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风起陇西(ふうきろうせい) 第八計「水を混ぜて魚を摸(サグ)る」 糜冲(ビチュウ)に成り済まして五仙道に潜入した陳恭(チンキョウ)。 歓迎の宴では酔い潰れたふりをして早々に退散し、翌朝、付近を捜査しながら山を登った。 すると糜冲を警戒している秦沢(シンタク)に見つかってしまう。 「糜先生?中で休まなくていいのですか?」 「一晩、休んだから風に当たりに来た」 五仙道の峡谷は蜀漢(ショクカン)の国境にあった。 この辺りはかつて曹操(ソウソウ)が隴(ロウ)と蜀を攻めた際、張魯(チョウロ)の弟・張衛(チョウエイ)が野営したという″神仙(シンセン)溝″があり、秦沢の話では中がくぼんで外側が隆起しているため、風水的には敵に包囲される地勢だという。 しかし陳恭はまるで虎がうずくまり龍がわだかまるようだと話し、むしろ縁起が良く堅固な地勢に見えると言った。 秦沢は黄預(コウヨ)大祭酒と同じ見解だと驚き、さすが英雄同士だという。 そこで陳恭は道中に埋めて来た竹鵲(チクジャク)の場所を教えるので回収して欲しいと頼んでおいた。 南鄭(ナンテイ)の司聞曹(シブンソウ)では荀詡(ジュンク)と裴緒(ハイショ)が曹魏の間諜の件で陽平(ヨウヘイ)閣へ発つことになった。 するとその日の朝、約束通り西曹掾(ソウエン)・李邈(リバク)が暗号解読の木版を渡してくれる。 しかし白帝(ハクテイ)が送った実際の暗号文は管理下にあり、馮膺(フウヨウ)を通さねば持ち出せないという。 「何とか方法を考えてみます」 荀詡は木版の箱を靖安(セイアン)司で厳重に管理することにした。 その時、従事の馬盛(バセイ)が現れ、義父の病のため休暇を願い出る。 荀詡は許可して送り出し、独りで留守番になった新人従事の廖会(リョウカイ)に大事な証拠品を託した。 「命にかけても守ります!」 糜冲の同行者が白帝だったと知った黄預は念のため糜冲の身元も調べることにした。 陳主簿が白帝だと聞いた糜冲は驚いていたが、その表情だけで真偽のほどは分からない。 そこで今晩、天水郡守・郭剛(カクゴウ)の使者がやって来ると嘘をつき、様子を見ることにした。 秦沢は配下に糜冲を見張るよう命じ、もし逃げ出した時は殺せと指示しておく。 一方、荀詡と裴緒は激しい雨の中、陽平閣に到着した。 骸はすでに激しい腐臭を放ち、徐(ジョ)将軍は外で待つという。 するとやはり骸は陳恭ではなく糜冲だった。 安堵した荀詡は右腕に忍冬の刺青があると偽証、遺留品を確認して検視を終える。 こうして書類が揃い、計画通り糜冲は陳恭として埋葬されることになった。 しかし外はさらに雨が激しくなり、荀詡たちは陽平閣に足止めされてしまう。 陳恭は郡守の使いが来る前に何とか逃げ出したかった。 しかし厳しい監視下で身動きが取れない。 その頃、黄預は秦沢に戌の刻を過ぎたら見張りを下げるよう命じていた。 「試したいのだ、あの者は忠臣なのか奸臣か…2人の使者の方はボロを出させるなよ」 陳恭は監視が解かれたと気づき、その隙に荷物をまとめて出て行くことにした。 運良く矢倉にも見張りの姿はない。 しかし洞窟の外では秦沢が配下たちと陳恭を捕らえるべく待ち構えていた。 罠とは知らず忍び足で出口へ向かう陳恭、その時、ふいに居所の外で不自然に巻き付けられた葉を見たことを思い出した。 (・Д・)はっ! 陳恭はあの葉が危険を知らせる合図だと気づき、結局、引き返し、無事だった。 陳恭が遅れて使者の歓迎の宴に現れた。 予想外だったのか意外な顔をする黄預、その時、陳恭を見た使者が糜司馬ではないと訴える。 使者の1人は長安間軍司・韓(カン)校尉だと名乗り、都督の命で郡守の密書を届けに来たと言った。 「もしやそなたが本物の白帝では?糜冲を殺して成り済まし、五仙道に来たんだな?!」 「ふっ、″月はなく星は稀に烏鵲(ウジャク)が南へ飛ぶ″…続きは?」 陳恭は間軍司が任務に出る際の合言葉を郭剛が決めたはずだと迫った。 言葉に詰まった使者は動揺し、実は陳恭の身体には東呉(トウゴ)の長沙(チョウサ)郡陳氏の紋章・忍冬があると指摘する。 しかし陳恭はこんなこともあろうかと忍冬を焼き消していた。 糜冲の身体は傷だらけだったが、忍冬はなかった。 すると陳恭がいきなり短刀を抜いて使者に襲い掛かる。 