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テーマ:吐息(401)
カテゴリ:Essay
新緑に包まれた明月院は、紫陽花で賑わう日が訪れるであろうことをどこかに秘めて、静けさの中にあった。 わたしは一人で、この場所に佇めたことに感謝していた。 目を閉じると、喧騒の街はどこかに去って、心の中がしんと鎮まってきた。 時折、鶯がホーホケキョと啼いた。 去年のこの時季、わたしは病院のベッドで唸っていたし、一昨年は余命宣告を受けた末期がんの別れた夫と、東北の遅き春を見ていた。 その前は、もう憶えてはいなかった。 時は、いつも駆け足でわたしの前を通り過ぎて行き、わたしはそれが行き過ぎるのを、じっと待っていた。 それは、耐えがたき暴風雨であったりしたのだけれど、概ね不幸ではあり続けない現実があった。 ただ、それだけが救いのように、じっと待った。 いつか、きっと、笑い話で話せる日が来るはず、……と。 そんなことを、新緑の中で思っているのだった。 心は相変わらず、深き湖のように、鎮まっていた。 思い切り深呼吸をしたら、湖が少しだけ細波を打った、気がした。 でも、また、静かに何事もなかったように、鎮まったのは、この新緑のせい? きっと……。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007年05月03日 16時08分57秒
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