■早稲田大学文学部を批判する■
大学というのは「知」を扱う場所であったはずである。「知」は、「知」の原理にのみ服従し、他の原理に跪くものではなかったはずである。もし、大学が「知」以外の原理に跪くとしたら、それは自身の存在基盤を自ら掘り崩す愚行ではなかろうか。こんなマンガのような愚行話が、実際にあったのである。昨年の12月20日に、早大再編について批判的なビラを撒いていた男性1人が、文学部の教職員7,8名(!)に取り囲まれ、軟禁のうえ、呼び入れた警察署員に引き渡され、「建造物不法侵入」の容疑で逮捕されたというのである。彼は爆弾を身に着けていたのか? ただ、紙切れを配って、自身の考えを他者に伝えようとしていただけじゃないのか?さらに、その対応に反対する現役法学部生までもが、「学則違反」という権力側の一方的措置によって言論を威圧的に封じられるということが起こっている。この大学は「知」ではなく、「恥」の原理に従っている。まずは、呼びかけ人の抗議文を転載する。■■■抗議文 12月20日昼ごろ、早稲田大学文学部キャンパス内において、早大再編について考え、反対する行動告知のビラをまいていた一人の人間が、突然7,8名の文学部教職員に取り囲まれて、そのまま警備員詰所に軟禁され、その後、その教員らが呼び入れた牛込警察署員によって「建造物不法侵入」の容疑で逮捕されてしまいました。 この事件について、わたしたちはたんに一大学にとどまる問題ではなく、大学総体のあり方、ひいては現在のこの社会のあり方総体にかかわる問題として、みずから深刻に受け止めるべきであると考えます。この出来事は、「言論表現の自由」を最後まで守るべき大学が、それをみずからあからさまに放棄したものであるがゆえに、わたしたちが譲ることのできない一線を、この社会が否定しつつあることを示唆しているのではないでしょうか。大学のキャンパス内でビラをまくという言論活動を行っていた人間が突然逮捕されるという、前代未聞のこの到底許しがたい処置に対して、わたしたちは抗議の声をあげるとともに、早大当局の謝罪を求めるものです。 〔2006年4月10日追補〕 2006年1月25日、早稲田大学文学学術院(文学部)は、本件不当逮捕に反対し文学部構内で抗議のビラをまき行動をおこなっていた法学部学生C君の行為を「学則違反」と見なし、「しかるべき処置」を求める文書を早稲田大学法学学術院(法学部)に提出しました。 これは、先の不当逮捕に続き、「学内者」の言論活動、すなわち一切の批判的行為をも封殺しようとする許しがたい目論見にほかなりません。私たちは、このような措置に抗議すると同時に、文学部学術院に対して謝罪を求めるものです。 呼びかけ人 井土紀州(映画監督/脚本家)木村建哉(成城大学文芸学部専任講師)池田雄一(文芸評論家、早稲田大学非常勤講師)スガ秀実(近畿大学教員、元早稲田大学非常勤講師)丸川哲史(評論家、明治大学教員) ■■■われわれは、理解できないこと、納得できないことに対して、声をあげ、説明を求める権利を持っているはずである。これが無ければ、ただの衆愚の民である。そして、権力を持つ側は、それに対しレスポンシビリティを負う。「知」において説伏することが求められていよう。そうした「知」の自由、知の多元主義が認められる最たる場所が大学という場所であったはずである。国家の模範となって、「知」の原理を謳歌する場所であるべきはずである。納得・理解しないものに対して、「知」の原理によってではなく、暴力によって相手を従わせるならば、それはもはや野蛮な者の住処である。私は、この事件を知って憤った。噂は聞いていたが、詳しく知ろうとしなかったことを恥じた。私にとってこの大学は、「知」の楽しみを与えてくれ、<他者>を与えてくれ、「議論」の場を与えてくれた、大変に好きな、愛する場所である。似非愛国者は「権力には従え」と言う。だが、私は確信している。愛しているからこそ、批判しなければならない。それが、本当にその相手を思う行動であるはずだ。私は、この大学でそのことを学んだ。だから、今、ささやかな恩返しをしたい。■署名をお願いします■少しほっとするのは、多くの早稲田の交友たちが、この抗議文に賛同し、反対の署名を行ってくれていることだ。また、良心的な教員たちが「公開質問状」を送るなどの行動を取っていることである。ここに私淑する恩師が入ってたりするから、本当に嬉しい。ただ、抗議文にもあるように、これは、一大学だけの問題に留まらないはずである。私としては、署名者に、単に「会社員」が少ないのが気になる。これが、皆さんの署名を呼びかける所以です。≪詳細・署名はこちら≫「ビラ撒き不当逮捕を許さない」 http://wasedadetaiho.web.fc2.com/■更に■「戸山質問箱」 http://www.littera.waseda.ac.jp/littera/faq/toyamaq.html早大文学部への意見・提言ができます。「文学部教員一覧」 http://www.littera.waseda.ac.jp/littera/st/navi.html「知」の恩恵を受けている方々に、直接、今回の件を尋ねることもできます。E-mailアドレスが公開されている方のみですが。■参考に■ビラ撒きは、よくよく考えれば、もっとも無害な「表現の自由」の達成方法ではないでしょうか。これを威圧的に抑えようとするのは、言論の価値を捨てることにしかなりません。「ビラ配りの自由」 http://www.jicl.jp/hitokoto/index.html畏怖してやまぬ激高老人氏の次の言葉も心に留めたいものです。自分たちの支配にとって都合の悪いことと悪それ自体とを区別するところから議論を始めなければならない。