驚いた使者は咄嗟に応戦、すると陳恭は長安から来たはずなのに益州の剣術だと指摘した。 「つまりお前こそが西蜀の間諜だ」 黄預は自分が糜冲を試したとも言えず、結局、使者役の2人を見殺しにしてしまう。 南鄭も大雨に見舞われた。 狐忠(コチュウ)は李邈を呼びつけ、今回の皇帝の謁見は残り3日しかないと釘を刺す。 そこで李邈は3日以内に必ず役立つ材料を成都まで送ると約束した。 荀詡の密告は役に立たなかったが、陰輯(インシュウ)が馮膺に罪を着せる計画だという。 陰輯は偶然を装い、外出先の馮膺に声をかけた。 実は成都から急ぎの文が届き、西曹掾より先に馮膺に渡すのが筋だと思ったと顔を立てる。 そこで馮膺は司聞曹へ戻ったが、なぜかすでに閉門していた。 聞けばこの大雨で李邈が山津波を心配し、皆に早上がりを許したという。 馮膺は従事から文を受け取り、早く帰るよう伝えた。 しかし靖安司の従事がまだ残っているという。 馮膺は念のため靖安司の様子を見に行ったが、廖会は荀詡の命で証拠品の見張りをしていた。 「そうだったか、ご苦労だな」 一方、黄預は陳恭を本物の糜冲だと信じ込み、ようやく心を開いた。 「漢中の五仙道4千人余り、祭酒以下の長老257人、今後は糜冲に方策の決定を任せたい」 しかも義兄弟の契りを交わしたいという。 陳恭は快諾して拝礼すると、黄預は賢弟を得られたことは天意だと喜んだ。 「ぁ…まだ正式に娶ってはおらぬが、聖姑は兄嫁として接してくれ」 「ご挨拶します…嫂嫂」 すると翟悦(テキエツ)は今日の記念にと、金も玉も斬れるという名剣を糜冲に贈った。 黄預は聖姑を先に下げ、糜冲が漢中に来たのには別の目的があるのかと聞いた。 「もちろん、青萍(セイヒョウ)計画です」 「詳しく聞かせてくれ」 一夜明け荀詡と裴緒は陽平閣を出立、司聞曹に戻った。 するとなぜか李厳(リゲン)将軍の護衛隊が物物しい警戒体制についている。 「何か大事だ…」 荀詡は馬を頼んで中庭を急いで進むと、狐忠の姿があった。 狐忠は荀詡を連れて靖安司にやって来た。 しかし留守を任せた廖会の姿はなく、床には大量の血糊がある。 「廖会に何が?」 「…昨日は大雨ゆえ司聞曹は皆、早く帰った 初動捜査で重大な盗難が判明した、軍謀(グンボウ)司も司聞司も物が盗まれた 見張り番で残った廖会は賊に殺された、格闘の末にな」 荀詡と裴緒は裏庭で廖会の亡骸と対面した。 しかし廖会の身体を調べた荀詡は格闘した痕跡などないと分かる。 狐忠は意に返さない様子で、それより解読用の木版がなくなったことを問題視した。 狐忠は馮膺の居所に乗り込み、なかば強引に捕縛した。 「曹魏と通じ、人を殺めた確たる証拠がある」 「私の自供は聞かぬのか?!」 「ふっ…急がぬ」 一方、馮膺の捕縛を知った荀詡はあまりに早急だと抗議した。 しかし李邈は非常時ゆえ即断の必要があるという。 最初に紛失に気づいたのは軍謀司の高堂秉(コウドウヘイ)だった。 報告を聞いて調べてみると司聞曹で盗まれた物は木版以外、取るに足らぬ物ばかり、つまり盗みを働いた賊の狙いは明らかに解読用の木版だ。 従事の証言では事件が起こった時、ちょうど馮膺が戻り、靖安司へ向かって廖会に会っていた。 他の者は現場におらず、間接的な証拠があるという。 捜査報告書にもある通り、外部の者が司聞曹に侵入した痕跡はなかった。 街亭(ガイテイ)の事案に関与しているのは馮膺と孫令(ソンレイ)、つまり馮膺には木版を盗む動機がある。 「そなたの署名をくれ、すぐ成都に送らねば…」 確かに状況証拠は全て馮膺を示していた。 だからこそ荀詡は馮膺ではないと指摘する。 司聞曹の創設者の1人であり、この道に精通している馮膺がこんな初歩的な過ちを犯すだろうか。 すると李邈は荀詡が当然そう考えることを見越して裏をかいたのだと言った。 だとしてもあまりに危険すぎる。 そこで李邈は疑念があるなら捜査を続けても良いと条件を出した。 荀詡は李邈に押し切られ、しぶしぶ署名押印したが…。 つづく お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[風起隴西-SPY of Three Kingdoms-全24話] カテゴリの最新記事
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