方を教え、パソコン機器まで操る。
ボクシングジムには、
花明かりによろめく蝶のようなまぶしさがある。
響く歓声と鳴り止まない拍手の雨の中、
拳を突き上げる勝者の栄光という宿望。
魔術的な呪縛にも似た、ロッキーのテーマが流れ、
フィラデルフィア美術館の階段を駆け上がるような夜、
バリバリ現役で現在進行形で過去の遺物は一つもない、
なまめかしさも物寂しさもボクシングジムにはあり、
そこにおける人は、ゴムの柔軟さを備えて、獣で、
そして彼等は血塗られた軍人のように若い。

  *


368








片思いも
楽しいけれど、
やっぱり「好き」って、
言われるのが、
いいよね。
君は「可愛い」を、
目指していて、
僕は「カッコいい」を、
目指す。

セックスの相手、
探すんじゃなく、
一生傍にいてほしい、
人を探す。

色んなことは、
変わってしまうし、
一か月後と、
一年後は違う、
十年先なんて、
かくれんぼの子供で、
見えやしないんだ。

でもこの気持ちが、
変わらないように、
一分一秒を噛み締める、
長く続かないと思う、
でも一人の時間が、
それまでと違う、
長い間、
僕等は待っていた。




  *


367








フリーメーソン


フリーメーソンは、別に秘密結社ではない。
が、秘密結社に仕立て上げられうるような、
仕掛けもそこかしこにある。
ただ、ありとあらゆる結社に秘密が存在しないわけはなく、
公開結社という向き、だ。
会員数は六百万人を超える。

起源は十四世紀を遡らず、
鏝と直角定規とコンパスを重視する石工を中心とする、
職人組合が正しい。
そこにそれと関係ない人々が集まって、
職人組合から、友愛団体へと変貌した。
そこには参入儀式がある。
次にエルサレムの神殿を起源とする神殿幻想や、
各地のロッジの象徴的装飾性などにみられる、
視覚的シンボルを重視する。
怪しげなピラミッドの眼、プロビデンスの眼。
それにフリーメーソンは誰がメンバーであるかを、
長らく公表してこなかった。
無論、自分からも言い出さない。

また錚々たるメンバーである。
モンテスキュー、ヴォルテール、サド侯爵、
カサノヴァ、ゲーテ、ジョージ・ワシントン、ハイネ、ステファヌ・マラルメ、
ジュール・ヴェルヌ、オスカー・ワイルド、コナン・ドイル、マーク・トウェイン、
シャガールもフリーメーソン。
どうやっても接点なさそうな無茶苦茶なものが、
フリーメーソンという一本の糸で繋がると、
世界を闇で動かしているような感じは確かに出る。

けれど二十世紀になって、
ヒトラーやムッソリーニやフランコが、
フリーメーソンの活動を禁止しようとした。
フランコ時代にはかなり処刑者も出た。
こうしてフリーメーソンは第二次大戦後は活動の一部を、
表に出すようになった。
だがそれはそれで怪しいという向きもある。
引っ込んでいても、表舞台へ出ても、いかがわしいというのは、
中々日本には存在しない。

また、元フリーメイソンの創始者による新宗教も多く、
モルモン教の創始者ジョセフ・スミス、
ならびに二代目大管長ブリガム・ヤング、
エホバの証人(ものみの塔聖書冊子協会)の創始者、
チャールズ・テイズ・ラッセル、
クリスチャン・サイエンスの創始者メリー・ベーカー・エディがそうだ。

ただ、ロッジでは商売や政治の話はできないので、
陰謀を巡らせるような組織ではないというが、
都市伝説好きな日本人を騙す為には割愛するしかない。

何はともあれ、集会もニュースになった。
一九七一年のパリ・コミューン一〇〇周年記念開放白会、
一九八七年にミッテラン大統領がエリゼ宮に、
フリーメーソン代表団を迎えて演説をしたことなどは、
かなりよく知られたニュースだ。



  *


366







LINE STORY


「LINEでさー、ミホさ、母親がゴキブリに発狂したって書くんだよ、こいつ」
「レイコだって、父親がインキンタムシで、変な薬塗ってて、
すげー嫌だったってLINEしてきたじゃん、めちゃくちゃウケたんですけど」
「ミホやレイコのこと笑ってるけど、アンズだって、
自傷癖あるんだよねー、気持ちよくてやめられないんよねーって、
三年生の告白断るために滅茶苦茶なLINEしてたの知ってんのよ、
ヤンデレこわすぎ」
「そういうユカ師も、学校のLINEで、
ありもしない怪談つくりすぎ。なによ、幽霊十匹はつくったでしょ」




  *


365







コーヒーナップ



コーヒーには覚醒作用がある。
このカフェインには飲んでから効くまでのタイムラグがある。
タイミングよくコーヒーを使って、
スッキリ起きれるような昼寝をしようというのが、
「コーヒーナップ」

睡眠のメカニズムにはレム睡眠とノンレム睡眠が繰り返し、
九〇分サイクルで繰り返す。
ヨガの世界ではこれを、
サーカディアンリズムだとか、ウルトラディアンリズムと言う。

やり方は単純明快至極簡単。
昼寝直前にコーヒーを一杯飲む、これだけ。
とはいえ、飲む量については個人差があるので、
自分の身体がどれぐらい求めるかを自己判断するのが一番だろう。
それでも無理なら、カフェインサプリという方法もある。
ぶっちゃけ、カフェイン入っていれば何でもいいので、
「カフェインナップ」ともいうのだ。
時計店で眼鏡を売っているようなものだね。

さて、カフェインは摂取してから十五分程度で効果が出るので、
昼寝から十五分くらいで自然と目が覚めるようになる。
なお、これと併せて、十五分後に起きると自分に言い聞かせる、
十五分後に起きると思い描くと、
もっと効果的かも知れない。
人間には好きな時に起きられるという覚醒能力があり、
これはいくつもの研究やデータとして存在する。
ちなみに自己覚醒能力の高い人は、
起きる時間に合わせて副腎皮質刺激ホルモンを分泌し始め、
目覚めてすぐ活動できるよう脳と身体の準備を整える。

なお、三十分以上眠ってしまうと、途端に眠りが深くなって、
起きにくくなり、もちろん起きた直後にはスッキリしない。
逆に眠れないという場合でも、眼を瞑っているだけでよし。
情報をシャットダウンし、意識を飛ばすだけで効果は見込める。
ただ、コーヒーナップが上手く出来ないという場合には、
五時間~七時間空けるとか、
一週間や二週間コーヒー断ちをするとより効果的らしい。

別口の話では、ドライブなどで眠たいという人は、
コーヒーを一週間や二週間辞めて、
ドライブの時にコーヒーを飲むと眼が冴えてくる。
ただ、日常的にコーヒーを飲んでいる人にとっては、
罰ゲームでしかないが、我慢するといいことがある。
また、手の指を数えるとか、
眠気覚まし系のドリンクを試すとかいう方法もある。
僕は睡眠時間三時間で数年間やっていたことがあるけれど、
眠気覚まし系のドリンクはほとんど利かなかった。

ちなみにコーヒーナップには疲労回復効果もある。
脳が疲労を感じるメカニズムとしてアデノシンという物質があり、
これが分泌されて、受容体にキャッチされると、
疲労を感じるような仕組みになっている。
実はアデノシンとカフェインには似た性質があり、
この受容体にカフェインを埋めてしまうことができる。
そうすると、本来感じるはずだった疲労感はなくなり、
覚醒効果があるので元気になるという寸法だ。





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最終更新日  2024年03月01日 22時07分28秒



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