未来
題名 「未来」 路上で物を販売している、よく見る光景だ男は見るともなしに通りかかった一つの路上販売に目が留まった,眼鏡を売っていたからだ「眼鏡なんか置いても殆どの人が合わないだろうに。」そういえば俺も眼鏡を作り直さなくては最近細かい字が霞んで見える老眼が進んだのだろうか。」男は遠視の近視オマケに乱視までなっているから安い眼鏡の広告なんか見て行っても結局高い買物になってしまうのでオイソレと買えないでいた。 そんな訳でツイ座りこんで眼鏡を手に取って眺めていると、販売している初老の男から声を掛けられた「お兄さん、其の眼鏡は御買い得だよ。」ニヤリと笑いながら「其の眼鏡は掛けた人に合わせるんだ、掛けてみると良い。」そんな馬鹿な話があるものかと思いながらも男の勧めで掛けて見る、何とハッキリ見えるではないか然も千円「ヒ、ヒ、ヒ、如何じゃ見えるじゃろ、其の眼鏡にはオマケが付いているんじゃがマア此れは自分で見付けなされ。」 男は迷わず買い求めた、世の中が急に明るくなったようだ気分まで明るくなり結婚して初めて妻に土産を買って帰宅した「ただいま~。」声まで軽やかに玄関を開けると妻の元に行き土産を渡す、鋭い妻は「あら貴方眼鏡を買ったの、よくそんな御金が有ったわね。」冷たく言うが土産の効果かしきりに褒める、男も満更でもなく「うん今日帰りがけに…。」今までの経緯を話すと「そんな都合の良い眼鏡なんてあるのかしら、じゃあ私にも貸して。」妻も同じように老眼が進んでいて近々買わなければと言っていた、男の眼鏡を取り上げて掛けると「まー、ハッキリと見えるわ貴方、一つしかなかったの。」不満げに言いながら夫に返した。 「うん一つしか無かったな、妻から眼鏡を受け取り掛けた時蝶番の突起物を押した「カチ」っと小さな音がしたのだが気にせず掛ける「おー、何だ此れは。」男は慌てて眼鏡を外した「如何したの貴方。」「うんイキナリ札束に埋もれた光景が見えたんだ。」蝶番の突起物を押し又掛けて見る、普通の光景が見えるだけだ「そういえば売ってる親父が妙な事を言ってたなオマケが付いてるって此れの事か、キット夢か願望を見せてくれるんだろう。」「じゃあ私にも見せてよ。」夫から取り上げスイッチを入れて掛けた「キャー、止めて。」慌てて眼鏡を外すと心臓の辺りを押さえ荒い息をしている。 「如何した何が見えたんだ。」妻は夫を睨み「貴方が私を殺したい程嫌っているとは思わなかったわ、離婚よ今すぐ離婚するわ。」何が見えたのか男には分かっていた明日の計画が見えたのだろう、男には愛人が居たが妻と別れても一円も入って来ない処か裸で追い出される何故なら家は妻の両親が建てた物で名義は妻になっている、男は前々から完全犯罪を計画し明日が決行日だった。 眼鏡が男に見せた光景は妻の生命保険や妻名義の預貯金が入るもので、妻に見せた光景は夫に殺される自分だった、後から見た妻にばれて男は離婚され愛人にも愛想をつかされスキャンダルに厳しい会社からは解雇され、惨めな末路が待っていた。 「くそ、こんな眼鏡さえ買わなければ…。」男は眼鏡を道路に叩きつけ踏み潰した「ヒ、ヒ、ヒ、」何処からか聞こえてくる気味の悪い声が頭の中に響いていた。