|
风起陇西(ふうきろうせい) 第十九計「釜底より薪を抽(ヌ)く」 馮膺(フウヨウ)が李厳(リゲン)に献策した連環の計は言わば謀反だった。 2歩目で呉(ゴ)軍の侵略を装い、3歩目で戦に備えるという口実で兵糧を移動、諸葛亮(ショカツリョウ)の北伐を覆すという。 確かに丞相は東呉にお構いなしで北伐を断行しており、陳恭(チンキョウ)はこれで恩師も大業を成し遂げられると太鼓判を押した。 一方、荀詡(ジュンク)は高堂秉(コウドウヘイ)が自害ではなく馮膺に殺されたと考えていた。 実は高堂秉から李邈(リバク)殺害についての供述を得ていたが、その緻密な計画を知るに馮膺の指示である可能性が高い。 その時、荀詡はふと思い出した。 「(はっ!)今日、馮膺と話した時、衣の袖に牢の内壁と思われる汚れが付着していたような…」 すると裴緒(ハイショ)が確認して来ると言った。 馮膺と陳恭は別荘をあとにした。 馮膺の悪辣な計画は丞相の首を献ずるも同然、確かに見事な計画だったが、その容赦ないやり方がかえって李厳を疑心暗鬼にさせる。 「あの者は重用するな、警戒せよ…では諸葛亮が出陣したら江州のほうも動き出せ」 馮膺と陳恭は一緒に司聞曹へ戻った。 すると馮膺は別れ際、陳恭は用意周到だが周到すぎると冗談混じりに指摘する。 一方、馮曹掾(ソウエン)が留守の間に部屋へ侵入した裴緒は衣の袖についていた木片を見つけていた。 天水(テンスイ)郡守の役所に内報が届いた。 諸葛亮は東呉への対応で関中が手薄になった隙に漢中へ侵入する計画だという。 どちらにせよ馮膺が失脚して陳恭さえ昇進すれば蜀軍の動向は筒抜けになるが、郭淮(カクワイ)は荀詡が気がかりだった。 「陳恭なら馮膺を排除できよう、ただし司聞曹の荀詡は陳恭の義兄弟で事案に肉薄している 荀詡を排除しないと陳恭は窮地に立たされるやも…」 陳恭の屋敷に突然、荀詡が訪ねて来た。 すると荀詡はしみじみ間諜家業にうんざりすると漏らし、なぜ人は生死を懸けて戦うのかと嘆く。 陳恭は漢の復興のためだと言ったが、荀詡はそれが空言にならぬよう願うと答えた。 「馮膺が高堂秉を殺した」 荀詡は証拠ならあると餅(ビン)に隠して持って来た木片を見せる。 確かに証拠としては弱かったが、少なくとも馮膺を疑うには足るだろう。 一方、司聞曹では裴緒たちが密かに馮膺の動きを見張っていた。 そこへ馮膺が曹掾の部屋に戻って来る。 裴緒は時間を記録し、従事に目を離さぬよう頼んで頭領を迎えに行くことにした。 孫令(ソンレイ)は諸葛亮が成都(セイト)を出発したと報告した。 そこで馮膺は主記室から各部署へ戦時体制に入るよう通達を命じ、北伐を優先すると伝える。 「軍謀司と司聞司は丞相の要請を待て…もうひとつ、馬車を頼む、これから青石谷(セイセキコク)へ行く」 青石谷と聞いた孫令は姐夫が青雲(セイウン)道人に会いに行くつもりだと分かった。 青雲は赤岩(セキガン)峰で20年以上も修行し占卜(センボク)に精通しているという。 荀詡は陳恭に信頼できる人手が欲しいと頼んだ。 そこで陳恭は馬岱(バタイ)将軍の精鋭たちを借りると約束し、馮膺に毒されていない者たちだと安心させる。 しかしそれでは足りず、荀詡は尾行の仕方を心得た腹心が必要だと訴えた。 裴緒は自分の面倒を見ながら馮膺を見張っているため手一杯だという。 「つまり他にも対象が?」 「…天水から戻る際、武都(ブト)の近くで救った女子だ」 荀詡は柳瑩(リュウエイ)が現れた時期に作為を感じ、怪しい点が全くないことがかえって心配だった。 馮膺を逃すよう頼んだ時のあの並外れた度胸は厳しい訓練を受けて来たとしか思えないという。 「これまでの経験から敵の間諜には直感が働くはずだろう? 何より馮膺は豪邸を構え、柳姑娘を李厳将軍に贈った すべてつなげて考えると胸騒ぎがする…馮膺は意図があって柳姑娘を贈ったはずだ」 陳恭は嫉妬だろうと茶化していたが、荀詡の執念深さに負けて同意せざるを得なくなった。 「うむ、確かに馮膺には何か企みがありそうだ」 「馮膺と郭淮が通じていたなら伝達経路があるはずだ」 「もしや柳姑娘が連絡係だと?」 「調べねば」 荀詡は自分の推察通りなら北伐に合わせて馮膺が動くと考え、柳瑩の監視を頼みたいという。 