【一番優れた投資】
東日本大震災の被災遺児を支援する基金が創設された話を紹介した。 多く場合、親戚をはじめ支援に感謝の念が強い子どもほど、能力資質に関係なく、上級学校への進学を自ら断念してしまうのだという。胸が詰まる。 本年は、世界的に経済格差の抗議するデモが相次いだ。経済格差が、もっとも現れるのが教育といわれる。言い古されたたとえだが、日本で一番平均所得の高い保護者の教育機関を問えば東京大学である。一番質の高い教育を最も費用対効果で優れたサービスで在籍者は享受している。 質の高い教育に、多額の支出はいたしかたないが、教育の格差が連鎖してゆくことは、国民の能力資質の開発や国力の維持からも劣化を招くことにならないだろうか?努力と才覚で、可能性を切り拓ける保障をすべきである。 わが国は、明治維新のころ国家予算の5割程度を義務教育に投資した。結果、全国津々浦々まで「読み書き」「算盤」が浸透し、資源のないこの小さな島国を高い技術力や加工貿易力で経済大国にのし上げた。 今や国家が教育投資する金額は、公共の福祉が膨大化するとはいえ、わずかに数%である。東北復興事業は別にしても、道路や箱物を作る予算が次世代の人材を造る予算をはるかに凌ぐ。本末転倒のような気がしてならない。 他方、OECDに加盟する国々の中で高等教育にいたるまで、公費負担する国は、日本などのわずかな数の国を例外にすれば、ほぼ加盟国数と同じである。公費で教育投資を行わない点で、日本こそは異端国家なのである。 明治維新の礎を築いた人々は、多くが下級武士や農民の出身だった。国家が、教育投資を通して育て、人材の開発によって、その恩恵を社会に還元してきたといえよう。長引く経済不況は、家計を困窮させ、生活保護受給者を史上最多数にまで陥らせている。他方、欧米でも教育に熱心な国々は、大学教育にいたるまでほとんど負担がないという国がある。欧米の経済も危機に瀕しているが、困難を克服し、再び国家建設に人材を必要とするとき、必ずや国家が必要とする人材は育っていることだろう。 翻ってわが国、日本。国家戦略の重大目標を指し示すこともできず、成長戦略の道筋も指し示すこともできずにいる。国家の再構築に必要とされる人間は、霞ヶ関の官僚ばかりではない。教育投資によって、育てあげるべき人材は限りなく多いはずである。最近のニュースで、山梨県で義務教育に関する負担金を修学旅行や体験学習の費用なで広げて行うとする自治体が現れた。 年間ひとり頭8万円の増額ということだが、投資にふさわしい成果が、あらわれることだろう。国家は、国民の平和で豊かな暮らしのためにある。今年も一年ありがとうございました。どうぞ良いお年を!国連支援交流協会