こどもの人権を守る
子どもの人権の尊重とその心身にわたる福祉の保障及び増進などに関しては,既に日本国憲法を始め,児童福祉法や児童憲章,教育基本法などにおいてその基本原理ないし理念が示され,また,国際的にも児童の権利に関する条約等において権利保障の基準が明らかにされ,「児童の最善の利益」の考慮など各種の権利が宣言されている。 しかし,子どもたちを取り巻く環境は,我が国においても懸念すべき状況にある。例えば,少年非行は,現在,戦後第4の多発期にあり,質的にも凶悪化や粗暴化の傾向が指摘されている。一方で,実親等による子に対する虐待が深刻な様相を呈しているほか,犯罪による被害を受ける少年の数が増加している。児童買春・児童ポルノ,薬物乱用など子どもの健康や福祉を害する犯罪も多発している。さらに,学校をめぐっては,校内暴力やいじめ,不登校等の問題が依然として憂慮すべき状況にある。 このような状況を踏まえ,「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」(平成11年法律第52号),「児童虐待の防止等に関する法律」(平成12年法律第82号)の制定など個別立法による対応も進められている。 1 子どもを単に保護・指導の対象としてのみとらえるのではなく,基本的人権の享有主体として最大限に尊重されるような社会の実現を目指して,人権尊重思想の普及高揚を図るための啓発活動を充実・強化する。2 学校教育及び社会教育を通じて,憲法及び教育基本法の精神に則り,人権尊重の意識を高める教育の一層の推進に努める。学校教育については,人権教育の充実に向けた指導方法の研究を推進するとともに,幼児児童生徒の人権に十分に配慮し,一人一人を大切にした教育指導や学校運営が行われるように努める。その際,自他の権利を大切にすることとともに,社会の中で果たすべき義務や自己責任についての指導に努めていく。社会教育においては,子どもの人権の重要性について正しい認識と理解を深めるため,公民館等における各種学級・講座等による学習機会の充実に努める。3 学校教育法及び社会教育法の改正(平成13年7月)の趣旨等を踏まえ,子どもの社会性や豊かな人間性をはぐくむ観点から,全小・中・高等学校等において,ボランティア活動など社会奉仕体験活動,自然体験活動等の体験活動を積極的に推進する。4 校内暴力やいじめ,不登校などの問題の解決に向け,スクールカウンセラーの配置など教育相談体制の充実を始めとする取組を推進する。また,問題行動を起こす児童生徒については,暴力やいじめは許されないという指導を徹底し,必要に応じて出席停止制度の適切な運用を図るとともに,学校・教育委員会・関係機関からなるサポートチームを組織して個々の児童生徒の援助に当たるなど,地域ぐるみの支援体制を整備していく。 5 親に対する家庭教育についての学習機会や情報の提供,子育てに関する相談体制の整備など家庭教育を支援する取組の充実に努める。6 児童虐待など,児童の健全育成上重大な問題について,児童相談所,学校,警察等の関係機関が連携を強化し,総合的な取組を推進するとともに,啓発活動を推進する。7 児童買春・児童ポルノ,児童売買といった児童の商業的性的搾取の問題が国際社会の共通の課題となっていることから,児童の権利に関する条約の広報等を通じ,積極的にこの問題に対する理解の促進に取り組む。 8 犯罪等の被害に遭った少年に対し,カウンセリング等による支援を行うとともに,少年の福祉を害する犯罪の取締りを推進し,被害少年の救出・保護を図る。 9 保育所保育指針における「人権を大切にする心を育てる」ため,この指針を参考として児童の心身の発達,家庭や地域の実情に応じた適切な保育を実施する。また,保育士や子どもにかかわる指導員等に対する人権教育・啓発の推進を図る。 10 児童虐待や体罰等の事案が発生した場合には,人権侵犯事件としての調査・処理や人権相談の対応など当該事案に応じた適切な解決を図るとともに,関係者に対し子どもの人権の重要性について正しい認識と理解を深めるための啓発活動を実施する。 11 教職員について,養成・採用・研修を通じ,人権尊重意識を高めるなど資質向上を図るとともに,個に応じたきめ細かな指導が一層可能となるよう,教職員配置の改善を進めていく。教職員による子どもの人権を侵害する行為が行われることのないよう厳しい指導・対応を行う。12 子どもの人権問題の解決を図るため,「子どもの人権専門委員」制度を充実・強化するほか,法務局・地方法務局の常設人権相談所において人権相談に積極的に取り組むとともに,「子どもの人権110番」による電話相談を始めとする人権相談体制を充実させる。なお,相談に当たっては,関係機関と密接な連携協力を図るものとする。【まとめ】家庭や地域社会における子育てや学校における教育の在り方を見直していくと同時に,大人社会における利己的な風潮や,金銭を始めとする物質的な価値を優先する考え方などを問い直していくことが必要である。大人たちが,未来を担う子どもたち一人一人の人格を尊重し,健全に育てていくことの大切さを改めて認識し,自らの責任を果たしていくことが求められている。こうした認識に立って,子どもの人権に関係の深い様々な国内の法令や国際条約の趣旨に沿って,政府のみならず,地方公共団体,地域社会,学校,家庭,民間企業・団体や情報メディア等,社会全体が一体となって相互に連携を図りながら,子どもの人権の尊重及び保護に向け積極的に推進することfが重要であると考える。