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カテゴリ:復活 小説MOUTH
電話の通話ボタンを押す瞬間、嫌な予感がした。(だいたい、非通知でかけてくるなんて、実家の親ぐらいしかいない。もしかして、家族の誰かが・・・。)
僕は少しためらいながらも、そっとボタンを押して右耳に電話を押し当てた。 電話の主は母親の必要以上なデカイ声ではなく、若い聞き覚えのない声だった。 「はぁ、はぁ、やっと出た。」男の声だ。後ろで車の通る音もする。 「八潮にある清掃工場の近くにいるんだ・・・悪いんだけど・・・スグに迎えにきてくれないか?」男はひどく疲れた声で話してくる。 「はぁ、はぁ、もしもし、聞いてるか?」 戸惑いながらも僕は答えた。 「あの、どちらにお掛けですか?」 「?、・・・タカシじゃないのか、・・・悪い、マチガ」プツッ。切れた。 (なんなんだ今の?) まだam4:30だぞ、起きてたからまだしも、もしも今日がオフで久々の睡眠補給の日だったらどうしてくれんだ!それでなくても、こっちは濡れた体で電話に出たんだ、それも産まれたままの姿で。朝一番の出来事が間違い電話だなんて、気分が悪い。なんか今日一日いい事無さそうに感じてしまうじゃないか。僕はこういう事が起こるとスグにそんな考えを持ってしまうのだ。 ビショビショに濡れた床を拭き、改めてシャワーを浴び直して、ついでにその場で歯を磨く。 その間もずっとさっきの事が頭から離れなかった。だいたいこんな時間に間違い電話してきて、ろくに謝りもしないで、途中で切るなんて非常識だ。タカシ?誰だそれ、僕はそんな何処にでも居そうな名前じゃあない。みんなが読み間違えるほど滅多に居ない『シュンカイ』と言う名前があるんだ。 たまに、他の芝居仲間に他の国の人だと馬鹿にされる時もあるけど。(あ、待てよ・・・)居た。ひとり居た。タカシと言うありきたりな名前の奴が。それも、スゴク身近な所に・・・。 多舞タカシとは僕が役者を始めた時からの知り合いだった。かれこれ10年の付き合いになる。当時僕等はある養成所のオーディションを同じ日に受け同じ日に合格した。いわば同期である。彼との出会いは別の時に話すが、お互い貧乏だった僕等はルームメイトだった事もある。 が、下の名前で呼んだことなんかないので、すっかり忘れていた。あいつもタカシなのだ。 もしかしたら、さっきの間違い電話は多舞宛てだったのかもしれない。共通の友人なら携帯のメモリーを押す順番を間違えることだって考えられる。 そうだ、さっきの電話は携帯からだった。僕の液晶画面には『着信 非通知』と表示されていた。公衆電話なら『公衆電話』と表示されるし、あの時後ろに車の通る音がしていたから一般回線でもないはずだ。 今の時代、憶えた番号を一桁ずつ押して掛ける人はあまりいない。メモリー機能があるのだから・・・。しかも、名前も名乗らず話し始めたから、掛け慣れている人に掛けたつもりだったんだろう。と、すると益々、多舞の線が濃くなった。あの失礼な電話の主はアイツの友達だったんだ。 納得した僕は長い間磨いていた歯ブラシを置き、口を濯ぐ。 が、ある事に気づいた。僕の知り合いでもあるって事か? そうだ、携帯のメモリーを使ったのなら、僕の番号を知ってるやつなんだ・・・・。 今度は体も拭き、急いで洋服も着た後、早朝である事も忘れ、僕は多舞に電話をかけた・・・。 第1話から読み直す→→→http://plaza.rakuten.co.jp/shunkay/diary/?ctgy=6 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Oct 16, 2005 04:33:21 PM
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