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风起陇西(ふうきろうせい) 第十計「走(ニ)ぐるを上計と為(ナ)す」 馮膺(フウヨウ)が脱獄した。 真っ先に疑われた荀詡(ジュンク)はしらを切り通したが、西曹掾(ソウエン)・李邈(リバク)の監視は続く。 すると身動きが取れなくなった荀詡のもとに盟友の高堂秉(コウドウヘイ)が現れた。 高堂秉は荀詡が馮膺を脱獄させたと知り呆然、成都(セイト)の風向きが変わった今、不可解な事案だからこそ関わらない方がいいという。 しかし荀詡は無実の馮膺を見殺しにできないと訴え、手を貸せと迫った。 「今夜、馮曹掾を城外に送り出してくれ、軍謀司だろう?策を練るのは得意なはずだ」 高堂秉はしばらく頭を抱えていたが、ふと方法がひとつだけあると気づいた。 平北(ヘイボク)将軍・馬岱(バタイ)は紫煙閣(シエンカク)の女将と懇意で、月末になると決まって紫煙閣の妓女を陽平閣へ呼んでいた。 「まさに今夜だ」 「妙策だ!」 荀詡は喜んだが、そのためには自分の橋渡しが必要だという。 実は荀詡が帰路で女子を助け、その女子が紫煙閣の名妓になったことは調査済みだった。 そこで荀詡は竹簡の間に隠していた柳瑩(リュウエイ)の竹笛を差し出したが、高堂秉から愛の品だとからかわれてしまう。 その頃、李邈と陰輯(インシュウ)は高堂秉が必ずや荀詡の本心を探ってくるはずだと期待して待っていた。 五仙道に燭龍(ショクリュウ)から軍技司の地図と連弩(レンド)の設計図がある倉庫の鍵が届いた。 大祭酒・黄預(コウヨ)は糜冲(ビチュウ)になりすました陳恭(チンキョウ)と秦沢(シンタク)に竹鵲(チクジャク)で飛び降りる場所を示し、潜入経路を確認する。 次に正門から入ると最奥の庭に主記室があった。 この裏手にある密室が設計図の保管場所で守衛は10人足らずだが、やはり精鋭が必要になる。 しかし竹鵲は2機だけ、すると黄預はやむを得ぬ犠牲だと言った。 「竹鵲はお前たちが携行せよ、設計図を持って逃げるのだ」 糜冲たちが設計図を盗んで脱出したら所定の場所に置く。 あとは燭龍が設計図を受け取り、天水へ持って帰る手筈だ。 「所定の場所とは?」 「…私も知らぬ、まだ通知がない」 青萍(セイヒョウ)計画の開始は5日後、燭龍から合図が来るという。 天水郡守・郭剛(カクゴウ)は間軍司(カングンシ)の梁倹(リョウケン)を呼んだ。 糜冲が無事に五仙道と合流、しばらくは戻れないため帰還するまで職責を梁倹に委ねるという。 「それからもうひとつ…陳主簿が死んだ、平陽閣でな…奴が白帝(ハクテイ)だった」 郭剛は糜冲が正しかったと悔しさを滲ませたが、そこへ長安からの迎えが到着する。 叔父の都督・郭淮(カクワイ)は自分を呼び戻し、罷免するつもりだろう。 陳恭と過ごした役所での楽しい日々、しかし今となってはただの虚しい幻となった。 一方、荀詡は紫煙閣に駆けつけ、物陰から馬車に乗り込む柳瑩の様子を見ていた。 まさか柳瑩が曹魏の間諜だと知る由もない荀詡、その時、柳瑩と目が合い手を振ったが、用心深い柳瑩は無視して行ってしまう。 実は馮膺は柳瑩が腰掛けた椅子の中に隠れていた。 やがて城門に到着したが、馮膺の捜索で南鄭は封鎖されている。 しかし柳瑩は漢中の防備を担う馬岱将軍の客人、荷物の調べはしても柳瑩を検身するわけにもいかなかった。 その夜、驃騎(ヒョウキ)将軍・李厳(リゲン)は役所で狐忠(コチュウ)から馮膺の脱獄を聞いて激怒していた。 もしあの時、李邈の報告書を奏上していたら、今ごろ大変な事態になっていただろう。 明日が最後の朝議、朝廷では北征か南征か未だ激論が続いていた。 「どう転ぶか、まだ分からぬ…」 すると思いがけず役所に馮膺が現れた。 「ふっ…想像以上に頭が切れる男だ、会ってみよう」 馮膺は廖会(リョウカイ)の殺害と暗号解読用の木版紛失は李邈の陰謀だと訴えた。 そこで証拠として馬盛(バセイ)が記した記録を差し出す。 李厳は何食わぬ顔で記録を確認しながら、品行方正な李邈が同僚を陥れるはずがないと驚いた。 「そなたは楊儀(ヨウギ)の者、なぜ楊儀に渡さぬ?」 「私は朝廷の役人、楊儀の者ではない」 すると馮膺は楊儀を悪党だと激しく非難した。 このまま丞相が北伐を堅持すれば国はさらに弱体化、李厳の長年の計画を壊したくなかったという。 一方、裴緒(ハイショ)は荀詡と夕餉を囲みながら、馮膺の脱出が成功したと知って一安心していた。 それにしても頭領はなぜ高司尉が協力してくれると分かったのだろうか。 すると荀詡は高堂秉が慎重だからこそ態度を明確にしないと言った。 何より高堂秉はいかなる場合も勝者の側につく。 「証拠を出すまでもなく、遅かれ早かれ李邈は破滅するだろう」 荀詡は李邈が楊儀へ報復するために馬盛に廖会を殺させたことを決して許せなかった。 