すると陳恭は自分の正体が暴露された後に山林に潜んでいた林良(リンリョウ)が今夜、到着すると教えた。 「使ってくれ」 荀詡は迎えに来た裴緒と一緒に帰って行った。 門で見送った陳恭は屋敷へ戻ったが、すぐ異変に気づいて警戒する。 すると暗闇から従者を連れた黄預(コウヨ)が現れた。 「そう警戒するな、郭淮刺史の命を受けて燭龍大人に会いに来た」 黄預は自分が翟悦(テキエツ)を殺し、陳恭が五仙道を滅ぼし、これでおあいこだという。 郭淮は黄預をひとまず漢中に戻し、南鄭に潜入して陳恭に荀詡殺害を命じるよう指示した。 さすがに郭剛は陳恭にもしものことがあれば全て水の泡になると諫言する。 しかし郭淮はだからこそ用心しなくてはならないと言い聞かせた。 「人というものは簡単に心変わりする 大業を成したくば誰も信じるな、常に主導権を取り続けろ… もし陳恭が馮膺を排除して司聞曹を掌握したのち糸の切れた凧のようになれば、制御できなくなる 心変わりしても不思議はない… 陳恭が第2の馮膺になれば我々の数年に及ぶ努力はただのお膳立てとなる」 「なるほど…妻を殺させ、同僚を殺させ、義兄弟を殺させる そうなれば陳恭の居場所は我が大魏しかなくなるというわけですか」 陳恭は郭淮の命を聞いて愕然とした。 すると黄預は郭淮から預かった3本の金鈚箭(キンヒセン)を差し出し、表面に猛毒が塗ってあると教える。 「陳曹掾は弓の名手、造作ないだろう」 人を用いるなら信頼すべしと言うが、どうやら郭淮はまだ陳恭の忠誠心を疑っていた。 陳恭は事を急いては仕損ずると反対したが、黄預は手はずなら整えてあるという。 「南鄭で殺すのではない、陳曹掾にはいかなる迷惑もかからぬ」 黄預は西郷(セイキョウ)の城外で会おうと言って帰って行った。 狐忠(コチュウ)は李厳将軍の説明を一言も漏らぬよう書き留めていた。 「諸葛亮の率いる軍が成都を離れた、間もなく漢中を抜けて陳倉(チンソウ)道を通る そこに兵糧を届けるのだ、定軍(テイグン)山から兵糧を運ぶ道は2つ、東側は回り道で西側は近道だ こたびは東側を通らねばならぬ …散(サン)関以南は私の管轄だ、そなたは運んだ兵糧を散関で魏延(ギエン)に受け渡せ」 「将軍、ご高明です、受け渡し後に問題が起きても将軍は関係ない」 魏延は兵糧を受け取ったのち沔水(ベンスイ)へ向かい河口に下るはずだ。 しかし陳恭が堤防を壊し山津波が発生、散関では長引く雨で沔水が氾濫しているため天災にできる。 その間に東呉の侵略を知った李厳が兵糧を前線に送れば、諸葛亮には露呈するまい。 計画は完璧だったが、ただ東側の道を行く理由が必要だった。 関所の馬岱将軍を取り込めれば何とかなる。 すると狐忠は馬岱が馬超(バチョウ)の従弟で、6年前に馬超が死ぬと古参でない馬岱は丞相に冷遇され、鬱々としていると教えた。 荀詡は李厳の別荘に近い裏道で思い出の草笛を吹いた。 もう猶予はない。 北伐の前に不安の種を除かねば街亭(ガイテイ)の二の舞になってしまう。 しかし馮膺にしては証拠が分かりやす過ぎるのが気になった。 陳恭も自分が推断できた点をなぜ見逃したのだろうか。 「実は踊らされているのやも…」 荀詡は一抹の不安を感じながら裴緒に見張りを頼んだ。 するとしばらくして別荘を抜け出した柳瑩が現れる。 実は荀詡は柳瑩が曹魏の間諜だと気づいていた。 荀詡は高堂秉が曹魏の送り込んだ間諜・燭龍だったと伝えた。 そこで紫煙(シエン)閣の帳簿を見たところ、高堂秉が毎月3回、柳瑩に会いに行っていたことが分かったという。 しかし明らかな証拠がないせいか、柳瑩はあくまで知らぬ存ぜぬを通した。 すると痺れを切らした荀詡がついに核心に迫る。 「高堂秉から聞いた、君が連絡係だと…」 「…なるほど」 柳瑩は荀詡の憤りが李厳と自分の仲ではないことにいささか落胆した。 「私に利用されたと思ったのね…私を救った後に起きたこと全てが仕組まれたことだと… この想いまで偽りだと? 私を間諜だと思うなら捕えればいいわ、もう疲れたの、休みたい」 ↓まさに美人の計 つづく (* ゚ェ゚)黄預、帰りは堂々と出て行くんだw お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[風起隴西-SPY of Three Kingdoms-全24話] カテゴリの最新記事
|