李厳は南鄭で1度も自分を訪ねて来なかった馮膺が急に態度を変えたことを訝しんだ。 すると馮膺は失笑し、賢い鳥は木を選び巣を作るものだという。 「最も必要とされる時こそ価値が現れるというもの… 将軍と丞相の戦略が正反対であることは周知の事実 北伐に失敗し街亭(ガイテイ)を失った今こそ将軍が丞相を問責する好機です ただ残念なことに丞相は朝廷で根強い勢力を有しており、簡単には揺るぎません 将軍は李邈を司聞曹に送り込み有力者を取り込もうとしたものの、うまく行きませんでした だからこそ卑劣で稚拙な小細工を弄したのです…これはご無礼をw 今や将軍は西川(セイセン)の氏族を率いて丞相を弾劾した、退路はありません 勝敗はこの一挙に懸かっています もしも私が将軍に楊儀が五仙道と通じている証拠を渡したなら大いに役立つことでしょう」 そこでようやく李厳は馮膺に席を勧めた。 一方、五仙道では陳恭が聖姑となった翟悦(テキエツ)と接触していた。 実は燭龍を捕らえる際に荀詡の協力が必要だという。 翟悦は一両日中に荀詡に連絡する予定があると教え、手順を伝えておくと約束した。 「燭龍を捕らえる際、黄預の配下がそばにいるはず、大丈夫なの?」 「考えがある」 すると翟悦は火鉢で拾った木片を渡した。 数字の羅列で意味は不明だが、確かに燭龍が送って来たものだという。 「では糜先生、早めにお休みください」 「聖姑、お見送りを…」 丞相・諸葛亮(ショカツリョウ)が朝議を終えて戻って来た。 厳しい表情の丞相を見た楊儀は李邈がでっちあげた馮膺の案件だと思ったが、予想外の結末を知る。 実は馮膺は李厳に楊儀が指示を与えた11月26日の記録を渡していた。 「記録には五仙道の信徒2人が王平(オウヘイ)将軍の屋敷で会談したとあった そなたの指示は″報告の必要なし″ 司聞曹は指示に従い朝廷に報告せず、記録を保存した…なぜだ?」 楊儀は王平が丞相の直属だったため、不利にならないよう揉み消したという。 しかし李厳は楊儀が故意に軍と五仙道の接触を隠したと告発、今や隆盛を誇る五仙道が曹魏の間軍司と手を組んでしまったのも楊儀のせいだと追及した。 楊儀は馮膺の裏切りだと釈明したが時すでに遅く、皇帝は五仙道の平定を命じ、楊儀を罷免のうえ庶民に降格したという。 「そなたは長所もある、だがあまりに狭量で慎重さに欠ける…良い機会ゆえ読書に励め」 一方、李厳は南鄭の幕府に入った。 李邈は目通りできず不安を募らせたが、狐忠から楊儀が離職したと聞かされ安堵する。 すると狐忠は弾劾の成功と丞相の北伐や燭龍の事案は無関係だと言った。 実は楊儀の罪名は五仙道を支援して司聞曹の権力を拡大したことだという。 「馮膺など放っておけ、将軍は事案の経緯をご存じだ それより五仙道を平定して将軍の期待に応えてくれ」 その頃、誰もが忘れかけていた孫令(ソンレイ)はまだ留置所でまずい飯を食わされていた。(^ꇴ^) 高堂秉は紫煙閣で馮膺と再会した。 馮膺は楊儀を犠牲にして丞相への重圧を減らしたと教え、これが自分たち古株ができる精一杯だったという。 「窮地で大局を顧みることができるのは蜀漢中を見回しても曹掾だけです」 高堂秉は馮膺の苦肉の策に感嘆したが、李厳は李邈をどうするつもりだろうか。 すると馮膺は五仙道の平定を李邈が指揮すると教えた。 「なんということだ…李厳将軍はあまりにも冷酷では?」 高堂秉は言葉を失ったが、馮膺は高位に上り詰めた者が手ぬるいわけがないという。 「そうだ、私の事案の担当にそなたを推挙しておいたぞ」 「私を?」 「いつまでも2隻の舟にまたがるのは良くないぞ?…解決したら李邈の屋敷を与えよう」 高堂秉は黙って酒を飲んでいたが、そこへ柳瑩が新しい酒を届けて帰って行った。 「今の姑娘が私を救ってくれた女か?」 「そうです」 「実に得難い、あれほど義侠心に富む女子が江湖にいたとはな…」 馮膺は善行には報いがあると知らせるため、柳瑩に富貴を与えたいと言った。 実は李厳は風流でとりわけ音楽に造詣が深いという。 「そういうことなら妙手になり得ますな」 馮膺はこの機会に孫怜を鍛えるのも良いと考え、自分の事案が解決してから釈放するよう頼んだ。 しかし一本気な荀詡には真実を告げないよう釘を刺し、何か聞かれたら自分は行方知れずだと答えて欲しいという。 高堂秉が馮膺を見送ると、部屋から柳瑩が現れた。 「馮曹掾は帰ったわ、休んでいかない?」 「…そうしよう」 つづく ( ;∀;)郭剛、切な~ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[風起隴西-SPY of Three Kingdoms-全24話] カテゴリの最新記事
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